近頃、残念ながら「生産終了」が決定したモデルが相次いでいる。そこで、殿堂入りを惜しみつつヒストリーを紹介していくのが当コーナー。第1回は現行モデル唯一のナナハン直4「GSX-S750」について詳しく見ていこう。

現行モデル唯一の750cc直4が、ついに生産終了へ

ナナハンと言えば、昔ながらのライダーにとっておなじみの排気量だ。しかし国内で買える現行モデルはホンダのNC750X、X-ADVのみ(海外仕様にはフォルツァ750等もあり)。ただし、いずれも直列2気筒で、直列4気筒を搭載するのはスズキのGSX-S750だけだ。

そのGSX-S750が、今年10月末で「生産終了予定」と発表された。
理由は11月以降生産の全バイクに適用される「平成32年度(令和2年度)排ガス規制」に未対応のためだ。
前モデルでベースとなったGSR750を入れれば11年、2017年のデビューから数えるとわずか5年での殿堂入りとなる。

↑GSX-S1000の弟分として'17年に登場したGSXS-750。兄貴分は今後も存続するが、750は残念ながら生産終了予定だ。


――今さらだが、「ナナハン」について改めて振り返ってみよう。
量産車として実質的に世界初の直4を搭載したCB750フォアこそ元祖ナナハン。ホンダ社内の開発コードネームが「ナナハン」という言葉の由来とされている。
以降、メーカー自主規制により国内モデルのバイクは750ccが上限に。そして1975年から、401cc以上のバイクに乗るには司法試験より難しいと言われた「限定解除」にパスする必要があった。
そのためナナハンは一種のステイタスで、オヤジライダーには思い出深い排気量だ。なお排気量の国内自主規制は1990年に撤廃され、以降は日本でも1000ccオーバーのバイクが発売されることになる。

SS譲りの心臓をストリート向けに磨き上げた

GSX-S750は、2015年に登場したGSX-S1000に次ぐシリーズ第2弾として2017年デビュー。
ベースとなったのは2011年に発売されたGSR750で、スーパースポーツである'05年型GSX-R750(K5)ベースの749cc直4ユニットを専用のスチールフレームに搭載していた。

GSX-S750の心臓部も同じく'05GSX-R750譲り。徹底的に実用域の出力特性を重視し、リセッティングされている。その結果、スペックは下記のとおりになった。

 GSX-R750 最高出力148ps/12800rpm 最大トルク8.8kg-m/10800rpm
 GSX-S750 最高出力112ps/10500rpm 最大トルク8.2kg-m/9000rpm

最高出力と最大トルクの発生回転数を落とし、中速トルクの厚いGSX-R750よりもさらにストリートでのトルクを充実。しかも排ガス規制のユーロ4(平成28年規制)をクリアしながら、GSR750の106psから6ps増としている。

車体では、GSR750で非装備だったラジアルマウントキャリパーを獲得したほか、ホイールとスイングアームが新作になった。

↑GSX-R750直系のパワフルな749cc水冷直4ユニットを公道向けにチューニング。3ピースクランクケースの各シリンダー下方にベンチレーションホールを追加し、出力アップと環境性能向上を達成。最終減速比をローギヤード化して加速性能をアップしつつ、6速ギヤをハイギヤード化し、最高速を維持している。

↑先代GSR750のシンプルな角スイングアームは不評だったが、GSX-S750ではデザインを注入した新設計に。

トラコンほか実用的な電子制御サポートも一挙に充実

さらに電子制御が大幅に充実した。3パターン+OFFから選べるトラクションコントロールに加え、ローRPMアシストを新採用。これは、発進時や低回転走行時にエンジン回転数をわずかに上げ、エンストしにくくするスズキならではの装備だ。

