なぜガソリン原付がなくなってしまうのか

▲サイレンサー部の根元に設置された触媒。アフターパーツも含め、今やすべてのマフラー部に触媒が収められている


ガソリン原付がいよいよなくなりそうだ。2025年11月、原付一種(継続生産モデル)に適用予定の国内第4次排ガス規制をガソリン原付はクリアできないからだ。

排ガス検査をクリアできない機械的な理由は、有害物質を浄化する触媒(キャタライザー)の特性にある。こうした触媒はいまや全てのバイクのマフラー内部に装着されているが、この触媒が浄化性能を発揮するためには、その本体温度が300度に達する必要がある。

▲エキゾーストパイプ内に収められた触媒(キャタライザー)※写真協力:株式会社アウテックス


ガソリン原付では、300度に達するのに約240秒が必要とされており、浄化作用が始まる前に有害物質であるHC(炭化水素)などの排出量が規定値を超えてしまい排ガス検査をクリアできない

125ccクラスであればマフラーの温度が上がりやすいため、約70秒で300度に達するので排ガス検査をクリアできるのだ。

▲ハチの巣のような触媒(キャタライザー)は300度に達してから浄化作用を発揮する装置 ※写真:株式会社アウテックス

代替商品は最高出力を制限した125cc

▲電動バイクはバッテリー交換ステーションとの兼ね合いもあり、都市部からの普及。原付ユーザーは100万人あたりでは四国・中国・九州地方が多く、まだまだガソリン車が必要だ


このままだと、販売店は電動車両以外に売るものがなくなってしまうが、現在の電動モデルの性能ではすべての原付ユーザーのニーズには応えられない。多くの販売店を支えているのは原付バイクの販売・メンテナンスであり、これは販売店にとっても死活問題だ。

また、ユーザーからすると2025年11月以降、継続生産モデルの在庫がなくなってしまうと、新車のガソリン原付は買えなくなり、やがて乗り換えにも困ることになる。

二輪業界はこの問題をクリアすべく、いくつかの手法を検討した。

① 現行モデルでクリアする
前述したように現行モデルでの4次規制クリアは触媒の性質により断念せざるをえなかった。

② 最高速度を制限し排ガス規制の対象から除く
車両の最高速度を50km/h未満に制限することで4次規制の対象車両からガソリン原付を外すことも検討されたが、加速・登坂性能などに影響してしまい十分な性能を得られない、満足できる商品にならないとして却下された。

③ 125ccクラスの最高出力を原付並みに制限して原付として運用
最後に残されたのが、東南アジアで大量生産・販売されている安価な125ccクラスを原付並みの最大出力(4kW)に制限し、原付として運用できるようにするというものだった。

最高出力を制限したこの125ccは“新基準原付”や“新原付”と呼ばれている。

二輪業界が自民党オートバイ議連・勉強会で要望

▲2022年11月9日、自民党オートバイ議連の勉強会で、二輪業界団体から「最高出力を制限した125ccクラスを原付として運用したい」という要望が提出され議論となった。


しかし、3つ目の手法を実現するためには、道路交通法や道路運送車両法といった法律の改正が必要となる。そのために、二輪業界は自民党オートバイ議員連盟・勉強会(2022年11月)において、国会議員のほか、警察庁、国交省、経産省といった関係省庁の担当者に説明と要望を行った。

▲自民党オートバイ議連の逢沢一郎会長(左)と今村雅弘幹事長(右)


現在は、警察庁が有識者会議を設置したり、車両の走行試験を行っているほか、二輪業界と関係省庁が必要な調整に追われているところだ。なお、2025年11月に適応モデルの販売を間に合わせるためには、今年の年末から車両の開発をする必要があるため、状況はかなり切迫していると言える。

▲自民党 政務調査会 二輪車問題対策プロジェクトチームの三原じゅん子座長

ユーザーにとってのメリット・デメリットとは?

▲東南アジアの安価な100~125ccクラスの最高出力を50ccクラスと同等の4kWに制限することで原付一種として運用したいというのが二輪業界の要望だ


出力制限した125ccクラスを原付として運用することにはメリットもデメリットもある。

●メリット
①選べるモデルが増える
アジア市場の主要モデルである100~125ccクラスには魅力的なモデルが多い。ガソリン原付のラインナップは縮小しているが、こうしたモデルが原付免許で乗れるようになれば、選べる楽しみが増える。

②車体の安全性が高まる
125ccクラスはフレーム剛性やブレーキ性能にも優れている。ABSなどの安全装置も備えており、全体的に車体に関する安心・安全を高められる。

③ 価格が抑えられる
適応モデルは東南アジアの安価なモデルをベースにする予定であり、適応による価格の上昇を最低限に抑えられる見込みだ。

●デメリット
①車体が大きく重くなる
車種にもよるが、50ccクラスと比べると車体は大きく重くなる傾向にある。ここをどれくらいのユーザーが許容できるかは普及のポイントになるだろう。

②足つき性が悪くなる
シート高についても50ccクラスよりは高くなる傾向があるため、なるべく700mmに近づけたいところだ。

新基準原付を運用する上での懸念点とは?

▲適応モデルはどこに駐めたらいいのか? これは新制度運用上の最も大きな懸念点かもしれない


新基準原付にはまだまだ不確定要素や懸念点が多い。これらは各省庁と二輪業界の調整により早急に示されていくだろうが以下のようなことが考えられる。

① バイク置き場はどこになる?
原付一種と同じく駐輪場でもOK? それとも自動二輪車と同じでバイク置き場?

② 自動車税は原付と原付二種のどっち?
原付一種と同じく2,000円? それとも原付二種(甲種)と同じで2,400円?

③ ひと目で原付二種と見分けられる?
新基準原付(二段階右折・30km/h制限・二人乗り禁止)と普通の原付二種はどう見分ける?

⑤ パワーが足りなくてつまらなくなる?
最高出力を抑えることでトルクはともかくパワーは大丈夫?

⑥ 違法改造にどう備える?
新基準原付の“リミッターカット”みたいな違法改造にはどう備える?

原付ユーザーの実情に沿った車体開発を

▲原付ユーザーには高齢者や女性のほかバイク通学に利用(指定)されている高校生もいる。学校側も対応を迫られそうだ


最後に、普及のポイントにもなるだろう車体開発について私感を述べさせて頂く。原付はそのほとんどが生活の足として使われており、利用者の多くは高齢者(60歳以上が42%、10代は6%)と女性(原付免許保有者の63%)だ。125ccの車体となることで、取り回しや足つきに不安を感じる方も多いことだろう。

最高出力の制限は、FIでの調整のほか様々な方法が検討されているようだが、メーカーとしては開発コストをなるべく抑えて車体価格を抑えたいだろうし、それはユーザーにとっても同じこと。

しかし、シート高やハンドル位置、車体重量などは、なるべく原付のサイズに近づけたいところだ。東南アジアのコミューターは大径14インチホイールを履いているイメージがあるが、原付同様に10~12インチホイールの車両もラインナップされている。

こうした車両も適応モデルに加えられれば、多くのユーザーが安心して乗り換えられるだろう。いずれにせよ、まだ約485万人もいるという原付ユーザーのニーズに沿った車両開発・運用となることを望みたい。

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事