いやぁ、スズキの400スーパーモタード……。知るほどに、調べるほどに「なんでこんな異次元の車両が突然生まれ、流星のように消えていったのか?」と不思議な気持ちになります。ではさっそく、浜松の(とてもいい意味で)大変な変態メーカーが生み出した珠玉のマシンについて語りおろしてまいりましょう!

DR-Z400SM初代 カタログ表紙

●ど〜うですか、お客さん! この凜(りん)としたスキのない立ち姿は(写真は2005年型「DR-Z400SM」カタログより)。個人的にはコレダ、カタナ、ガンマ、ジスペケ(筆者は関西圏≒山口県出身)、ハヤブサなどに負けない、スズキ謹製エポックメイキングモデルであったと日々23時間ほど考えております、が! 当時の世間一般ライダーは「え〜、トレール(←違う)バイクなのに車検があるの〜!?」という一点で早々に意識から除外していたような……(涙/Rei Ⅲ)

 

 

VRXロードスターというレアな名車【後編】はコチラ!

 

まったくもって「空気を読まずに」降臨したSaikoでMajiなヤツ

 

「ええい! 連邦軍のモビルスーツは化け物かっ!」とは、機動戦士ガンダムにおけるシャア・アズナブルの名言(?)ですが、

ガンダムファクトリー

●はい、というわけで実物大(?)かつ動いてしまう「連邦の白いやつ」は、来年の3月末まで横浜みなとみらい「GUNDUM FACTORY YOKOHAMA」にて絶賛展示中。筆者が2年前に訪れたときのレポートはコチラ。セキュリティもバッチリで格安な山下公園のバイク駐車場も徒歩数分のところにございますので、フラッとツーリングして寄ってみてくださいね。少なくともワタクシは大感動して数回訪れてしまいました……。近くには美味しい食事のできる中華街もありますよ〜〜〜!

 

 

2004年12月に発売された2005年型(ツウは“K5”と言ったりします)スズキ「DR-Z400SM」の実力をチェックした他メーカーやバイク誌ほかギョーカイ関係者は例外なくこう考えたはずです。

 

「うぉぉ! スズキの400モタードは化け物かっ!」と。

DR-Z400SM黄色

●ボア90㎜×ストローク62.6㎜の398㏄水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力40馬力/7500回転、最大トルク4.0kgm/6500回転のハイパフォーマンス(変速機は5段リターン)を発揮! 乾燥重量は133㎏(車両重量145㎏)に抑え込まれ、シート高は870㎜、燃料タンク容量は10ℓ、タイヤサイズはフロント120/70R17、リヤ140/70R17となっていました。税抜き価格は69万8000円(消費税5%込み価格は73万2900円)……。当時人気を集めていた250モタードのカワサキ「D-トラッカー」が49万4000円(同51万8700円)、400クラス唯一の同ジャンル車であるホンダ「XR400モタード」が60万円(同63万円)でしたので割高感は確かにありました。しかし、その内容を考えると、超絶ウルトラハイパースペシャルアンビリーバブルでオーマーガーな大バーゲン価格であったことが分かるはず……

 

 

2000年4月に登場したオフロード(デュアルパーパス)バージョン「DR-Z400S」……、

DR-Z400S

●はい、この「DR-Z400S」あってこその“SM”なのです。エンジンスペックや燃料タンク容量などは共通ながら、写真の2000年型は乾燥重量129㎏(車両重量140㎏)というオリエンタルラジオ藤森慎吾さんもビックリの“軽さ”を実現していました。フロント21インチ、リヤ18インチタイヤ+専用サスを採用していたこともあり、シート高は895㎜。税抜き価格は62万8000円(消費税5%込み価格は65万9400円) 。あ、もちろん始動はセル一発ですよ! しかし改めてじっくり見比べてみると……いや“SM”、フロント&リヤフェンダー専用パーツだったんかいワレェ(笑)。恥ずかしながら、そこんところは今回初めて気付きました……そりゃ高価になるというものDEATH(※ちなみにヘッドライトを収めるメーターバイザーの形状は2001年型で“SM”の写真同様の形状に変更を受けております)

