バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉なんだけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれってなにがどう凄いの? なんでいいの? そのメリットは!?」なんて今更聞けないし…。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は車体の 『アルミフレーム』をピックアップ。

V-STROM1050

高性能なスポーツバイクのフレームの代名詞『アルミフレーム』。アルミだとなにがいいのか? スチールフレームじゃダメなの? 写真はスズキのVストローム1050のストリップモデルで、フレームはアルミ。Vストローム1050/650系の車体は、この剛性が高めのアルミフレームが最大の特徴で、ロードスポーツキャラの根幹となっている。

 

そもそも『アルミフレーム』とは?

バイクを支える骨格、いわゆるメインフレームの素材が軽量な実用金属のアルミニウムで出来ているからアルミフレーム…と実に単純明快な話だけど、“なんでアルミフレームがすごいのか?”という話になると、ちょっと話が複雑になる。というのもアルミフレームは、とにかく車体を軽量化したいロードレース由来のイメージがとにかく強いのだ。

レースの世界では、エンジンの高出力・高性能化はもちろんだけど、車体に関しても1グラムでも軽くすることを命題としてマシン開発が行われる。実用金属としては軽い部類に入るアルミ。鉄よりも軽いアルミをフレーム素材に使い、車体を軽量化すれば、エンジンパワーに対してのパワーウエイトレシオを稼げる。このことから現在でもレース業界では、オンロードもオフロードもアルミフレームを使うのが主流。このあくなき軽量化合戦は日夜続いており、最近はカーボンフレームなんていう金属ですらない素材のフレームまで登場しているくらいだ。

GSX-R1000R

スズキのスーパースポーツバイク・GSX-R1000Rももちろんアルミフレームを採用。メインフレームはもちろん、スイングアームやシートフレームも軽量なアルミでできている。

 

アルミフレームはなにがすごいの?

『アルミフレーム=レーシングスペック」

ってことだ。そんなわけでレース界で常用されるアルミフレームを市販車に採用すると、それだけで「え? 市販車なのにアルミフレーム! それってもう、ほぼレーサーってことじゃん!?」ということになる。

実際、市販車にアルミフレームが採用された80年代はバイクブーム真っ盛り。レースイメージと相まって、“アルミフレーム=レーシー”なイメージがガッツリ定着することに。以降、スポーツバイクの中でも“ハイスペックな性能をウリにするマシン”には、とにかくアルミフレームが使われるようになった。公道を主戦場とする市販車においては決して鉄のフレームが悪いってわけではないのだが、とにかく市場には“性能の高いスポーツバイクなら鉄よりアルミフレーム一択でしょ!”なんて風潮が定着してしまっている。

スズキのRG250Γ

1983年登場のスズキRG250Γ。量産市販車としては世界初のアルミ角パイプ製ダブルクレードルフレーム『AL-BOX』を採用。この軽量なフレームに軽量な2ストロークエンジンを積んで乾燥重量131kgを達成。レーサーレプリカの先駆的存在となった。


ただアルミは市販車として量産することを考えるとちょっと扱いが難しい素材だ。鉄より素材そのものの値段が高いこともあるが、鉄より軽い反面、柔らかいため量も必要になる。鉄のような押し出し材のパイプだけでメインフレームを作ることが素材的に難しいのだ。一時期、アルミパネルを溶接した『モノコックフレーム』なんて構造もあったが、現在アルミフレームとして主流なのは鍛造、鋳造、押し出し材といった構造強度の違う複数のパーツを溶接して作る方法だ。

アルミモノコックフレーム

カワサキが一時期採用したアルミのモノコックフレーム。アルミのパネル材を組み合わせてボックス状の構造体を作り、これをモノコックフレームとした。ボディがそのままフレームを兼ねるヴェスパなどの本来のモノコック構造とはちょっと意味合いが異なる。

 

ムルティストラーダV4S

最近ではドゥカティがモノコックのアルミフレームを使用して話題になった。写真はムルティストラーダV4Sのストリップモデル。

 

スチール製には『トラスフレーム』と呼ばれるパイプを組み合わせて作る鋼管フレームの車両は山のようにあるが、アルミパイプの『トラスフレーム』なんてものは、ぱっと思い浮かぶものはスズキのSV400ぐらいで、あまりお目にかかることがない。

スズキのSV400

1998年発売のスズキSV400は、アルミトラスフレームのおかげで400ccクラスながら乾燥重量159kgという軽量な車体を実現。コーナリングの操作感がとにかく軽快だった。

