2017年に登場し、同じクラスのライバルを瞬殺したホンダCBR250RRにマイナーチェンジが施された。現在、このクラスの話題はカワサキのアレに持っていかれた感が強いものの、ホンダは執念じみた改良の果てにパワーとトルクを上乗せ。さらなる速さを得た最新型の走りをお届けしよう。

●文: 伊丹孝裕 ●写真: 長谷川徹

どこか牧歌的だった250ccクラスを戦場に変えたのがCBR250RR

しばらく静かだった250ccのスポーツバイク界が息を吹き返したのは、ほんの10数年前のことだ。2008年、カワサキから突如ニンジャ250(2気筒)が登場し、「え、今それ?」という懐疑的な視線をよそに想定を上回るヒットを記録。 周囲のメーカーが慌てて開発をスタートさせ、ホンダCBR250R(単気筒)、スズキGSR250(2気筒)、ヤマハYZF-R25(2気筒)の順番でようやく4メーカー揃い踏み状態になったのが、2014年のことである。

メーカー同士、ユーザー同士のバチバチはそれなりにあったものの、今振り返るとどこかのんびりしていた。限られた価格帯の中で様々な工夫が凝らされ、2015年にデビューしたカワサキニンジャ250SL(単気筒)も含めればエンジンもコンセプトもそれぞれが個性的だ。しばりが多いと、どうしてもスペックは似通ってくるものだが、ウチはウチ、ヨソはヨソという線引きが結構明確にあった。

そこには、「このクラスをみんなで盛り上げて、とにかくエントリーユーザーを増やしていきましょう」という団結も感じられたわけだが、空気を読まないというかなんというか、ウルトラハイスペックなモデルをブチ込み、周囲をポカンとさせたのがホンダである。

2017年4月に発表されたCBR250RRは、車名は似ていてもCBR250Rと縁も所縁もない。エンジンは単気筒から2気筒になり、最高出力は29psから38psに大幅アップ。価格も負けず劣らず25万円ほどアップしたが、CBR250Rはもとより、ヤマハもスズキもカワサキも一切合切まとめて駆逐してみせた。本気を出した時のホンダほど無慈悲なメーカーもなく、1980年代のレーサーレプリカ時代さながらの勢いで250ccクラスを制圧。ヴィクトリーレッド(ネーミングからしてヤル気満々である)に彩られたABS装着車だと83万円近いプライスタグだったにもかかわらず、すぐさまバックオーダーを抱えるヒットモデルになったのだ。

2017年モデルの時点ではCBR250RRのアグレッシブさが突出していた。

で、その仕打ちにキレたのがカワサキだ。2020年9月、まさかの4気筒を復活させ、ニンジャZX-25R/SEとしてリリース。最高出力は45psに到達しただけでなく、ラムエア加圧時は46psとアピールすることも忘れない負けん気の強さでマウントを取り返した。

ただし、ホンダは用意周到だ。カワサキの動きをけん制するように、わすか8日遅れで新型CBR250RRを発売。そのポテンシャルを限界まで引き上げ、回転馬力に勝るカワサキを迎え撃つ臨戦態勢を整えた……というのが、ここまでの覇権争いである。

というわけで、ここからは最新最良の仕上がりを持つ2021年型CBR250RRのインプレッションをお届けしよう。

全方位にスペックアップした2021年モデル

従来モデルからの変更箇所は多岐に渡り、ピストン、ピストンリング、コンロッド、バランサーシャフト、バルブスプリング、点火時期といったエンジン系はもちろん、マフラーの内部構造を含む吸排気系、サスペンションのリセッティング、フロントフォークアウターチューブ、アシスト&スリッパークラッチの装備、マッピング変更、クイックシフターのオプション設定、ギヤレシオの最適化などがそれだ。

これによって車重は1kg増の168kgになった一方、最高出力(38ps→41ps)、最大トルク、燃費のいずれもがアップするなど、ほぼ全方位的に機能が向上している。お値段据え置きというわけにはいかなくとも、1万5000円ほどのプラスゆえ、許容範囲とすべきだろう。

シート高は790mmで、平均的な体格の成人男性なら足つき性は良好と言っていい。同クラスのモデルの中では最も前傾姿勢はキツく、ステップも後退しているが、車重の軽さと車体のスリムさのおかげでリッタークラスはもちろん、ミドルクラスのスーパースポーツとも比較にならない安楽さだ。