 

 

もっと言えばその“S”と同時開発されたエンデューロレーサー「DR-Z400」の49馬力エンジンをルーツに持つ悪魔的な強心臓は、

DR-Z400

●「DR-Z400S」と並行して鍛え上げられた競技専用車両、2000年型「DR-Z400」の勇姿。乾燥重量は実に113㎏ですぞ! 公道走行を考えなくていいプリミティブなエンジンは最高出力49馬力/8500回転、最大トルク4.4kgm/7500回転! 発売当初はキックスタートでしたが、後にセルスターターも装備されました

 

 

公道走行可能な市販版として40馬力にデチューンされてはいたものの、冗談抜き、スロットルワークだけでポンポンとフロントタイヤが離陸してしまうという快活な極太トルクが身上だったのです。

DR-Z400SM透視図

●フレームは強度に優れ、軽量化にも効果のあるクロモリ鋼管製ダブルクレードルで、ダウンチューブとスイングアームピボット周りを角断面パイプとして堅牢な基本骨格を実現していました。リヤフレームはレーサーDR-Z400と同じアルミ製の分割式を採用。エンジン潤滑をドライサンプとすることで上下方向の寸法が圧縮され、低重心化も実現! そんなガチ決まりなマシンでも、テールカウルには車載工具&書類などを入れられる黒いポシェット……というかリヤバッグを標準装備。これ、とんでもなく便利だったんですけれど、いつの間にやら淘汰されてしまいましたネ

 

 

元気爆発な水冷シングルエンジンのせいで危うく……!?

 

筆者もモーターサイクリスト編集部にやってきた「DR-Z400SM」の広報車をひと目見て乗りたくなり、もういつもなら後輩バイト君に任せている取材前の満タン給油を自主的に遂行すべく記事担当の先輩編集者から鍵を拝借……。

 

「競技車両のDR-Z400はキック始動だったよな、でも“S”もコイツもセル始動だからラックラク~♪」とウキウキで始動ボタンを押せば気持ちよく一発始動

DR-Z400SMメーター

●イグニッションにキーを差し込み、カチャッと回せばオレンジ色のバックライト点灯とともに多彩な情報が浮かび上がる多機能デジタルメーター。ツイントリップ、積算計、時計にストップウォッチ機能まで装備されており、ツーリング用途でも非常に便利でありました。レンサル製ハンドルパイプの奥に倒立フロントフォークの減衰圧調整用のダイヤルが見てとれますね(圧側21段階、伸び側19段階!)。なお、トップブリッジは最適化された“SM”専用品となっていました

 

 

「んじゃ、行きますか~」とトロトロ発進し、道が開けたところで以前乗った同じ400シングルのホンダ「CB400SS」気分でラフにスロットルを大きく開けると、目の前に黄色いフロントフェンダーがせり上がってきたではないですか!

 

「ウイリーしてる!!」との認識があと0.ウン秒遅れていたらめくれ上がって筆者もろともマシンは後転し、取材前の広報車両が傷だらけになるところでした。

ウイリーイメージ

●イラストはイメージです(笑)。こんな牧歌的な雰囲気ではなく、一瞬にしてパニックに陥りましたね〜。乱暴な操作はダメ、絶対!

