2000年に登場した世界最速挑戦マシン「Ninja ZX-12R」の開発時や発売後に得た貴重な知見を生かしながら排気量を153㏄も拡大し、コンパクトさや扱いやすさなどへ徹底的にこだわった「ZZR1400(北米名:Ninja ZX-14)」の並列4気筒エンジン(2006年デビュー)。最高出力190馬力ラムエア加圧時200馬力という実力はダテではなかった!

ZX-14R_2025

●現状、日本では購入できないものの北米では2025年モデルがいまだ現役なカワサキの大排気量自然吸気フラッグシップ「Ninja ZX-14R」。シャシーもエンジンもこの車両の直接的な礎となったのが2006年に登場した「ZZR1400(北米名:Ninja ZX-14)」だったのです。なお写真の最新「Ninja ZX-14R」、ウェブサイトに掲載されている1万7599ドルを6月初旬の為替レートで超単純計算すると約250万円国内仕様が絶賛発売中のスズキ「ハヤブサ」223万3000円(レギュラーカラー。受注生産のカラーオーダープランは228万8000円)なので……妄想が広がります(^^ゞ

 

 

Ninja ZX-14Rという最強旗艦【その4】はコチラ!

 

Ninja ZX-14Rという最強旗艦【その6】は今しばらくお待ちください m(_ _)m

ここで水冷カワサキフラッグシップを一気に紹介してみると……

 

 

常に世界最速であることを運命づけられた川崎重工業謹製の旗艦群

 

 

水冷化された908㏄エンジンを積んだ初代ニンジャこと1984年登場の「GPZ900R(北米名:Ninja900、もしくはNinja)は最高出力115馬力/9500rpm、最大トルク8.7kgm/8500rpmを発揮(乾燥重量228㎏ ※以下、欧州フルパワー仕様の数値を記載)し、250㎞/hの最高速度を標榜

GPZ900R_1984

●空冷最後の頂点モデル「GPz1100」(1983年登場)では1089㏄まで拡大された排気量で120馬力を絞り出したDOHC2バルブのパワーユニット。そこから決別して完全新設計の908㏄水冷DOHC4バルブエンジンを鉄製ダイヤモンドフレームに搭載して姿を現した「GPZ900R」。世界最速の座こそ以下で紹介する後進たちへ譲るものの、スタイリングと走行バランスの良さやトップガン効果(!?)などで長寿モデル化……。数々のアップデートを受けつつなんと丸20年間、2003年型まで販売が継続されたという怪物バイクとなりました。中古車もまだまだ豊富ですよ〜

 

 

1986年デビューの「GPZ1000RX(北米名:Ninja1000R)」は997㏄となったエンジンが最高出力125馬力/9500rpm、最大トルク10.1kgm/8500rpmというパフォーマンス(乾燥重量238㎏)を誇り、最高速度は260㎞/h台へ。

GPZ1000RX

●ニンジャ由来のサイドカムチェーン水冷並列4気筒エンジンを積むフレームは鉄製ダブルクレードルタイプとなり、前後16インチタイヤというのも時代ですね〜。フロントフェイスはまんま「GPZ400R」(←1985年に登場しレーサーレプリカ全盛期に400㏄クラスのベストセラーを2年連続で獲得!)を彷彿とさせるもので、全体的に武骨さあふれるスタイリングがやたらカッコよく見えたものです。それでいて格納式荷掛けフックも装備ィ!

 

 

そしてこれまた2年後の1988年には排気量はそのままアルミツインスパー+スチールダウンチューブフレームを採用した「ZX-10(北米名:Ninja ZX-10)」が生み出され、最高出力は137馬力/10000rpmに向上(最大トルクも10.5kgm/9000rpmへ)。乾燥重量も16㎏軽くなって222㎏を実現! 最高速度は270㎞/hオーバーとも。

ZX-10

ラムエア機構こそ採用されなかったもののキャブレターの吸気方法を従来のサイドドラフトからダウンドラフトに変更。その他エンジン内部も数多く変更を受けて「GPZ1000RX」と排気量は同じなのに12馬力もパワーアップ〜! 革新の「e-BOX FRAME」はフレーム単体だけでRX比4.5kgもの軽量化を実現しつつ、超高速レンジまで対応する高剛性な偏平ラジアルタイヤ(フロント17インチ、リア18インチ)の性能をしっかりと受け止めました

 

メガスポーツの頂点かつ代名詞として長らく君臨した「ZZR1100」!

