大ざっぱに言って仕上がった車両をメーカー同士で融通しあうのがOEM(Original Equipment Manufacturing)……なのですが、クルマ界隈における商用車関連ならともかく、ブランドごとのこだわりこそが人気を左右するバイクの世界ではモロモロ難しい面も(^^ゞ。しかしながら、他社のエンジン(場合によってはシャシーまで)をうまく活用した成功例もあったりするのです!

2023年ジョグカタログ

●写真は2023年型「JOG」カタログより。ヤマハは2016年に販売の低迷から50ccクラス(原付一種)の開発&生産から撤退を発表しており、以降販売してきた「ジョグ」と「ビーノ」はホンダのOEM生産だったのです。しかしその車両も2025年11月が適用期限となる排ガス規制に対応できないことから生産が終了……。出力を4kW(5.4馬力)以下に制御した総排気量50㏄超〜125cc以下のモデルを「新基準原付」とすることが関係各省に承認されたため、ヤマハは自社生産する125cc以下の車両を新基準に対応させて2026年上旬にも日本市場に投入するとか。おそらくベースとなるモデルは「ジョグ125」……。ホンダは先んじて「Dio110 Lite」を11月20日に、「スーパーカブ110Lite」、「スーパーカブ110プロLite」、「クロスカブ110Lite」を12月11日に発売すると発表。スズキは出すなら「アドレス125」かなぁ〜。いっそ「蘭」や「薔薇」ブランドを復活希望!?

 

 

アナタの知らないOEMの世界【その4はコチラ】!

 

カワサキZRXという好漢【その1】は今しばらくお待ちください m(_ _)m

約5年間の業務提携は2つのメーカーに何をもたらしたのか!?

 

これまでネチネチと紹介してきたスズキとカワサキの蜜月(?)時代

 

 

2002年からお互いの人気モデルをOEMしたりして本格スタートを切ったものの、まぁ問題はアレコレあったのでしょう。

2004_250SB

●2004年型スズキ「250SB」カタログより。カワサキ「D-トラッカー」がベースなことは第2回でも紹介したとおりですが(特別仕様車「ヨシムラスズキM250S」についてはコチラ)、2005年モデルをもってカワサキからのOEM供給は終了……。残念ッ!

 

 

2007年にはいたって静かにフェードアウト……業務提携を解消してしまいました(その経緯については過去回からご確認ください)。

破局イラスト

●こちらの連載中、関係者の皆さまからいろいろなお話を伺えたのですが、やはり会社上層部の思いと開発や販売などガチガチの現場とでは相当な温度差があったようです。難しいのう

 

 

この2社のように車両のスタイルをほぼ変えないまま互いのチャンネルで販売するという典型的なOEM関係というのは、バイクだとやはり非常に稀(まれ)であるのですが、エンジン単体だったり場合によってシャシーまで流用しつつ全く別のバイクを仕立てる例というのは案外多かったりします。

日産クリッパーバン

●スズキ「エブリィ」のOEM車両である日産「クリッパーバン」現在では特に商用車の世界において兄弟車・姉妹車を別の販売網で売るため商品名エンブレム、いわゆる車名やブランド名のバッジを変えただけで販売する手法が一般的に行われており、そちらをバッジエンジニアリングリバッジと呼んだりしています。自動車業界……販売網の格差やメーカーのしがらみというのはアナタが思う以上にややこしかったりするのですよ(^^ゞ

 

 

今回はそんな代表例を列記してまいりましょう。

 

オリジナルフレームに信頼性の高い名作エンジン群を合体ッ!

 

日本の4メーカー、もしくはドゥカティやBMWのエンジンなどを活用し、革新的なシャシーを持つマシンを次々に送り出してきた孤高のメーカーといえば……Bimota(ビモータ)でしょう!