このクラスの中では最もきつい前傾姿勢を持つが、ハンドルの高さはヘソと同じ程度の位置にあり、街乗りでも苦痛はない。また、シート高は790mmで足つき性も良好だ。大柄なライダーだと窮屈に感じるのは、後退したステップの方だろう。

パワーありきのハイスペックマシンとはいえ、静的な状態ではフレンドリーと表現しても差し支えなく、車体を発進させても印象は大きく変わらない。クラッチレバーの操作力は極めて軽く、向上したトルクのおかげもあってストップ&ゴーに緊張感はない。3パターン設定されているライディングモードのどれを選んでも、この領域のフィーリングは等しく扱いやすい。

そこから車速を上げ、回転数が4000rpm前後になると、エンジンはにわかに盛り上がりを見せる。スロットルレスポンスがグンとダイレクトになり、「パパンッ」と一発一発の爆発が弾けるように響く。いかにも圧縮比が高い(実際12.1ある)、チューニングエンジンっぽさが顔を覗かせ、結構テンションが上がる。

このフィーリングは9000rpmあたりまで続き、スロットルのON/OFFに対しておもしろいように車体が反応してくれる。街中でも高速道路でもワインディングでも多用する回転域ゆえ、そのレスポンスがそのまま加速力に反映。つまり、速い。

9000rpmを超えると一時振動が増すものの、そこまで回している時はかなりアグレッシブな心理状態になっているはずだ。そのため少々のガサツさは意識からかき消され、夢中になってスポーツライディングに浸っている自分に気づく。

もちろん、いくら250ccでもアッと言う間に非合法な速度域になってしまうわけだが、CBR250RRのトルクレスポンスはパワーが優先されがちなサーキットでも活きる。国際レーシングコースでもミニサーキットでも、立ち上がり加速は常にライバルを圧倒。この点に関しては4気筒のニンジャZX-25Rでも到底かなわず、コーナーとコーナーをつなぐ区間を最短で駆け抜けていく。わかりやすい最高速ではなく、中間加速でゴン攻めにしてから抜き去ることができるため、乗り手の心は「やったった」感で満たされていく。

HONDA CBR250RR[2021 model]

言い換えると、のんびりとしたツーリングに重きを置くなら選択肢から外れる。かつての2ストロークエンジン的とは言わないが、既述のようにスロットルのON/OFFを求める特性のため、巡航を好むライダーにとっては落ち着かないからだ。対極にあるのが低回転域に特化したスズキGSX250Rで、パワーとトルクがバランスしているのがヤマハYZF-R25とカワサキニンジャ250。現在は、そういう棲み分けの図式だ。

ホンダも開発過程でそれを見越していたのか、ライディングモードを介してレスポンスの強弱を切り換えることができる。モードには、Comfort/Sport/Sport+の3パターンが設定され、それぞれに応じてレスポンスと加速感が変化。最も過渡特性が緩く、タンデム走行やウェット路面に適しているのが、Comfortだ。

実際それはその通りではあるが、他メーカーの250ccスポーツと比較すると、それでもハツラツとしており、その素性を活かそうとすれば結局Sportがほとんどのシーンをカバー。Sport+はツキが良すぎる領域があり、場合によってはピーキーに感じられることもある。

本気度の高い足まわりはレーシングマシンの雰囲気も

CBR250RRで特徴的なのは、サスペンションのセッティングだ。大まかかに言えば、適正よりもハードなリアに対して、フロントは大きくストローク。特に1Gの沈み込み量は過大と表現してもいい。

簡易的ながら、タイヤを浮かした0G、そこから接地させた1G、ライダーがまたがった乗車1Gのストローク量を調べてみた。露出しているインナーパイプの長さを計測すると、0G=128mm/空車1G=90mm/乗車1G=68mmというもので、ほとんどなにもしていない状態にもかかわらず、姿勢は最初から前下がりになることがわかる。

CBR250RRがスポーツ走行ありき……というか、サーキット向けなのはこのあたりの仕様だ。というのも、フロントブレーキを軽く引きずりながらコーナーへ進入するような走りを実践すると、最初に沈んだ分を維持しつつ、さらに奥のストロークを狙って荷重を掛け続けることができる。結果的にそれが高い旋回力を生み、コンパクトなラインで車体の向きを変え、立ち上がりではトルクレスポンスをフルに活かして鋭く加速。そういうシークエンスを正確に繰り返すことができるのである。

