バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は車体の駆動系でメンテナンス不要? 必要? 論争がインターネット上で巻き起こっている『シールチェーン』だ。

そもそも『シールチェーン』とは?

シールチェーンの構造図

チェーンの中にシールと呼ばれるゴム製のパーツがあるのが『シールチェーン』。

 

回転運動を離れたところに伝達するのがチェーンの役割。バイクにはいわゆる一般的に“チェーン”と呼ぶドライブチェーンのほか、カムシャフトに駆動を伝達するためのカムチェーンなどが使われている。

ちなみにこの駆動伝達のためのチェーンは、モナリザで有名なレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452〜1519年)が考案したとされており、当時のスケッチも残っている。ただ素材や加工の技術が追いついて実用化されたのはそれから300年以上が経った19世紀になってからというから、レオナルド・ダ・ヴィンチとは相当の天才だったってことだろう。

さて今回のお題である『シールチェーン』とは、通常のチェーン(ノンシールチェーン)に対して“seal(密閉)”構造になっているから『シールチェーン』と呼ばれる。

シールチェーンのシール

『シールチェーン』には、写真のようなゴム製リング状のシールがグリスが流れ出さないようにチェーンの中に封入されている。

シールチェーンの内部構造

シールを使ってグリスを封入しているのは、チェーンのコマの動きに関わるチェーンの内プレートと外プレートを連結部分。写真でいうところのオレンジ色の部分がシール。リングの内側にグリスを閉じ込めておくのがその役割だ。

 

最近はこのシールも単なるOリング形状ではなく、各社独自の形状で耐久性や密閉性をアップする努力を行っている。シールがしっかりと機能してグリスを封入し続けられればそれだけチェーンの耐久性が上がるからだ。

『シールチェーン』のここがスゴイ!

メンテナンスサイクルが圧倒的に長くなった!

ドライブチェーンは、現代のバイクの中でオーナーに残された、唯一といっていい“まとも”なメンテナスポイントだ。スプロケットが摩耗したりチェーンが伸びたりするため、それを発見する日常的な“点検”を行い、たるんでいれば“調整”を実施。性能を維持するためには“清掃”及び“注油”が不可欠。ここまでメンテナンスの要素をフルコースで味わえる部位も今日びなかなかないもんだ。

『シールチェーン』用のチェーンルーブ

ゴム製品であるシールを使う『シールチェーン』には、ゴム製品への攻撃性が少ない『シールチェーン』用のチェーンルーブが必要になる。

 

とはいえ、これでも『シールチェーン』が登場したことで相当メンテナンスサイクルも伸びた。ノンシールチェーンの時代にはほぼ乗るたび行う必要があった注油作業が、“たまに”でよくなったのだ。意外と面倒なチェーン注油だけにメンテナンスサイクルが長いのは非常に助かる。真偽のほどは定かではないが、最近のバイクにセンタースタンドが標準装備する必要がなくなったのは、この『シールチェーン』の登場のおかげで頻繁に注油する必要がなくなったからだという話もどこかで聞いたことがある。

「シールチェーンは注油しなくていい」ってウワサはホント!?

絶対ダメです!(キッパリ)。『シールチェーン』だろうがノンシールチェーンだろうが注油は絶対に必要です。こんなことがまことしやかに議論されるのは、たぶんチェーンのメンテナンスがちょっと面倒だったり、チェーンオイルがホイールに飛び散ってホイールが汚れるのを嫌ってのコトだと思うけど、疑う余地なく『シールチェーン』だって注油は必要である。

確かに内部にグリスを封入する『シールチェーン』になってチェーンの耐久性はアップしたし、チェーンそのものはメンテナンスの頻度は少なくなっている。ただチェーンはスプロケットと噛み合うことで動力を伝えている。つまりチェーンだけではなくスプロケット側の事情を忘れてはいけない。

走行時、エンジンがチェーンを引っ張る力は約2トンと言われているが、それだけの力がチェーンのローラーとスプロケットの噛み合い部分に集中するのだから、ものすごい負担がかかっている。そんな金属同士の擦れ合い、ぶつかり合いによる摩耗を防ぐためにローラーとスプロケットの接触面への潤滑は必要不可欠なのだ。

もし嘘だと思うなら、雨天走行後などチェーンとスプロケットが油切れを起こした状態で走り続けてみるといいだろう。そんな状態で1日も走れば黒っぽい金属粉がスプロケットに付着し始めるはずだ。あれらは削れたスプロケットの成れの果て。チェーンの油切れはスプロケットの異常摩耗を引き起こすのだ。特に数ヶ月に渡って走り続けるようなロングツーリングの場合は、そんな摩耗具合がものすごく顕著に出る。僕も旅の間はたいして洗車などは行わない派だが、チェーンの油切れがスプロケットの異常摩耗を引き起こすことに気づいてからは、長旅には小さなチェーンオイルを持ち歩くようにしている。

摩耗したスプロケット

油切れを起こした状態で走り続けるとチェーンはスプロケットの異常摩耗を引き起こす。鉄のスプロケットはともかく、アルミのスプロケットなどはその摩耗具合も早い。

 

まぁ、注油しなかったとろですぐに壊れたり走行不能なったりするパーツではないので、「スプロケットとチェーンなどは消耗品。数千キロだろうが減ってきたらすぐに数万円かけて交換すればいいじゃない!?」なんていうお金持ちの方はチェーンのメンテナンスなどしなくてもいいだろう。

サビびたバイクのチェーン

ここまでサビさせるには相当放置する必要があるが、点サビ程度の軽いサビはわりとすぐに発生する。

 

またチェーンはバイクの中でも特にサビが発生しやすい部分。室内保管ならともかくバイクカバーを使っての屋外駐輪では、雨天走行後などチェーンオイルがとんでしまった油切れの状態で3日も放置しておけばすぐさま点サビが発生する。そんなサビを防ぐためにもチェーンオイルは塗っておいた方がいいのだ。大事なことなので最後にもう一度言っておきましょう。『シールチェーン』だろうがノンシールチェーンだろうが、チェーンへの注油は絶対に必要です!

 

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