また、セルスイッチを押し続けなくてもワンプッシュで、エンジンの始動までスターターモーターを回転させるスズキイージースタートシステムも採用した。

↑GSR750ではアナログタコ+液晶メーターの組み合わせだったが、GSX-S750では全面液晶パネルに刷新した。


デザインに関してもGSX-Sシリーズらしくアップデート。獲物を狙う猛獣をイメージした低く構えたフォルムに筋肉質なボディライン、獣の牙を思わせるフロントマスクを獲得している。
なお、GSRはもともと海外での呼称がGSX-Sだったのだが、国内でもGSX-Sに統一されることになった。

↑前モデルのGSR750。エッジィなデザインを持つストリートファイターだった。

 

↑GSX-S750は、兄貴分のGSX-S1000と同様、「牙」をイメージしたポジションランプが特徴。

600よりパワフルで1000より扱いやすい!

走りは、まさに600ccと1000ccクラスのいいとこどり。中低速トルクが薄めの600より全域で力強く、リッターバイクに比べると断然スロットルを開けやすい。

ライダーの感性に訴える“サウンド”にも注目だ。GSX-S1000も同様だが、エアボックス吸気口の形状を最適化することで図太い吸気音を実現。積極的にライダーへ聞かせる構造と相まって、迫力は満点だ。そして高回転域まで回すと、いかにもインラインフォーらしい澄んだ音を奏でる。

212kgの車重とコンパクトな車体も600クラス並み。さらにスチール製ダイヤモンドフレームは、適度な剛性を備えつつ、シットリ感もあって乗りやすい。

さらに見逃せないのが価格。バイクが軒並み高価格化する中、100万円を切るプライスを実現している。GSX-S750は隙がなく、トータルバランスに優れた1台なのだ。

<まとめ>初代GS750以来、伝統のナナハン直4を買う最後のチャンスかも

スズキはナナハンにこだわってきたメーカーだ。
そもそも1985年の初代GSX-R750は、ビッグバイクにレーサーレプリカという概念を持ち込んだ革新的なマシンだった。世界初の油冷直4と先進のアルミフレームはライバルを圧倒し、世界のレースを席巻した。

やがてAMAスーパーバイクや世界耐久選手権で4ストロークは750cc4気筒が上限となり、'80年代後半からナナハンはレース直系のジャンルへと変わっていく。しかし、'04年にレギュレーションの変更で上限が1000ccに。レプリカ系ナナハンはほぼ絶滅に追い込まれた。

それでもスズキはGSX-R750の販売を継続。'01年に上級モデルのGSX-R1000が登場したにもかかわらず、兄弟車のGSX-R600とともにモデルチェンジをしながら投入し続けた。このR750も排ガス規制の影響で欧州仕様は2018年型がラストとなり、日本への逆輸入も終了している。

GSX-S750は、今やGSX-R750の血統を継ぐ唯一のマシンだったが、その血統もついに潰えることになる。初代GSX-R750から37年目、そしてスズキのナナハン直4としては1976年登場のGS750から数えて46年という長い歴史に幕を降ろすることになるのだ。

近頃は600ccにチョイ足しした排気量や、800cc程度のアッパーミドルが人気を獲得している。もはや750ccという排気量の縛りはなくなっており、今後ナナハンが復活する可能性は低いと思われる。伝説のスズキ直4ナナハンを新車で入手できるのは、今が最後のチャンスかもしれない……!

↑GSX-S750は発売以来、カラーチェンジのみでメカ的な変更はない。ファイナルモデルは用意されず、'21年型の青、グレー、黒が継続販売中だ。


2022年型 GSX-S750 ABS 主要諸元

・全長×全幅×全高:2125×785×1055mm
・ホイールベース:1455mm
・シート高:820mm
・車重:212kg
・エンジン:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 749cc
・内径×行程:72.0×46.0mm
・最高出力:112ps/10500rpm
・最大トルク:8.2kgf-m/9000rpm
・燃料タンク容量:16L
・変速機:6段リターン
・キャスター/トレール:25°/ 100mm
・ブレーキ:F=Wディスク R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17 R=180/55ZR17
・価格:98万7800円

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