ドゥカティのモンスターはこれまでに数えきれないほどの進化を繰り返してきた。1993年のデビュー当時には異端児とも呼ばれたほどの変わり種だったが、デビューイヤーに大ヒット。その後はドゥカティの経営を支えるネイキッドに成長。そして間もなくデビューから30年を迎える最新モンスターは、過去にないほどのドラスティックな進化を果たした。

●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:ドゥカティ

937ccなのに乾燥重量166kg! 装備重量188kg!

ニューモンスターは、先代のモンスター821と比較するとエンジンは2.4kg、フレームは4.5kg、ホイールは1.7kg、スイングアームは1.6kg、リアフレームは1.9kg、さらに細部を見直すことで、トータルで18kgもの軽量化を実現している。

車体を起こし、サイドスタンドをはらった瞬間にその軽さは体感でき、押すとあまりの軽さに驚かされる。体感できるのはスペックの数値以上の軽さで、ホンダのCB400SFの装備重量よりも13kgも軽いというと伝わりやすかもしれない。

ドゥカティのLツインエンジンは、そもそも幅が狭くスリムな車体をつくれるのがメリットだが、これまでそのエンジンの横にあったパイプフレームも無くなっているため、見た目の軽快感はより強くなり、937ccもの排気量はどこからも感じさせない。
▲洒落た市街地や夜の都会、日本の風景にも自然に溶け込みながら、モンスターはその存在感をアピールする。

過去にこれほど大胆に生まれ変わったモンスターはなかった。92年のケルンショーで発表され、93年に発売された初代モンスターは、空冷の900ccエンジンをスーパーバイク851のフレームに搭載。

その後もモデルチェンジを繰り返しながら40種類以上の派生モデルを生み、その生産台数は35万台以上にもなる。しかし、そのすべてにドゥカティの伝統ともいえるスチールパイプトレリスフレームがあったが、このモンスターはトレリスフレームどころか、一見フレームが見当たらない。

▲エンジンに寄り添うようにレイアウトされていたスチールパイプトレリスフレームを廃し、Lツインエンジンを強調したデザイン。エキパイの取り回しを工夫することで、熱さ対策も。車体構成をシンプルにすることで、大幅なスリム化と軽量化を実現。エンジンは111psを発揮する。

エンジンにタンクやシートが積まれ、エンジンからスイングアームが生えているような印象だ。

でも実は、この車体構成はドゥカティの最新スーパーバイクであるパニガーレV4やV2シリーズとまったく同じで、一昔前のMotoGPマシンとも同じ設計思想を持っているのだ。

レースで培った技術をこういったネイキッドにも投入し、軽さやコンパクトさをどこまでも追求してくるのが いかにもドゥカティらしい。

実はフレームはエンジンの真上にあり、エアボックスを兼ねたとても合理的なつくりになっている。部品点数を減らし、その部品を極力小さくつくることで、軽さとコンパクトさを徹底追求しているのである。

▲タンク後部とシート前部は、ほぼエンジンの幅に収まる。それはとても937ccとは思えないスリムさ。Lツインエンジンは単気筒エンジンよりもコンロッド1本分広くなるだけで、猛烈にスリム。これが足着き性やハンドリングに大きな影響を与える。
▲ニューモンスターを正面から見ると、タンクに貼られたDUCATI MONSTERのロゴを読むことができる。タンクは複雑な曲面で構成されているがきちんとデザインされており、こういったところにもイタリアンの上手さを感じさせられる。

日本仕様は専用サスとシートで足着き性が抜群に良い

そして圧倒的にスリムな車体はただでさえ足着き性がいいのだが、日本仕様はローシートとローダウンサスペンションが標準装着され、シート高は775mm(本国は820mm)に設定されている。フレームがないため、数値以上に足着き性がよく感じる。

しかし、ここには懸念があるのも事実。これはビギナーにはよい設定かもしれないが、スポーティに走りたいライダーやベテランにはバイクの姿勢がリア下がりになりコーナリングで向きを変える際のレスポンスが落ちるからだ。

しかし、走り出すとそんなことを忘れさせてくれるくらい軽さと細さが際立っていることが伝わってくる。リア下がりの姿勢は馴染みやすさに貢献。特に速度域の低い領域ではそれを強く感じさせてくれる。サスペンションもよく動く設定のため、バイクとの一体感を得やすく、コントロールしている醍醐味を得やすいのだ。
▲モンスターを象徴する丸型のヘッドライトを現代風にアレンジ。LEDのデイタイムランニングライトも採用する。レンズはとても複雑な膨らみをしていて、それがモンスターらしいフロントマスクを演出。
▲ウインカーに注目。前後ウインカーは流れるように点滅。テールライトを含め灯火類はすべてLEDだ。

レース直系の車体設計思想なのに、とてもフレンドリーな乗り心地

不思議なのはパニガーレシリーズと同じような車体設計思想なのに、そのフィーリングはまるで異なることだ。パニガーレはスーパースポーツだからカチッとしているが、モンスターはとてもしなやか。

コーナリングの際に向きを変えるタイミングでのレスポンスの良さは共通だが、モンスターはその動きに怖さや不安や難しさを感じさせない印象で、タイヤの接地感もとてもわかりやすい。

深くバンクしていないのに、あっという間にコーナーをクリアしてしまい、苦手なコーナも皆無。走るほどにワイディングの虜になっていく。リズムに乗りながら右へ左へと切り返すのがとても気持ち良い。
▲昔はスパルタンだったり、乗り手を選ぶと言われたドゥカティだが、その頃の面影はない。モンスター誕生から約30年。その立ち位置は大きく変わってきている。