 

 

妙な具合に車両が転がっていたなら路肩に止まっていたメルセデス・ベンツのドテッ腹へ突っ込み、コンパウンドなんかでは誤魔化せない、チョー大きな傷を付けていたかもしれません。

ベンツイメージ

●八重洲出版近くの道路に、い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っつも止まっていたメルセデス・ベンツ……(写真はイメージ)。もしDR-Zもろとも突っ込んでいたとしたら、ホンダ「NR」をコカしたどころの騒ぎではなくなるところでしたよ……

 

 

今思い出してもイヤな汗がワキから噴出しますが、そのときは何とかスロットルを戻すとともに右足がリヤブレーキペダルへ届きましたので、ダシャン!とフロントタイヤは路面へとハードランディング(硬着陸)……。

 

事なきを得たもののすぐ路肩に寄って、2分ほど動悸を鎮める深呼吸を繰り返したことを鮮烈に覚えております。

動悸イメージ

●プロポーズの直前くらいドキドキしました(^^ゞ

 

 

とまぁ、ファーストコンタクトこそ波乱に満ちてしまいましたが、反省して丁寧かつスムーズな操作を心掛けていくと、「DR-Z400SM」はなんと俊敏で面白い挙動をするバイクなのでしょう!

 

常識外れのハイスペック装備が卓越した操安性を実現!

 

前後17インチの幅広ハイグリップタイヤがアスファルトをガッチリ捉え、φ310㎜という大径ローターを持つフロントディスクブレーキは強力な制動力を発揮!

カタログ足まわり

●2005年型「DR-Z400SM」カタログより。純正装着されていたタイヤはダンロップのD208SMで、こちらは「DR-Z400SM」用に新開発された専用コンパウンドを採用するハイグリップラジアルタイヤ。もし中古車を購入したら、一度はこちらをお取り寄せしてみて、スズキ開発陣の狙ったモタード的走行時の高性能をチェックしてみてほしいもの。その後、最新のタイヤを試してみるのは大アリで興味深く面白いこと間違いなし!

 

 

すると当然、慣性の法則によって前輪方向へ車体+乗り手の重さがのしかかっていきますよね、それを全盛期の北の湖よろしく、しなやかに、かつガッシ!と受け止めてくれるのが260㎜ものホイールトラベルを持つ市販モトクロッサー“RM”譲りの高剛性倒立フロントフォークなのですよ。

DR-Z400SMフロントフォーク解説

●2005年型カタログより。「DR-Z400SM」はフロントフォークの「カシマコート処理」もトピックでした。アウターチューブへ通常のアルマイト加工に加えて二流化モリブデンを含有した皮膜処理を施すこと……これが「カシマコート」。かくいう処理によってインナーチューブと接する表面がそれ自体で潤滑性に富むため、フリクションを大幅に低減できるのです。この特殊な表面処理はかつてのワークスマシンなど一部の限られた機種にのみ採用され、羨望を集めてきたテクノロジー……。アウターチューブ全体がゴールドに輝いているのも「カシマコート処理」の副産物なのです!

 

 

さらにさらにリヤサスペンションは「DR-Z400SM」のために新規設計がなされた、先端へいくほど形状が細くなっていく“テーパードタイプ”のアルミ製スイングアームに加えて、ショックユニットと車体とを結ぶリンク機構も専用品

DR-Z400SM スイングアーム

●2005年型「DR-Z400SM」カタログより。ハイ、上で並べた“S”と“SM”の広報写真も見比べてみてください。ともに銀色の光を放つアルミ製スイングアームではございますが、“SM”版はアクスルシャフトへ向かってシュ〜ッと細くなっているのが分かるはず。こちらでピボット付近の剛性と先端部のしなやかさを両立しているのですって! そりゃカタログでも大きく、大きく、訴求したくなる気も分かります。ちなみにリヤのホイールトラベルは276㎜を確保……。プロレーサーでもない限り、限界ギリギリの性能を知ることはできませんな……

 

 

そのショックユニット自体も、内部パーツにまたまた出てきた市販モトクロッサー“RM”と同一の構成部品を採用……などなど、全身これ“どうしちゃったのスズキさん?”状態な高性能パーツの満漢全席。

 

満タン給油……の前にいつもの湾岸プチツーリングをカマしてはみたのですが、限界性能の「げ」の字にすら到達できていない感がヒシヒシ……(汗)。

 

