空前のバイクブーム末期かつ日本のバブル経済爛熟期という奇跡的な時代背景もあり、レーサーレプリカ(派生)モデルでもないのにアルミフレームや凝ったカウリング造形、余裕ある足まわりなどを獲得して登場したZZ-Rシリーズの末弟。孤高の250ツアラーとして堂々のロングセラーとなり、あの超有名な次世代スポーツへとバトンを引き継ぎます!

ZZ-R250という小粋な相棒【中編】はコチラ

1995年ZZR250カタログ

●1995年型のZZ-R250カタログより。筆で書いたような力強い「ZZR」ロゴがサイドカウルに躍るのはこの年式のみ! もう四半世紀+2年前のこととなる同年は地下鉄サリン事件があった年でもありました (ついでに書けば『新世紀エヴァンゲリオン』の放送開始も……)

 

“いつだって十数年は早い”スズキからライバルモデルが!?

ZZ-R250を語る上で、やはりこのモデルを取り上げないわけにはいかない(!?)でしょう。

まさしくZZ-R250が登場した1990年3月、同じタイミングでデビューしたスズキの“アーバンスポーツマシン”が「ACROSS(アクロス)」でした。

スズキ アクロス

●今回改めて写真を眺めて驚いたのですが、ヘッドライト下に2つの穴が設定されている点はZZ-R250ソックリ! みんな大好き(かさばる)並列4気筒エンジンを搭載しつつ、驚きの収納システムまで導入しながら整ったプロポーションに仕上がっているのは本当にスゴイこと。これであともう少し燃料タンク容量が大きかったなら……!? なおボディサイドにある「X913」とはデビュー前年の東京モーターショーに出展されたコンセプトモデル名。それが転じてアクロスになった……ということなのですが、いや分からんし(汗)

 

走行風の抵抗からライダーを保護してくれる流麗なフルカバードボディに、GSX-R250譲りの4ストローク並列4気筒DOHC4バルブエンジンを搭載したスポーツモデル。

45馬力の最高出力を維持しつつ低中速域を太らせた出力特性にすることで、走る場所を選ばない扱いやすさも獲得しておりました。

最大の特徴は同クラスで初めてフルフェイスのヘルメットさえ収納できる25ℓもの大容量パーソナルスペースを通常のバイクならフューエルタンクとなる場所に採用したこと。

そのパーソナルスペースのロック解除には電磁式システムが採用されており、メインスイッチのキーポジションをFUELに操作後、ワンタッチで「パカッ」と開くことが可能でした。

炊飯ジャー

●大学時代の友人で大のホンダファンだったHくんは、「アクロスのアレ見たか? まんま炊飯ジャーだな、あっはっは! スポーツバイクじゃありえん」と軽くdisっていましたが、翌年NS-1が出てきたときには沈黙を守っていました(笑)

 

足まわりにはインナーチューブ径φ37のフロントフォーク、ニューリンク式リアサス、偏平タイヤや前後ディスクブレーキなどがおごられ、高い走行性能も実現……と特徴を書き連ねるだけで“無双感”さえ漂ってきそうな車体構成ですね。

アクロスの白

●なぜか白色は「X913」ロゴが外されてシンプルかつクリーンなグラフィックでした。さて、アクロス。スズキ自身は“ツアラー”だとカタログにも謳っていないのですけれど、車名は旅を感じさせる「横断」だし、防風性の高そうなフルカウルだし、ZZ-Rにも似ているし……ということで同じジャンルに括られたことが一番の不幸だったのかもしれません。なお、1992年からの新しい馬力規制により、250クラスの最高出力はこのアクロスだけでなく、4ストレプリカ、2ストレプリカに至るまで全て40馬力に引き下げられました。なんともはや

 

突き抜ける直4パワー! GSX-Rの熱い血潮は隠しきれず

実際、あらゆる雑誌媒体で記事化されていた「ZZ-R250対アクロス。宿命のライバル比較試乗!」のような企画では、ワインディングで見せるアクロスの刺激的な走りがクローズアップされがちで、ギョーカイのバイクジャーナリストお歴々もアクロスのほうに太鼓判を押される方が多かったような記憶がございます。

ZZR250モノクロ

●アクロスとZZ-R250とを交互に乗り比べると、やはり淡々と長く走り続けたいような状況下ではZZ-Rのマッタリ感が心地よかったですね〜。峠道でも「ドリュリュリュリュ〜ッ!」と快活なパルス音とともに頑張って走ってくれるので十分に面白い。燃費も20〜24㎞/ℓは走ってくれた記憶があります。燃料タンク容量が18ℓですからうまくすれば1回満タンで400㎞以上の走行が可能。対するアクロスは燃費が15〜20㎞/ℓくらいだったはずで、なおかつ12ℓタンク……。ロングツーリングへ使うにはちょいと不利でしたね

 

私もモーターサイクリスト誌のパシリ……いやアルバイトとして、かくいう取材に何度となくお供したのですけれど、確かにアクロスのほうが走りは圧倒的にエキサイティング! 

