押しも押されもせぬ世界最速車でありながら日本のせせこましい市街地&峠道も自由自在に走れ、カーチャンから頼まれた段ボール箱を郵便局まで運ぶお遣いすら鼻歌交じりで完遂できた偉大なるフラッグシップ「ZZR1100」。かくいう公道での万能性を「ZZR1400」で再び取り戻すため、カワサキ開発陣は最新技術を全投入してトライ&エラーを繰り返していったのです!

●組み立てやすくクオリティもメチャクチャ高いことで定評あるタミヤのプラモデル。1/12 オートバイシリーズ No.111として「カワサキ ZZR1400」が2008年5月31日に発売されました。嬉しいことに現在でもタミヤショップオンラインにてしっかり販売継続中(2025年5月14日現在、在庫あり)。アルミモノコックフレームや燃料タンクの独特な形状や190馬力(ラムエア加圧時は200馬力!)を発揮する超強力エンジンの外観、おどろおどろしいフロントフェイスなども精緻に再現されておりますので楽しく作りながら秀逸な構造をメキメキ勉強できますよ!
Ninja ZX-14Rという最強旗艦【その5】は今しばらくお待ちください m(_ _)m
Contents
現在の「Ninja ZX-14R」へつながる最強メカニズムが約20年前に完成!
「ZZRは世界最高の能力を備えていながら、オールマイティなところが高次元でバランスされていなければならない……」(八重洲出版 別冊モーターサイクリスト 2012年3月号『Ninja ZX-14R開発者インタビュー』より抜粋)。

●はい、というわけで北米では2025年モデルが絶賛発売中の「Ninja ZX-14R」。こちらの技術的なルーツたる存在が2006年に登場した「ZZR1400(北米名:Ninja ZX-14)」なのですね。2012年に大幅な改良が施された(同時に北米名が「Ninja ZX-14R」へ。「ZZR1400」はそのまま)とはいえアルミモノコックフレームも至高の大排気量自然吸気並列4気筒エンジンも(魑魅魍魎スタイリングだって)踏襲しつつ約20年間、第一線で現役続行中……。正式な日本仕様としてまた買えるようにならないかなぁ〜と密かに願っております
コチラ、口で言うのは簡単ですが、生半可なことで実現できる目標でないことは明らか。
最強であるためには最大のライバル、スズキ「ハヤブサ」を凌駕する200馬力クラスのエンジンが必要不可欠であり、かくいう強大(当然重たくなりがち)なパワーユニットを抱きかかえながら299㎞/h巡航時でも乗り手へ絶大なる安心感を与える車体でなくてはなりません。

●「ZZR1400(北米名:Ninja ZX-14)」が登場した2年後の2008年。排気量を初代の1298㏄から1339㏄まで拡大して最高出力を175馬力→197馬力(ラムエア加圧時は未発表)とした2代目「ハヤブサ」が鮮烈デビュー! まさにメガスポーツ市場でカワサキとスズキは竜虎の闘いを繰り広げ、燃え上がる人気を二分したものです
ワープよろしく遠く離れた目的地まで一気に到達するため燃料タンク容量だって20ℓ以上は確保したいところ(ちなみに一般的な灯油18ℓポリタンクがアノ大きさですからね〜(^^ゞ)。

●昔から不思議なんですが、クソ重く感じるポリタンクいっぱいの量より多いガソリンをZZRやハヤブサは車両内部へ飲み込んでいるということ。それでもタップンタップンしないで、なおかつあの運動性能って……!?
その他、ABS装着への気運が高まったり、目標数値が厳しくなるばかりな騒音&排ガス規制などなど、「ZZR1100」が登場した1990年当時とは異なりあらゆる意味でメンドクサイ(!?)制約が増えていった2000年代中盤……。