とはいえ、つまらないというワケではなく実際はその真逆で、信号待ちからの発進加速でワッハッハ、ゆる~いカーブをクリアしてニヤニヤ、タイトコーナーをシュパッと通過してワ〜オ、また赤信号でキュキュッと止まってホッホッホ~~……(以降繰り返し)。

 

速度域を問わず、走る、曲がる、止まるの一挙手一投足どれもが刺激に満ちているのでタマリマセン。

DR-Z400SMカタログ走り

●2006年型「DR-Z400SM」カタログより。ホ〜ントにアイドリング回転より上は全て実用(パワーウイリーだってできちゃうよ)域ですので、ストップ&ゴーだらけの市街地走行が面白すぎる! 逆に5速ミッションということもあり、高速道路の巡航時には“幻の6速”を探してしまうこともしばしば……。中途半端なオールマイティぶりをいさぎよく削ぎ落とした旗幟鮮明ぶりにも惚れ惚れしました〜

 

 

しかももともとのベースがオフロード……デュアルパーパスモデルですから、ライディングポジションがアップライトで前方視界も開けているため、同様の俊敏性と楽しさを持っていた(250・2スト)レーサーレプリカよりお気楽度はケタ違いです。

1988_NSR250R

●写真のホンダ「NSR250R」を筆頭に円熟した2ストレーサーレプリカも「DR-Z400SM」同様の強烈なエンジンの吹け上がり、鋭いコーナリング、力強いストッピングパワーを兼ね備えていましたが、いかんせん土下座するように這いつくばる強烈な前傾姿勢は慣れていない人なら特にナカナカの忍耐が不可欠……。ジムカーナの世界ではいまだ「NSR250R」とともに「DR-Z400SM」が大活躍しているのもさもありなん、なのです

 

 

コーナリングだって、レプリカだとリーンウィズ……かリーンインで行うくらいしかできませんが、モタードモデルなら、リーンウィズ&リーンイン、さらに車体が寝る側の足を思い切り前方へ蹴り出してリーンアウト気味に上体でバランスを取りながら旋回していくという芸当も可能(もっと習熟すればドリフト走行だって……!?)。

 

ですから、気分がイケイケなときも、どんよりマッタリなときも自分のライテクレベルに合わせた走りが自在にセレクトできるのです。

2007年型DR-Zカタログ

●もう2007年型カタログでは表紙からしてコレですからね。吹っ切れてます、スズキ(笑)。……あ、箱根の椿ラインで取材しているとき、まんまこの写真のように気合いの入った「DR-Z400SM」を駆る一般ライダーが、まんまこのようなスタイルで超激走していったのを羨望と心配のまなざしで見送ったことまで思い出しました。公道でドリフト走行を見せつけられるのは心臓に悪い……です(苦笑)

 

オン&オフ問わずトップライダーを決める闘いが語源!

 

……というワケで(?)「DR-Z400SM」の“SM”とはSugoi Majime……ではなく「スーパーモタード」という意味なのですが、そもそも「スーパーモタード」ってナンデスカ? という人もきっといますよね。

 

その概念のルーツ・オブ・ルーツは1979年にアメリカで始まった“スーパーバイカーズ”というレースで、非常にザックリ言えば「ロードレース、ダートトラック、モトクロス……それぞれのカテゴリーのトップライダーたちを集めアスファルトとダートが半々のコースで走らせて、本当に一番速いヤツを決めようぜ、YEAH!」という非常にアメリカ~ンな単純明快さに満ちたバトルだったのです。

アメリカンドッグ

●さすがの「いらすとや」さんもスーパーバイカーズのイラストはなし。ならばとアメリカンで検索すると……コレ(笑)

 

 

後に世界GP500㏄クラスチャンピンに輝いたエディ・ローソン選手らがカワサキの2ストモトクロッサー「KX500」を魔改造したモンスターマシンでフルカウンターを当てつつ激走させたりしたため大いに盛り上がり、その人気は欧州へと飛び火いたします(筆者が尊敬するライター宮﨑健太郎氏の解説ページはコチラ)。