 

そしてそしてまたまた2年後の1990年、排気量が1052㏄となり最高出力はさらに10馬力アップの147馬力/10500rpm! 最大トルクも11.2kgm/8500rpmへと向上した「ZZR1100(北米名:Ninja ZX-11)〈C型〉」がついに降臨……。

 

 

乾燥重量は従来型比で6㎏増えて228㎏になったものの、より洗練されたエアロダイナミクス性能と新規採用されたラムエアシステムがそれまでとはレベルの違う高速域での性能を実現し、何も手を加えない公道仕様でも280㎞/h超ゼロヨン10.25秒が出ると話題になりました。

ZZ-R1100_1990

●ナウなヤングたちよ! この当時ビッグバイク免許は教習所なんぞで買え……いや取得できず、各県に1〜数カ所ずつしかない運転免許試験場で試験官たちのプレッシャーに打ち克ち限定解除をしなくてはならなかったのだよ! さらには日本製なのに排気量750㏄以上のバイクはほぼ逆輸入車という方式でしか購入できなかった時代。そんな逆風をものともせず口コミで実力が広まった「ZZR1100」は一時期プレミアが付くほどの異常人気に。100万円そこそこだった価格が180万円近くになった……という伝説が残っているほど!

八重洲出版記事ZZR

●八重洲出版 モーターサイクリスト 1990年8月号より。GoProどころかデジタルカメラすら影も形もなかったころデスヨ〜。谷田部テストコース(正式名称:日本自動車研究所JARI〉の高速周回路)にて「ZZR1100」を駆りメーター読み300㎞/h超え(実測値は290.50㎞/h)で全開走行中にライダー自身がタンクの上に設置したフィルムカメラのシャッターを押す!! 冗談抜きに命がけの取材でしたが、この記事が「ZZR1100」人気を爆発させたと言っても過言ではないでしょう!

 

 

イヤハヤこうして駈け足で振り返ってみても、とんでもなく熱かった時代を感じるものですね。

 

 

押しも押されもしない孤高の最速マシンという地位を確立した「ZZR1100」は1993年に〈D型〉へと洗練型のビッグマイナーチェンジが行われ、エンジンの排気量も性能数値も変更はなかったものの最終型となる2001年モデルまで根強い人気を誇り続けました。

ZZR1100D

●最高出力147馬力/10500rpm、最大トルク11.2kgm/8500rpmとスペック上の数値こそ変わらないものの、ツインラムエアシステムを採用しつつキャブセッティングを煮詰めたことで、さらに意のままにハイパワーを使いこなせるようになった「ZZR1100〈D型〉」。なお、車体各部を見直して剛性感をアップさせたことで乾燥重量は233㎏へ。また、燃料タンク容量が従来型の21ℓから24ℓになったこともトピックでしたね

 

実測300㎞/hを突破した強敵(と書いて「とも」と呼ぶ)にペースを乱され!?

 

そう、1999年に突然登場したスズキ「GSX1300R ハヤブサ」が奪った世界最速の座を再び奪取すべく、

1999_GSX1300Rハヤブサ

●海外バイク誌(紙)の最高速テストで実測300㎞/hオーバーを何度となく記録! 水冷カワサキフラッグシップにおいて不倶戴天の敵……いや、最大の好敵手となったスズキ「GSX1300R ハヤブサ」は1999年に登場(有機的なスタイリングはもちろん、このカラーリングも衝撃的ィ〜ッ)!! 心臓は1298ccの水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンで最高出力175馬力/9800rpm。最大トルクは14.1kgm/7000rpm。シート高805㎜、乾燥重量215㎏、燃料タンク容量は22ℓ。メカニズム的には非常にオーソドックスな構成でした

 

 

突貫で作られた(?)「Ninja ZX-12R」が2000年デビューでしたので、2年ほど12R「ZZR1100〈D型〉」は併売されていたのです。

ZX-12R

新開発された1199㏄の水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力178馬力/10500rpm、最大トルク13.9㎏m/7500rpmを発揮。シート高810㎜、乾燥重量210㎏、燃料タンク容量は20ℓ。写真の初代「Ninja ZX-12R」はなんと350㎞/hまで目盛りが刻まれたスピードメーターを装備しており、非公式ながら実測320㎞/hを超える実力があったとされるものの直接対決では奮わず……。翌2001年から欧州で始まった「299㎞/hスピードリミッター」という自主規制によって(冗談みたいですがホントの話)、さらなる最高速追求の道は閉ざされることとなりました

