ネットの発展によって個人間での中古車売買は今や一般的になった。だけど、異常を抱えた車両が多く出回り、トラブルも頻発しているのが現状だ。そこで、個人売買に警鐘を鳴らすことを目的にレッドバロンがメディア向けの試乗会を実施。その模様をレポートしよう。

取材協力:ヤングマシン

外見はピカピカの2台、でも1台の中身には不具合が!

現行ラインナップにはない魅力的&個性的なバイクが多い絶版中古車。だが、個人売買を中心に不具合のある車両が市場に流通している。そこで、個人売買にありがちな事例を再現したNG車と、レッドバロンの譲渡車検をクリアした正常車、16車種32台を乗り比べて、賢い中古車の選び方を知ってもらうことが当試乗会の趣旨だ。

会場の那須モータースポーツランドに集められた絶版中古車は、どれも一時代を築いた人気モデルばかり。年式も色も全く同じで、外観はどちらもピカピカ。外見からはどこにも異常を発見できなかった。

何か走りにくい! アライメントに異常が【'92ゼファー1100の事例】

まず乗り比べてみたのは'92年式のカワサキ・ゼファー1100だ。

ゼファー1100

↑伝統のスタイルを継承した空冷ネイキッドで、'91年にデビュー。'06年型で生産終了した以降も高い人気を誇る。適度なパワー感と扱いやすさがキモチイイ。

 

譲渡車検

↑正常車は、レッドバロンによる独自の厳しい安全基準『譲渡車検』をクリアした車両。安心して乗ることができる。


最初に乗った車両は、大らかなテイストながら、人車一体感と旧車らしいフィーリングが楽しい。ところがもう1台は、ブレーキレバーを握るとフニャフニャ! すぐ異常に気付いた。
異常の原因はフロントディスクの歪み。走り出すと、リヤブレーキのペダルからもキックバックがあり、リヤディスクの異常も発見できた。なお、ゼファー1100のディスクは、レッドバロンではオリジナルパーツを確保しているが、既に純正は廃番だ。

ブレーキ異常

↑フロントディスクの歪みは、目視ではわからなかった。この異常も動かしてみないと判別できない。なおローターは、ディスクロックやバーロックをウッカリ装着したまま発進して、曲がってしまうケースが多い。


それ以外は特におかしな点は感じなかったが、正常車と比べるとなんとなく曲がりにくい印象が。実はホイールアライメントが左に15mmもズレていた。気付きにくいが、違和感の原因となる重要なポイントで、もちろん目視では判断できない。


●「ホイールアライメント」とは?
後輪を基準としたフロントタイヤの並び具合がホイールアライメント。前後輪の中心が一直線に並んでいることが優良なバイクの条件の一つだ。ズレていると、真っ直ぐ走りにくく、ハンドルが勝手に切れたり、曲がりにくいなどの症状が。「乗っていて楽しくない」原因になりがちだ。中古車によくある異常ポイントで、フレームの歪みが原因の場合、修正は困難だ。

ステムのしめすぎでバンクできない! 【'99CBR900RRの事例】

続いて乗ったのは'99年式のホンダ・CBR900RRだ。
現代スーパースポーツの元祖であり、現代まで続く長寿シリーズのCBR-RR。'99年型は4代目で、今となってはかなりツアラー的な味わいが濃く感じられて新鮮だった。

CBR900RR

↑'98年に4代目(SC33)に進化。900RR第一世代の最終型で、キャブレター仕様の直4が128psを発生する。正立フォーク+F16インチモデルとしてもこれがラスト。


1台はコーナーでハンドルに舵角がつきにくく、倒し込みに抵抗がある。車体がバンクしにくいのだ。
原因はステムベアリングの締めすぎ。締め付けトルクはメーカーや車種ごとに細かく定められ、適正なデータを元に整備しないと走りに悪影響が出る。またリヤサス抜けの異常も乗りにくさに拍車をかけていた模様。これも乗り比べないとわかりにくかった。

↑ステムのしめすぎで、ハンドルが非常に重い。規定値で整備していないとこんな症状に。

 

