80年代のバイクブームはすごかった。ピークの82年で新車の販売台数が約320万台もあり、街中には原付スクーターから2スト大排気量車までバイクというバイクがあふれていた。一方で、バイクにまつわる文化も隆盛を極め、良くも悪くも社会に大きな影響を与えるようになった。その中には、現在でも目に見えて残っているものもあり、バイクブームの光の強さ、影の長さを実感するのだ。

バイクの普及・ブームと結びついた暴走族

戦後にバイクが普及し始め、全国に200以上のバイクメーカーが存在していた50年代半ば、マフラーを直管に改造するなど爆音を響かせていたカミナリ族が登場した。70年代初頭には、市街の中心地で危険な走行を行う集団として暴走族が登場、全国に広がっていった。暴走族のピークは、バイクブームとまったく同じ82年と言われており、構成員は全国で約4万2千人に達していた。

暴走族は、ジグザグ運転や信号無視といった危険走行をするだけでなく、各地のグループ同士が抗争を繰り広げ、連合派閥を形成するなどして社会問題化し、警察の取締りが厳しく行われた。族車と呼ばれる改造車両も取り引きされ、直管マフラー、ロケットカウル、三段シート、エビテールといった不正改造パーツや特攻服などのファッションアイテムも数多く販売されていた。

現在でも人気のある「なめ猫」、漫画や映画で人気だった「湘南爆走族」など暴走族・ヤンキー文化とも呼べるような盛り上がりを見せ、チャンプロード(笠倉出版)やヤングオート(芸文社)といった暴走族向け雑誌も部数を伸ばしていた。
族車

二輪車通行禁止区間の元凶、ローリング族

峠道のカーブをものすごいスピードで膝をすりながら往復するようなローリング族も、元をたどればカミナリ族から派生した。60年代、人々が集まる繁華街や広域公園、港湾部や河川敷といった場所でスピードを競い合うゼロヨンや「サーキット遊び(街頭サーキット)」が始まり、多くの若者がギャラリーとして集まるようになった。

警察の取締り、住民の反対運動などにより60年代後半には沈静化したが、その後、バイクブームの中でWGP(ロードレース世界選手権)や8耐(鈴鹿8時間耐久ロードレース)といったレース人気の盛り上がりと共に、70年代後半から全国の峠道などをレプリカバイク(レーサーマシンを公道走行可能な仕様にした市販バイク)などで走行する者が増え、転倒などによる交通事故が頻発した。警察は取締りや交通規制のほかチャッターバーやキャッツアイ、ポールの設置を行うなどの対策をし、90年代後半にバイクブームの終焉とともに減少していった。
ローリング

暴走族やローリング族がもたらした悪影響

暴走族もローリング族も、80~90年代のバイクブームの中で、高校生を中心とした若者・少年の間に広がりを見せた。「若者がバイクに乗って問題を起こす、命を落とす」という認識は世間に広く浸透し、82年にはPTAが三ない運動(免許を取らせない、バイクに乗せない、バイクを買わせない)を提唱し、瞬く間に全国の学校に広がった。 三ない運動は、12年以降、PTA組織による全国的な運動としては終焉を見ているが、自治体によっては現在でも厳しく続けられている。また、教育委員会が主導していない自治体でも各校単位で校則に残されていることが多い。

〇利用環境改善部会(WEBヤングマシン)
https://young-machine.com/motorcycle-usage-improvement/

また、ローリング族がもたらした山間の道路などに残る二輪車通行禁止区間は現在でも全国で約500か所ほどが確認されている。
通行規制〇二輪車通行規制区間の現状(日本二輪車普及安全協会 公式サイト) https://www.jmpsa.or.jp/society/roadinfo/

現在では、少年らによる暴走族は沈静化する一方で、かつて暴走族をやっていた、憧れていたという40~50代による暴走族風ファッション・車両による集団走行を目的とした旧車會が台頭。中には暴走族と変わらないような違法走行をする者もいるため、警察による取締りが行われている。また、ローリング族が残っているような峠道もあるが、かつてのような集団での走行、レースまがいの走行を行う者はほぼいなくなっている。

バイクブームは、国内のみならず、世界に冠たる4大メーカーを生み出した。日本がトップの品目が減っていく中で、バイクは相変わらず世界シェアNo.1をキープしている。しかし、足元の国内市場を見れば、三ない運動や通行規制などバイクブームがもたらしたネガティブな影響を未だに受けており、社会的な地位が向上しているとは言い難い。

いまバイクに乗ってくれている高校生や大学生は、親がバイク乗り、またはバイク乗りだったという子が多い。これからの若い世代のためにも、我々がバイクの利用環境を改善していかなければならないだろう。

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