 

 

2002年には「ZZR1200」が導入され、カワサキは2台のフラッグシップモデルが並び立つという不思議な時代がしばらく続きましたが、

ZZR1200

●FI(フューエルインジェクション)を採用した「Ninja ZX-12R」とは異なり、燃料供給装置がキャブレターのまま「ZZR1100」から徹底した熟成&正常進化を遂げた「ZZR1200」。1164㏄の水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力155馬力/9800rpm、最大トルク12.7kgm/8200rpm(MA仕様)。フレームも1100からの流用ではなく専用設計品なのですよ! シート高800㎜、乾燥重量236㎏、燃料タンク容量は23ℓとツアラー寄りのコンセプトがスペックからも読み取れます

 

 

そんな混迷の時代(?)から抜け出し、再び1台の頂点モデルとして生み出されたのが2006年デビューの「ZZR1400(北米名:Ninja ZX-14)だった……とは、これまでもしつこく述べてきたとおり。

ZZR1400_2006

●ライバル(初代ハヤブサ)より53㏄多い1352㏄となった排気量の水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンはEU・US仕様で最高出力190馬力/9500rpm(ラムエア加圧時200馬力/9500rpm)、最大トルク15.7kgm/7500rpmというハイパフォーマンスぶり! シート高800㎜、乾燥重量215(ABS仕様は218)㎏、燃料タンク容量22ℓ。なお、モーターサイクリスト編集部員時代に「ZZR1400……、そうだ1400㎞を一気に走って北海道まで行くというのはどうでしょう?」という企画が案外サクッと通ってしまい、ヒーコラしながら取材してページを作ったっけなぁ(遠い目)

 

 

扱いやすい無敵のエンジン(!)を目指してテストと検証を繰り返し……

 

そのパワーユニットは「Ninja ZX-12R」だけでなく「ZZR1200」の開発でも得た知見をベースに完全新設計されたもので、排気量は1199㏄から153㏄もアップされ1352㏄へ

ZX-12Rエンジン外観

●ハイ、こちらが「Ninja ZX-12R」のエンジンですね。4つのピストンが収まる筒の内径(シリンダーボア)は83.0㎜で、ピストンが上下する行程(ピストンストローク)が55.4㎜というビッグバイクとしては異例なほどショートストローク……高回転高出力方向へ振られた設計でした(ちなみに「ZZR1100」は1052㏄で76㎜・58㎜。スズキの初代「ハヤブサ」は1298㏄で81㎜・63㎜)。「ラムエア加給の恩恵も少ない低速域ではトルクが薄くて乗りづらい……」という評価も雑誌やネットで散見された記憶が残っています

 

 

刷新にあたり低回転域から豊かなトルクを引き出しやすいロングストローク化を導入しながら、軽量かつコンパクトさも徹底的に追求……

 

 

2004年にデビューした「Ninja ZX-10R」と同じ傾斜鋳造法によるシリンダーとクランクケースの一体成型を採用し、クランクシャフト(ピストン運動を回転運動へ変える)、インプットシャフト(クラッチディスクと変速機をつなぐ)、アウトプットシャフト(スプロケットを回す)という各シャフトの3軸を三角形に配置することなどを駆使して、「ZZR1400」は排気量を150㏄以上増やしながら「Ninja ZX-12R」とほぼ同じエンジン幅を実現したのです。

ZZR1400エンジン外観

●「ZZR1400」のエンジンは「Ninja ZX-12R」比でボアが1㎜増の84㎜、ストロークは5.6㎜も増えて61㎜へ……。さらにFIのスロットル径も12Rのφ46㎜に対してφ44㎜と小径化され、扱いやすさ重視の特性が与えられました

 

 

さらに2軸2次バランサーの採用で不快な振動を大幅に削減(「Ninja ZX-12R」は1軸2次バランサー)することにより、前回紹介した特徴的なアルミモノコックフレームへエンジンをリジッドマウントすることができ、シャシー全体の剛性バランスも最適化することができたのです。

二軸二次バランサー_ZZR1400

●「ZZR1400」の2軸2次バランサー。クランクシャフトの前後に2つのバランサーがあります。これらがそれぞれクランク回転の2倍の速度で回転することにより、クランクが1回転するごとに2回発生する振動=「2次振動」を打ち消すことができるというカラクリ……。当然ある程度のパワーは食われてしまうのですけれど、よりシルキーな吹け上がりを実現できるのです

