本当に空冷エンジンは消えゆくのか?
年式・仕様違いのSR400を2台とXR BAJAを所有する僕は、お察しのとおり、スタンダードバイクや空冷エンジンが大好き。
しかしここ数年、SR400やCB1100といった空冷エンジン搭載モデルはそのラインナップをどんどん減らしている。代わって魅力的なモデルが新たに発売されてはいるのだが、それでもなんだか不安な毎日なわけである……スタンダードバイク好き・空冷エンジン好きとしては。
ところが、今年3月に開催された東京モーターサイクルショーに行ってみると、とりあえずそんな僕の懸念は払拭された。
国内メーカーに限ればスタンダードバイクは減少しているが、輸入ブランドが増していて、それらのなかには空冷エンジンを搭載したスタンダードバイクが数多く存在しているのだ。
たとえば愛知県のパーツメーカー・パーツ卸大手のプロトが新たに正規代理店として輸入を開始した『ベネリ』。
インペリアーレ400はトラディショナルなシルエットに空冷単気筒エンジンを搭載。排気量は374ccで、気負わなくていい車体サイズも好印象! 車体価格も今どきのニューモデルとしてはリーズナブルといえるだろう。
タイの新興メーカー・GPXも250ccや125ccクラスの空冷単気筒や並列2気筒エンジンを搭載したモデルを多数出展していた。
そう、SR400生産終了のニュースが衝撃的すぎたのだが、じつは400cc以下であればまだまだ空冷モデルはたくさんある。
ホンダ GB350だって大人気だ!
さらに東京モーターサイクルショーへの出展はなかったが、ロイヤルエンフィールド(インド)やマットモーターサイクルズ(イギリス)は人気が高く、街中でも見かける機会が多い。
大型モデルもCB1100のような空冷並列4気筒は姿を消してしまったが、先のロイヤルエンフィールドには空冷並列2気筒のContinental GT650とINT650というスタンダードモデルがラインナップされているし、カワサキ W800だって健在だ。
あらあら、よくよく調べてみたら、空冷エンジンは絶滅寸前どころか、まだまだ元気! たくさんのモデルが発売されているのだ。
しかも小排気量にまで目線を落とせば、ホンダからダックス125なんていう大注目モデルまで控えているではないか!?
あぁ、僕の心配は杞憂に終わるのか? ……と思いたいところだが、やっぱりコトはそんなに甘くないわけで。
年を追うごとに厳しくなっていく排ガス規制や騒音規制に対応していくには、空冷エンジンの限界が近づいていることはたしかだろう。
水冷エンジンだってテイスティ
しかし、そもそも空冷エンジンでなければいけないのだろうか?という疑問に対する回答が、トライアンフのネオクラシックモデルだ。
ボンネビルをはじめとする同社のネオクオラシックシリーズは、現在すべて水冷エンジンを搭載している。
しかし、深くフィンを切ったエンジンの造形は空冷を思わせるもので、ラジエターも雰囲気を損なわないように処理されている。
そして、乗り味は並列2気筒の味わい深さをみごとに再現しているのだ。
東京モーターサイクルショーでも水冷エンジンを搭載しつつ、往年のスタイリングを復活させたり、現代的な解釈を持たせたネオクラシックが多かったのが印象的。
モンディアルやファンティック、ハスクバーナなどは、懐かしさと新しさをみごとに融合させたスタイリングで、スタンダードバイク好きのハート(というか僕のハート)をがっちりキャッチしていた。
なんとなく「こういうバイクが10年後のスタンダードになっているのかも?」と思った。
そんな僕が気になっているのが、ヤマハの新型XSR900である。
MT-09をベースにしつつ、懐かしさやストリート感を併せ持つモデルで、決して懐古趣味に走らず、スポーティに走らせることもできるし、スタンダードモデルとしての味も持つという、とても“不思議”なモデルだ。
あらためて現行モデルのラインナップを見てみると、たしかにSR400やCB1100とは違うけれど、XSR900をはじめ、新スタンダードといえるような「ホッとするバイク」が今もたくさんあることに気づく。
電動だってテイスティモデルが出るんじゃないか?
そう、いくら技術が進んだとしても、バイクが趣味性の高い乗り物である以上、ライダー全員が必ずしも高性能や最高速度を求めるわけではない。重要なのは乗り味やスタイリング、加速感など、バイクのエッセンスが自分の感性に合っているかどうか。
今後、空冷エンジンがなくなったとしても、ライダーがそうしたテイストを求めるのなら、メーカーはきっとテイスティなモデルを出してくれるだろうし、エンジンモデルがなくなって電動モデルだけになったとしても、モーターの味気ない乗り味や電化製品のようなデザインのバイクだらけになる……なんてことはないように思う。
だって、そんなことになると、バイクへの興味をなくすライダーが続出するだろうし、そうなればメーカーだって困るのだ。周りを見渡すと、まだまだ電動バイクに否定的な意見を聞くけれど、そんなわけで僕はあまり悲観していない。
今後技術が進化していけば、きっとスタイルも乗り味もSR好きを満足させるような電動バイクが出てくるに違いない。僕はそう信じている。