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高性能化を捨てたコンセプトを実現するために高性能メカをチョイス
2021年のファイナルエディションでその歴史の幕を閉じたヤマハSR400と入れ替わる形で同年にデビューしたホンダGB350/S。ホンダはかつてGB400/500TTや、CB400SSなどでSRに対抗してきたが、ことごとく撃退されている。しかし、GB350/Sは、2021年4月に発売されるとクラス2位となる年間約4000台の好セールスを記録した。
人気の理由は「バイクらしさ」にあり、丸目のヘッドライトに単気筒エンジンというバイクの原点と言えるスタイルが支持されている。これを裏付けるように、STDのGB350とカスタム仕様のGB350SではSTDの方が販売比率が高いという。現在でもGB350/Sの人気は持続しており、2022年は251cc超のバイクで年間販売トップに輝く可能性が高い。
ただし、ホンダは単に懐古調のモデルをリリースした訳ではない。GB350/Sは「気持ち良さ」に目標を定めてエンジンの「鼓動」を徹底的に磨き上げている。開発陣は、鼓動=爆発トルクによる心地よい振動+排気サウンドと定義し、新設計の350cc単気筒エンジンの開発要件に盛り込んでいる。ホンダとしても、高性能化ではなく"好フィーリング化"を目指したのは稀な例だという。
筆者はGB350/Sの取材の際に、開発者の一人から「ヒントはCB250RSのエンジン」と聞いた。調べてみると1980年に発売されたCB250RSの単気筒エンジンには、GBのものに似た2軸のバランサー機構が採用されていた。レプリカブーム以前のスポーツバイク黎明期に高性能化を狙ったメカニズムが、約40年後に"好フィーリング化"のために活用されたのだ。
GB350/Sは、シングルエンジンにつきものの振動を克服し、鼓動のみを抽出した
シングルエンジンは、排気量が大きくなるほど振動が激しくなるイメージがあるだろう。SR400を例にすると走行中にハンドルがブルブル振動するのでこれが明確に分かる。エンジンの振動は車体にも影響し、耐震性を高めるために車重が増すなどネガティブな要素となる。これを克服したのがCB250RSのエンジンで、バランサーを搭載することで低振動化を実現し、同時に軽量化を徹底してスポーツ性能を高めたのだ。
シングルエンジンは、内部のピストンが上下する時に発生する慣性力(=振動の原因)はクランクシャフトの重りが打ち消してくれる。ただし、このクランクシャフトに仕込まれた重りが前後方向に向いている時には同方向への慣性力が発生し、これを打ち消すためにバランサーが必要となるのだ。
バランサーを搭載すること自体は珍しくないが、CB250RSとGB350/Sはより均衡のとれる2軸タイプとして念入りに振動を打ち消しているのが特徴。さらにGB350/Sはこれを発展させて、単純計算で倍のスペースが必要となる2軸バランサーを、実質1軸バランサーと同じスペースに収めてコンパクト化しているところだろう。
これにより、シンプルなレトロイメージのエンジン外観を保ったまま振動を打ち消すことに成功。さらに、エンジンの爆発トルクによる鼓動感をより高めるために、ボア×ストロークを70mm×90.5mmという超ロングストローク設計とし、わずか3000rpmで最大トルクを発生させている。アクセルを空けた瞬間から弾ける鼓動感を味わうことができるのだ。
純粋に鼓動感を味わえるエンジンフィーリングは最高!
前置きが長くなってしまったが、バランサーの話はGB350/Sの走りを語る上で外せない要素。それだけ、振動を取り除いて鼓動だけを味わえるようにした効果が明確に現れているのだ。言われなければ普通に気持ちいいエンジンという感想になるのだが、バランサーの役割を知ると、これこそが超純粋に味わう「鼓動」だということに気付くのだ。
例えば、バランサーを装備していないSR400では、エンジン回転数の上昇とともにハンドルがブルブルと震え出す。昔ながらのバイクに乗っていた身としては、振動をともなったものが鼓動感というイメージがある。だが、GB350Sに乗るとそういった微振動がないのでクリアにエンジンの爆発トルクを感じることができる。
発進で加速していく時や、シフトアップで落ちた回転を上げていく時はもちろん、巡行しながらでも鼓動感が感じられ、気持ちいい。高回転まで引っ張るとすぐに6000rpmのレブリミットに達するが、ワイドレシオのミッションを採用しており、5速100km/hでわずか4000rpm。一般道から高速道路まであらゆるシチュエーションで気持ちいいエンジンフィーリングを味わうことができる。
また、ホンダが打ち出した鼓動の定義に排気サウンドがあるが、これも歯切れがよくトルクの立ち上がりと連動して耳に入ってくる。爆発トルクによる心地よい振動+排気サウンド=鼓動としているのが、走っても納得できるのだ。とにかく気持ち良くて、ずっと走っていたくなるバイクとはまさにこのことという仕上がりなのだ。
スポーティなGB350Sは細部まで作り込まれたディテールが魅力
GB350には、エンジンやフレームを共通としながらスクランブラーイメージとしたGB350Sも用意されている。細身のLEDウインカーや前後ショートフェンダー、コンパクトなアルミキャスト製タンデムグリップ、シャープな形状のサイドカバー、フォークブーツを標準装備し、カスタムテイストを盛り込んでいる。
リアホイールはSTDの18インチから17インチに変更されただけでなく、同130に対して150サイズのワイドなラジアルタイヤを採用。さらに、マフラーはアップタイプになり、ステップ位置も後退してバンク角の増大に対応。ハンドルもグリップ位置がより低く前方に設定され、よりコーナリングしやすいように細部も仕上げられている。
GB350Sに乗るとSTDに比べてわずかに前傾姿勢となるので、コーナリング時は操作しやすいが、印象は大きくは変わらない。基本的にはスタイルの好みで選ぶのが正解だろう。スクランブラーイメージだからか試乗車のタイヤはアドベンチャーモデル向けを採用していたので、フラットダートなら楽しめるだろう。
2021年型ホンダGB350/S主要諸元
・全長×全幅×全高:2180/2175×800×1105/1100mm
・ホイールベース:1440mm
・シート高:800mm
・車重:180/178kg
・エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ 348cc
・最高出力:20PS/5500rpm
・最大トルク:3.0kgf-m/3000rpm
・燃料タンク容量:15L
・変速機:5段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=100/90-19、R=130/70-18/R=150/70R17