ZX-12Rエンジン透視図

●これは再び「Ninja ZX-12R」のエンジン透視図。クランクシャフトの前方に1つだけ設定された1軸2次バランサーが見えますね。2軸よりエンジン振動抑制効果は薄れますがパワーロスは少ない……。結局は何を求めるかによって付加物も変わってくるのです。ちなみにホンダ「CBR1100XX スーパーブラックバード」は2軸2次バランサー、スズキ「GSX1300R ハヤブサ」は1軸2次バランサーとなっています

 

 

……とまぁ、「ZZR1400」のパワーユニットが当時の川崎重工業が誇る最新技術の結晶であることは間違いないのですけれど、いざ実際に走らせてみて驚いたのが人当たりの良さです。

 

扱いやすい無敵のエンジン(!)を目指してテストと検証を繰り返し……

 

ヌメヌメの巨体に圧倒されながら意を決して跨がってみるとアレ?意外と足着き性もいい(シート高は12Rから10㎜低くなった800㎜)。

 

 

サイドスタンドを払おうと車体を直立させるときビックリするほどの軽やかさ

 

 

嬉しくなって走り出せば、なんとまぁスロットル操作へ俊敏かつ従順に反応してくれるエンジンであることか~。

猛獣つかい

●乗り手はまさに猛獣使い気分。ムチ(スロットル)をふるえば意のままに獰猛なパワーを引き出せるのですから……

 

 

非常に良くできたキャブレター車……そうまさに「ZZR1100」を彷彿させるスロットル操作へのリニアな反応っぷりでありながら全域で一枚、いや三枚は上手な力強さを発揮してくれるのですから感動しないはずがございません

 

 

後日開発者に聞けば「はい、FIの制御は徹底的に練り込みました。全開にすれば一気に299㎞/hまで到達するのは当然として、より重点を置いたのは一般道での扱いやすさです」

雨の一般道

●たとえ大雨の降る市街地でも気軽に走らせることができる190馬力マシンが目標……。考えてみればあの頃はパワーモードトラクションコントロールもなかったのですからね(汗)

 

 

コンピュータによる演算や風洞実験、シャシーダイナモ上の計測だけでなく、テストライダーが延々と多種多様なコースを走り込んでは微調整を繰り返していったのだとか。

 

 

特に走行風を混合気の加圧に利用するラムエアシステムは一筋縄ではいかない(空気を扱う流体力学はメチャクチャ難しい)ため、あらゆる状況下での泥臭いトライ&エラー不可欠……。

ZZR1100D

●図版は「ZZR1100〈D型〉」のもの。走行風の吸入口が1つだったC型から進化して2つとなり147馬力というスペック上の数値こそ変わらないものの、D型は扱いやすさや力感が大幅に向上しました。なお、当時の燃料供給装置はFIではなくキャブレター。新気の流入圧だけが高まるとガソリンがうまく吹かれなくなるためキャブレターのフロート室にもラム圧をかけて(吸入ダクトをのぞき込むと網目の奥に見える細い筒……正式名称エアーベントパイプを活用し)ガソリン噴出量を最適化! かくいうノウハウの蓄積がFI採用車にも活かされたのです

 

 

かくして初代「ハヤブサ」(175馬力)を大きく凌駕する190馬力(ラムエア加圧時200馬力)エンジンは誕生しました。

 

 

しかし、ライバルも手をこまねいてはいないわけで……。

ハヤブサ_2008

●2008年に2代目となったスズキ「ハヤブサ」は、排気量を1298ccから1340ccに拡大して最高出力を197馬力まで増大。仁義なきメガスポーツ頂点バトルはますますヒートアップしていきます……!

 

 

次回は、2000年代後半に巻き起こったKSメガスポーツ頂上決戦について寄り道しつつお話してまいりましょう~! 

1400GTR

●「ZZR1400」のエンジンやフレームなどをうまく活用したツアラー「1400GTR」についても触れますよ!

 

 

あ、というわけで歴代の水冷カワサキ☆フラッグシップはどれも魅力的な存在。当時抱いた夢を今こそ叶えるときかもしれません! 『5つ星品質』な中古車ならレッドバロンが保有する膨大なパーツとノウハウでアナタを強力にサポート。まずはお近くのお店で在庫を確認してみてください~。

 

 

Ninja ZX-14Rという最強旗艦【その6】は今しばらくお待ちください m(_ _)m

 

Ninja ZX-14Rという最強旗艦【その4】はコチラ!

 

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事