由緒正しき名門はまだある!

 カワサキには“Z”や“ニンジャ”、“マッハ”や“W”など名だたるブランドがありますが、「カワサキトレール“TR”シリーズ」はご存知でしょうか。

カワサキ 250TR(2002年)

▲カワサキ 250TR(2002年)画像提供:カワサキモータースジャパン

 カワサキ“TR”といえば、新しいところでは2002年から2013年まで販売された『250TR』があります。ヤマハ『TW200』やホンダ『FTR』、スズキ『グラストラッカー』といった“ストリートトラッカー”が人気となった時代に『250TR』は、『エストレヤ』の空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒エンジンを積み、登場したのでした。

心臓部はエストレヤの直立単気筒

『エストレヤ』は1992年に発売され、2017年まで20年以上にもわたるロングセラーモデル。車体のシルエットは、1950年代のメグロ・ジュニアをほうふつとさせるもので、クラシカルな雰囲気による独特の佇まいが人気です。

カワサキ エストレヤ

▲ESTRELLA-RS(2002年式)エボニーXキャンディパーシモンレッド。画像提供:カワサキモータースジャパン

 そんな旧き良き時代の”オートバイ然”としたスタイルで、ビンテージ・オフロードテイストに仕上げられたストリートバイクが『250TR』。小振りながらロングタンクで、フェンダーはアップタイプ。クロススポーク仕様のホイールには、セミブロックタイヤが履かされていました。

シリンダーヘッドに内蔵したカムチェーンテンショナーやクラッチ前方に収めたオイルフィルターなどにより、スッキリとしたスタイルを実現した『カワサキ250TR』。クランクケースをコンパクトに見せ、シリンダーの大きさを際立たせています。容量7リットルの小ぶりな燃料タンクには、フライングKマークが鮮やかなライムグリーンを採用しました。

▲シリンダーヘッドに内蔵したカムチェーンテンショナーやクラッチ前方に収めたオイルフィルターなどにより、スッキリとしたスタイルを実現した『カワサキ250TR』。クランクケースをコンパクトに見せ、シリンダーの大きさを際立たせています。容量7リットルの小ぶりな燃料タンクには、フライングKマークが鮮やかなライムグリーンを採用しました。画像提供:カワサキモータースジャパン

ライバルはあのヤマハDT-1

『250TR』が登場するとき、あまり話題になりませんでしたが、じつはルーツがあるのです。それが70年代の「カワサキトレール“TR”シリーズ」。ラインナップは『350TR ビッグホーン』を長兄に、『250TR バイソン』、『125TR ボブキャット』『90TR トレールボス』という布陣となっていました。


 カワサキトレール“TR”シリーズの歴史は、ヤマハ『DT-1』と同じ1968年にデビューした『250F4 サイドワインダー』をルーツにします。排気量238ccの2サイクル・ロータリーバルブエンジンを搭載。翌69年に『350TR ビッグホーン』がアメリカでデビューしたこともあり、非常に短命で終わったモデルでした。

 シリーズの最上級モデル『350TR ビッグホーン』は、ボア・ストローク:80.5×68.0mmで、排気量は346cc。CDI点火で、最高出力33馬力を発揮。モトクロスレースのために用意されたチューニングキットを組み込めば、45馬力も実現しました。

価格的にも魅力だったカワサキトレール

 1970年当時、国内仕様の車体価格は『90TR トレールボス』が9万4000円、『125TR ボブキャット』は15万3000円、『250TR バイソン』が19万5000円、そして最上級モデルの『350TR ビッグホーン』は22万5000円でした。

■国内仕様の車体価格
90TR TRAIL BOSS/トレールボス:9万4000円
125TR BOBCAT/ボブキャット:15万3000円
250TR BISON/バイソン:19万5000円
350TR BIGHORN/ビッグホーン:22万5000円
500SS マッハⅢ:29万8000円
650W1S:33万8000円
ドリームCB750FOUR K1:38万5000円

超レア! 間近で見るのは初めて

 かなりレアな「カワサキトレール“TR”シリーズ」ですが、『125TR ボブキャット』を撮影させていただき、走行シーンも動画にて収録することができました。

125TR ボブキャット『125TR ボブキャット』が搭載する空冷2サイクル単気筒エンジンは、ボア52mm×ストローク58.8mmのロングストローク設計で、排気量は124cc。

125TR ボブキャット  
 前後ホイールは18インチで、フロントフォークはストローク145mm、リヤのホイールトラベルは90mmと、足回りが充実していました。


 オーナーに話を聞くと、パーツはもちろん入手困難ですが、同時期のモデルと共通部品もあり流用できるものもあるのだとか。外装に使われるデカールなどは、海外でリプロダクトされているものを取り寄せるそうです。消耗パーツが多い2サイクルエンジンですから、好調を維持して乗り続けるのはタイヘンなことでしょう。

昔は珍しくなかったツインプラグ方式

 いろいろと教えていただきましたが、「へぇー!」と思わず唸りたくなるのが“ツインプラグ方式”。1つの燃焼室に2本のプラグを採用し、点火効率を高めるのは現代も珍しくありませんが、『125TR ボブキャット』では1つのプラグにのみプラグコードをつなげ点火させ、1本は予備としているのです。

125TR ボブキャット

▲1つのシリンダーに2つのスパークプラグを備えていますが、プラグコードがつながっているのは写真手前のみ。奥はすぐに利用できる予備として機能します。

 スパークプラグがカブったり、番手を換えたいときなどにプラグコードをさしかえてすぐに使えるというもの。面白いですよね〜、当時は珍しくなかったそうです。

 発売当時から、いろいろなことをよ〜く知るオーナーたちに詳しく解説していただきましたので、ご興味のある人はぜひ動画もご覧ください! カワサキ伝統の2ストローク・ロータリーバルブエンジンのサウンドも収録しました

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