ライダー誰しも一度は頭に浮かぶ「悪魔のささやき」
前回ご紹介したとおり、約80%のベースオイル(鉱物油、化学合成油、その2つをミックスした部分合成油など)と約20%の添加剤(消泡剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、サビ止め剤など)とが玄妙に混ぜ合わされて出来上がっているのがエンジンオイル。
パワーユニットが本来の性能を発揮するためは不可欠と言っていい存在ですので、「愛車の血液」や「液体パーツ」といった重要さがにじみ出る“通り名”も納得できるところ。皆さん仮にも惚れ込んで手に入れた相棒でしょうから、快調ぶりが維持されるようオイル管理はしっかり行ってらっしゃることと思われます。
ただ……、バイクライフも長くなってまいりますと、一度や二度ならず、ふとこのような考えが頭をよぎるはず。
「このままずっとオイル交換をしないで走り続けるとどうなるのだろう?」と。
答えは簡単。いつか必ず壊れます(終わりを迎えるまでの期間は車種や走り方によって大きく変わってくるのですけれど……)。
これまた前回述べたように、エンジンオイルの主な作用は潤滑/密封/冷却/清浄/防錆の5つ。交換を回避していれば、それらがおしなべて悪化していくのですからいいことなんてありません。燃費は悪化していき、パワー感が薄くなり、異音も発生しだし、最終的には機関のどこかが“焼き付き”を起こしてジ・エンド。そんなこと、自分の愛車で検証はしたくありませんよね。
取扱説明書にはちゃんと明記されているけれど……
では“パワーユニットの血液”でもある大切なエンジンオイル、いつ、どういうタイミングで交換をすればいいのでしょうか?
模範解答が知りたければ愛車の取扱説明書をひもときましょう。現在は国産だけでなく多くのメーカーがネットで主要モデルの“取説”を公開していますので便利なことこの上なし。
そちらをチェックするとエンジンオイルの交換時期は初回が1000㎞走行時または1ヵ月の時点。以降は5000~1万kmまたは1年ごとの交換を推奨している場合がほとんどです。
“リッター218馬力!”のホンダCBR1000RR-Rファイヤーブレードでさえ、2回目以降のエンジンオイル交換は「1万㎞または1年ごと」と記載されています。
なお、CB1100シリーズは2回目以降「6000kmまたは1年ごと」と書かれていましたので、やはり大排気量空冷エンジンはエンジンオイルに相当な負荷をかけるのですね(ちなみにCBR250RR、CRF250シリーズ、カワサキNinja ZX-25Rも同6000kmごとでした……いろいろと興味深い)。
と、いうことでメーカーの推奨する純正エンジンオイルを6000~1万㎞走行時、または1年ごとに交換しておけば開発陣いわく「問題ない!」ということなのでしょうが、ユーザー目線からすると少々不安になるくらいの悠長さ。
周囲のスポーツバイク乗りに聞いてみると「走行距離なら3000㎞で、期間なら半年を目安にしている」というオーナーが多いようです。
まさしく筆者もそのサイクルを心掛けているひとりなのですが、GSF1200Sを例にとれば、2000㎞を超えたあたりからニュートラルへ入れるときに引っかかりを感じるようになり、燃費も若干悪化。それがオイル交換をすることによってリセットされるという雰囲気です。
吹け上がり具合やパワー感も入れ替え前後ですぐ乗り比べれば違いが体感できるほど。何よりDIYで排出させたオイルの真っ黒さを眺めるにつれ「スラッジやカーボンを自らに取り込んで、大切な相棒の心臓を守ってくれたのだなぁ」としみじみ。
とはいえ、数百㎞走るごとに交換していたのではコストが莫大なものとなりますし、地球環境にもあまりよろしくはありません。
体感できる快調さを維持しつつ、コストパフォーマンスを考えていくと3000㎞(いっても5000㎞)ごと、または半年ごとに交換することがベターなサイクルのようです。
ちなみに走行距離が少なくとも時間が経過していくとオイルは劣化します。どうしても大気と触れ合うため空気中の酸素と油脂分が反応して“酸化”していくことは避けられませんし、特に冬の時期はオイルケース内の大気が冷やされて“結露”が発生し、水分がオイルに混入しがち。
その上でエンジンが高温になり切らないほどのチョイ乗り(10㎞以下)を繰り返していると、水の沸点(100℃)までオイルが熱を帯びないため水分が飛ばず(蒸発せず)蓄積される一方に……。
すると、機関内での攪拌によって本来は分離する水と油が均一に混じり合う“乳化”を起こしてしまい、エンジンオイルとしての性能が大幅にダウンしてしまうのです。
乳化したエンジンオイルはコーヒー牛乳のような姿に変わり果てますので、オイル確認用の窓やオイルキャップに付いている棒……レベルゲージなどを使って確認し、そのような状態になっていたら、即刻交換をいたしましょう。
ここで昔話をすると、最初期の水冷モデルでは冷却水のラインが壊れてオイルに混入してしまうという不具合もあったそうですが、現在そのようなトラブルはまず聞かなくなりました。
さて、かくいう乳化具合や汚れ具合と同時に確認しなければならないのがオイル量。減っているようならオイルレベル上限まで補給し、その減りがあまりにも早すぎるようならエンジンのどこかが故障しているかもしれませんので、一刻も早い対処を。
オイルは物言わぬ相棒の調子を雄弁に語ってくれる貴重な存在でもあるのです!