脱炭素で2輪業界のトップランナーとなるべく、大胆な電動化を表明したカワサキ。’22年だけで3台以上の電動車両を発表することも明らかにした。しかしながら、エンジンの存在も忘れないのはさすがカワサキ。日本法人のトップが力強く語った。
●文:ヤングマシン編集部 ●写真:河野正士 箱崎太輔 ヤングマシン編集部 カワサキモータース
意欲的な電動化で脱炭素の先端を突っ走る(カワサキモータース 伊藤浩社長)
現在、日本のバイクメーカーで、もっとも脱炭素に積極的なのがカワサキだ。’21年10月に川崎重工から分社化し誕生した「カワサキモータース」の伊藤浩新社長が、メディア向け事業方針説明会で「カーボンニュートラルの分野で2輪業界を牽引する」と表明。「’25年までに10機種以上のハイブリッド/ピュア電動車を投入」「’35年までに先進国向けの主要機種の電動化を完了」と、超先進的な電動化目標を発表してメディアを驚かせた。
【’30年には売上1兆円を目指す】カワサキモータースの伊藤浩社長は、脱炭素への取り組みに加え、9年後の’30年には現在の倍以上となる1兆円の売上を目指すことも発表。北米での成長が著しい、オフロード4輪や芝刈り機といった分野も積極的に強化していくという。
伊藤社長は、11月末に開催されたミラノショー(EICMA)の場でもさらなるサプライズ発表を行い、「’22年中に最低3台の電動車両を発表する」と表明した。このスピーチは英語で行われており、表現も”Three Electric Vehicles”というものだったため、オフロード4輪など2輪以外の製品という可能性もある。ただいずれにしても、伊藤体制のカワサキは2輪業界で脱炭素のトップランナーとなるべく、電動化を強くイメージ付けようとしているのは間違いない。先述した10月の発表も「カワサキ2輪も電動化へ」と新聞などが大々的に報じたため、ご記憶の方も多いことだろう。
しかしながら、そうした華やかな電動化に関する発表の一方で、カワサキは「エンジンをやめる」とはひと言も言っていない。むしろ、水素/バイオ燃料/eフューエルといったカーボンニュートラル燃料に注力することで、内燃機関を続ける道を積極的に探るとしており、伊藤社長も同じEICMAでのスピーチでは「電動車両を補完する、革新的なガソリンエンジン車を開発し続ける」と発表した。つまりカワサキは、バイクのパワートレーンに関して”あらゆる選択肢”をライダーに残す方針なのだ。
【バッテリーEV:電動ニンジャは4速MT】10月のメディア説明会に展示された、バッテリーEVのプロトタイプ。電動ながらクラッチ付きの4段ミッションや左手親指で操作する回生ブレーキなどを装備しており、操る面白さを徹底追求している。
【すでに発売済みの3輪EV「ノスリス」】川崎重工の社内公募で生まれた前2輪の電動アシスト自転車。ミニカー登録の電動版(写真)もある。すでにクラウドファンディングで100台を販売済み。電動にはこうした方向性も!
【ハイブリッド車:状況に応じて使い分け可能】同じ場で展示された、エンジン/モーター/両者併用の3モードで走行可能なハイブリッド車。将来的にエンジン車が市街地への進入を禁じられた場合、非常に有効な選択肢となるだろう。
【ガソリンに代わる燃料も強力推進】燃やしてもほぼ水しか発生しない水素は有望な脱炭素燃料。写真はカワサキが発表した水素エンジンのイメージ図で、H2の過給エンジンをベースに直噴機構を採用する。
内燃機関を残すことはメーカーの使命(カワサキモータースジャパン 桐野英子社長)
カワサキモータースジャパン 桐野英子社長
カワサキが内燃機関を諦めないことを、もうひとりのトップが熱く語ってくれた。カワサキモータースが発足すると同時に、川崎重工グループ初の女性社長として、日本におけるカワサキ製品の販売を担う「カワサキモータースジャパン(KMJ)」の社長に就任した桐野英子氏だ。
「やっぱりバイクは”燃料を焚いてナンボ”です(笑) これからのカワサキは電動の楽しさを全力で提案していきますが、私個人はエンジンが大好きですし、その魅力は伝え続けたい。ガソリンがダメなら水素やバイオ燃料なども選択肢として、内燃機関を残していくことも使命だと考えています」
桐野氏は’91年に川崎重工入社以来、バイク畑ひと筋。’01年から8年間はフランスカワサキの社長として、ER‐6のワンメイクレースを立ち上げるなど欧州のカルチャーに浸かり、帰国後は営業やニンジャH2の商品企画を担当。現在の好調カワサキを支えるキーパーソンと言っていい。
「スーツを着たインタビューの場で言っていいのか分からないけど…、どんなバイクも一度は全開にするでしょ! って思っていたのに、ニンジャH2はできませんでした(笑) あれは異次元の速さで、サーキットでブレーキの目標にする看板があっという間に迫ってきちゃう。だから早めに戻さないと怖くて。ZX‐10Rは全開できたのに…」
「でもニンジャH2も全開試したんですね?」と聞くと、ちょっと照れつつ「ハイ、試しました」と答える仕草がチャーミング。やはりカワサキ歴が長いと、そうした思考になるものなのだろうか?
