空は青く、風は優しく湿っている
真っ青にどこまでも広がる空、燦々と降り注ぐ太陽、そしてみずみずしい風と海、さすがは“Sunshine State(サンシャイン・ステート)”と呼ばれるだけのことはある。
その呼び名のとおり、フロリダは2月だというのに日中の気温は30度を超え、南国ならではの陽気。サングラスをかけた顔が2日目にパンダになり、3日目で鼻の頭の皮が剥けた。カルフォルニアやアリゾナなどと違うのは、空気が湿っていることで、緑も鮮やかです。
こんにちは、青木タカオです。今回からは10年ほど前、アメリカ本土の最南端の地「Key West/キーウエスト」を目指し、フロリダ半島をハーレーで1周してきたハナシをさせていただきます。
キューバの影響を受けた街並みや絶景ルートとして世界中のライダーやツーリストに知られるセブンマイルブリッジ、モータースポーツの歴史を語る上で欠かせないデイトナなどを巡る濃厚なツーリングでした。
フロリダはアメリカ合衆国の南東部に突き出た南北およそ800km、東西最大幅260kmの半島で、その面積は半島といえども日本の半分弱にも及び、いかにアメリカがデカイか思い知らされます。
弓なりの形で東西南北に長い日本は、37万8000平方kmもの国土面積を持ち、狭いと言われがちですが、アジアの国々ではベトナムやマレーシア、イラクなどの国が日本と同じくらいの大きさ。ヨーロッパだと、イギリスやイタリアなどは日本よりも面積は小さく、ドイツ、ノルウェー、フィンランドが同程度。オランダやデンマーク、スイスは九州よりも少し大きいくらいなのです。
アメリカは規格外の大きさ。ロシアは日本の約45倍もあり、アメリカ、カナダ、中国は約26倍となります。地図帳に載っているような、こうした情報を話し出すとボクはもう止まりません。子どもの頃から地図が好きなんです。大学も地理学科でした。
幼い頃から、ボクはいつも「ここではないどこかへ」と、漠然と夢見てきました。知らない街、行ったことのない場所、海の向こう、異国に憧れていたのは、なぜだったのでしょうか。
物心がつく頃から両親の仲があまり良くなく、父と母はいつも喧嘩ばかりしていました。「きらいだ」「逃げ出したい」と、心の奥底で思っていたのかもしれません。
三人兄弟の末っ子であるボクは、母親に大いに甘やかされて特に不自由なく育てられましたが、いつもどこか遠くへ一人で行きたいと思っているような、逃避行ぐせのあるような子どもだった気がします。
小学生の頃、放課後は上野や東京駅へ行くのが好きで、そこから走り出すブルートレインなど長距離列車を眺めていると、胸が熱くなりました。駅に掲げられている大きな時刻表であったり、行き先案内板にある地名を見るだけで、線路は自分がいま立っている場所から遠く彼方へ、どこまでも繋がっていると、ワクワクしてならないのでした。
アメリカで最も美しいハイウェイ
話を戻しましょう。日本の約半分もの面積を持つ広大なフロリダですが、起伏はほとんどなく、標高のもっとも高いところでも海抜わずか100メートルしかありません。南部は野生のワニも暮らす湿地帯が広がっていて、ほとんど真っ平らなのです。
玄関口となるのはディズニーワールドやユニバーサルリゾートなど、世界に名だたるテーマパークがあるOrlando/オーランド。そこにあるH-Dディーラー「オーランド・ハーレーダビッドソン」でハーレーをピックアップし、全行程およそ1300マイル(2000km強)の道のりを6日間かけて走りました。
オーランドH-Dで見たFLHデュオグライド。オーナーさんに「日本でもビンテージハーレーは、とても人気があるんですよ」なんて感じで、話しかけてみます。
「1958年以降のパンヘッドですね?」と、ハーレー好きなことが伝われば、もう歓迎してもらえます。
さぁ、もったいつけることなく、時系列を無視してハナシをどんどん進めましょう! 旅のハイライトは海の上を走る一本道、“アメリカ合衆国で最も美しいハイウェイ”と言われるオーバーシーズハイウェイ=USハイウェイ1です。「フロリダ・キーズ」と呼ばれる半島南端から連なる約50の小さな島々を42の橋で結ぶ、およそ100マイル(160km)の道のりは絶景が続きます。
Key(キー)とはサンゴ礁などでできた島を意味し、その最果ての島がKey West/キーウエスト。ハワイを除けば、合衆国本土最南端の地となります。いったいどんな景色が待っているのでしょうか。
海の中を突っ切るセブンマイルブリッジ
途中にはおよそ7マイル、全長6.765マイル(1万887メートル)にも及ぶ Seven Mile Bridge(セブンマイルブリッジ)があり、ハーレーで走ればまさに夢心地です。
視界の両側にオーシャンビューが広がり、まるで海の中を突っ切り、伝統の45度Vツインを股ぐらに抱えたまま空に飛び立っていこうかという感覚。カナダの国境(メイン州フォートケント)から南へ南へとアメリカ大陸を縦断してきたUSハイウェイ1の2466マイル(3950km)にも及ぶ壮大のルートのフィナーレに、珊瑚礁の海を突っ走るなんて、誰かが演出したかのようにドラマチック過ぎやしないでしょうか。
しかし、それがアメリカ。
360度、見渡すかぎり空と海のブルー。白い雲がカリブの香り漂う風と共にゆっくりと流れ、穏やかな気持ちにさせてくれます。
オーバーシーズハイウェイはもともと鉄道路線として1912年に開通していて、日本では大正元年。こんなとてつもない海上ルートを100年以上も前に開通させているなんて、当時のアメリカの国力そして発展ぶりがいかに強力で絶大だったことが想像に容易いところ。
日本はよくこんな大国に戦争を仕掛けたものです。全身に風を受け止めながらボンヤリ思うのでした。
フロリダは台風銀座ですから、容赦なく襲ってくるハリケーンで、最初のルートは1935年に崩壊。モータリゼーションの波とともに、3年後にはUSハイウェイ1として再構築され、現在は1982年に架けられた新しい道路にその役割を渡しています。
海外でも鉄オタ気質は変わらない
バイクで走っているときに時折、道路と並走する線路にボクは胸が高まります。もしも列車が通ったりしたら、もぉ〜感激ですが、廃線跡を横目に見ながら走るのもまた格別だったりします。
それはアメリカを走っていても変わりません。
カリブの海原へ向かって、太陽を追いかけるようにして海を渡っていると、いにしえの旧鉄橋跡がしばらくの間、途切れることなく平行して姿を残しています。
海上を蒸気機関車が走っていたかつての光景を頭の中で思い描けば、それはおとぎ話の1シーンのようですらあります。フロリダにはそんな、現実離れした世界が広がっていました。
さて、第1回目はここまでといたします。次回はいよいよカリブ・ラテンアメリカの香りが強くなるフロリダ最南部・合衆国の最果て、USハイウェイ1の終着点へ訪れたときのことを綴りましょう。
今回も最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。