直径49㎜のピストンが真横に4つ並び、たった33㎜のショートストロークで上下行程をギャンギャン行なっているのですから、乗り手が興奮しないはずがありません。

GSX-R250

●1983年発売のGS250FWで250㏄並列4気筒エンジンのパイオニアとなったスズキが、1987年に過熱するばかりのレーサーレプリカ最前線へ送り込んだモデルがGSX-R250(写真は1988年型)。こちらのエンジンをベースとしたものがアクロスの心臓だったのです。なお、1989年にはさらに先鋭化した「GSX-R250R/SP」が登場しました

 

また、目新しかったメットイン機構も注目度抜群で、アクロスで上野バイク街へお遣いに行くと速攻で黒山の人だかりとなり、乞われるままパーソナルスペースの開閉を昭和通りの路上で何度も披露したものです。

しかし、その利便性と引き替えにシート下へ追いやられた燃料タンクの容量は12ℓと非常に少なめ。さらに回してナンボのエンジン特性なため燃費もほめられたものではなく、結果的に長距離走行時にはガソリンスタンドへ駆け込む回数が増えてしまいます。

やけぐい

●まぁ、2ストレーサーレプリカの燃費なんて10㎞/ℓ走るか走らないかなどと言われていますから……。とはいえツーリング時に肝心なのは“満タン航続距離”。足の短いバイクでマスツーリングに行くと、一人だけ別タイミングでGSを探さねばならないストレスに苦しまされます

 

なおかつ給油口はタンデムシートとテールランプとの間に設定されており(こちらも電磁式でリッドが開く!)とてもスタイリッシュ!

……なのですけれど、そこまで覆い被さる大きな荷物を積載してしまうと、ガソリン補給のたびにそれを取り外すなり移動させるなりといった一手間二手間が必要になってしまう点は、ロングツーリングを夢想するライダーにとって大きな懸念材料になってしまいました。

当時、現在のように高性能なシートバッグはまだあまりなく、バイク旅に必要な道具類はゴムひもやネットでタンデムシート上&テールカウル部分にしばりつけることが主流でしたから……。

長距離旅を見越した至れり尽くせりの装備が自慢なZZ-R!

対してZZ-R250は、

①ピークパワーを追わず(40馬力<登場時>。2002年型からは35馬力へ) 

②燃料タンク容量は18ℓ(2004年型以降は17ℓ)

格納式荷掛けフックを標準装備

④タンデム時に便利なグラブバーはボルト2本を回すと取り外せて、タンデムシートとテールカウルまでがツライチになる(=大荷物積載時に安定度が増す) 

荷掛フック&グラブバー

●スタイリングにうまく組み込まれた荷掛けフック。1本の長いゴムひもを巧みに使ってスッキリ荷物を固定する先輩ライダーに憧れたなぁ

 

⑤荷物積載時にも地味ながら便利なセンタースタンド標準装備 

⑥便利なマグネット式タンクバッグがポンと付けられる(アクロスのパーソナルスペース“フタ”は樹脂製なので工夫しないと装着不可←吸盤式なら対応可)などなど。

ZZR250小物入れ

●インナーカウルの左側に設けられているベルクロテープ開閉式の小物入れ(写真)や、ツイントリップメーターなどの装備も旅を応援!

 

旅指向が強くアレもコレも1台でこなしたい!と考えるライダーにとって、ZZ-R250の高い汎用性はとても魅力的に映ったのです。

ただし、アクロスはアクロスで「オレは街乗り中心。ショートツーリングくらいならパーソナルスペースの容量で十分に事足りるぜ!」という熱心なファンを獲得し、1998年型まで生産が続けられます。

が、世紀越えはならず

規制強化による生産終了の嵐を乗り越えて新しい世紀へ!

