ホンダといえばCB750FOURに始まり、現在もCB1300SF/SBやスーパースポーツのCBR1000RR-Rなど「直4エンジン」がイメージ。だけど、かつてはV4エンジンがスポーツバイクとしてラインナップされ、レースでも活躍していた。いまだってMotoGPマシンはV4なのに……市販車は、本当に無くなっちゃうの?

●文:伊藤康司 ●ミリオーレ編集部 ●写真:ホンダ

最後のV4エンジン搭載車が生産終了

さる4月28日、ホンダが「法規対応に伴う、Honda二輪車の一部機種の生産終了について」というリリースを出した。厳しさを増す排出ガス規制に対し、一部機種を生産終了するニュースだが、いまだ人気の高いCB400SF/SBの生産終了にショックを受けた方もいるのではないだろうか。

そして生産終了モデルに含まれたVFR800FとVFR800X。現在では注目を集めるモデルではないかもしれないが、じつはホンダの国内販売モデルの中で、最後に残っていたV型4気筒エンジンを搭載するバイクなのだ。
VFR800F
VFR800X

近年バイクに乗り始めたユーザーなら「それがどうしたの?」と思うかもしれないが、V型4気筒はホンダの中で一時代を築いたエンジン型式。80年代のバイクブームからその後のレプリカブームを通じてレースで大活躍し、スポーツバイクとしても人気を集めたモデルも数多い。

そんなホンダのV4が消滅してしまうのはかなり残念。以前は「CBRの後継モデルはV4搭載か!?」といった噂もたびたび上がったが、これも数年前から耳にしなくなった。というワケで、消えゆくホンダV4に哀悼の意を表し、その歴史と車両を振り返ってみよう。

WGP復帰で生まれたV4エンジン

ホンダは1954年にマン島TTの出場宣言をしてから13年、世界ロードレース選手権で50ccから500ccまで5クラスを制覇。その成果と四輪開発を理由に、ホンダは1967年をもってGPから一時撤退を発表した。

それから9年後の1979年にGPレース活動再開に向けて開発されたのがNR500だ。当時のGP500クラスは2ストローク4気筒が主流だったが、ホンダは敢えて4ストロークでチャレンジ。2ストロークと対等なパワー、そして部品点数や重量で不利な4ストロークで戦うために、楕円ピストンのV型4気筒という革新的なエンジンを作り上げた。しかし結果としてNR500はGPレースで満足の行く戦績を収めることができず、82年には2ストロークのNS500にシフトしたのだった。


NR500
ホンダがWGP(ロードレース世界選手権)に復帰するにあたって開発した4ストロークマシン。楕円ピストンに8バルブのV型4気筒という革新的なエンジンを、新素材のモノコックフレームに搭載する。

しかしNR500の開発で得たノウハウや数々の新機構は、TT-F1クラスや耐久レースを戦うレーシングマシンに投入され、それまでの直4エンジンを搭載するRCBやRS1000に代わり、新型の水冷V4エンジンを搭載するRS1000RWが登場。ここからホンダV4の快進撃が始まった。
RS1000RW(1982年) 
NR500を原資に開発した新型V4エンジンを搭載。84年のTT-F1クラスのレギュレーション改定(1000cc→750cc)に向け、83年にはRS850Rに進化した。

レーシングマシンと市販車が補完してV4が進化

1982年にV4レーシングマシンのRS1000RWが登場したが、同年にはV4の市販モデルのセイバーとマグナが発売された。このタイミングを考えるとV4エンジンはレーサーと同時開発か、もしくは市販モデルの方が先に着手されていたのかもしれない。

そして82年のVF750FをベースにレーシングマシンのRS750Rが開発され、その技術を次期市販モデルのVFR750Fにフィードバック。そしてVFR750FをベースにレーシングマシンのRVF750を開発……を繰り返し、V4エンジンは磨きをかけていった。

世界初の水冷V型4気筒エンジンを搭載する市販モデル


VF750 SABRE(1982年)
デジタル表示のワーニングシステムなど先進的な電子装備を搭載した高級大型バイク。 VF750 MAGNA(1982年)
当時人気の高かったアメリカンモデルにもV4エンジンを搭載してラインナップ。

市販車とレーシングマシンが交互に登場!

VF750F(1982年)
セイバー/マグナ発売から10カ月後に登場した本格スポーツモデル。NR500の技術をフィードバックした二輪初のバックトルクリミッターを装備。レーサーと同様の角断面フレームを採用し、プロリンク式リヤサスペンションやトルク応答型のアンチダイブ機構(TRAC)を装備する。
RVF750(1985年)
ホンダは1984年の鈴鹿8時間耐久レース用に、VF750FをベースにRS750Rを開発。翌85年に、アルミツインスパーフレームのワークスマシンRVF750が登場した。
VFR750F(1986年)
RVF750の技術をフィードバックしたアルミツインスパーフレームに、カムギアトレーン方式の新型V4を搭載。このエンジンをベースに同年の鈴鹿8耐用レーサーRVF750Rが開発される。VFR750R(1987年)
型式の「RC30」で呼ばれる生粋のスーパースポーツ。86年の耐久レーサーRVF750Rをそのまま公道仕様にしたような作りで、この後の耐久レーサーRVF750のベースになる。

VFR750F(1990年)
バルブ駆動をロッカーアーム式から直押しバケットタイプにしたりバルブの狭角化、エンジンのコンパクト化を図り、片持ち式のプロアームを投入するなどスポーツ性を追求しつつ、タンデムの快適性なども両立。RVF/RC45(1994年)
耐久レースで幾多の勝利を収めたレーサーRVF750の技術を惜しみなく投入したスーパースポーツ。耐久レースがレギュレーション改定で94年から市販車ベースのスーパーバイク仕様になったため、ホモロゲーションマシンとしての役目をおった。

400ccクラスもV4が闊歩!

