バイクで走る以上は、季節や天候を問わず雨対策が欠かせない。個人的な装備で言うと、レインウェア、ヘルメットシールドの曇り止め・撥水剤・ティッシュペーパー、さらには仕事で乗る場合に備えて靴や足を濡らさないためのブーツカバー(ラバー製)を携行している。
そして最近導入して、これはやめられないなと思ったアイテムが、今回紹介するアライヘルメットの「VAS-V ダブルレンズシールド」だ。もともとは雨天のレース中にシールドの内側が曇らないようにするためのオプションシールドだが、実はこれ、常時使いたいほど使い勝手が良いのだ。

▲アストロGXに装着した「VAS-V ダブルレンズシールド」(クリアー・税込12,100円)

▲アストロGXに装着した「VAS-V ダブルレンズシールド」(セミスモーク・税込12,650円)
Contents
原理はピンロックシールドと同じだが、構造が違う
前述したようにダブルレンズシールドの目的はシールドの内側を曇らせないこと。と言うと、ピンロックシールドを思い出す人が多いと思う。この2つ、曇らせないための原理はまったく同じで、シールドとピンロックシートの間に中空状態を作って断熱し、外気温とシールド内側の温度・湿度差を平準化してシールドの内側を結露させない(曇らせない)仕組みだ。

▲ダブルレンズシールドやピンロックシールドは、雪国の住宅で見られる二重窓と同じ構造だ。※アライヘルメット公式サイトより引用
では何が違うのかというと、その構造。ピンロックシールドの多くは別売りされたシートをユーザーが自分自身でシールドの内側に貼り付ける(固定する)ものだが、ダブルレンズシールドは購入時から外レンズと内レンズが両面テープで接着されており、1枚のシールドとなっている。

▲ピンロックシールドだとシートの装着具合がユーザーの腕次第となるが、ダブルレンズシールド(写真)ならすでに接着されているので失敗の恐れもない
さらに、ダブルレンズシールドの大きな強みとして「ウェザーストリップ」の装備がある。シールドの上部から雨水が入るのを防ぐためのものだが、これがあるおかげでシールドを少し開けた状態でも雨水の浸水を気にせずに走ることができる。なお、ウェザーストリップがないシールドでこれをやるとシールドの内側に雨水がまとわりついて視界不良となり、夜間は対向車のライトが乱反射してまともに走れなくなるため大変危険だ。

▲矢印部の黒いラバーがウェザーストリップ。シールドの上面に沿って装着され、シールド全閉時にはヘルメットのシェルと密着している
また、素材については、外レンズには2mm厚のポリカーボネイト、内レンズには0.8mm厚のアセテート(同社ピンロックシートと同じ材質)が使われており、両面テープ部の厚さは1.2mmのため、ダブルレンズシールド全体でも厚さはわずか4mmという薄さだ。

▲ダブルレンズシールドの内側を下から撮影。内レンズの接着部でも厚さはわずか4mm
ピンロックシールドが曇るというリスクについて

▲鍋でお湯を沸かせてその上にダブルレンズシールドをかざしてみる。中空構造なのですぐには水滴がつかない

▲普通のシールド(他社製ジェット用)だとかざした瞬間に全体がばっと曇ってしまう
ピンロックシールドの場合は、ユーザーの貼り付け方ひとつでわずかな隙間ができてしまうし(微妙な装着失敗)、シールドとシートの間にあるシリコンシールが劣化・硬化し始めると隙間が開くようになる。こうした要因により、わずかな雨水や吐いた息が中空部に侵入し曇りや浸水を発生させてしまう。

▲ピンロックシートの装着にはちょっとしたコツがいる。筆者も得意とは言えず… これまでにも微妙にずらして装着したり、裏と表を間違えて装着したことがある

▲シリコンシール部が劣化・硬化することにより隙間ができるようになる。写真はシールドとピンロックシートの間に付箋が通るようになってしまった箇所。曇りや浸水はここから発生する
ピンロックシートを使っていて、大雨の時や極寒時にわずかな曇りの発生を経験したことのあるユーザーは多いだろう。筆者にも経験があるが、これは極限状態の走行時にとても大きなストレスとなるし、クリアな視界を妨げてしまって危険極まりない(特に夜間の高速走行)。ダブルレンズシールドにはそういうリスクがないのだ。
メガネ着用者は、曇り止めレンズを選択しよう
なお、いくらダブルレンズの防曇性能が優れていようともメガネのレンズが曇っては意味がない。ダブルレンズシールドをしっかり閉めて、冷たい、または湿度の高い外気をシャットアウトしてしまえば普通のメガネでも曇ることはない。
ただし、厳寒期などメガネのレンズが冷えた状態でヘルメットをかぶったり、信号で止まった際にシールドを開けた後などは、自分が吐いた息でメガネのレンズが曇ることがある。この状態でダブルレンズシールドを密閉しても曇りはすぐには取れない。
なので予め曇り止めレンズを使用したメガネがあると万全なのだ。筆者はこのためだけに普段使いとは別に曇り止めレンズを選択したメガネを併用している。