ビモータTESI 1D

●1990年に衝撃のデビューを飾ったビモータ「TESI 1D」……独創的なハブセンターステアリングを採用したシャシーにドゥカティ「851」のエンジンを積んだ忘れがたき1台。筆者もタミヤのプラモデルを速攻で買ってきて、作りながらメカニズムに大興奮したもの(実際に鼻血が出た)

 

 

3人いた創業者のひとり、マッシモ・タンブリーニさんが自らレースで大破させたホンダ「ドリームCB750フォア」のエンジンをオリジナルのパイプフレームへ搭載することを思い立ち、完成させたのが「HB1(ホンダ・ビモータ・1号機の意。以降この法則は続いていきました)」レーサーだったのです。

 

 

その素晴らしすぎる仕上がりが瞬く間に評判を呼び、トントン拍子にバイク製造会社へとジャンプアップ~(栄光の歴史はコチラ)。

 

 

その後、紆余曲折栄光盛衰があったのですけれど、2019年からカワサキと強力タッグを組むことが決定!

TESI H2

上で紹介したビモータ「TESI 1D」が採用した革新的なハブセンターステアリングシステムを、さらに改良して進化させた「TESI H2」。川崎重工の技術の結晶ともいえる「Ninja H2」のスーパーチャージド(過給機付き)998cc並列4気筒DOHC4バルブエンジンを搭載!

TESI H2ストリップ

前後分割されたコンパクトなアルミニウムプレートでエンジンを左右から支持し、高度な重量マスの集中化を実現。この軽量&強靭なTESIシャシーにラムエア過圧時には最高出力242馬力を発揮するカワサキ製スーパーチャージドエンジンを搭載した「TESI H2」の乾燥重量は驚きの207㎏……! 

 

 

これからの展開から目が離せない存在となっているのです。

ビモータKB998

●2026年型ビモータ「KB998 Rimini(リミニ)」。カワサキ「Ninja ZX-10RR」のエンジンを搭載したビモータ製スーパースポーツで、すでにこのマシンをベースにしたレーサーにてSBK(世界スーパーバイク選手権)に参戦中! なおリミニとはビモータが工房を構えるイタリアの都市の名前……

 

BMWファンの裾野を広げた他社製単気筒&パラツインエンジン!

 

リッタークラスの水平対向2気筒、もしくは直列3/4気筒というエンジンを積んだ威風堂々たるビッグバイクしかラインアップしていなかった1990年台初頭のBMW

K1100LT

●1991年型BMW「K1100LT」。横倒しにした(見えているのはエンジンヘッド!)1092㏄水冷直列4気筒DOHC4バルブユニットを搭載するゴージャスなツアラー。正直、オッサンの憧れバイクを作るメーカー……としか認識のなかったBMWが、今やSBKを席巻し1801㏄のクルーザーから312㏄のアドベンチャー、興味深いEVバイクまで大量にリリースしているなんてシンジラレナ〜イ!

 

 

1993年、そんな状況下へ突然登場したのが「F650ファンデューロ」でした。

BMW F650ファンデューロ

●1993年型BMW「F650ファンデューロ」。ファンエンデューロを掛け合わせた車名も個性的で、テレスコピック式フロントフォークも両持ちスイングアームもチェーン駆動も至ってフツー。それが「BMWらしからぬ!」と頑固なオールドファンからは反発を喰らったもののナウなヤングを含む多くの人にとっては「最高じゃん!」となりFシリーズは収益の太い柱となっていったのですヨ

 

 

搭載されていたエンジンはオーストリアのロータックス社がベースを作った水冷4ストローク単気筒ユニットへ(ドイツの)BMWが細部の設計変更を施したもので、車体を組み立てるのはイタリアのアプリリア工場……という画期的な3ヵ国合作モデルだったのです。

アプリリアMOTO 6.5

●ちなみにそのロータックスエンジンをアプリリアはこの「MOTO 6.5」に使用(1995年)しました。このクセになるデザインはフランス生まれの建築家でデザイナーでもあるフィリップ・スタルク氏が手がけたもの。日本では浅草のアサヒビール本社横にある不思議な金色のう○こ……いやモニュメント「聖火台の炎」で有名ですね

 

 

