今年の1月にお伝えした『電動キックボードの規制緩和』についての記事は反響も大きく、世間の注目度が高いことがうかがえました。続く3月4日の閣議で車両の案がまとまり、3月7日に警察庁から道路交通法の一部を改正する法律案が提出され、無免許&ノーヘルでの電動キックボード運転が現実のものになろうとしています。本当にこれでいいのでしょうか?

●文: Nom(埜邑博道)

「電動キックボードの規制緩和」の道交法改正はとうてい納得できません!

昨今、各メディアで問題視されているのが、速度が20km/h以下のものについては免許を不要(16歳以上)とし、ヘルメットの着用は義務ではなく任意、原則として走行場所は車道ですが、最高速度を6㎞/h以下に制御できるものは歩道や路側帯も通行可能にするという電動キックボードの規制緩和を促す道交法改正案で、WEBヤングマシンで今年の1月20日と、当方からの質問に対する警察庁からの回答を記した1月28日の2回、投稿させてもらいました。

そして3月4日の閣議で、

〇最高速度や車体の大きさが一定の基準(最高速度20km/h以下で制御され、長さ190cm×幅60cm内に収まる)に該当する車両を「特定小型原動機付自転車」(以下、特定電動キックボード)とする。

〇特定電動キックボードの運転には運転免許を要しないこととし(ただし、16歳未満の運転は禁止)、ヘルメット着用を努力義務とする。

〇特定電動キックボードは、車道走行を原則とする。

〇特定電動キックボードのうち、一定の速度以下に最高速度が制限されており、それに連動する表示がなされているものについては、例外的に歩道(自転車通行可の歩道に限る)等を通行することができることとする。

という内容が決定され、3月7日に警察庁から道路交通法の一部を改正する法律案が提出されました。

これまで原付一種扱いだった電動キックボードを、一定の基準を設けているとはいえ16歳以上なら無免許で運転でき、ヘルメットの着用も義務ではなくなるという、正直言って、とくに我々バイク乗りにとっては驚くような内容です。

ヘルメット着用、最高速度30km/h、2段階右折など、通勤・通学の便利な足である原付はどんどん規制強化が行われてきたのですが、それと今回の道交法改正案は真逆のように思えてしまいます。

交通事故の防止、減少、究極的には撲滅が責務である警察庁からこのような道交法改正案が出ることは、正直信じられません。

さまざまなメディアもこの規制緩和に警鐘を鳴らしている

この道交法改正案の報道を受けて、さまざまなメディアが異論を唱えています。

特に厳しい内容だったのが、3月22日に配信されたバイク、クルマ関係のメディアではないNEWSポストセブン(小学館)の記事で、「電動キックボード、無免許ノーヘルで公道走行可は見直すべきではないか」と主張

トラック運転手の「無免、ノーヘルは困るね。引っかけでもしたら大変だ」というコメントも交えて、混合交通のなかでの電動キックボードの危険性に言及していました。

実際、トラックやバスなどの大型自動車の運転手からは、車体が小さく被視認性が低い電動キックボードに関して、左折時の巻き込みや、電動キックボードのすり抜けによる接触の危険性などが指摘されています。

さらに、3月4日の閣議での決定後、警察のトップである国家公安委員長は記者会見で、今回の道交法改正案で一番懸念しているのは電動キックボードであるとして、自転車でもルールを守らない人が見受けられるなか、電動キックボードがルールを守らずに歩道を縦横無尽に走ったり、思わぬ自動車事故に遭遇するということになると本来の目的(編注:便利な移動手段)とまったく違うことになってしまうと、不安な心持を語っていました。

また、消費者庁が管轄し、商品テストなどを行う独立行政法人の国民生活センターも、電動キックボードに関して、道路運送車両の保安基準に適合しないものによる走行中の交通事故や道路交通法違反についての報道が増えており、消費者の中には法的な位置付けや乗車方法などを正しく理解していない人がいると危惧を表明。実際に電動キックボードに関する質問が124件あってそのうち7件は危害を伴った内容だったと発表しました。

上記を踏まえて、現在、販売されている8台の電動キックボードのテストを行って、その結果を「電動キックボードでの公道走行に注意 ー公道走行するためには運転免許や保安基準に適合した構造及び保安装置が必要ですー」というタイトルの発表資料で公開しました。

今回のテストは、産業競争力強化法に基づく新事業活動計画における特例電動キックボード(編注:今回、無免許で運転できるとされたもの)とは異なり、あくまで現在、一般に販売されている電動キックボードに対する報告であるとしていますが、製造・販売業者には性能の担保や消費者への継続的かつ十分な説明、警察庁には道路交通法上での区分の周知継続、国土交通省には道路運送車両法上での区分についての周知継続、経済産業省には電気用品安全法に基づく表示に適合しない電動キックボードを販売している業者への指導などを求めています。