 

また溶かした金属を型に流し込んで作る鋳造という製造方法には、当然アルミを流し込むための“金型”も必要になる。この金型が割高で生産コスト的に不利。素材の値段、量、製造方法とアルミフレームのバイクは総じて割高になりがちなのだ。

WR250X/R

ナンバー付きオフロードモデルとして初めてメインフレームにアルミ素材を採用したヤマハのWR250R/Xのストリップモデル。鋳造アルミパーツと鍛造アルミパーツを組み合わせ、さらにスイングアームもアルミという非常に贅沢な仕様。おかげで2007年の登場時で70万円超えと、オフロードバイクとしては非常に高額な値付けがされた。

 

解析技術の進歩でフレームが劇的進化!

レースの世界ではマストアイテムなアルミフレームだが、量産市販車となるとやっぱりまだまだスチールフレームが一般的だ。それに二輪業界で仕事をしていると、フレームの“しなり”や“強度”を解析する技術がこの5年くらいで飛躍的に進歩しているのを感じる。強度的に保つか? なんてことは当たり前として、コーナリングで応力がかかった場合に、フレームのどのあたりを中心にどのくらいしならせるか? なんてこともコンピューター上でシミュレーションすることが可能になり、エンジン特性や狙ったキャラクターに即したフレームを計算で作り出せるようになったのだ。各社、最終的な味付けの決定はテストライダーの意見をもとに調整するようだが、狙ったところへ“だいたい”の性能を持っていく技術が大幅に進歩しているのだ。

 

CB1000R

『バックボーンフレーム』という文字通り、背骨のようなちょっと特殊なフレームを持つホンダのCB1000R。フレームの素材はスチールだが、解析技術を駆使してフレームのしなりを積極的にコントロールした代表例。コーナリング時のフレームのしなりを邪魔しないよう、スイングアームの取り付け位置やピポットプレートの締結方法も工夫されている。

 

また一方でスチールフレームの場合、モデルチェンジの際にちょっと部材の太さを変えたり、補強を加えたりするだけでキャラクターの変更が可能なのも大きな利点といえるだろう。排気量アップでパワーが上がったから、ちょっと補強を増やしてフレームも剛性アップ…なんてことが『鋼管トラスフレーム』をはじめとするスチールフレームならとてもやりやすいのだ。これがアルミフレームの場合、特に鋳造の場合は、一度金型を作ってしまったら、そこから仕様変更してキャラクターを変えるには金型から作り直さねばならず、非常に手間がかかる。

 

Scrambler Desert Sled

ドゥカティのスクランブラーデザートスレッドは、他のスクランブラーシリーズよりも車体の剛性をアップするためフレームの部材を増やして強化。写真中央のエンジンを横切るようなパイプが増やされたのだが、鋼管フレームならこんなモデルごとのキャラクターの改変でとても融通がきく。

 

ヤマハのオフロードコンペモデルなどは、一度アルミフレームを作り変えたら、まずモトクロッサーの450ccクラス、その後250ccクラスに使い、さらにエンデューロマシンにも転用することで効率化を図っている。その場合フレーム本体には手を加えず、エンジンとフレームを繋ぐ懸架パーツ(エンジンブラケット)の剛性を調整することでフレーム全体のキャラクターをコントロールしている。

2022 YZ250FX

2022モデルのヤマハYZ250FX。前年に刷新されたモトクロッサーYZ250Fのフレームをそのまま使い、エンデューロ用に扱いやすくしなやかなキャラクターをエンジンブラケット部分の剛性調整で作り出している。アルミフレームをいちいち作り直すのは非常に手間とコストがかかるのだ。

 

それがスチールフレームなら、ちょっとした仕様変更の許容範囲が大きく、モデルチェンジの際の剛性変更や車体を共用しながらキャラクターの違うバイクを作るプラットフォーム戦略もとりやすい。ホンダのCT125ハンターカブなどは、スーパーカブC125のフレームをベースに各所に補強を入れて強化したフレームを採用している。

CT125HunterCub

スーパーカブC125をベースとするCT125ハンターカブのフレームで、赤い部分がC125から変更点。CT125ハンターカブは、カブシリーズ定番のユニットステアから、トップブリッジ付きのフロントフォークを得たことでフロント周りの剛性&走破性が飛躍的にアップ。メインフレームもその性能アップに合わせてネックまわりを中心に補強され剛性アップを図ったのだ。

 

 

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