「いえ、私は元々がそういうタイプなんです。バイクに乗り始めたのは大学時代。当時はバブル全盛で、楽しそうなことがいっぱいあり、ミーハーなテニスサークルなんかも試したんです。でも、一番面白くてハマったのがバイク。そんな人間が、この会社でずっと働いているわけですから(笑)」
ちなみに、FZR400を買いに行ったつもりが店主に説得されて買わされたというGPX250Rが、桐野氏の最初の愛車。その後Z750GPに乗り、現在はニンジャ650を所有する。速いバイクは大好きだが、シートが高かったり、重いバイクは体格的に厳しいのだという。そんな目線からの施策も、小柄な方や女性は期待したいところだろう。
エンジン好きが考える“電動”の面白さとは?
現在、桐野氏はKMJの社長とカワサキモータースのマーケティング部長を兼任している。つまり超多忙なのだが、自身が企画しスタートしたZX‐25Rのワンメイクレース「ニンジャチームグリーンカップ」に出たくてたまらないのだという。
「でも、ビリはイヤなんですよ。レースでしょ? 勝たなくてもいいレースはないんです。出るからにはビリはイヤです!(笑)」
そのためにも練習に通いたいのだが、忙しくて叶わないのが目下の悩みとのこと。先日もZX‐25Rをハイエースに積み、夜通し走って愛知・スパ西浦モーターパークに到着。1日たっぷり練習する予定だったのに、午後には兵庫・明石に戻らねばならなくなったと不満げに語る。
…と、ここまでで十分に伝わったと思うが、桐野氏は内燃機関のバイクを愛好し、脱炭素には電化以外の選択肢も残してほしいと願う、大多数のライダーに近い感覚を持っている。さらに、機械工学は日本が世界に誇れる技術であり、そこから生み出される内燃機関を守るべきだとも考えている。
そんな彼女はしかし、先日”目から鱗”な体験をしたばかりだとも語る。
「テスラに試乗したんです。モードを変えるだけで、もうビックリするような強烈な加速をする。その瞬間に『電気もアリかも!』って…」
つまり桐野さんにとってのバイクは、たとえ電気でも「速くてナンボ、全開にしてナンボ!」ってことですね?
「ハイ、そういうことです!」
桐野社長に気になるアレコレを聞いてみた
【1】カワサキプラザの今後の展開は?
「現在、全国に80店舗ありますが、納車や整備を担うサービス協力店を合わせて120店舗が目標。これでほぼ全国のお客様に対応できると考えています」
【2】新車の納期が非常に長いけど…
「大変申し訳ありません。新型コロナ禍による部品調達と物流の混乱が原因です。車両が生産されたら、それをもっとも早く買っていただけるお客様に届ける処理を、親会社の営業部門が手作業で行なっています」
【3】純正部品が買えなくなるって本当?
「SNSで話題になっていますが、そのような事実はありませんし、お客様が入手できなくなることもありません」
【4】メグロはこれからどうするの?
「カワサキの歴史を伝えるブランドとして、すごく悩んだ末に覚悟して出したので、今後もきちんと育てていきます」
【5】ニンジャチームグリーンカップは?
「ZX-25Rのワンメイクレース『ニンジャチームグリーンカップ(NTGC)』は、より初心者のクラスを作るか、そうした人向けの講習を開いてさらにハードルを下げたいですね。なによりも私が出たいので!」
【何でも一度は全開!? 川崎重工初の女性社長】KMJの代表として「お客様に接する最先端で、バイクのある生活の楽しさや喜びをお届けしたい」と語る桐野新社長。もともと川崎重工を志望したのは「橋を架けたり、砂漠で飲み水を作りたかった」からだが、今はバイク担当でとても良かったと感じているとのこと。 |
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