さらに、経産省には、一般に販売されている電動キックボードと「小型特殊自動車」扱いになる電動キックボードは、法律上の適用が一部異なる点についての消費者への周知継続も求めています。

この国民生活センターの報告書を読めば読むほど、ただでさえネット通販などで購入できる保安基準に適していない外国製の電動キックボードが横行している現状に、16歳以上なら誰でも免許なしで運転できる特定電動キックボードが加わったら、公道(とくに道路の左端)は自転車、バイク、クルマ、電動キックボードが無秩序に混在するカオスのようになり、ライダー・ドライバーは大いに困惑するのは明白ではないでしょうか。

国交省の保安基準案も電動キックボードの規制緩和に「食い気味」

この閣議決定と警察庁の改正案が発表される前に、国土交通省から電動キックボードなど運転免許なしで乗れる「小型低速車」の保安基準案が有識者会合に示されていますので、その主な内容を下記に記します。


・最高速度は15~20km/h以下で、速度リミッターを装着
・定格出力は600ワット以下(編注:原付一種と同様)
・車体の大きさは、長さ190cm×幅60cm以内
・ヘッドライト、ウインカーを装着
・クラクションを装備
・バックミラーは不要
・最高速度が6㎞/h以下の場合は歩道走行も可となるため、走行モードを切替えられるものは20㎞/h以下、6㎞/h以下のどちらのモードで走っているか外部から確認できる点滅灯を装備

筆者は、特定電動キックボードの保安基準を検討した「第3回新たなモビリティ安全対策ワーキンググループ(2月28日に開催)」の会議をオンラインで傍聴したのですが、そこで国交省が提示した案がほぼそのまま3月4日に閣議決定し、警察庁の道交法改正案に盛り込まれているのですから、とてつもなくスピーディ。とにかく、規制緩和するために、年度内に法案をまとめようと全力で突っ走っているようにしているのだと感じられてなりません。

一方で、電動キックボードのシェアリングサービスが広く普及している海外でも、事故の増加などで、最高速度の引き下げなどの規制強化が加えられているという現実があります。

運転免許に関しても、ドイツ、フランス、オーストリアなどは不要ですが、カリフォルニア、韓国は必要となっています。

国土が広く、道幅もゆったりとしたアメリカやヨーロッパでも、電動キックボードの事故が多数発生して規制が強化されているのですから、ただでさえ道が狭く、混雑が激しい都会の道路で、なぜ無免許で電動キックボードを走らせようとするのかはなはだ疑問です。

電動キックボードのシェアリング事業は新たな利権?

あるときふと思って、「電動キックボード業者 資金調達」とネットで検索してみました。

すると、ズラズラと電動キックボードのシェアリング事業会社が多額の資金調達をしたというニュースが出てきました。

サブスクリプションで乗れる電動キックボード。

なるほど、これは一部の政治家にとっての新たな利権なのかもしれません。

そう考えると、本来、とても保守的であるはずの官僚(警察庁、国交省)が規制緩和に躍起になっている理由も分かる気がします。

SDGsやカーボンニュートラルを推進する活動を積極的に展開する企業がいま注目されていて、投資やM&Aのターゲットになっているようですが、そのひとつにクリーンで、ラスト・ワンマイルの新しい便利な乗り物を提供する電動キックボードのシェアリング事業者も、どうやら含まれているようですね。

前述の「産業競争力強化法」の推進を国から命じられた官僚が、血眼になって、その実現、達成に必死になっている様が目に浮かび、それを利用しようとする業者がほくそ笑む様子を想像してしまいます。

SDGsやカーボンニュートラルに対する取組はとてもとても大切で、待ったなしで官民こぞって積極的に推進しなければいけないことだと理解していますが、この電動キックボードの規制緩和のように交通社会の安全性を無視するような形で行うのはいかがなものでしょう。

ただでさえ、無保険の自転車の事故が多額の賠償金などで問題になっているのに、さらに簡単にスピードが出る電動キックボードが誰でも手軽に、安全運転教育もしっかり受けずに利用できるものになったらと思うと、ちょっと寒気がします。

そして、4月19日に改正道交法が衆院本会議で可決・成立しました。正式に、最高速度20㎞/h以下の電動キックボードは免許不要(16歳以上に限る)となり、ヘルメット着用も必須ではなく努力義務とされました。また、この電動キックボードの規定は、2年以内をメドに施行されるようです。

今後、おそらくパブリックコメントでこの改正法についての意見を集めるはずですので、我々がバイクやクルマの運転中に、誤って電動キックボードの運転者に危害を加える可能性を最大限排除するためにも、みなさんもこのパブコメには積極的に発言していただきたいと切に願います。

やはり、公道を走る以上、交通ルールを学ぶ機会でもある運転免許の取得は必要ですし、とても不安定な乗り物にヘルメットをかぶらずに乗るのもとても危険だと思います。そう思うのは、きっとボクだけではないはずです。

※本記事は“ヤングマシン”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。

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