片やZZ-R250は細かな仕様変更とカラーリングチェンジを繰り返しながら1999年型へ到達

とはいえここで厳しさを増すばかりの環境諸規制に白旗を揚げてそのままフェードアウトか……と思われたものの、2002年2月に排出ガス浄化システム“KLEEN”を搭載し「平成11年排出ガス規制」を見事にクリアした仕様が再登場!

2003年からは生産拠点を日本からタイ王国に移管しつつ歩みを重ねていったのですが、4ストロークエンジンといえどもキャブレターのままではとても対応できないくらい、さらに厳しいものとなった排出ガス規制の実施を受けて2007年8月末でついに生産を終了いたします。

2004年型ZZR250カタログ

●2004年型カタログの表紙。バイクの写真は隅っこにちんまり。スペースの大部分をボケ味あふれるカップルの姿に使い、トドメに含蓄たっぷりなキャッチコピーで締めるという、たまに吹っ切れるカワサキならではのトリッキーな展開。すでに押しも押されもしない定番モデルに上り詰めたという自信が感じられますな

 

1990年の初代デビューから実に17年! 

その間、250㏄クラスといえばレーサーレプリカの大人気ぶりが終焉へ向かい、直後に巻き起こったネイキッドブームはレプリカからカウルを引っぱがし、さらにはアルミフレームまではぎ取ったモデルを多数登場させたもの……。

ZZR250カタログ2005年式

●写真は2005年型カタログより。モデル後半はメインチューブに90㎜×30㎜の日の字断面アルミ押し出し材を採用するフレームを誇示するかのような青と黒の2色展開が続きました。なお、2002年の再生産開始モデルからタンク上の「Kawasaki」ロゴが、ステッカーではなく凹凸のある立体メッキものに置き換わっております

 

ほかにもシングルスポーツ、エンデューロデュアルパーパスレトロシングル、トラッカークルーザーモタードビッグスクーターなどなど、バラエティに富むジャンルのブームが興っては沈静化していったことは、シニアなライダー諸兄諸姉ならずとも記憶に新しいはず。

そんな中で、派手な動きこそ少なかったものの、常に選んで間違いなしの“定番ツアラー”が存在し続けた意義はとても大きいものがありました。

さらに言うと、今では信じられないことかもしれませんけれど、一時代を画したレーサーレプリカの雄として最後の最後まで粘り続く生産を続けてきたホンダNSR250Rが1999年に事切れてしまって以降、約8年間も250㏄のフルフェアリングモデルはZZR250だけだったのです! 

しょぼくれた250㏄クラスに喝を入れるヒーローへ転生!

そんなモデルもついにディスコン

「嗚呼、私が愛した250㏄の世界はビッグスクーターとトラッカーとレトロシングルばっかりな、つまんね~クラスになってしまうのか……」と謎の上から目線を抱きながらMC編集部で日々の業務に追われていると、メガトン級のビッグスクープが飛び込んできました。

ZZR250のパラレルツインを搭載した後継機が出るらしいぞ」と先輩。

「へぇ、お手軽ネイキッドのバリオス-Ⅲですかね(笑)」と筆者。

「いや、レプリカっぽい外観だとか」。

このご時世にフルカウル? どうせガセネタでしょ~!?」……。

先輩、そのときは疑ってすみませんでした。

2008年4月、羨望の「ニンジャ250R」が登場いたします。そちらの快進撃ぶりは、また近いうちに……。

ZZRとニンジャ

●いや、本当にニンジャ250Rの登場は衝撃でした。そのころ海外では1000㏄や600㏄の国産スーパースポーツが覇を競って大ブームを巻き起こしていたのに、お膝元である日本ではフルカウルのモデルさえ数える程しかないという異常事態(250&400㏄クラスに至っては「0」!)。そんなカラッカラな焼け野原に登場したカワサキのニューモデルは、まさに“干天の慈雨”だったのです!

 

あ、というわけで17年の長きにわたって不変のスタイリングでロングセラーを続けたZZR250は、どの年式でも誇りを持って乗ることのできるスポーツツアラー。レッドバロンが販売する良質な中古車ならアフターサービスも万全で、かつ納車時にはETC車載器やスマホホルダー、USB電源、各種リアキャリアなど、イマドキ旅に不可欠な装備の選択や取り付けの相談にも乗ってくれますよ。まずはお近くの店舗に行って在庫を確認してみてください!

(おわり)

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