●2014年型カワサキ「Ninja ZX-14R」カタログより。このころはまだノンABSの200馬力バイクも存在したのですね……(忘れてました(^^ゞ)。なお、欧州では2016年から新型のバイクにABSの装着が義務化され、2017年からは継続生産車にも適用。日本でも2018年10月以降に生産された新型車、2021年10月以降に生産された継続生産車にABSの装着が義務化されました。結構なスペースを取る(当時はまだ)重たいABSユニットと複雑化するブレーキフルード配管を後付けするのは現実的でないため、装着を前提とした設計が行われ「ノンABSも選べるよ!」とするのが一般的だったのです。まぁ、高価でもともと重いビッグバイク界隈では最初からABS付きを選ぶ人が多かったようですけれど、250のスポーツバイクなんかだと約3〜5㎏の軽さと数万円の安さという違いは大きく「ABS付きにするか、ノンABSにするか、それが問題だ!」とハムレットのように悩むヤングライダーが多かった印象があります
見慣れない箱状のアルミフレームを採用し、万能性を模索してゆく!
しかしながらカワサキ開発陣は秒針分歩な技術進化を味方としつつ、物理法則に極めて忠実な車体レイアウトを構築していきます。

●「ZZR1400」のストリップモデル広報写真……。1985年にモーターサイクリスト誌でヤマハ「TZR250」の外装を取っ払ってアルミデルタボックスフレームがド〜ン!というカットを見たとき以来の衝撃を感じましたね〜。ライバルとなるスズキ「ハヤブサ」が非常にオーソドックスなアルミニウム製ツインスパー(※)フレームを採用し続けているだけに(そのことを解説している良記事はコチラ)、メーカーによる考え方と技術アプローチの違いには震えるほど感動したものです ※=主要な構造がステアリングの軸部(ステアリングヘッド)とスイングアームの付け根を結ぶように渡された2本の桁(spar)で構成されているものを指します
そのコアとなる存在が独創性にあふれたアルミモノコックフレームでした。

●ふなっしーだかザラブ星人だかが背面で笑っているような「ZZR1400」のアルミニウム製モノコックフレーム。上部にはエアクリーナーボックス、中央部の空間にはバッテリーとABSユニットが収められており「重たいモノを車両の重心点へトコトン近づけて配置する」というマスの集中化セオリーを忠実に則る工夫が満載!
古くは1980年から世界GP500㏄クラスへ登場した「KR500」に端を発し、1993年に行われた「ZZR1100」のC型→D型へのモデルチェンジ時にも採用が検討されたというアルミモノコックフレーム。
12Rのネガティブだったポイントを洗い出して徹底的に改良!
当時主流だったキャブレターとは整備性などの点で相性が悪いため導入は見送られたそうですけれど、FI(フューエルインジェクション)を引っさげ2000年にデビューした「Ninja ZX-12R」では晴れて市販車初という称号とともにカワサキ謹製アルミモノコックフレームはお披露目されました。

●「Ninja ZX-12R」の技術解説写真。車両前面に設けられたダクトからアルミモノコックフレーム内に設置されたエアクリーナーエレメントへと走行風がスムーズに導入されていることが分かりますね。そこからインジェクターへ加圧された空気が送り込まれ燃焼室へバシバシ適切な混合気を供給……。そうすることで速度を上げれば上げるほどモリモリモリッ!と強烈なパワーが生み出されていったわけですな。あ、燃料タンクの形状にもご注目ください〜
ただし、その12R(特に初期型)はあまりにも300㎞/hオーバーの世界へ照準を合わせすぎてしまったせいで、「車体がガッチガチで扱いづらい」との評価が噴出。

●デビュー当時の2000年型「Ninja ZX-12R」
転じて「乗りづらいのはアルミモノコックフレームのせいだ~ッ」という悪しき風評までなんとなくライダーの間で広がってしまった……という、ちょいと悲しむべき状況に陥ったことを覚えております。