80年代のバイクブーム当時は、免許制度の兼ね合いでスポーツバイクのマジョリティは250~400ccクラス。250ccは2ストロークレプリカが人気だったが、400ccは4ストローク4気筒が熾烈な性能争いを繰り広げていた。

そこでホンダは大人気のCBX400Fに加え、V4エンジンを搭載するVF400Fを発売。その後もVFR400Rをリリースし、CBR400F~CBR400RRなど直4と人気を二分。VFR400RはTT-F3レースでも活躍し、そのレプリカモデルであるRVFは2001年頃まで販売され続けた。
VF400F(1982年)
VF750Fとほぼ同時に販売開始され、当時400ccクラストップの53psを発揮。プロリンク式リヤサスペンションやインボードディスク、前輪16インチ&アンチダイブ機構など足まわりも豪華。84年にはフルカウルのVF400Fインテグラを発売。VFR400R(1986年)
国内レースで活躍していたRVF400から技術を投入。新型V4エンジンはカムギアトレーンで、フレームはアルミツインチューブ。カウルレスで丸型二灯のネイキッドVFR400Zも同時に発売。VFR400R(1987年)
片持ち式スイングアームの「プロアーム」を採用し、前輪ディスクをフローティングに変更。キャブレターの大口径化や高効率のマフラーで吸排気を強化。VFR400R(1989年)
リヤホイールがセンターロック式になり、フロントブレーキは4POTキャリパーを装備。マフラーを左出しに変更してメンテナンス性を向上。ヘッドライトが丸型二灯になり、ルックス的にもRC30に近づいた。RVF(1994年)
RVF/RC45(750cc)同様に、ワークスマシンRVFを彷彿させるメカニズムとルックスのスーパースポーツ。96年にカラーチェンジしたのち、2001年頃まで販売されたが、このモデルをもって400ccクラスのV4は終了した。

アメリカンもV4!

80年代はアメリカンタイプも人気で、ホンダはスティードやシャドウといったV型2気筒モデルと並行して、初代マグナから進化したV45マグナを発売。93年発売の3代目マグナには、ビキニカウル装備のマグナRSも加わった。いまとなって考えると、かなりハイパフォーマンスなアメリカンだ。
V45 MAGNA(1987年)
エンジンは初代マグナと同じ水冷V4。傾斜したフロントフォークや低いシートなど、いっそうアメリカンスタイルを強調。車名の45は排気量(約45キュービックインチ)から命名。MAGNA(1993年)
メッキを施したシリンダーヘッドやクランクケースカバーでイメージを一新しているが、エンジンはまごうことなきV4の3代目マグナ。V4エンジンのアメリカンはこのモデルが最後となる。

スポーツツアラーに路線変更

長らくスーパースポーツで活躍してきたV4だが、ホンダは2000年代前半にV型2気筒にシフト。市販スーパースポーツはVTR1000 SP-1、そしてレーサーはそれをベースとするVTR1000SPWに代わった。

そこでV4エンジンはスポーツツアラーへと路線変更。排気量を拡大してツーリングや日常でも扱いやすいトルク感溢れる乗り味とタンデムでの快適性も向上させて現在のVFR800FのルーツとなるVFRに変身し、熟成を重ねてきた。そして2014年には近年人気のクロスオーバースタイルのVFR800Xも加わった。
VFR(1998年) 
RVF/RC45のエンジンをベースにストロークを延長して781ccに排気量アップし、大幅にトルクを向上してツーリングや日常の扱いやすさを高めた。PGM-FI(電子制御式燃料噴射装置)やエアインジェクションシステムにより環境性能も向上している。VFR(2002年) 
回転域で吸排気バルブの作動数を変える制御システム「V4 VTEC」を装備し、カムギアトレーンからサイレントカムチェーン方式に変更して静粛性をアップ。鋭角的なカウリングやセンターアップマフラーでスタイルも一新。国内販売は2008年で終了したが、欧州では引き続き販売した。VFR800F(2014年)
スタイルを中心に全面刷新。メインフレームやV4エンジンは基本的に前モデルのVFRを踏襲するが、トラクションコントロールを採用したり新形状のスイングアームなど変更箇所は多岐に渡る。
VFR800X(2014年) 
VFR800Fから派生したクロスオーバースタイル。前後サスペンションのストロークを拡大し、最低地上高をアップして走破性を高める。

