ツーリングやドライブの途中、軽食やトイレのために立ち寄るとしたら、どういった施設を利用しますか? いまならもう多くの方が「道の駅」、「パーキングエリア」や「サービスエリア」、あるいは「コンビニ」などを利用するのではないでしょうか。でも昭和は違いました。そう、「ドライブイン」です。すっかり激減してしまったそのドライブイン、見かけると懐かしくなって、つい立ち寄っちゃうという方も多いのでは?

ドライブイン「仙岩峠の茶屋」

仙岩峠の茶屋

 岩手県盛岡市在住の旧友Tを誘って、秋田県の田沢湖へツーリングに出かけた今春。岩手県と秋田県を結ぶ国道46号線、その途中の仙岩峠(せんがんとうげ)にドライブイン「仙岩峠の茶屋」があります。
 長い長い仙岩トンネルを抜け、さらにいくつかの短いトンネルを抜けると、生保内川(おぼないがわ)を見下ろす絶壁の上に突如として現れる、古めかしいお店。
 創業は昭和41年。西暦で言えば1966年です。険しい峠越えを果たした昭和のトラック運転手やバイク乗りにとって、他に民家も何もない場所にポツンと建つこのドライブインは、広大な砂漠で見つけたオアシスだったはず。
 筆者の乗るXSR700も、旧友TのC125も、当然このオアシスに吸い込まれていくのでありました。

求心力の高い店構え

仙岩峠の茶屋

 だいたいこのノスタルジックな店構えが、何よりも人を惹きつけて止まないのです。
 しかも店舗入り口周辺には、おでん、峠の名物、おでんと山菜そば、おでん、山菜そば、おでん……の文字。それほどまでにして「おでん推し」するのですから、こっちとしても気にならないわけがない。

時が止まったかのような店内

 入り口のアルミ戸は、タイムマシンの扉。
 店内へ入ると一気に昭和へスリップ。

仙岩峠の茶屋

 天井に吊るされた小さな赤提灯が、昭和の観光地の食堂を思い出させます。奥の壁には懐かしいペナントなんてものが飾られているんじゃないかという気にもなります。
 注文はレジで食券を買うところから始まるというスタイルも、クラシカルじゃありませんか。

仙岩峠の茶屋

 テーブル席以外に、小上がりもあります。けっこう広い。有名な書道家の方による作品も飾られ、そこにも「名物おでん」の文字が。
 ああもうここまで強くアピールされたらおでん一択、てなことでレジで食券を買い、眺めのいい奥のテラス席へと向かいます。

仙岩峠の茶屋

 生保内川を見下ろすテラス席。ガラス窓には「フジカラー」のステッカー。ロゴも古いなあ。スマホで写真を撮るのが当たり前の若い世代には、意味がわからないかも知れません。昔は旅先でネガフィルムを買い足したものなのです。ネガフィルムって何? となりそうなので先へ進みます。
 お店の方がお茶を出してくれました。これも昔懐かしい白地に藍色の柄が入った、何の変哲もない湯呑み茶碗。番茶をすすりながら待つことしばし。

昭和ノスタルジー「甘口おでん」

 ついに運ばれてきたのがこれ。「仙岩峠の茶屋」名物、一番人気の甘口おでん。

仙岩峠の茶屋

 大根、玉子、こんにゃく、さつま揚げ、昆布、ちくわ。創業当時から変わらぬ6種類の組み合わせ。1人前800円。おでんは単品でも注文でき、その場合は1個130円から。
 先代から受け継がれてきたという甘口だしが、大きく厚く切られた具材に滲みていました。
「峠の茶屋で、おでんかぁ」
「ひと息ついた、って感じの味だよなー」
 旧友Tとしみじみ話していると、窓の外、生保内川沿いのJR田沢湖線に列車が。

仙岩峠の茶屋

 秋田新幹線E6系、こまち。そのスタイリッシュな姿を目にして、昭和気分から一気に令和へと舞い戻った感じ。
 ここ、仙岩峠は、秋田自動車道の全線開通や秋田新幹線の開業によって、交通量がピーク時(1990年)から4分の3にまで減少。「仙岩峠の茶屋」を訪れる客も減っているとのこと。厳しい経済環境のなか、なんとかして昭和のドライブインを残したいと、今年2024年にはクラウドファンディングにもチャレンジ。この風情や味わいを守るために頑張っているそうです。
 そうした背景を知ると、ますますドライブインが愛しく、変わらぬその佇まいに心底感謝するばかりです。
 ということで、懐かしのドライブインから始まった田沢湖ツーリング。結果的にはこんなふうにノスタルジックな場所ばかりを辿ることになるのですが、続きは次回。歯、磨いたか? 来週も、また見てね~!

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