 

まずはフランスでの選手権がスタート……このときアメリカ英語の「Superbikers」はフランス語訳されて「Supermotard」へ。で、そこからじわりじわりとヨーロッパ選手権へと拡大……すると欧州英語圏では「Supermoto」と呼ぶようになったりして、少々ややこしいことになりました。

 

つまり「スーパーモト」は英語。「スーパーモタード」はフランス語なんです。

フランスパン

●さすがの「いらすとや」さんもスーパーモタードのイラストはなし。ならばとフランスで検索すると……やぱりコレ。筆者も大好物です

 

 

そこからなんやかんや略されてたりしてジャンルや車体種別を単に「モタード」とも言ったりするので混乱しがちですけれど、まぁ、ニュアンスは伝わりますよね?

 

2002年からは世界選手権が始まって、我らが日本でも2005年からMFJ公認レースの「全日本スーパーモト選手権」が開催されているのです。

 

さて、話は少し戻りますがアメリカでの「スーパーバイカーズ」時代は要素にダートトラックも含まれていたので、ハーレーやホンダのダートトラッカーも参戦し、

ホンダRS750D

●ホンダ「RS750D」については前回でも紹介いたしましたが、ダートトラックの本場・米国でのイベントで4連覇を獲得する大活躍をみせました。その勢いそのまま、スーパーバイカーズへも参戦していたと記憶しております……

 

 

前述のローソン選手らが駆った「KX500」も19インチのフラットトラック向けタイヤ(上透視図の「RS750D」が履いているようなパターン)を前後に履いていたりしたのですけれど、舞台が欧州……フランスに移ったら米国のみで大人気なダートトラック要素が抜け落ち舗装路とダートの比率も8対2になったり、場合によっては全て舗装路のレースも出てきたり……というわけで、“17インチのオンロードタイヤを履くモトクロッサー”という組み合わせが、スーパーモタード選手権での最適解となっていったのです。

KTM 450SMR

●最先端スーパーモトマシンの一例……2024年型 KTM「450 SMR」がコチラ。実に単体重量で約27㎏という449.9ccの4スト水冷単気筒エンジンは63馬力というハイパワーを発揮! エンジンマネジメントシステムはケーヒン製で、2種類のエンジンマップとローンチコントロール、トラクションコントロール、クイックシフター、そしてスリッパークラッチほかレース向け機能を多数標準装備。コイツでラフな操作をしたら天に召されてしまいそうです……あ、いや、電子制御に守られているから、めくれ上がることはないのか! 凄い……

 

 

カワサキの試行錯誤が日本で「モタード」を根付かせた(^0^)

 

このような“スーパーバイカーズ(スーパーモタード選手権)”の全世界的な盛り上がりにいちはやく反応し、日本の市場へそのムーブメントを植え付けようとしたのが……カワサキだったんですね。

 

今から実に35年前となる1988年1月に、“スーパーバイカーズミニ”というキャッチフレーズも颯爽と「KS-Ⅰ(49㏄)/Ⅱ(78㏄)」というチョロQのような可愛らしいスタイルの空冷2ストロークマシンをリリースしております。

カワサキKS-Ⅰ

●JKやJDならずとも、ひと目見て「カワイイ〜♡」と両手をピーカブー・スタイルにするのは必至なカワサキ「KS-Ⅰ」。AR50[80]用を流用した49[78]㏄空冷2ストローク単気筒ピストンリードバルブエンジンは最高出力7.2[9.2]馬力/8500[8000]回転、最大トルク0.62[0.85]㎏m/8000[7500]回転を発揮。乾燥重量66.5㎏(車両重量75㎏)、タイヤは前後とも3.50-10という小ささ。価格は18万3000円[19万5000円]でありました ※[ ]内は「KS-Ⅱ」

 

 

