2024年6月26日、glafit(グラフィット)株式会社が四輪型特定原付(特定小型原動機付自転車)のプロトモデルを発表したので紹介したい。

特定原付区分が施行され、時代はまさに黎明期

特定原付は2023年7月に施行された新しい車両区分(最高速度20km/h・電動に限る)で、16歳以上は免許不要で乗れるため、免許を返納した高齢者や若年層に向けたパーソナルモビリティとして期待されている。

▲同社が開発したモーターサイクルタイプの特定原付 “電動サイクル(同社が呼称)” NFR-01 Proはシェアリングサービスでの利用やクラウドファンディングでの販売が始められている


シェアリングサービスにより都市部で普及しつつある電動キックボードのほか、同社が開発したモーターサイクルタイプの電動サイクル、さらには立ち乗り3輪タイプや4輪タイプなど様々な形状の特定原付が登場しつつあり、時代はまさに黎明期といったところだ。

高齢者やその家族からのニーズに沿ったモビリティ

▲メディア向け発表会でプレゼンテーションを行う同社代表取締役CEO の鳴海 禎造(なるみていぞう)さん


そうしたなか、同社には高齢層やその家族から「やはり二輪ではまだ不安がある」という意見や相談が寄せられていたという。これまで、免許返納後のモビリティは自転車またはシニアカー(最高速度6km/h)しかなかったが、これらは近距離移動に限定されており、それまで乗っていたクルマの代替モビリティにはなり得ていなかった。

今後も加速する高齢化社会のなか、高齢者の移動に対する不安解消につなげ、気軽に外出や買い物が楽しめる乗り物として、今回の四輪特定原付が開発されたのだ。

高齢運転者による交通事故の増加が社会問題化するなか、早めに免許を返納しても困らない、返納前から乗り慣れておくことができるモビリティが用意されていることは課題改善にとって重要なファクターだ。

ATV + 四輪バギーのあいの子?

▲今回発表された四輪特定原付のプロトタイプ(左)。資料によると屋根付きタイプも計画されているようだ


さて、今回同社が発表した四輪特定原付はATV(All Terrain Vehicle ※全地形型車両)と四輪バギーのあいの子のような感じだ。4つの大径タイヤ、バーハンドル、サムスロットル(親指によるアクセル操作)といった構成パーツはATVを思わせるが、着座シートやステップフロアの採用は四輪バギーを思わせる。
大きな特徴としては、株式会社アイシンが開発中の「リーンステア制御」が採用されていること。車体の傾斜角度をセンサーで検知し、アクチュエータを用いて制御することで、片輪だけが大きな段差に乗り上げたときでも高い自立安定性を保つことができる。

特定原付は、特例モード(最高速度6km/h)を備えていれば歩道などに設置されている自転車歩行者道などを走ることもできるが、その際に車道と歩道の間の段差を安全に越えることが大きな課題とされており、小径ホイールの採用が多い電動キックボードが危ないと指摘されるポイントでもあった。

▲前輪はいわゆる独立懸架式で段差を越える時は垂直を保つ。リヤタイヤは傾斜(リーン)状態にある


アイシン社からの説明がなかったので詳しい機構はわからなかったが、挙動を見ている限り、旋回時のボディロールおよび段差踏破時のボディ傾斜をセンサーが感知、アクチュエータを作動させてリヤのドライブトレイン(またはドライブユニット)を傾斜させ、ボディの水平を保つ仕組みのようだ。

▲リーンステア機構があればボディは水平を維持し、運転者もまっすぐ安定して座っていられる


この小さな車体サイズでドライブトレイン(またはドライブユニット)を独立制御させるのは物理的にも相当難しいことだろう。実際、旋回時にはボディがわずかに内側にロールしているが、この車体制御の調整にはかなり苦労したのではないか。

▲旋回時にはボディがわずかに内側にロールしている

 

▲手前は同社の電動サイクル(ペダル機構のない自走車両)。どちらも特定原付なので普通自転車のサイズ(長さ190cm以下、幅60cm以下)に収まっている

わかりづらいだろうから… 走行動画を見て

同社はリーンステア制御が必要不可欠なものと考えてアイシン社との共同開発契約を締結し開発を進めてきた。詳しい機構が公開されていないこともあってどういうものか伝わりづらいと思うので動画で見てほしい。

●glafit社開発中の四輪特定原付プロトタイプ<デモ走行>

 

筆者も乗ってみたが… 意外と慣れが必要?

筆者も試乗できたので、その感想を忖度なしで率直に述べておきたい。座った感じは普通自転車と同じサイズだけあってコンパクト。発進時にはトルクの強さも感じられるが、スロットルレスポンスは少しだるめに設定されているようで走り出しが怖いということはない。

問題はスロットルを戻した時の挙動。例えば、ハンドルを切っている時にスロットルをいきなり全閉にしてしまうとハンドルが持っていかれてイン側に切れ込んでしまう。これを防ぐには旋回中のパーシャル操作やハーフスロットル操作が効果的だが慣れが必要だ。

また、ある程度の速度に乗せた状態でクイックな旋回をすると、さすがにボディが傾いてしまう。バイクの場合は下半身で車体をホールドできるのでバンク角によらずに上半身を安定させられるが、この小さな車体サイズでバーハンドルだとハンドルを切るたびに上半身が動かされてしまう。そこで頭もぐらついてしまうと視点が定まらず怖くなって近くを見てしまい、なおさら安定しないという悪循環になる。

▲デモンストレーションの様子。バーハンドルを切る以上、上半身の動きは避けられない。なるべく脇をしめることも旋回のコツかもしれない


個人的には、旋回時に上半身が動かされるバーハンドルよりもクルマと同じステアリングホイールを採用したほうがよいのではないか、また車体のロールが抑えきれないのであれば大きめのバックレストまたは背もたれがあったほうがよいと感じた次第だ。

それって超小型モビリティでよくないかって?

いやいや、そっちは免許が必要。16歳以上免許不要のマイクロ四輪モビリティにこそ移動課題改善への価値があるのだ。

今後は実証実験を行って開発を継続! 一般販売に期待

▲鳴海 禎造(なるみていぞう)さんと四輪特定原付のプロトタイプ


同社は7月中に、65歳以上の高齢者を中心とした実証実験を各地で行い、ニーズや課題の抽出に取り組むということで、機能や操作性が改良される可能性もあるだろう。何はともあれ、こうした免許返納後の受け皿となれるようなモビリティが登場したことを歓迎したい。軽自動車や原付バイクに変わる自走可能な乗り物として普及すれば移動課題は確実に改善されていくだろう。

 

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