就職を機に、バイクを降りてしまった旧友T。それから37年も経ったというのに、いきなり「バイクに乗りたい」と言い出した。理由はふたつ。ひとつは今年、無事に還暦を迎えられた記念に。もうひとつの理由は、スーパーカブC125に一目惚れしてしまったから!
C125は確かに美しい
スーパーカブC125は、確かに美しい。実用車とは、とても思えない。さらに言えば、サスペンションはしっかりしているし、走行性能が高くエンジンはパワフル、むしろZ900RSやXSRシリーズと同じ「ネオクラシック」のスポーツカテゴリーに入れてもいいとさえ思える。友人Tが一目惚れするのも理解できる。
「でもさあ、新車で44万円もするんだよ」
何を言ってやがる、旧友T。C125は、それだけの価値があるし、お前が再びバイクに乗るということには、それ以上の価値があるはずなんだ。125ccならファミリーバイク特約が使えるし、税金が安いし、燃費もいい。思い立ったが吉日だ、買っちゃえオッサン!
「んだな!」と意を決した旧友Tは、一目惚れのC125を新車で注文。
「だけどスゴー君よ、久しぶりの運転で不安だから、練習つきあってくれる?」
もちろんだよ。背中を強く押したのはオレなんだし、旧友に事故られても困る。現役ライダーとして、責任を持って応援する。
ということで、納車整備後の車両の受け取りも、筆者が担当。所有しているトランポのハイエースで東京から岩手県に帰省し、ピッカピカのC125を積んでTと一緒に広い駐車場へと向かった。運転の練習をするためだ。
いざ、練習開始
到着したのは郊外にある、だだっぴろい無料駐車場。奥のほうに行けば、利用しているクルマは皆無。さすが我が故郷・岩手県。田舎って、便利ですね。
37年ぶりにリターンライダーとなった旧友Tに、何からアドバイスするべきか。ここ数日間はそのことで頭がいっぱいだった。こっちは40年以上もバイクに乗っているベテランライダーではあるが、教習所の教官ではない。教えるという意味ではド素人なのである。
まあ、いきなり運転させるのはマズイから、まずは8の字の押し回しからスタートした。車体の動きや重さに慣れさせる、という意味もある。
押し回しする際は、フロントブレーキレバーに必ず指をかけておく、というのは大事だ。人差し指と中指の2本をレバーにかけて、なんてところから練習はスタートした。
バイクが重くてグラリと倒れそうになったら、腕の力で保持するだけではなく、腰や太ももを車体に当てて、下半身の力でバイクを支える、ということも。
C125は車体が軽いから大丈夫だろうけど、いずれ旧友Tが大きいバイクに乗り換えるかもしれないので、知識として頭に入れてもらった。
C125は両ひざの間にフューエルタンクがないので、ニーグリップができない。なので、かかとやくるぶしの内側部分で車体をグリップすることも時には必要だよ、とアドバイスする。
そこまでしなくても平気、とも思うけれど、いわゆる老婆心というやつでしょうか。久々にバイクに乗る友人に、なんとしてもケガや事故なく安全でいてほしいと強く思ってしまうのであります。
さあ、バイクに乗ろう!
旧友Tは、不平も言わず筆者のアドバイスを素直に聞いてくれる。教えるほうのこっちが「ありがとう」と言いたいぐらいだ。
さてと、そろそろ走ってみる? 「うん」
乗車して、ミラーの位置を直し、ブレーキのタッチを確認して、セルボタンを押す。まずは直進と、ブレーキングを何度も練習。
ごく普通の速度で直進して、ごく普通に停止できるようになったら、今度は急制動。ある程度、加速させ、強く急ブレーキ。
ABSがあるからタイヤはロックしない、と頭では分かっていても、これがなかなか難しい。長年バイクに乗っているライダーだって、そう簡単にはできないことだから、Tには何度もチャレンジしてもらった。
そして今度は運転しながらの8の字。
最初のうちは顔がこわばっていたTも、徐々に楽しそうな表情に。
「バイク、楽しいな! そろそろ路上教習やりたい!!」
よーし、行くか!
友よ「無事之名馬」で
TにC125で前を走らせ、自分はハイエースでその後ろをついていく。
たまにフラつきながらも、なんとか走っていくT。加速も大丈夫だ。赤信号の交差点でもしっかり停まれている。ただし、右左折の際、ウインカーが……。
うまくウインカーが出せても、曲がり終わった後、消し忘れてしまうことが多いのだ。そのたびにクラクションを短く鳴らし、合図する。
「クルマだと、曲がり終えたらウインカーが勝手にキャンセルされるだろ? だから、つい……」
消し忘れはマズイんだよ。交差点で、直進するつもりのお前が右にウインカーを出しっぱなしにしてたら、右折待ちの対向車はどう思う? 「ああ、前方から来るあのバイクは右折するんだな。だったら自分も右折できるな」と判断するだろう?
でもお前は直進する。すると、どうなる? いわゆる右直事故が発生する。
ウインカーの消し忘れは、他にもいろんなケースでヤバイことになるんだ。
他にも伝えたいことがたくさんあるんだけど、今回はここまでにしようか。
無事之名馬(ぶじこれめいば)。少々能力が劣っていても、ケガもせずに無事に走り続けられる馬こそが、名馬なんだとさ。
これから旧友Tが、そんなバイクライフを送ってくれたらうれしい(旧友Tばかりじゃなく、すべてのライダーが、無事之名馬でありますように。僕ら「ForR」のスタッフたちは誰もがそれを願ってます)。
そんなこんなのC125リターンライダー講習会。教わる側も、教える側も、高校生のころに戻ったような気分で楽しんだのでした。
もちろん夜の二次会も、バイク談議で大盛り上がり。次は一緒にツーリングしような、T!