この後サーキットも走る機会があったが、さすがにその領域になると本国仕様のサスペンションとシートが欲しくなるが、サーキットでも937ccとは思えないコーナリングスピードを披露してくれた。

コーナーの立ち上がりでスポーツモードで大きくスロットルを開けながらデスモドロミックならではの伸びを堪能する。この高回転域の圧倒的な吹け上がり感は、ドゥカティにしかない快感を教えてくれる。

また別の機会では、市街地で本国仕様のサスペンションとシートを経験することもできた。前後サスペンションのスプリングを組み替え、厚みを得たシートはそのハンドリングをよりシャープにしてくれたし、ドゥカティらしさとモンスターらしさをより色濃く反映。

また、サスペンションは本国仕様でシートは日本仕様など、好みで組み合わせを変えてみるのも理想のモンスターに出会う近道になるはずだ。
▲スポーツ、ツーリング、アーバンの3種のライディングモードを用意。トラコンやABS、ウィリーコントロールも統合制御。クイックシフト(アップ&ダウン)やローンチコントロールも装備。オプションでスマートフォンと連動するマルチメディアシステムも使用可能。
▲日本仕様はローシートとローダウンサスペンションを標準装備し、775mmの低シート高を実現。よりスポーティに楽しみたい方は前後サスペンションのスプリング、シート、サイドスタンドのセットで変更すると本国が狙った性能を体感できる。

▲マスターシリンダーはブレーキ&クラッチ共にブレンボ製のセミラジアル。タッチは上々で、もちろんレバー位置を細かくアジャストすることができる。

▲キャリパーはブレンボ製のラジアルマウント。フォークはアジャスト機構を持たない倒立タイプ。
▲クイックシフターはもちろんアップ&ダウンに対応。誰もが感じられる電子制御のひとつだ。

▲日本仕様だとアップハンドルに感じるポジションだが、本国仕様のサスとシートにすると程よい前傾のスポーツポジション。 

▲サイレンサーはツインエンジンをイメージさせるデザイン。音量は抑えられているが、ドゥカティらしいサウンドを奏でる。

モンスターはどこまでもモンスターらしく進化していく

いつの時代も、最新のアイデアと技術を惜しみなく注ぎ込まれて、進化を繰り返してきたモンスター。共通した理念は、シンプルであること。その究極系が最新モンスターなのだ。

「バイクに必要なものは、ひとつのエンジン、2つの車輪、燃料タンク、ハンドルバー、それらを取り付けるためのいくつかの金属だけだ」これは初期型モンスターの生みの親であるデザイナーのミゲール・ガルーツィの言葉だ。

その言葉の意味は、新しいモンスターにもピッタリと当てはまる。コンセプトはより鮮明になり、車体の作り込みを見るほどに、モンスターはモンスターらしく正常進化してきたことが伝わってくる。

ドゥカティにしかつくれない、超ライトウエイトネイキッドの実力を、今こそ知っていただきたい。
▲上がパニガーレV4(写真は初期型。現行は側面に拳大の穴を開け、剛性バランスをコントロール)で、下がモンスターのストリップ。モンスターは、パニガーレV4やV2と同じ発想のアルミ製のフロントフレームを採用し、それは非常にコンパクト。前後シリンダーに締結され、エアボックスを兼ねる効率的な構造を採用。前モデルであるモンスター821のパイプフレームより4.5kgも軽量に仕上がっている。

歴代モンスターをおさらいしてみよう

ここでは個人的に僕が時代の節目だと思うところで切り分けた、4世代のモンスターを紹介しよう。そのすべてにドゥカティの伝統とも言えるスチールパイプのトレリスフレームがあるが、最新モンスターはそれさえも排除。変えること、変わることを恐れずに突き進むその強さこそが、新しいドゥカティらしさを生んでいくのである。
1st モンスター発表は1992年のケルンショー
ケルンショーでドゥカティが発表した車名はM900だったが、会場では皆がモンスターと呼んでいた。それは事前にディーラーに発表した際にガルーツィがモンスターと呼んでいたから……。その後、水冷エンジン搭載モデルや片持ちスイングアームのSRシリーズに派生。日本向けの400ccもあった。
2nd MotoGPの車体設計思想をいちばんに導入
2008年にフルチェンジした696が登場。次いで1100や796も登場した。この世代は空冷エンジンのみの展開で軽さに定評があった。MotoGPのファクトリーマシンであるデスモセディチ由来のコンパクトなパイプフレームを採用。交換可能な樹脂製タンクカバーも斬新で、純正で何種類も用意された。
3rd 水冷&電子装備を充実させ、マッチョに
スーパーバイクをベースとする大排気量水冷エンジンが復活し、1200や821が登場。ライド・バイ・ワイヤをはじめライディングモードやトラクションコントロールなど電子デバイスも満載。初の可変シートを採用して足着き性を向上させたモデルでもある。ただしライトウエイト感は若干スポイルされた。
4th かつてない大チェンジでシンプル化
超軽量&超コンパクトなフロントフレームに937cc水冷エンジンを搭載。スリム化と軽量化を突き詰め、足着き性やハンドル切れ角も向上させた。圧倒的な軽さを体感できるモデルで、フレンドリーさも身につけた。カーボンやマグネシウムといった高級パーツでなくシンプルな作りで軽量化しているのが斬新。

【’22 DUCATI MONSTER+】■軸距:1474mm シート高:775mm 車重188kg ■水冷4スト2気筒DOHC4バルブ 937cc 111ps/9250rpm 9.5kg-m/6500rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量14L ■ブレーキF=ダブルディスク R=ディスク ■タイヤF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●色:赤、灰、黒 

※本記事は“ミリオーレ”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。

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