折しも1986年にはヤマハ「YSR50/80」、翌1987年にはホンダ「NSR50/80」が登場し、全国津々浦々でミニバイクレースが勃興していくというタイミング。

 

うろ覚えで恐縮ですが、カワサキはあえて“スーパーバイカーズ”にこだわり、アスファルトだけでなくダート部分を組み合わせたミニコースを各地に作って「オン&オフ混合の楽しいビギナー向けレース」を提案

 

各バイク雑誌のメインライターや編集スタッフを集めて模擬レースも行い、誌面を通じて“スーパーバイカーズとはどんなものなのか”を広く啓蒙しようとするも……日本人の趣味趣向には合わなかったんでしょうかね、見事に撃沈したという記憶がございます。

 

駄菓子菓子! 捲土重来はその10年後!! 

 

「闘う、4スト。」の血が濃く流れるカワサキ入魂のデュアルパーパース「KLX250」をベースに、

KAWASAKI KLX250

●1993年リリースのエンデューロレーサー「KLX250R」、同年登場した“R”の公道仕様「KLX250SR」、1994年にセルが装備された「KLX250ES」……。それらが統合されてフルモデルチェンジを受け、1998年2月に登場したのが写真の「KLX250」ということ。249㏄水冷4スト単気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力30馬力/8500回転、最大トルク2.6㎏m/7500回転のパフォーマンス! 乾燥重量116㎏(車両重量131㎏)、シート高885㎜、燃料タンク容量は8ℓ……。当時価格は45万9000円でした(消費税5%込み価格は48万1950円)

 

 

前述のとおり欧州スーパーモタード選手権の最適解となっていた前後17インチホイール+幅広オンロードタイヤを導入して1998年の2月に「D-TRACKER(ディー トラッカー)」として発売したところ、これが想定外の大ヒット街道をバクシンしてしまったのです。

カワサキ D-トラッカー

●1998年2月、「KLX250」と同時に発売された「D-トラッカー」。エンジンスペックや燃料タンク容量は不変ながら、前後17インチタイヤ装着などによりシート高は865㎜、乾燥重量は118㎏(車両重量133㎏)へ変化。今では「D-トラは国産モタードモデルのはしり〜」と紹介されることが多いのですけれど、当のカワサキはストリートスクランブラーとして売り出したつもりだったとか(車名もD=ダート(?)トラッカーですからね)。最初は見慣れないスタイルだったせいもあって静かな船出となりましたが、その“好性能”ぶりがジワジワと広がって人気に着火!というカワサキに多いパターンだったのです。当時価格は46万9000円と「KLX250」と税抜きで1万円しか違わなかったところも効いた!?[消費税5%込み価格は49万2450円]

 

 

そのころモータサイクリスト編集部に在籍していた筆者の肌感覚としては、一般的なライダーにとって相変わらず“スーパーバイカーズ(スーパーモタード選手権)”の知名度はゼロに近かったのですけれど、とにもかくにも「D-トラッカー」はスタイリングが奇抜さを感じさせつつ絶妙に秀逸だったことが大ヒットのキッカケになったのだと感じていました。

 

そして、いざ購入してみた人たちが「軽くて取りまわしが楽」「ポジションがアップライトで見晴らしもいい」「シングルエンジンは低速からトルクが太くて吹け上がりも軽快」……と、ここまではKLX250も同様ですが、D-トラッカーはさらに「17インチホイールはブレーキがよく効く」「ロードタイヤはグリップがいいからコーナリングが楽しい」「シート高も(若干だけど)KLXより低いしね!」との高評価をオーナー自らが口コミで広めたことによって幅広く支持を得たのだと確信しております。

 

