1980年代から90年代にかけて、関東最大の「走り屋の聖地」だった大垂水峠。人気を博したマンガ『バリバリ伝説』の影響もあってか、週末の夜はものすごい数の走り屋とギャラリーが峠を埋め尽くしていたものです。今はどんな感じなのかと訪ねてみたら……、というのが今回のお話。

大垂水峠とは

大垂水峠

 大垂水(おおたるみ)峠は、東京都八王子市と神奈川県相模原市の境にある峠で、国道20号線の一部区間でもあります。峠のピークの標高は、392m。まあまあ高い。
 峠の道は標高の低いところから高いところに向けて、弧を描きながら上がっていくわけですから、カーブがどんどん積み重なっていく。カーブが続くと、ふつうの人は嫌がるものだけれど、「これは楽しいぞ!」と喜ぶ人もいる。そう、バイクに乗る私たちのことですね。
 コーナリングがきれいに決まると、実に気分がいい。また、腕のあるライダーがコーナーを素早く駆け抜けるのを見ると、カッコいいなと思う。
 空前のバイクブームだった1980年代は、全国の峠に、やる気満々の走り屋たち、そしてそれを眺めるギャラリーが集まり、お祭り騒ぎのような状態になっていました。 

 大垂水峠はその代表格でしょう。当時ハタチそこそこだった筆者も、何度かバイクで向かったことがあります。いや、ツーリングの帰りにたまたま通りかかっただけですけどね。あの熱気はすごかった。片側1車線の狭い峠道を、何十台ものバイクが駆け抜ける。コーナーでヒザを擦りながらハングオンで走るライダーもいる。一般道なのに革ツナギ姿のライダーもたくさんいました。そんな時代だったんです、80年代は。

大垂水峠は今

 大垂水、今どんな感じなんだろう。ふと懐かしくなって、先週の土曜、バイクで出かけてみました。
 国道20号を東京側から走っていくと、登山客でにぎわう高尾山のふもとを過ぎたあたりから徐々に寂しい山道になり、古びたラブホが何軒か見えてきます。
 それも過ぎると道は少しずつ勾配を上げ、峠っぽく曲がり始めます。
 そういえば大垂水って、昔は「おおだるみ」と呼んでたよなあ。正しくは「おおたるみ」なんだっていうのを、最近になって知りました。
 けれども道沿いにあった神奈中バスのバス停には……。

大垂水峠

 「おおだるみ」とある。こっちのほうが筆者としては、しっくりきます。

 この日は三連休の初日ということもあり、まあまあライダーも見かけました。でもだいたいはソロで、誰かとバトルすることもなく、ふつうの速度で走っています。当時とは印象がまったく違う。
 当時と違うのは、路面もそう。

大垂水峠

 熱狂の渦中にあった80年代は、あまりにも事故が多かったため、警察は取り締まりを強化。それでも走り屋たちは峠にやってきたので、その後カーブというカーブに、赤い段差舗装が施されてしまいました。注意喚起という意味もあるんでしょうが、これをやられると走りにくくてしょうがない。クルマならまだしも、バイクだとかえって危険なんじゃないかと感じます。
 しばらく行くと、左手に廃墟が。

大垂水峠

 当時、大賑わいだった旭山ドライブイン。駐車場にはたくさんのバイクが並び、多くのギャラリーが走り屋たちのバトルを眺めていました。そしてこの駐車場に、ひと勝負を終えた走り屋たちが続々とピットインして、また次の勝負へ。
 現在は駐車場入り口に柵が置かれ、「立ち入り禁止」の張り紙が。〈夏草や、つわものどもが夢の跡〉ですね。

ライダーズカフェがオープン!

BIKERS BAKERY

 旭山ドライブイン跡を過ぎ、あともう少しで大垂水峠も走り終えるのかなと思えた大きな右カーブ。路肩に飲食店らしきものが見えてきます。

BIKERS BAKERY

 その名は「BIKERS BAKERY(バイカーズベーカリー)」。2022年7月15日にオープンした、ライダーズカフェです。営業しているのは土・日・祝日のみ。駐車場入り口の看板には〈バイク、自転車、徒歩の方はOK、クルマはNG〉というようなサインがありますが、空いていればクルマもOKだとか。

BIKERS BAKERY

 バイクは建物の前の、ブロック敷き部分に駐車します。

BIKERS BAKERY

 注文は、駐車場に入ってすぐ左側の建物で。

BIKERS BAKERY

 数種類のコーヒー(400円~)、ソフトドリンクの他、ご覧のような軽食も。

BIKERS BAKERY

 筆者が注文したのは、チリビーンズとチョリソーが入ったピタ(写真右)と、冷たい水出しコーヒー。ピタは地中海沿岸や中東で食べられている円形のパン。中のチリビーンズが本格的なお味で絶品。コーヒーはお店で自家焙煎したものだそうで、おいしかったです。

BIKERS BAKERY

 いただくのが外のベンチ、というのもいい雰囲気。大垂水峠を走行中のバイクが目の前で眺められるし、駐車スペースに停めた自分の愛車や、他のお客さんのバイクも眺められます。

BIKERS BAKERY

 3つある建物のうち、真ん中の一棟はガレージ。エアコン完備なので〈真夏で暑すぎる!〉という日はガレージ内で飲食できることも。

BIKERS BAKERY

 これはガレージ内の様子。外の雰囲気もガレージ内も、いかにも山の中のライダーズカフェって感じです。

BIKERS BAKERY

 ガレージ内には車両整備のための工具類がズラリ。この工具類は貸し出しもしていて(料金は1時間につき千円)、店の敷地内で愛車のメンテナンスをすることも可能。
 カフェのオーナーさんはとても気さくでフレンドリーなライダーでした。ご出身は九州で、高校時代に走り屋系バイク雑誌『バリバリマシン』を愛読し、同誌でよく特集されていた大垂水峠に憧れを持っていたのだとか。
 カフェの営業日が土・日・祝日なのは、平日に別のお仕事をなさっているからだそうで、ここの物件がたまたま売りに出されているのを知り、だったら買い取ってライダーズカフェをやろう、週末限定だけれど、憧れていた大垂水峠にライダーの集う場所が作れたら最高じゃないかと。
 同じバイク好きの仲間たちと力を合わせ、古い建物をコツコツ修復しながら開業へと漕ぎつけた、そんな様子がYouTubeにアップされています。
BIKERS BAKERY Channel

BIKERS BAKERY

 久しぶりに訪ねた大垂水峠。
 80年代の熱狂を知る者としては寂しい部分もあったものの、熱烈バイク好きのオーナーがこんなライダーズカフェをオープンさせたのを知り、うれしい気分に。
 ライダーズカフェによっては、常連客が幅を利かせていたりして、ひとりでブラリと訪ねた際にアウェー感に打ちひしがれたりすることもありますが、ここは違いました。オープンエアという解放感も、味方してくれるのかなあ。
 これからは大垂水峠、ときどき通っちゃいそうです。

■BIKERS BAKERY
神奈川県相模原市緑区257-1
営業:土・日・祝日の9時~18時(悪天候の場合は休業することも)
Instagram https://www.instagram.com/bikersbakery/
Twitter https://twitter.com/BIKERSBAKERY
Facebook https://www.facebook.com/Bikers-Bakery-107170415370036/

 

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事