当初はZ2を再販する企画からスタートした次世代の空冷Z

ゼファーは、1989年にカワサキが発売した400ccのネイキッドバイク。現在では言わずと知れた人気モデルだが、発売当時はレーサーレプリカブームが続いており、時代遅れの空冷2バルブエンジンを搭載したゼファーがヒットするとは誰も予想していなかった。同じ年に発売されたZXR400が年間1万台だったのに対し、ゼファーの販売計画はわずか1500台だったという。

ところがこれが予想に反して大ヒット。1989年は7300台、1990年は1万3499台、1991年は1万6261台、1992年は1万6861台、1993年は1万2906台のセールスを記録し、1990~1992年までベストセラーに輝いた。ちなみに1993年は、ホンダがゼファーに対抗してCB400SFをリリースした年で、それまでは400ccクラスを独走していたのだ。

ゼファーが誕生するきっかけとなったのは、1980年代当時に中古のZ2が高値で取り引きされていたことに目を付けたカワサキの商品企画担当者が、Z2を復刻させようとしたアイデアだった。これはコストの関係から見送られたが、数回の会議を経て「空冷400ccプライスバイク計画」へと発展していった。

Z2復刻案から安価なモデルの開発へと方向性はシフトしたものの、クラス初のDOHC4気筒を搭載したZ400FX由来のパワーユニットを採用するゼファーが、Zのイメージを受け継ぐことになったのは必然だろう。加えて、若手デザイナーによる独自のスタイリングが光った。一方、ゼファーには真新しいメカニズムはなく、最後まで営業側から「何かセールスポイントはないのか」と言われる始末だった。

1973年に発売された750RS(型式Z2)。海外向けの900スーパーフォー(Z1)の750cc版で、日本ではZ2が発売された。Z1/Z2のスタイルは日本のバイク作りに影響を与えており、現在に至るまでネイキッドモデルの原型となっている。

1989年に発売されたゼファー。ZEPHYR=西風を意味する英語を車名としつつ頭文字にZを置いてその血統を表している。Z400FXをルーツとした空冷並列4気筒エンジンは、当時のGPZ400Fに搭載されて存続していた。

1979年にカワサキが400ccクラス初の並列4気筒DOHCエンジンを搭載したZ400FXを発売し大ヒットを記録。ライバル各社もこれに倣って4気筒DOHCモデルをリリースし、当時全盛だった並列2気筒エンジンのモデルを駆逐した。

ゼファーを企画する際に用いられた資料。レーサーレプリカとは異なる世界観を目指したことがよく分かる。エリミネーター400をより硬派でスポーティーにした立ち位置としていのも興味深い。

ゼファーχがライバルを迎撃するために導入したのが4バルブヘッド

1989年のゼファー大ヒットを境にレーサーレプリカの時代は終わりを告げ、ネイキッドブームが到来した。ゼファーの快進撃を止めたホンダCB400SF以外にもヤマハがXJR400、スズキがGSX400インパルスを発売するなど、正統派ネイキッドスタイルのモデルが立て続けにリリースされた。

ライバル機種はどれも空冷2バルブエンジンのゼファーよりもハイスペックで、ゼファーが性能をウリにしたコンセプトではなくてもテコ入れが必要なのは明らかだった。そこでカワサキが選択したのがエンジンの4バルブ化。伝統的に空冷4気筒エンジンは2バルブとしていたカワサキが、初にして唯一の4バルブを採用したのが1996年発売のゼファーχとなる。

他にもピストンやクランクシャフトなどエンジンを全面的に改良し、最高出力はゼファーの46PS→53PSへと大幅にアップ。さらに1997年にはフロントブレーキに4ポットキャリパーと前後17インチホイールを採用するなど足まわりも強化された。その後、2003年には排ガス規制に対応するとともにフロントブレーキキャリパーを改良した。

最終型は2009年のゼファーχファイナルエディション。2006年に発売されたゼファー750/1100ファイナルエディションと同様に火の玉カラーを採用し、特別なシート表皮とゴールドのエンブレムでラストを飾ることになった。カワサキの空冷並列4気筒モデルは最後にゼファーχで4バルブ化を果たし、その歴史に幕を閉じたのだ。

