メーター周りに取り付けたスマホナビは便利な存在ですが、走行中に画面を見ることは安全面で(道交法的にも)アウト。バイクを停車時にしか見ることができません。しかしツーリング中や知らない場所に出掛ける時はもっとナビを頼りたい。

そんなライダーの希望を叶えてくれるヘルメットがSHOEIから新たに発売された「OPTICSON(オプティクソン)」。アニメの中のオーバーテクノロジーがついに現実になりました。

HUDモジュールとコンバイナの組み合わせで各種情報を表示

シールドの内側の右目部分に内蔵された透明のプレート「コンバイナ」。外部から見ると気になりそうなものですが、ライダーの視野の邪魔にならず顔はもちろん、メガネに接触することもありません。

 

表示される映像情報の例。コンバイナに地図が映るわけではなく、右左折ポイントとそこまでの距離や時計がメインなります。電話が着信した際にも表示されます。またヘッドアップディスプレイはコンバイナ上ではなく、視線の先に情報が浮かび上がります。不思議な感じ。


2022年の大阪、東京モーターサイクルショーで参考出品とデモンストレーションを行い大きな話題となった、ヘッドアップディスプレイ(HUD)を内蔵したSHOEIの新型ヘルメット。

「ドラゴンボール」に登場するデバイスの「スカウター」的なデザインと、ライディング中に視線をずらすことなく必要な情報を得られるという安全性の両面から、多くのライダーが市販化を待ち望んでいました。

そして2022年12月、ついに市販化されたのが「OPTICSON(オプティクソン)」です。

アイホールの右目部分に備え付けられた、メガネのレンズのような透明な「コンバイナ(ディスプレイ)」にナビゲーション情報が投影されるメカニズムはまさにスカウターそのもの。ドラゴンボールファンでも「あれはあくまで架空だから」と思っていた技術が、現実のものとなったのです。

コンバイナに表示される情報は、目的地までの残距離や右左折時の車線指示、時計や電話の発着信など多彩です。

そうした映像情報は、チンガードに内蔵されたHUDモジュールからコンバイナに投影されています。ナビゲーションというと地図そのものを想像しがちですが、オプティクソンが表示するのは交差点までの残距離や曲がる方向など、ライダーが直観的に把握できる情報に限られます。

標準装備されているスピーカーからもナビ案内音声が同時に聴こえてくるので、地図が表示されていなくても十分に理解できます。

コンバイナのイメージ画像では、コンバイナ自体に情報が映されるようにも見えますが、実際の表示はコンバイナの向こう側、さらにシールドの先に浮かび上がるように見えるため「コンバイナを見る」という動作は不要で、視線が遮られることもありません。

スイッチ、スピーカー、マイクをすべてビルトイン。バッテリーは別体に

チンガードにHUDモジュールがあるので重量増となるが、既存のヘルメットと比べて重量バランスが崩れているわけでもなく、全体の重量も既存のシステムヘルメット並におさまっている。インテークはシールド上のアッパーインテーク、チンガードのロアインテークを装備。

 

チンガード中央のロアインテーク吹き出し口の横に、HUDモジュールの投影口と調光センサーがあり、周囲の明るさに応じてコンバイナの輝度が変化します。輝度設定はユーザーでも任意で設定できます。

 

スイッチモジュールで電源のON/OFF、スピーカー音量調整、HUDの表示切り替えなどを行います。各ボタンはグローブをはめた状態でも操作しやすいサイズ。

 

設計段階から設定されたマイクは、後付けアクセサリーとはひと味違うフィット感があります。

 

専用チークパッドによりコードのレイアウト、スピーカーの収まり具合も絶妙。

 

充電用のACアダプターは付属しますが、専用のバッテリーは別売りです(税込1万1000円)。万が一の転倒で、衝撃を受けた際に発火の危険性が低いリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用。

 

標準装備される防曇(ぼうどん)シールドDRYLENS。シールド本体は歪みが少ないCNS-1シールドです。

 

オプティクソンのプレミアム感を演出する専用収納箱。この箱のサイズは今までのSHOEIヘルメットの箱の中で最大。


スマートフォンのナビアプリはいくつもありますが、コンバイナに情報を表示するには専用の有料ナビゲーションアプリの導入が必要です。そしてスマートフォンとHUDモジュールはBluetoothで接続されているため、ナビ情報に加えて電話の発着信や音楽鑑賞も可能。それらの操作はすべて本体左側にインストールされたスイッチモジュールで行います。

