第6戦スペインGP終了直後から、不穏なニュースが駆け巡り始めた。スズキがモトGPから撤退──!? ゴールデンウィーク中に動きはなく、憶測だけが飛び交ったが、5月12日、ついにスズキからリリースが発表。そこには「参戦終了を協議している」と明記されていた……。
●ヤングマシン編集部 ●写真: Suzuki, Honda, Ducati, MotoGP.com
レースに対して情熱を持って取り組んでいるチームスタッフ、そしてライダーたちのことを思うと、撤退は本当に残念。レースにはさまざまな効果があると思うのだが……。
彼らが背負っているのは「SUZUKI」の看板
まっさきに頭に浮かんだのは、クエスチョンマークだった。
スズキは2011年、モトGPへの参戦を一時休止。2015年に復帰を果たして以降、1チーム2台というコンパクトな体制ながらジワジワとパフォーマンスを高め、2020年にはジョアン・ミルがタイトルを獲得。2021年こそヤマハに王座を奪われたが、今シーズンはかなり好調。「GSX-RRのバランスのよさはモトGPでも随一」と評され、主催者のドルナとは2026年までの参戦契約を結んでいた。
そんな中での、突然の撤退の報。まさか、と思ったが、スズキから公式リリースが出され、もはや確定事項のようだ。
レースは企業活動の一環だから、スズキの方針は尊重しなければならない。売上に対し、モトGPがどれだけの支出かを考えれば、かなりの比率を占めているのは確かだろう。
難しい経済情勢、世界情勢の中、コストカットを行おうと思えば、真っ先に槍玉に上がるのがレース活動だということは否定できない。広告塔という役割はあっても、その効果測定は難しいからだ。
▲5月12日に発表されたスズキのリリース。「撤退」と明記されておらず、「主催者と参戦終了について協議している」とある。どうにも微妙な言い回しだ。
だが、なぜ今? 好調なシーズンの真っ最中に、しかもリークのような形で報じられ、疑問しか浮かばない。レースは、そんなに価値がないものなのだろうか……?
ワタシ自身はこんな経験をしている。オーストラリアで、バイクとは関係のないコミュニティに参加した時のことだ。
自己紹介として、「スズキのモトGPマシン開発に関わっていた」といった仕事の内容を話したら、「そうなのか!」と喜んでいる人がいたのだ。「スズキのクルマはいいよな」と、うれしそうだった。
それまでワタシは、「二輪は二輪、四輪は四輪」と、まったく切り分けて考えていた。だが、外から見れば同じ「S」のマークを付けた乗り物なのだ。「モトGPのようなハイレベルなレースをしている会社のクルマなら安心だろう」と考えるユーザー心理を垣間見た出来事だった。
レースを知っているユーザーは、ごく一握りかもしれない。だがその人たちは、コアで熱烈なファンになってくれる。例え数は少なくても、影響力がある存在であることは間違いない。スズキを取り巻く「熱いムード」を作ってくれる貴重な人たちだ。
それにも増して、メーカーとしては技術競争の場に身を置くこと自体が大事だとワタシは思う。直接的に役立つ技術があろうがなかろうが、あまり関係ない。他と競い合い、他に打ち勝つことは、企業活動全般において欠かすことができない。レースはその分かりやすい象徴だとワタシは思うのだ。
そして何より、乗り物を造るメーカーが、乗り物好きを増やそうとしないでどうするのだろう。レース活動はすぐに売上に貢献するものではない。だが、乗り物好きの種を蒔く行為であることは間違いない。時間はかかっても、芽を出し、やがては花を咲かせるはずなのだが……。
レースが企業活動の一環である限り、会社の方針は受け入れるしかない。しかし、残念で悲しい決断であることは間違いない。
せめて、モトGPチームのスタッフたち、そしてライダーたちが、新しいレース人生を送れることを願い、見届けたいと思う。それしかできないのがもどかしい。
一度手放せばもう戻らない
撤退を聞き「泣いてしまった」というアレックス・リンス。情熱の行き場はどこに……。
すぐに効果が出なくても、レースでのアピールは世界規模でじわじわと効いてくるはず。写真は2020年チャンピオンのジョアン・ミルだ。
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