1996年に4バルブヘッドのエンジンを採用して発売されたゼファーχ。初代モデルのみゼファーと同じ前後5本スポークでリア18インチホイールとなっている。フロントブレーキキャリパーはゼファーと同じ2ポットだが、変更されている。

撮影車は1998年モデルのゼファーχ。オリジナルペイントが施され社外マフラーを装着したカスタム車だ。ミラーはZ2タイプでリアサスペンションも変更されている。ゼファーχは、1997年型以降、3本スポークの前後17インチホイールを採用した。

エンジンはZ400FX由来の空冷4気筒を熟成して使用。4バルブ化とともに燃焼室もペントルーフ型に改められて、圧縮比はゼファーの9.7→10.3に向上。また、ゼファーχではカワサキ独自の点火制御システム「K-TRIC」を採用している。

ゼファーχは1997年型よりフロントフォーク径をゼファー750と同じ径41mmに拡大。ブレーキは径300mmのWディスクに4ポットキャリパーを組み合わせて性能向上を果たした。

リアブレーキは径240mmディスクに1ポットキャリパーを採用。1997年型以降ラジアルタイヤの採用とともにアルミスイングアームには補強が入れられ、リアタイヤのサイズも140→150とワイド化された。

火の玉カラーがカスタムペイントされた燃料タンクは容量15L。ゼファーシリーズにおいて、オレンジの火の玉カラーは1999年の10周年モデルと2009年のファイナルエディションで純正採用されている(2006年は赤の火の玉カラー)。

ダブルシートはフラットで座面が広くクッションもソフトで座り心地がいい。テールカウル両サイドには荷掛けフックが収納されており、積載性も考慮されている。

丸目一灯の大型ウインカー、砲弾型2連メーターのスタイルもZ1/Z2をルーツとする装備。ミラーは本来メッキの角型でこれもカスタムされたものとなる。

テールカウルが装備されたネイキッドスタイルは、カワサキのマッハシリーズが源流で、Z1/Z2でスタンダードとなった。

シンプルなハンドルまわり。メーターはアナログの2連タイプで中央に燃料計を設置。ゼファーで盗難被害が多くみられたことからゼファーχではハンドルロック機構が強化されている。

「普通」という表現がぴったりの走りがゼファーχのいいところ

私はネイキッドブームを過ごした世代で当時はバンディット400LTDに乗っていた。高校時代にデビューしたゼファーについては「めちゃくちゃ格好いい!」と思っていたが、中型免許を取っていざ乗れる状況になるとやはり59PSのモデルに目が行き、ほどなく限定解除してしまったので、結局ゼファーに乗る機会はなかった。

初のゼファー体験はファイナルエディション直前、ほぼモデル末期のゼファーχ。ゼファーの登場から約20年たって初めて乗った印象は、懐かしい感覚。初めて乗るの新車なのに新鮮味が全くなく特に印象にも残らなかったが、今になってみるとそれこそがゼファーχのいいところと理解できる。

撮影車のゼファーχはとても調子が良い車両で、なめらかな直4エンジンのフィーリングが気持ちいい。ハンドリングはニュートラルで緊張感なく操縦できる。まさにスポーツバイクのスタンダードと言える走りで、国産バイクの原型となったZ1/Z2のスタイルを受け継ぐ姿にぴったりと言えるものだ。

セールスポイントがないところがゼファーχのセールスポイント。色々なバイクに乗ってきたからこそ、その魅力が改めて見えてきた。1980年代後半に信念をもってこのモデルを生み出した人達に敬意を表したいと思う。

大型バイクに乗り慣れた身からするとゼファーχはコンパクトで軽量。ダウンサイジングにゼファーχという選択もありかも。性能も必要十分と言える。

身長170cmのライディングポジション。ほんの少し前傾するネイキッドモデルの標準的なポジションだ。

体重65kgの足着き性は両足かかとまでべったり接地する。シート高は775mm。

1998年型ゼファーχ主要諸元

・全長×全幅×全高:2085×745×1100mm
・ホイールベース:1440mm
・シート高:775mm
・車重:183kg(乾燥)
・エンジン:空冷4ストローク並列4筒DOHC4バルブ 399cc
・最高出力:53PS/11000rpm
・最大トルク:3.6kgf-m/9500rpm
・燃料タンク容量:15L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17、R=150/70ZR17

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