扱いやすく、速い。そんな新型カワサキZ650RSのコンセプトと立ち位置は、紛れもなく祖となる”ザッパー”ことZ650から継承されている。長きにわたりカワサキを支え続けた由緒正しき空冷Zの歴史的変遷を振り返る。
●文:ヤングマシン編集部(伊藤康司)
30年走り続けた、いわば最長寿の”空冷Z”
キャリアの長いライダーや旧車好きなら、「ザッパー」と聞けば迷わずイメージするのが、’77年に発売された「Z650」だろう。当時、カワサキはすでに900スーパー4=Z1で大排気量スポーツ界を席巻していた。その地位を不動のものとするべく、Z1より軽快に扱える”Z1ジュニア”のコンセプトのもと、400/500ccクラスとZ1の間を埋め、かつ750ccより速いマシンを画策。それがZ650=ザッパーだったのだ。
【’77 KAWASAKI Z650[B1]】■全長:2170 全幅:850 全高:1145 軸距:1420 (各㎜) 車重:211㎏(乾燥) 空冷4ストローク並列4気筒DOHC2バルブ652cc ボア×ストローク:62mm×54mm 64ps/8500rpm 5.8kg-m/7000rpm 変速機形式:5段リターン 燃料タンク容量:16.8L ■ブレーキF=ディスク R=ドラム タイヤF=3.25-H19 R=4.00-H18 ■新車当時価格:43万5000円
Z1では組み立て式でベアリング支持のクランクシャフトを採用した。それは開発当時、とくに海外のバイクショップの埃だらけの作業環境でもエンジンの分解整備を問題なく行うための選択だったが、数年後には作業環境やオイル管理も向上。そこでZ650ではプレーンメタル支持の一体式クランクシャフトを採用。これにより軽量/コンパクト化と同時に高回転までスムーズに吹け上がるレスポンスも実現した。
その素性の良さは、排気量を拡大して750クラスでも大活躍。電子制御式燃料噴射(DFI)を装備したり、750ターボのベースにもなった。ちなみに750ターボは112psで、Z650の1.75倍のパワーを発揮。このエンジンが、いかに頑丈だったか窺える部分でもある。
その後は水冷のGPZ750Rの登場により、空冷ザッパー系は一部の輸出モデルを除いて一線から退いた…が、’90年8月に、空冷Zのイメージを色濃く漂わせるゼファー750として、再びその雄姿を現した。
ザッパーは、アメリカで風を切る擬音の”Zap”からカワサキが生んだ造語だが、ゼファーはギリシャ神話に登場する西風神の英語名。”風”を意味する正当な後継車だ。
そしてゼファー750は、スポークホイール仕様のRSや派生モデルのZR‐7を含めて進化/熟成を続け、’07年まで販売された。初代Z650が登場した’76年からじつに31年、ザッパーの空冷4気筒エンジンはカワサキを支えてきたのだ。
【最長寿“空冷Z”】エンジンはZ1系の縮小版ではなく完全新設計。クランクシャフトは一体式のプレーンメタル支持となり、一次駆動はサイレントチェーン方式を採用。排気量拡大を見据えた余裕のある設計がなされた。
メーターはZ1系と同じ砲弾型カバーに収められ、インジケータはZ900(’76年A4型)と同じ縦並び。写真は輸出車で140マイル(220km/h)表示だが、国内モデルは180km/h表示。
ティアドロップ型の燃料タンクはZ1/2系よりかなり小振りに見えるが、容量的には僅かに少ない程度だ。シートはZ1/2系のフラットなタイプに対し、わずかに段付き。足着き性を考慮して扱いやすさが向上した。
カタログには「すべてにわたるバランスの妙 生まれながらの充実感!」のキャッチが躍り、環境性能や安全装備も謳っている。
”ザッパー“系モデル変遷
【’78 Z650[B2]:ブレーキや足まわりを強化】マスターシリンダーが角型のねじ止め式キャップとなり、ブレーキキャリパーがフロントフォークの後方に移動。キャブセッティングを改善し、負圧式のガソリンコックも装備した。スイングアームピボットにローラーベアリングを採用した。’79年は海外でB3型を販売。
【’80 Z750-FX II:Z2系に代わる新世代のナナハン】Z2から進化したZ750FX(D3)に代わり、Z650のボアを4mm広げ738ccに拡大し、750クラスに登場。最高出力は67psと控えめだが、軽量/コンパクトで旧FXより30kg以上も軽くなった。デザインは北米仕様Z1000J風の丸タンク&Mk.IIテール。
【’81 Z750-FX III:角型タンクでリニューアル】FX-II発売から10カ月足らずで、欧州仕様Z1000Jに似た角型タンクにリニューアル。FX-II/IIIともに国内での販売は1年のみだが、輸出車はそれぞれ3~4年ほど継続販売され、’83年以降のFX-IIIはZ-GP同様の角型ヘッドライトに変更された。
【’82 Z750GP:国産/国内モデル初のインジェクション車】電子制御式燃料噴射(DFI)を装備し、カムシャフトや燃焼室もリファインして、FX-II/IIIから3psアップの70ps。外装はサイドカバーやテールカウルを一新し、Z1100GPを踏襲するデザインに変わった。Z1000R風のビキニカウルもオプション販売された。
【‘83 GPz750】カウルを装備し、足まわりやシャーシも完全刷新したGPz750。吸気をキャブに戻し72psにアップした。’85年からはフルカウル化。
【‘84 750ターボ:ザッパーはここで一旦休止するが…】ターボチャージャー装備の750ターボはリッタークラスに迫る112psだった。
21世紀になっても”ザッパー”の血統は途絶えなかった!
【’90 ゼファー750:空冷Zのイメージを色濃く漂わせる】エンジンベースはGPz750Fだが、カムカバーはZ1/Z2風の丸型、シリンダーヘッドの空冷フィンも角を丸めたレトロな形状に。フレームはダブルクレードル。’96~’02年の間はスポークホイールの750RSも販売された
【’07 ゼファー750ファイナルエディション】扱いとしては2006年の新色追加だった。
【’99 ZR-7:コストパフォーマンスに優れヨーロッパで人気】モノサスペンション装備のフレームにゼファー750のエンジン(カムカバーやヘッドの冷却フィンを角型に変更)を搭載したスポーツネイキッド。’02年に加わったフレームマウントのハーフカウルを装備するZR-7Sは’05年まで販売された。
名機だけに650/750とも多くの派生車が存在。Z650RSの派生車にも今から期待!
’80年代はクルーザー人気が高まり、国内ではLTD、輸出車はSRやCSRを販売。キャストホイールを履いたZ650FやZ650Cも登場。750になってからはシャフトドライブのZ750GTが欧州で人気を博し、’82~’94年まで13年間も販売された。米国では一時期、関税対策で排気量を縮小した700ccモデルも存在した。
【’79 Z650 LTD】
【’80 Z650F】
【’82 Z750GT】
【’84 Z700】
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