その後、2002年2月にスズキは「250SB」を(D-トラッカーのOEM!)、

スズキ250SB

●2001年から2007年まで続いたスズキとカワサキ業務提携時代の成果として、2002年型からスズキより「250SB(=おそらくはスーパーバイカーズの頭文字)」というOEMモデルが登場しました。こちらはまんま、カワサキ「D-トラッカー」の“バッジエンジニアリング”モデルです。ベースとなるD-トラが2001年に厳しくなった平成11年度排出ガス規制をクリアするマイナーチェンジを行ったため、触媒が追加されたぶん乾燥重量は1㎏増の119㎏に。エンジンも最高出力29馬力/9000回転、最大トルク2.5㎏m/7000回転と微妙に数値が下がっております。税抜き価格は48万円(消費税5%込み価格は50万4000円)でありました。ん〜、この車両は他の“スズカワ”業務提携モデルよりは街中でよく見かけたような……!?

 

 

2003年にホンダが「XR250モタード」、2006年には遅ればせながらヤマハも「XT250X」と250㏄クラスのデュアルパーパスモデルをベースに17インチタイヤを履かせた“スーパーバイカーズ(スーパーモタード選手権)”的なモデルをリリース。

XT250X

●2006年3月、「セロー250」をベースに前後17インチタイヤを装着した写真の「XT250X」が登場。249㏄空冷4スト単気筒OHC2バルブエンジンは21馬力/2.1㎏mを発揮しました。価格は46万円(消費税5%込みで48万3000円)で先行するD-トラ(250SB)や、XR250モタードに対して地味な印象は拭えませんが、安心してください。2007年11月、先行車を全てぶっ飛ばすキレッキレのスーパーウエポン「WR250X」がデビューを果たすのです……そのあたりは次回お届けする予定!?

 

 

中でもホンダが車名にそのものズバリな「モタード」を付けたモデルを連発したこともあり、かくいうバイクを「モタード」と称することが2000年代前半になって、ようやく一般化したのかな……という印象です。

XR400モタード

●と、いうわけで「DR-Z400SM」から遅れること約4ヵ月。2005年3月に登場したのが写真のホンダ「XR400モタード」です。こちら、ベースとなるべきデュアルパーパスモデルが存在せず、突然モタードモデルが生まれてきたというレアなケースでして「CB400SS」譲りの397㏄空冷4スト単気筒OHC4バルブエンジンは少しパフォーマンスアップが施され、性能は30馬力/3.4㎏mでありました。価格は60万円(消費税5%込み価格は63万円)ナリ。その1ヵ月前には「XR100モタード」、「XR50モタード」もリリースされておりましたので一時期、全4種類の“XR○○モタード”シリーズがホンダラインアップにそろっていたことになります!

 

 

かくいう状況のなかで炸裂した「DR-Z400SM」爆弾。

 

250クラス版を開発する手間が省けて浮いた開発費を400クラス版に全集中させた(?)……のかどうかは不明ですが、あながち的を外していないような(笑)。

 

それくらい“凄い真面目モード全開”の高い完成度でありました。

DR-Z400SM 青

●2007年型「DR-Z400SM」カタログより。ばけ-もの【化け物】を辞書でひもとけば 「動植物や無生物が人の姿をとって現れるもの。お化け、妖怪など」とありますが、次に「人間離れした能力を持つ人」という解説が来ることがほとんど。まさに「DR-Z400SM」は当時としては常識外れな高い能力を持つマシン……優しきバケモノだったのです

 

 

次回はその「DR-Z400SM」へ至る、スズキ謹製デュアルパーパスモデルの変遷について、もっと詳しく掘り下げてまいりましょう。

 

 

あ、というわけで「DR-Z400SM」はスズキの本気パワーを煮詰めて個体化させた蘇(そ)のようにオイシイ存在(!?)。普通自動二輪車免許で味わうことのできる卓越した性能は、生産終了から14年が経過した今も、いや、今だからこそ光り輝いて見えます。レッドバロンの良質な中古車なら、パーツの供給も心配なくアフターサービスもバッチリ。まずは、お近くの店舗まで足を運んでみてくださいね!

 

DR-Z400SRというバケモノ【中編】はこちら!

 

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