▲バイク用に購入した曇り止めレンズをはめたメガネ。これによりシールドの内側でメガネだけが曇るということもなくなった。丸型にしたのは前傾時でも前方視界を確保するため
ダブルレンズシールドのデメリット

▲ダブルレンズシールドのセミスモーク。1万2千円を超える価格は安いとは言いえないが、それ以上の安心感とライディングへの没入感が得られる
ここまでピンロックシールドと比べてのメリットを書いてきたが、ダブルレンズシールドにもデメリットはある。まずは何といっても価格。筆者がメインで使っているアストロGXが採用するVAS-Vシールドシステムに装着するタイプだと税込で1万2千円強となる。オプション設定されているピンロックシートだと3千円強なので、約4倍のコストとなってしまう。
ただし4倍の価格差を埋めて余りある安心感が得られるのは間違いなく、ピンロックシートの装着が苦手な人も含め、季節や天候に関わらず、よくバイクに乗っているライダーほどマストなアイテムだと感じられるはずだ。
次に、アライヘルメットではお馴染み、シールドの上部左右に装着されたエアインテーク「ブローシャッター」が使えなくなること。ダブルレンズシールドにはブローシャッターがないので、冬場はともかく夏の炎天下だとヘルメット内の冷却性能に影響が出る。
アストロGXの場合はフロントのロゴダクトなどで補うこともできるが、エアインテークやベンチレーションの少ないヘルメットだとデメリットに感じられるだろう。

▲赤丸部がブローシャッター。シールド上部に横長の穴が開いており開閉可能。ヘルメット内に外気を取り込むエアインテークだ
MotoGPレーサーが常用する理由とは?

▲Moto2時代の小椋藍(おぐら あい)選手もスモークのダブルレンズシールドを装着していた ※写真:HRC
ダブルレンズシールドはもともとレース専用品なので当たり前だが、MotoGPなどのレースを見ていると雨天でもないのにダブルレンズシールドにティアオフシールドをつけている選手が多いことに気づく。これはなぜだろうか。アライヘルメットに伺った。
●アライヘルメット広報担当者
「天候の悪い状況で使用するということではレースでも同じですが、上方視界を得るときに視界上のブローシャッターが気になるという一部のライダーがブローシャッターのないダブルレンズシールドを使っています。晴れでも使いたいので色の濃いスモークタイプを使っており、それはレース専用パーツなので市販されていません」

▲雨天のレースでダブルレンズシールドを装着したMotoGP時代の中上貴晶選手 ※写真:HRC
市販されているダブルレンズシールドはクリアーとセミスモークの2種類だが、レース専用品のスモークタイプはかなり色が濃く、光の当たり方によっては真っ黒にも見える。スーパースポーツに乗るなどレーサーレプリカスタイルを極めたいというライダーにもオススメのアイテムだろう。
ダブルレンズシールドの交換時期は?

▲ダブルレンズシールドは標準のシールドよりも固さがあるので、シールドの開閉が渋くなることも。シールド装着時にはシールドベースとの可動部にシリコンオイルを塗るとよい
高価ながらメリットの大きいダブルレンズシールド。気になる交換時期はこのような症状が出た時だ。
①外レンズに大きな傷が入った時
外レンズは傷つき防止を目的としたハードコート仕様だが、傷がついた場合は消すことができないので交換となる。なお、アライヘルメットではメンテナンス時のシールドケミカルを全て検証しているが、推奨しているのは中性洗剤でのメンテナンスのみだ。
②外レンズと内レンズの接着部に隙間が開いた時
シリコンシールで密着させるピンロックシールドに対して、ダブルレンズシールドは外レンズと内レンズを粘着剤が付いた両面テープで接着しているので、シールドを広げても隙間はできない。ただし経年劣化などにより接着部に隙間が開いた時には修復できないので交換となる。
③内レンズの防曇(ぼうどん)性能が落ちた時
内レンズ自体の防曇(防湿)性能が落ちてきた場合はメンテナンスではなく交換となる。
まとめ:通勤・ツーリングでこそ、ありがたみがわかる
もともとはレース用のアイテムだが、雨天や厳寒期でも視界を確保しながら安全に運転できるという点で、通勤やツーリングにこそメリットが大きいのではないだろうか。価格に見合った効果を上げてくれるので、ぜひ一度使ってみてほしい。