金属部品の集合体であるオートバイを動かすためには車体各部の金属部品同士の摺動(しゅうどう)は避けられません。摺動とは部品同士を滑らせ動かすこと。摺動すれば部品は擦れ合い、必ず摩耗しますので、やがて車体全体が消耗していくことになります。
エンジンオイルを定期的に交換するのも、チェーンに注油するのも、この摺動による摩擦を低減させてスムーズに動かし、部品の摩耗を抑えるのが主目的です。
車体各部には、それぞれ高速で摺動する箇所、大きな荷重がかかる箇所、金属とゴムが摺動する箇所などが存在し、実はそれに応じた専用のグリスが必要だったりします。
ここでは、そんなグリス5種類を使用箇所や使用方法と共に紹介していきます。
グリスは種類や容量により数百円からありますが、全てを揃えるとそれなりの出費に。揃えるコストや安心感を考えると、作業をショップにお願いする方が良い場合もあります。この記事を読んで、自分でトライしたい方、知識を蓄えたい方はぜひ参考にしてくださいね。
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ペースト状の万能リチウムグリス 低速で荷重がかかる部分を中心に幅広い箇所に使える!
ヤマハ グリースBなどに代表される「リチウムグリス」は、ペースト状の万能グリス。幅広い箇所に使うことができるので、ひとつ持っておくとかなり便利です。また、粘度が高いので潤滑したい箇所に留まりやすく、長期間に渡り高い潤滑性を見込むことができます。金属と金属の摺動部分に使うことができます。
代表的なところでは、
・レバーの付け根
・ホイールやステムなどのベアリング部分
・サスペンションの受け部分
・アクスルシャフトの錆止め
などなど、いろいろな箇所に使うことができます。
缶タイプの他にチューブタイプも販売されています。手が汚れづらいので便利です。
更に高速で高荷重がかかるサスペンションブッシュなどにはリチウムグリスに二硫化モリブデンを配合した「モリブデングリス」を使用しますが、日常の軽メンテではリチウムグリスがあれば事足ります。
ゴムと金属の摺動部に使用する シリコン系グリス
摺動抵抗が発生するのは金属と金属の摺動部分だけではありません。金属とゴムが摺動する箇所にも抵抗が発生します。
フロントフォークのゴムシール(ダストシールとオイルシール)とインナーチューブ(ハードクロームメッキ)の摺動箇所が代表的です。
ここをシリコングリスで潤滑すると動きが格段に良くなります。
また、あまり自分では手を出さない箇所かもしれませんが、ブレーキキャリパーのピストンとシールとの摺動箇所もシリコングリスで潤滑すると、ブレーキの引きずりが軽減し、作動性が良くなります(作業時にブレーキパッドやブレーキディスクに付着しないように細心の注意を払ってください)。
その他にも、
・ホイールベアリングのダストシールとカラーの摺動部分
・ブレーキやクラッチのマスターシリンダーのピストンシール部分
・Oリング部分
など、ゴムと金属の摺動箇所に使用できます。
スプレー式で金属とゴムの摺動部の潤滑性向上に高い効果を発揮する「cci メタルラバーMR20」もおすすめのケミカルです。
チェーンはもちろん他にも使える箇所がある!? チェーングリス(オイル)
チェーングリス(オイル)はスプレー式で浸透性が高いのが特徴です。また、吹き付け後は粘度が高くなって飛散しにくい製品が多いです。グリスアップ時はチェーンの内側から全周に渡ってスプレーして、余分を拭き取っておきます。
また、チェーングリスを吹き付ける前にチェーンの汚れを落としておきましょう。汚れの上からオイルを塗り重ねると余計なフリクションとなる恐れがあります。
チェーングリスは、スプレー式なのでチェーン以外にも使える場面が少なくありません。
例えばサイドスタンド付け根の摺動部は、グリスが切れると途端に動きが悪くなりますが、これを分解してグリスアップするのは結構な手間になります。
ここにチェーンオイルを吹き付けて、スタンドを何度か作動させれば、グリスが浸透して動きが格段に良くなるはずです。
防錆潤滑剤 緩まないネジに吹き付けたり油汚れ落としにも!
5-56などに代表されるスプレー式防錆潤滑剤は、粘度が低く浸透性が高いので、固着したボルト、ナットに吹き付けたり、錆びついて固着した摺動箇所などに使用します。
バイク以外の家庭内で潤滑が必要な場面、玄関ドアの蝶番などにも使用できるので一家にひとつはあるかもしれません。
ただ、潤滑性はそれほど長持ちしないので、バイクの車体に使える箇所はあまりありません。
しかし、この防錆潤滑剤は油汚れ落としに抜群の効果があります。例えばスイングアームに飛び散ったチェーングリスの汚れはパーツクリーナーでも簡単には落ちませんが、ウエスに防錆潤滑剤を吹き付けて拭けば、簡単に落とすことができます。
実は油汚れ落としに抜群なのが防錆潤滑剤なのです。
粘度が高すぎても低すぎてもいけない ワイヤーグリス
クラッチやスロットルなどのワイヤー内部も潤滑が必要な箇所です。しっかり潤滑されていれば、インナーワイヤーの摩耗を抑制し、破断を防ぐことができますし、抵抗が軽減されて操作がスムーズになります。
ただ、ワイヤー内部の潤滑を行うためのグリスは硬すぎれば動きがかえって悪くなることもあるし、防錆潤滑剤などは潤滑性が長持ちしません。
だからこそ、専用の「ワイヤーグリス」を使用するのがお薦めです。
ワイヤー内部のグリスアップを行うのは専用工具のワイヤーインジェクターがあるとスムーズに作業できます(写真の青と金色の工具)。
ただ、ワイヤーのグリスアップには、ワイヤーのハンドル側を外す必要があるので、正しい知識と工具が必要です。自分で作業するのが難しい場合はショップに依頼するのがお薦めです。
すべて必要な訳ではないけれど、あると役立つ専用グリス!
メンテナンスはすべてプロに依頼している人は自分で買う必要はないですし、例えばチェーンのグリスアップとレバー交換くらいはするというのであれば、全てのグリスの用意する必要はありません。今回紹介した「リチウムグリス」と「チェーングリス」があれば万全です。種類やブランド、容量により値段もまちまちです。
自分で行うメンテナンスに合わせて適材適所のグリスを使い分けましょう!