●最終型となった2006年モデルの「Ninja ZX-12R」。上の初期型と見比べていただくと分かると思いますけれど、いやもうベツモンでしょ!? 知り合いの先輩バイクジャーナリストも「あらゆる部分が見直されて、めちゃくちゃ乗りやすくなってる。ブレーキも(2004年モデルから)ラジアルマウント化されているしトータルの完成度がものすごく高まったよ!」と超絶賛。最後まで改良の手を緩めない開発陣の意地を感じましたね……
メガスポーツを取り巻く環境の変化も見越した奥深い技術の練り込み
駄菓子菓子!
独創的な骨格の可能性をブレることなく信じ続けたヘヴィメタルな(?)川崎重工業の技術者集団は最強を目指す「ZZR1400(北米名:Ninja ZX-14)」に、「ZX-10」~「ZZR1100」~「ZZR1200」まで使われてきたアルミツインスパー+スチールダウンチューブフレームではなく「Ninja ZX-12R」のアルミモノコックフレーム(改良版)をチョイス!

●アルミモノコックフレームにピッタリ寄り添う「ZZR1400」の燃料タンク。給油口こそ普通の場所(!?)にありますので、あまり意識しないのですけれどスゥ〜ッと下方へ展開してシートの下へ潜り込み、リヤフレームの内側でさらに容量を稼ぐという複雑怪奇な形状……。そりゃぁ低重心化に大きく寄与しますよね。19ℓだった12Rより3ℓも多い22ℓというガソリン容量を確保しております
バージョンアップした鋳造技術を駆使することで最適な肉厚や形状を実現し、軽量化だけでなくしなやかな剛性感の獲得までを両立させたのです。

●2008年型「ZZR1400」カタログより図版抜粋。『「Ninja ZX-12R」開発時は高速周回路やサーキットでのテストが大きな割合を占めていたのですけれど、「ZZR1400」では市街地や峠道……つまりは公道での走行を模した試験を執拗なくらい行いました。もちろんオーバルコースやサーキットで限界性能の確認はしましたが、メインとなる判断基準はあくまで普段使いでの扱いやすさ。「ZZR1100」で得ていた知見が大いに役立ちましたね』とは関係者談
フランス語で「ひとつの貝殻」を意味する「monocoque」に由来し、骨組みではなく外皮(パネル)自体で強さを得ている構造ゆえ、フレームの内側がエアクリーナーボックスを兼ねる(バッテリーとABSユニットを収納するボックスまで設定)という、カワサキ独創のアルミモノコックフレームが実現したスペース効率の高さよ~。

●ちなみにこちらは2012年に登場した「Ninja ZX-14R(欧州名:「ZZR1400」)のアルミモノコックフレーム。実はモデルチェンジを機にさらなる改良が施されているのですね〜。そのあたりの話はまた改めて…… m(_ _)m
そのフレームの背中へ沿うようにドカンと下がり(?)シート下までつながっている特異な形状の燃料タンクも、低重心化やマス集中化へ大きく貢献しました。

●燃料タンクの形状や空気の流れがよくわかるカットモデル。年度が進んでいくごとに、排ガスを浄化する触媒の位置と量や騒音を抑えるサイレンサー形状が変化していくのですが、このあたりの話もまた改めて…… m(_ _)m
結果、「ZZR1400」は見る者を圧倒する巨体でありながら、いざ停車中の車体を引き起こしたり押し歩いたりするとき想像以上の軽さがあることに誰しもが驚くはずです(少なくとも筆者は大感動しましたヨ)!
では次回、いよいよ最強を目指したエンジンについて、お話してまいりましょう~!

●2008年型「ZZR1400」のメーター。そこにもう300という文字はないのですが目盛りはしっかり刻まれておりました……
あ、というわけで歴代カワサキ☆フラッグシップはどれも得難い個性のカタマリ。たとえ1980年代の車両でも『5つ星品質』な中古車ならレッドバロンが蓄積してきた膨大な部品群とノウハウでアナタを強力にサポートしてくれます。まずはお近くのお店で在庫チェックを!
Ninja ZX-14Rという最強旗艦【その5】は今しばらくお待ちください m(_ _)m