開発当初からスマートフォンとの連動を念頭に置いていたオプティクソンはスピーカー、マイク、スイッチモジュールをあらかじめ搭載しているのが特長です。ここまでくるとインカム機能も期待したいところですが、残念ながら非採用(携帯電話の電話機能、LINE等のスマートフォンアプリケーションを利用した通話は可能です)。

HUDモジュールへの電力供給は専用の外付けバッテリーで行います。バッテリーをライディングジャケットのポケットに収めてコードで接続するのに煩わしさを感じるかもしれませんが、バッテリーをヘルメットに装着すると万が一転倒で衝撃を受けた際に発火のリスクがあります。

オプティクソンのバッテリーは、一般的なリチウムイオンバッテリーに比べて衝撃による発火の危険性が低いリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用してますが、その上で重量バランスまで考慮して別体となっています。

バッテリーはヘルメット本体と別売りとなっているため、別途購入する必要があります。その一方でアクセサリーとして追加購入もできるので、泊まりがけのキャンプなどバッテリー容量に不安があるツーリング時にスペアを持参できます。

オプティクソンはSHOEI Gallery各店のみで限定販売

カラーはマットブラック(右)とルミナスホワイト(左)の2色。サイズはM/L/XLでメーカー希望小売価格は本体税込13万7500円、別売りのバッテリーは税込1万1000円。

 

コンバイナのディスプレイ表示を適正にするにはヘルメットをジャストフィットさせることが重要。購入時にPERSONAL FITTING SERVICEで頭部を詳細に計測する。

 

計測したデータを元に、専用パッドを内装に貼り付けます。

 

バッテリーコードやコネクターはオプティクソン用に設計された専用品。バッテリー本体やコネクターは防水加工が施されています。

 

ヘルメットの重量バランスと転倒時の安全性を考慮してバッテリーは別体式となる。走行時はライディングウェアのポケット内に入れておく。

 

スイッチモジュールのボタンはグローブをした状態でも操作しやすい。ヘルメット本体にビルトインされているので剛性感が高く、スイッチ操作時もモジュールがぐらつかない。

 

メガネを着用するライダーは、メガネ着脱時にコンバイナが干渉しないよう位置を調整します。これは毎回なのでメガネっ子ライダーには少し不便な点。


最大の特長であるコンバイナを活用するには、ヘルメットをライダーの頭にフィットさせることが重要です。そのため販売拠点は東京、横浜、大阪のオフィシャルショールーム「SHOEI Gallery」のみとなり、購入時にはスペシャリストによる内装サービス「PERSONAL FITTING SERVICE」を利用しての位置調整が必要です。

ただし一度内装を決めてしまえば、メガネ着用ライダーがメガネを着脱する際にコンバイナの位置を動かしても表示は大きくずれません。

走行してみると、普段使用しているスマホナビ(筆者はGoogleナビを愛用)とオプティクソン専用アプリの仕様や特性の違いを理解するまでは若干の違和感があります。しかし、スピーカーを通じた耳からの情報とHUDによる情報の組み合わせによって、スマートフォンの画面を見ることなく目的地まで走行することができました。

道路や交差点を地図で俯瞰的に確かめたいというライダーにとっては、情報が限定されていささか心細く思えるかも知れません。しかし、視線を移動する必要がないのでライディングに集中できる利点の方が勝ると感じました。

確かに、新たなテクノロジーが出現する時、人々は賛否両論さまざまな反応をするものです。HUDモジュールとコンバイナという、私たちがこれまでバイク用ヘルメットで経験したことのない機器を装備したオプティクソンは、今は好奇心はあるけれど二の足を踏んでしまう存在かも知れません。

しかし、現在多くの皆さんの生活にスマートフォンが欠かせないように、今後のバイク用ヘルメットにとってHUDによる映像情報が当たり前になる日が来るかも知れません。

ちなみに、筆者は新しもの好きなので体験取材だけでは物足りず購入しました。これからツーリングで使用してみて、ちょこちょこと使用インプレをしてみますので、お楽しみに。

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