PCXが開拓した一台で何でもこなせる150スクーターにヤマハも参入

ホンダが2010年に発売したPCXは、2006年に駐車違反の取締が強化されて下火になっていたスクーター市場で久しぶりのヒットモデルになった。この勢いに乗りホンダは2012年にPCX150を発売、これが想定外の好セールスを記録。「それではウチも」とヤマハは台湾モデルのSMAXをマジェスティSという名にして2013年に国内投入したのだ。

マジェスティSの排気量は155ccで、国内では126cc~250cc以下の軽二輪に分類される。軽二輪は、高速道路に乗れる上に車検が必要ないというメリットで人気がある。しかし、上限の250ccより排気量がかなり小さい150モデルは、果たして売れるのだろうか? という先入観があった。

しかし、フタを開けてみるとPCX150は初年度からバックオーダーを抱えるほどのヒットになり、マジェスティSも2014年の軽二輪ベストセラーを記録するなど驚くほどの快進撃を見せ、国内に150スクーターが定着。2000年代前半のビッグスクーターブームから一転、なんでもこなせるミニマムサイズという、小ささが逆にセールスポイントになったのだ。

マジェスティSは、日本にビッグスクーターの一大ブームを巻き起こした「マジェスティ」の名を現在に残す唯一の現行モデルとしての側面も特筆すべきだろう。その面影はカスタムテイスト溢れるショートスクリーンやパイプハンドルの装備に現れている。かつてのブーム期は、皆このようなスタイルで街を流していたのだ。

現行のマジェスティSは2017年にモデルチェンジした2代目。排ガス規制に対応するとともにLEDのヘッドライトを獲得してスタイリッシュになった。

日本にビッグスクーターブームを巻き起こしたマジェスティは、1999年に発売されたこの第二世代で全盛期を迎えた。写真は2002年のマジェスティCで、ショートスクリーンやパイプハンドルで流行のカスタムを再現。

これはホンダが2019年にADV150を発売したときの資料。2005年がビッグスクーターブームのピーク。2012年~2013年に小さい山があるのが、150スクーターの発売時のもの。

身長170cmでライディングポジションはゆとりがある。ステップスルーなので足は伸ばせない。150cc専用ボディなので125ccモデルより大柄な印象だ。

体重65kgで足着き性はかかとが少し浮く。シグナス系に通じるスポーツ路線なので、その分腰高感がある印象だ。

ヤマハの台湾モデルらしく方向性はバリバリスクーター

ここのところシグナスXシグナスグリファスとヤマハの台湾系スクーターの試乗を続けており、ついにマジェスティSの番となった。これらのモデルは明確にスポーツの血統で、水冷4バルブ155ccのエンジンを搭載するマジェスティSはその上位機種。最高出力も15PSを発揮することから、さらに過激な走りを味わうことができた。

高速道路に乗れる排気量だけあって100km/hまで一気に加速し、プラスアルファの余力もある。エンジンはシグナスグリファスのように可変バルブのVVAを持たないが、排気量の優位でスタートダッシュは鋭く、一般道ではあっという間に後続車がバックミラーで小さくなっていく感じだ。

この走りを一言で表現すると「バリバリスクーター」。スクーター王国の台湾で生産されているだけあって、コンセプトに若さがあり明確に速さと格好良さを追求しているのが分かる。1980年代の原付2ストスポーツスクーターの延長線上にあり、個人的には高校時代を懐かしく感じる。これに気疲れしてしまうライダーは、NMAX155やトリシティ155を選べばいいだろう。

原付二種に比べると保険の費用など維持費が高くなってしまうが、それを補って余りあるパワーは魅力的。シグナスシリーズとマジェスティSは使い勝手はほぼ同じなので、原二がマストの条件でないのであれば、価格差もわずかなのでマジェスティSは有力候補だ。

エンジンは水冷4バルブとスクーターでは、最上級と言えるスペックが与えられている。最新世代ではないが、令和2年排ガス規制前なのでパワフルさでは最新型を上回るだろう。

前後13インチの絶妙なホイールサイズが万能さをもたらす

以前、124ccのシグナスXから新型のシグナスグリファスに乗り換えた時、シグナスXにあった不安定な挙動がかなり抑えられていることに安心感を覚えた。シグナスXよりもグリファスの方がよりパワフルで速いのだが、進化したシャーシやハードなサス設定、35mm延長されたホイールベースが効いていると思われる。

そして、マジェスティSはシグナスグリファスをさらに一回り安定指向に振ったシャーシ設定となっている。ホイールは13インチとグリファスより1サイズ大きく、ホイールベースは65mmも長い設定だ。車重も20kg増しているので、より安定した走行が可能となる。それでいて、すり抜けには困らないくらいの適度な軽快感もあるので、バランスは非常にいい。

ただし、これは同じアンダーボーンフレームのシグナスシリーズと比べての話。高速道路での安定性で言えばセンターフレームを装備するNMAX155がより優れているのは間違いないところ。それでもマジェスティSが継続してラインナップされているのは、利便性の高いステップスルーのボディに一定の支持があるからだ。

スクーターを使用する際は、カバンや買い物した荷物などを運びたい状況が多いはず。筆者は常にそんな状況でスクーターをテストしているので、センターフレーム車はトップケースが必須と感じる。結果、軽快性が犠牲になるのだが、トップケースなしでもマジェスティSは利便性と軽快な走りがある程度両立できるので、街乗りメインであればこちらがおすすめだ。

ホイールは13インチで2ポットキャリパーの径267mmのディスクブレーキを採用。制動力やコントロール性は十分なレベルだ。ABS義務化前の2020年モデルなのでABSは非装備だ。

リアホイールも13インチで径245mmのディスクブレーキを採用する。

水平配置のリアサスペンションはユニークな装備。マスの集中化とスペース効率向上を狙ったレイアウトとなる。

シート下には32Lのスペースを確保。ヘルメットやレインウェアを収納可能だ。

シートは段差があるので腰がホールドされる。タンデムシートも十分なスペースがあり、150専用設計のメリットとなる。

左から給油口、コンビニフック、シャッター付きキーシンダー、ポケット+12V電源などヤマハの標準的装備。コンビニフックはV字に開くタイプで落下防止機能はない。

LEDヘッドライトはプロジェクタータイプのハイビーム、リフレクタータイプのロービームにライン発光LEDのポジション灯を組み合わせる。

テールランプもLEDでクサビ型のウインカーとともに力強い印象だ。

ショートスクリーンとパイプハンドルは、スクーターカスタムの定番。マジェスティたる所以だ。

メーターは中央にアナログのタコメーターを配置し、左右に燃料計とスピードメーターを独立させた凝ったデザイン。

2020年型マジェスティS主要諸元

・全長×全幅×全高:2030×715×1115mm
・ホイールベース:1405mm
・シート高:795mm
・車重:145kg
・エンジン:水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ 155cc
・最高出力:15PS/7500rpm
・最大トルク:1.4kgf-m/6000rpm
・燃料タンク容量:7.4L
・変速機:Vベルト式無段変速/オートマチック
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70-13、R=130/70-13
・価格:37万9500円

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