↑リヤモノショックの部品代は1本5~6万円以上だが、年式の古い車両は既に廃番。また純正リヤサスは大抵、非分解式のため、オーバーホールも困難だ。

サスのオイル不足で動作がフニャフニャ【'12ニンジャ400Rの事例】

次は'12年式のカワサキ・ニンジャ400R SEに乗った。

↑街乗りからツーリングまでこなす万能ツインとして'10年にデビュー。600クラスの大柄なボディで所有感も抜群だ。'14年型でフルチェンジし、'18年に現行型へとバトンタッチした。



ライポジも出力特性も気軽な先代のニンジャ400。普通に乗れたが、1台はサスが柔らかめ。前後のピッチングが大きく、コーナリング中に車体が安定しなかった。
原因は前後サスのオイル量不足。フロントフォーク内のオイル量が少なく、空気室が大きいと、反発が弱まってしまい、減衰力が発揮できない。Fフォーク最上部から測定した「油面」が近頃のバイクでは重視されており、専用の油面ゲージを使ってミリ単位で細かく調整する必要があるのだ。
また、リヤサスはFフォークに比べてオイル量が少なく、オイル漏れが起きると簡単に抜け切ってしまうことも。完全に抜け切ると外観から判別できない。
こうした異常も乗り比べないと、「こんな特性なのかな」で済んでしまいそうだ。

↑前後のピッチングが大きく、フワフワして乗りにくい。路面の凹凸で衝撃を吸収しきれず、乗り心地も悪かった。なお、サスオイルの不足だけでなく、指定粘度以外のオイルを使った場合も同様の現象が起きる。

エンジン不調でパワーが出ない!【'86TZR250の事例】

次は、本格2ストレプリカ時代の幕を開けたヤマハの初代TZR250(1KT)の'86モデルに乗車した。

↑当時のレーサーと瓜二つの姿で'85年にデビュー。アルミフレーム+前後17インチの車体に45psの水冷パラツインという革新的な構成で一大ブームとなった。乾燥重量126kgの軽さや独特なサウンドが今なお魅力的。

 

超軽量な車体に、6000rpmを境に弾ける2ストらしいパワーがたまらない。NG車はこの炸裂感が乏しいが、それなりにパワーがあるので、2ストが初めての場合、違和感なく走れてしまいそう。
これは、チャンバーの詰まりが原因。2ストはガソリンとオイルの燃え残りがチャンバーに付着しやすく、パワー不足を引き起こす。薬剤で不純物の除去は可能だが、かなり高額となる。
また、法定車検のない250cc以下は、整備がおざなりにされがち。安価だったとしても購入の際は特に用心したい

↑チャンバーに不純物が詰まるとパワー不足の原因に。しかも除去のための薬剤は高額なので個人での対応は難しい。内部の状態まで判別できないので、ネットで中古チャンバーを買うのはバクチだ。

「正解」を知らないと、気付けない異常がある


今まで見てきたように、乗ればすぐに気付く異常もあれば、ホイールアライメント異常やサスのオイル不足、エンジンの吹け上がりが悪いなど、正常車という「正解」がなければ、判別が困難な異常も多かった。つまり乗り比べてみなければ「このバイクの特性なんだ」と思い込んでしまう可能性が高いのだ。

これらのNG車がもしネットでの通販やオークションに出品されていたら? と考えるとゾッとする。外見がピカピカで値段も手頃だったら、思わず注文したくなるのが人情だが、ネットではエンジン、フレーム、足まわりなどの「中身」の状態を把握できない。買い手には、出品者の説明文や画像しか判断材料がないのだ。

購入後に不具合があっても、ネット販売では「ノークレーム、ノーリターン」が原則。当然、買う前に試乗したり、正常な車両と乗り比べればわかる「正解」を知る術もない。そのままNG車をつかまされ、気付かず、あるいは仕方なく乗り続ける事例も多いハズだ。
どこかで修理できたとしても、安く買ったのに結局、出費が高額になったり、最悪、事故を引き起こすケースもありえる。これは実に悲しい事態だ。

後編に続く。

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