スーパーカブC125を所有する旧友Tを誘い、クロスカブ110に乗って郷里の岩手県をツーリング。走ったのは奥羽山脈の東麓を南北に縦断する岩手県道1号線。信号機のある交差点がほとんどないようなカントリーロードはノンストップの快走路でした。今回はこのルート上にあるおすすめ立ち寄りスポットを2ヵ所、ご紹介します。
深山ムード漂う山間路
岩手県道1号線は、岩手県盛岡市から岩手県和賀郡西和賀町を通り、秋田県横手市まで延びる道。今回は盛岡市の御所湖(ごしょこ)から、西和賀町の錦秋湖(きんしゅうこ)までの約52㎞を走りました。
交通量は少ないし、真夏だからか歩行者も見かけないし、実に走りやすい県道1号。山々の緑が延々と続くこの道について、昭文社『ツーリングマップル東北』の取材者・賀曽利隆氏はこうコメントを寄せています。
「深山ムード漂う山間路」
「自分だけの世界に入り込んだような気分」
なんという誉め言葉! でも世界中をバイクで駆けまわった生涯旅人のカソリさんがそう評してくださっているのですから、間違いはありません。
ツーリング中はクロスカブ110とスーパーカブC125を何度も取り換えっこしながら乗り比べてみたので、詳細を知りたい方は「『クロスカブ110』vs『スーパーカブC125』岩手県道1号線ツーリング(前編・車両比較の巻)」もご覧ください。
農家食堂およね
旧友Tに「いい食堂があるんだよ」と連れられてきたのが、農家食堂およね。県道1号沿いにその食堂はありました。
地元・西和賀町のかあちゃんたちが切り盛りしている食堂だそうで、手打ちそばがうまいのだとか。
のれんをかき分けて店に入れば、12時よりちょっと早い時間だったためか、客は僕らのみ。
店内は広く、だからなのか、端午の節句はとっくに過ぎたというのに立派なこいのぼりが飾られています。
注文は前金制。メニューの書かれた黒板が、数名のかあちゃんたちが働く厨房の前にありました。
おすすめ、と書かれていたのは、およねそば。山菜そばのようです。西和賀町は昔から山菜やキノコの名産地。これは期待ができそうということで、冷たいおよねそばを注文。
およねそばが完成するまでのあいだ、店内を物色。岩手の伝統銘菓「岩谷堂羊羹」や、西和賀町産の赤唐辛子を醤油漬けにした「ピッ辛」、地元・西和賀産業公社の「西わらびのピクルス」などが売られています。おみやげに喜ばれそう。
こっちはおみやげに喜ばれるかどうか好みの分かれるところでしょうが、ハンドメイドのファッションアイテムも展示。
手作りの通帳入れは、いろんな柄のものがあってひとつ1200円。「郵便局に行く時に便利よ!!」だそうです。こういうのは作り手の工夫とか、優しさなどが感じられて、見ていて本当に楽しい。大量生産された工業製品にはない、ぬくもりが感じられます。なんて感心していると、およねそば、完成した様子!
「およねそば」は山菜たっぷり!
なんという山菜の量!
筆者がよく利用する立ち食いの山菜そばは中国産のものが、ほんのわずかに盛られている程度ですが、国産のわらび、なめこ、たけのこがこれでもかと盛られています。そのほか、小鉢にも山菜が。
たけのこは、歯ごたえのいいネマガリタケ(根曲がり竹)。東北や北海道でたけのこと言えば、これなのです。正式な名称はチシマザサ(千島笹)で、雪などの重さで根元が曲がって生えることが多いためにネマガリタケと呼ばれているもの。
ネマガリタケは冬眠明けのクマにとってもごちそうだから、東北のたけのこ狩りは命がけなんですよね。クマも人間も、たけのこ狩りに夢中になっているうちに至近距離で遭遇、というのが一番怖い。
その日に提供する分だけを手打ちするという二八そばもうまかったです。太さがちょっとばかり不揃い、というところも筆者好み。
およねそばをいただいていると、12時を回ったためか、お客さんが続々と来店。広かった店内は、あっという間に満席状態。
農家食堂およね(ドライブインおよね、とも呼ばれています)、かなりの人気店でした。
貴重なマタギの資料館
そんな農家食堂およねの、すぐ真向かいにあるのが碧祥寺(へきしょうじ)。真宗大谷派に属し、およそ380年の歴史を持つ碧祥寺には、5つの資料館からなる博物館があります。それが碧祥寺博物館。
このうちのひとつ、第4資料館(マタギ収蔵庫)も今回、訪ねたかった場所。
マタギというのは、東北から北関東・甲信越地方の山々で、伝統的な手法を用いて狩猟を行なってきた狩人たちのこと。
入館料をお支払いして中に入れば、たくさんの剥製が。
ツキノワグマ、タヌキ、キツネ、イタチなどなど、すごい数です。
碧祥寺博物館の第4資料館には、マタギの資料や狩猟用具などが486点も収蔵されているのだそう。
このマタギ収蔵庫は、国指定重要有形民俗文化財。マタギが猟で使用した銃や山刀、衣類などが展示されています。
雪山での狩猟って、今の僕らじゃ想像できないほど過酷だったはずですよね。当時は軽くて暖かいダウンジャケットやフリースもないし、透湿防水素材のゴアテックスもありません。ヒートテックだってない。
そこを木綿や綿入れや毛皮で挑むのですから、かなりの知恵や工夫、そして経験が必要だったことでしょう。
岩手県で沢内と記されているのは、この碧祥寺がある土地。沢内村は2005年に隣接する湯田町と合併し、今の西和賀町になりました。
沢内村は周囲を標高1000m級の山に囲まれ、冬は2m以上もの雪が積もる豪雪地帯。この地はマタギによって開拓された村だともいわれています。
マタギ発祥の地とされる秋田県の阿仁から、岩手県の沢内は奥羽山脈の山を越えてすぐの距離ですので、大いにあり得る話です。
県境をはるかに越えて猟に出かけ、行った先々の土地でクマの胆や肉を売り歩いた旅マタギの中には、遠征先で婿養子に入ってマタギ文化を伝えた者も少なくないそうですから。
というわけで、岩手県道1号線。もしバイクで出かける機会があればぜひ、農家食堂およねと碧祥寺にもお立ち寄りください!
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