「F650ファンデューロ」は「こんなバイク、BMWじゃない!」という否定的な意見が吹き荒れるなかでの発売開始となったものの、フタを開けてみれば大ヒット

 

 

バリエーションも続々と増やされていき、今に続く「Fシリーズ」の礎となったのです。

 

 

2006年に登場した2気筒版Fシリーズのパワーユニットもロータックス製でしたが、2018年モデルから中国ロンシン社の製造するエンジン(設計はBMW)が採用されています。

BMW F850GS

●2018年型BMW「F850GS」。270度クランクとなった新エンジン(853cc)を採用し、燃料タンクやサイレンサー(併せて駆動チェーン)の位置も一般的な場所に変更されつつシュッとした仕上がりでまとめ上げてきました。日本仕様にはETC2.0車載器が標準装備されるなど至れり尽くせり! なお、中国ロンシン社は「G310シリーズ」のエンジン製造も担当しています

 

2スト&4スト……スズキ製Vツインエンジンの真の実力を発揮!?

 

前述したビモータとの関係もそうですけれど、イタリアンメーカーと仲……というか相性のいい印象がある我らがスズキ。

 

 

筆者的に忘れられないのはアプリリア「RS250」カジバ「Vラプトール1000/650」へのパワーユニット供給ですね。

アプリリアRS250

●1995年型アプリリア「RS250」。搭載されたスズキ「RGV250Γ」譲りの2ストエンジンはVJ22A型式の欧州仕様(62馬力)がベースとなっており、確か当時「RS250」の最高馬力は公表されなかったものの70馬力と言われており、潜在能力的には85馬力を発生させることが可能とされていました。ロマン! 細かい改良が施されつつ2003年の生産終了まで高い人気を維持していったのです

RGV250Γ

●写真は1993年型スズキ「RGV250Γ」。この年のモデルから高性能化が顕著になりすぎた250ccスポーツに対するメーカーの自主規制が入り、最高出力が45馬力から40馬力まで引き下げられました(400㏄は59馬力→53馬力)。一気にレーサーレプリカ人気が冷えていくのを肌で感じたものです

 

 

前者へは「RGV250Γ(VJ22A)」の水冷2ストV型2気筒エンジン、後者へは「TL1000」や「SV650」直系の水冷4ストV型2気筒DOHC4バルブエンジンが収められ、強烈なスタイリングはいまだ脳裏に焼き付いております(よく通っていた定食屋の隣にいつも停まっていたもので(^^ゞ)。

カジバVラプトール650

2001年から日本でも発売されていたカジバ「Vラプトール650」(1000も同様)。元ドゥカティで「モンスター」をデザインしたミゲール・ガルッツィ氏が、カジバで腕を奮ったのがラプトール(イタリア語で猛禽)シリーズで、ネイキッド版もあり。あと1000㏄版にはアドベンチャーの「ナビゲーター」も存在していました。あ、八丁堀の定食屋横に停まっていたのは「Vラプトール650」の赤色でしたね(^w^)

 

普通自動二輪免許があれば乗れてしまうハーレーダビッドソン、爆誕!

 

2003年秋、チューメン……いや普通自動二輪免許で乗れるハーレーとして大いに話題となったハーレーダビッドソン「X350」、そしてその兄貴分である「X500」はイタリア生まれのバイクメーカー、ベネリ(Benelli)の中国工場で作られている「TNT302S」と「レオンチーノ500」をベースにしています。

ハーレーX350

●2023年型ハーレーダビッドソン「X350」。フラットトラックレーサー「XR750」を彷彿とさせるスタイリングが秀逸ですね。353ccの水冷パラレルツインエンジンは中速域でのトルクを重視した特性。シートの高さは777㎜となっております。

ベネリTNT249S

ベネリ「TNT249S」。高品質なカスタムパーツでも知られるプロトが日本におけるベネリの輸入元となっており安心して購入できる体制を構築。こちらは250㏄クラスのスポーツネイキッドで、「X350」のベースとなっている兄貴分の「TNT302S」は日本未導入

 

 