先進のスポーツツアラーが新登場

初代VF登場から28年、ついに新型V4エンジンが登場。既存の90度V4とはまったく異なるシリンダーバンク角76°に28°位相クランクピンの4バルブOHCエンジンは、排気量を大幅に拡大した1236cc。低回転域のフラットなトルクと高回転域の伸びを併せ持ち、バランサーを装備せずに振動を打ち消し、スポーツツアラーが求めるパフォーマンスにしっかり応える。2014年にはクロスオーバースタイルのVFR1200Xも加わった。

そんな新世代のV4ながら、両車とも国内モデルは2016年に生産終了と短命に終わったのが残念だ。
VFR1200F(2010年)
完全新設計のV4エンジンは、ホンダ初のスロットル・バイ・ワイヤでコントロール。また二輪車では世界初の有段式自動変速機「デュアル・クラッチ・トランスミッション」を装備したモデルもラインナップする。VFR1200X(2014年) 
VFR1200Fから派生したクロスオーバーコンセプトモデルで、ワイヤースポークはチューブレス仕様。MTモデルは存在せず、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)仕様のみをリリース。

なんと「縦置き」のV4バイクもあった!

ホンダは1085ccのV4エンジンを縦置きで搭載した大型ツアラーのST1100パンヨーロピアンを1990年に発売し、2002年に排気量を1261ccにアップしたST1300パンヨーロピアンにモデルチェンジ。いずれも輸出専用モデルだったが、2014年に新型クルーザーとしてCTX1300にモデルチェンジして国内販売も開始。ハーフカウルのバガー風のスタイルはかなりクール。2016年に生産終了。
CTX1300(2014年) 
水冷DOHCの1261ccV型4気筒エンジンを縦置きで配置。トラクションコントロールや前後連動ブレーキのコンバインドABSを装備。USB接続やBluetooth対応のオーディオシステムも備える豪華なクルーザーだ。

NRの血統は耐久マシンを経て市販モデルに

ホンダV4の先駆けとなったNR500は、GPマシンとしては満足な成績を残せなかった。しかしホンダはNRのプロジェクトを立ち上げた時点から、将来的に楕円ピストンのV4エンジンの市販化を考えていた。そこで開発されたのが耐久レーサーのNR750だった。
NR750(1987年)
1987年のル・マン24時間耐久レースに参戦。150PS以上を発揮しており、当時の4ストローク750ccとしては破格のパワーを誇り、楕円ピストンV4エンジンの優位性を知らしめた。NR(1992年) 
楕円ピストンに1気筒あたり8本のバルブ(吸気4本、排気4本)を持つ747ccのV4エンジンは、最高出力は国内モデルは自主規制に合わせた77PSだが、輸出モデルは130PSを発揮。アルミフレームはバフ&アルマイト仕上げでカウリング類は炭素繊維強化樹脂(CFRP)。520万円の価格も話題になった。

MotoGPワークスマシンが唯一のホンダV4に

1979年のWGP復帰を4ストロークのNR500でスタートしたホンダだが、1982年から2ストロークV型3気筒のNS500に切り替え、翌83年にチャンピオンを獲得。その後も2ストロークV型4気筒のNSR500で多数のタイトルを獲得する。

そして2002年にGP500クラスはMotoGPに名を変え、4ストロークの最大排気量が990ccに改定された(2ストローク500ccも混走)。そこでホンダが投入したのが他に類を見ないV型5気筒のRC211Vだった。

しかし2007年のレギュレーション変更に対応し、ホンダはV型4気筒を選択し、RC212Vに搭載。2012年から排気量が1000ccに拡大したRC213Vとなるが、こちらもV4エンジンを搭載。それから細かなレギュレーションに対応しつつ、現在もV4のRC213Vで戦い続けている。2015年には公道走行可能なレプリカであるRC213V-Sも発売された。

ホンダの市販V4モデルは姿を消したが、最高峰レースのMotoGPがV4エンジンを採用しているだけに、市販V4復活の可能性はゼロではない……かもしれない。

前例のないV型5気筒にチャレンジ

RC211V(2002~2006年) 
V型5気筒は前3気筒、後2気筒で990cc、240PS以上を発揮。写真は2005年のニッキー・ヘイデン 

勝手知ったるV4エンジンにチェンジ

RC212V(2007~2011年) 
2007年からレギュレーション変更で排気量上限が800ccになり、最低重量既定の観点から5気筒では不利になるため、V型4気筒に完全刷新。 RC213V(2012年~) 
2012年から排気量上限が1000ccに引き上げられ、それに合わせてRC213Vが登場。写真は2012年のケーシー・ストーナー車。

一般公道走行可能なMotoGPマシン! 究極の市販V4バイク

RC213V-S(2015年) 
V4エンジンをはじめレイアウトから製造・組み立て方法までワークスマシンのRC213Vを踏襲。エンジンで異なるのはニュウマチックバルブ→コイルスプリング式と、シームレストランスミッションを一般的なミッションに変えた点くらい。最高出力は日本仕様は70PSに抑えられるが、欧州仕様は159PS、キット装着(公道走行不可)で215PS以上を発揮する。

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