風景に息を吞んだ、初めての八幡平

 初めて訪ねたときは、衝撃を受けました。東北を代表する山岳ワインディングロード、全長約27kmの八幡平アスピーテライン。ぐいぐいと標高を上げながら、いくつものコーナーをクリアしていくと、それまで経験したことのない山岳風景が目の前に広がり始めます。見渡す限りの原生林。水面に空を映して輝く湖沼。向こうには青々とそびえたつ岩手山。人工物は、いま走っているこの舗装路だけで、あとは大自然そのままの姿が延々と続いていくのです。こんな場所、あるんだな。当時20代で、まだまだ世間知らずだった筆者にとって、その風景はどこか崇高さを感じさせるものでもありました。

冬季閉鎖解除後は、雪の回廊が楽しめる

八幡平アスピーテライン

 冬は深い雪で覆われ、一面の銀世界となる八幡平。アスピーテラインももちろん雪のため、冬季通行止めになります。2021年の開通は、4月15日10時から。開通後すぐは、除雪車によって築き上げられた雪の壁が、道路の両脇に延々とそそり立っています。
 まさに雪の回廊。こんなシチュエーション、滅多に経験できることじゃありませんよね。シーズンにもよりますが、通常は毎年ゴールデンウィーク頃まではこんな状況が楽しめます。

猛暑の夏なら涼を求めて訪ねるのもいい

八幡平アスピーテライン

 岩手県と秋田県の両県にまたがる八幡平は、東北地方の背骨ともいえる奥羽山脈の、北部に位置する山岳群です。アスピーテラインは、その山岳群を越えて東西に横断する山岳道路ですから、標高も高い。一番の高所は県境の「見返峠」で、1613mもあります。ただでさえ涼しい北東北で、さらに標高が1600mレベルとなると、真夏でも長袖を着ていないと寒いぐらい。それがバイクともなれば、なおさらです。
 ちなみにアスピーテとは、盾を伏せた形の火山の意味。火山地帯だから周辺一帯には名湯・秘湯の温泉宿が点在していて、走りと景色を堪能したら、ひと風呂浴びるというのもオツなもの。

後生掛温泉の変わり湯の後は

後生掛温泉

 八幡平アスピーテライン沿いの秘湯の中で、代表的な存在なのが「後生掛(ごしょがけ)温泉」。県境の見返峠から秋田県側に降りていった先にあります。施設の裏からは、もうもうと湯けむり。硫黄の匂いも濃厚です。
 後生掛温泉には懐かしい湯治部があり、地元の方が療養のために長逗留したりも。昔から「馬で来て足駄で帰る後生掛」といわれるほど、温泉の効能が高いのです。
 湯治部の部屋にはオンドル式もあり、地熱によって部屋が暖められているため24時間いつでもポカポカ。筆者が以前6月に泊まったときは、地元の爺ちゃん婆ちゃんたちがタケノコ(ネマガリタケ)採りをするために宿泊利用していました。湯治部で自炊して宿代を節約しながら、趣味と実益を兼ねてタケノコ採りを愉しむ。歳を取ったら見習いたいなあ。

後生掛温泉

 後生掛温泉は、湯治客や宿泊客だけでなく、「日帰り湯」利用の方にも大人気。浴室に7種類のユニークなお風呂が用意されているところも。7種類というのは、こうです。
◎木箱から首を出して温まる「名物箱蒸風呂」
◎自然の蒸気を利用した「サウナ風呂」
◎全身温湿布作用の「泥風呂」
◎マッサージ効果の「打たせの湯」
◎神様の恵みがしみわたる「神恵痛の湯」
◎気泡の流れが肌を美しくする「火山風呂」
◎季節を感じる「露天風呂」
 湯気で赤茶けた壁板や、温泉の成分でヌルヌルした床板が庶民的で愛おしい、歴史を感じさせる木造の大きな浴室。創意工夫を凝らした7つの風呂は、まさに温泉ワンダーランドです。
後生掛温泉公式サイト

味噌たんぽ

 お風呂を出たら、ひと休み。汗がひいたら、オヤツをどうぞ。後生掛温泉の売店では、秋田名物の「きりたんぽ」に甘じょっぱい味噌を塗って焼いた「みそつけたんぽ」が売られています。きりたんぽとは、炊き立てのご飯をすりこぎでついて半分ほどつぶし、それを串に握りつけて炭火で焼いたもの。後生掛温泉のある秋田県鹿角市は、きりたんぽ発祥の地。ご当地に足を運び、そこで食べるからこそおいしいのが「旅めし」です。特に新米の季節のきりたんぽは絶品。八幡平は紅葉も美しいので、一石二鳥でしょう。
 ということで、春は「雪の回廊」、夏は「避暑」、秋は「紅葉ときりたんぽ」と、いつ来ても素晴らしいのが八幡平。貴方もいつか、ぜひ!

八幡平アスピーテライン

 

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