パワーユニットやフレーム、足まわりなどをベネリのモデルとほぼ共有しながらXシリーズは、しっかりハーレーしているところが凄いですなぁ。

ハーレーX500

●2023年型ハーレーダビッドソン「X500」。こちらはうまく「Sportster」をイメージさせるデザインとなってますね〜。つまり350とは全くの別物で「排気量が違うだけでしょ?」と勘違いしていた筆者、日本海溝より深く反省いたします m(_ _)m。500ccのパラツインと上質な足まわりが俊敏な運動性能を約束! シート高は820㎜

レオンチーノ500

●ベース車両は「レオンチーノ500」。この500版は日本未導入ですが250と125は上で紹介したプロトが取り扱っております。ジャンルとしてはスクランブラー!

 

台湾メーカーの協力を得て真性カワサキスクーターも生まれた!

 

重箱の隅をつついていけば、まだまだいくらでもあるのですけれどアッと驚く混血モデルのシメはカワサキの珍車!?

 

 

スズキとのOEM関係が終わった2007年以降、当然「エプシロン150/250」も消滅していたのですが2014年にカワサキが欧州市場向けに放った川崎重工業謹製のスクーターが「J300」だったのです! 

2014 カワサキJ300

●2014年型カワサキ「J300」……いやなんで日本で売ってくれなかったのか泣きたくなるほどカッコいいスタイリング。フロントフェイスもNinja顔でタマランですな

j300メーター

●「J300」のメーター部分。高級感に満ちあふれております!

 

 

2016年には「J300]」譲りの大柄ボディはそのままに124.8㏄エンジンを搭載した「J125」も登場

J115

●2016年型カワサキ「J125」。いや、今からでもいいから日本導入しませんか!?

 

 

川崎重工業自体はユニットスイング式(エンジンとトランスミッション、後輪軸受けを一体とした)パワーユニットを持っていないので、そこのところは台湾のメーカー・キムコ(KYMCO)から供給を受けたのです。

無段変速機カバー

●プーリーとVベルトが収納されているカバーにもしっかり「Kawasaki」の刻印が……。その上にあるエアクリーナーボックスの形状まできっちりデザインされていることが分かります

 

 

同社Ninjaシリーズを想起させる精悍な面構えや各部の利便性は出色のできばえで、日本でも発売すればヒット間違いなしだと思ったのですけれど、2車ともに国内正式リリースはされずじまい(ごく少数が並行輸入された模様)

J300利便性

●当然ながらシート下には巨大なトランクスペースも完備。頑丈なグラブバーも用意されタンデムランも快適そう!

 

 

2020年代の到来を待たず海外での販売も終了したようです……オーマイガッ!

カワサキ こんせぷと  J

●上イラストは2013年11月の東京モーターショーで展示された3輪電動ビークルのコンセプトモデル「J」で、可変ライディングポジションでも注目を集めました。おそらくカワサキが次に出す「J」は単なるスクーターではなくアッと驚く電動モビリティの予感!

 

 

さて、違うメーカー同士のOEMから共同開発、一部メカニズムの流用までを取り上げてきた与太多めOEMコラムもこちらにて大団円!? 

GSX250FX

●最後にスズキ「GSX250FX」の2004年モデルに用意された青×白を見てやってください(^^ゞ。カラーリングでイメージは全く変わるのだなぁ……と感動&感涙したものです

 

 

次回からはカワサキ「ZRX」についてお届けする予定です。ではでは~。

カワサキZRX

●「ゼファー」が巻き起こしたネイキッド大ブーム……その後半戦を力強く駆け抜けた漢(おとこ)たちの物語!

 

 

あ、というわけでスズキ「250SB」や「GSX250FX」、カワサキ「エプシロン250/150」ほか、オモシロ混血モデルは少数ながら流通していたりします。そんなレッドバロンの『5つ星品質』中古車を各店舗の受付でチェックしてみてくださいね~!

 

 

カワサキZRXという好漢【その1】は今しばらくお待ちください m(_ _)m

 

アナタの知らないOEMの世界【その4はコチラ】!

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