ただし、不確定要素が多い公道ではそれが難しい。あまりサスペンションを働かせず、浅いバンク角で走らせているとハンドリングは安定しているが、中途半端に荷重させると初期のソフトな部分と奥のハードな部分の狭間で挙動が安定しない。結果、思いのほか曲がらなかったり、車体がフワフワと揺すられることがしばしばある。

勝手知ったるコーナーに思い切って飛び込んでいける状況なら高い旋回力を発揮する一方、おざなりな入力では反応が鈍い。排気量は小さくとも、600や1000といった兄貴分の血筋を隠せない本気度の高さが、このモデルのウリだ。

例えばそれは、フロントフォークのアウターチューブが延長されているところからも分かる。マイナーチェンジの時に施されたこの改良がなんのためかと言えば、突き出し量の変更によって、車体姿勢を作りやすくするためだ。ピンポイントなセッティングを可能にする機能パーツであり、新型CBR600RRにも同様の方法が採用されている。

レーシングマシンの雰囲気をストリートで味わえるという意味で、方向性は実に分かりやすく、割り切って作られているところが清々しい。スポーツライディングを高いレベルで学べるのは間違いなく、どうせならセッティングの変化が学べるよう、前後サスペンションがフルアジャスタブルだとベストだ。

スロットルをガンガン開けて、エキサイティングな時間を過ごしたい。そういうライダーには間違いなくオススメできる、現在最良のスモールスーパースポーツがCBR250RRである。

HONDA CBR250RR[2021 model]

HONDA CBR250RR[2021 model]

主要諸元■全長2065 全幅725 全高1095 軸距1390 最低地上高145 シート高790(各mm) 装備重量168kg■水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ 総排気量249cc 内径×行程62.0×41.3mm 圧縮比12.1:1 最高出力41ps/13000rpm 最大トルク2kgf・m/11000rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量14L■キャスター24.3度/トレール92mm ブレーキF=φ310mmディスク+2ポットキャリパー R=φ240mmディスク+1ポットキャリパー タイヤサイズF=110/70R17 R=140/70R17 ●価格&色:グランプリレッド(ストライプ=通称トリコロール)85万4700円/マットガンパウダーメタリック、パールグレアホワイト、グランプリレッド82万1700円

HONDA CBR250RR[2021 model]

メーターには質感の高いフルデジタルディスプレイを採用。タコメーターを主体とする大型液晶部分の情報は整理され、視認性は極めて高い。右側の「Sport」がライディングモードの状態を示し、走行中でもスロットルを一瞬閉じることによって素早く切り換えることができる。また、サーキット走行時にはラップタイマーとしても機能するなど、利便性に優れる。

肉抜き加工されたトップブリッジと、その下に締結されたセパレートハンドルによって、スポーティさが演出されたハンドルまわり。ハンドル幅は実測で645mm(バーエンドは含まず)あり、一見タイトに見えるがこのクラスの平均か、むしろやや広い。

スイッチ類は右側にキルスイッチとセル、左側にヘッドライトのハイ/ロー、ホーン、ウインカー、ラップタイマーの起動ボタンを備える他、人差し指で押せる位置にライディングモードの切換ボタンが設置されている。ブレーキとクラッチレバーの握り幅に調整機構はない。

マフラーは右2本出し。サイレンサー内部は3室に分けられ、それぞれをパイプで繋ぐことによって低回転トルク、中高回転の伸び、スポーティなサウンドを実現している。

エンジンは249ccの水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒。従来モデルからピストン形状が変更された他、高強度の浸炭コンロッドを採用。高出力高回転化が進められ、41psの最高出力を13000rpmで発揮する。燃焼室への吸気はダウンドラフトタイプだ。

ヘッドライト、ウインカー、ライセンスプレートランプといった灯火類にはすべてLEDを採用し、デザインの自由度と軽量化、被視認性の向上が図られている。リアウインカーの下部には荷物固定用のフックが備わり、利便性にも配慮。

「スピードシェイプ」をコンセプトにデザインされたエッジの効いたカウル。ロアカウルにはウイングレットを思わせる突起が設けられ、走行風の整流とエンジンまわりの冷却が促されている。

左右が樹脂カバーで覆われた燃料タンクの容量は14リットル。試乗期間中の燃費は34.18km/Lを記録。高速道路の走行距離が比較的長かったこともあり、カタログスペックの27.1km/L(WMTCモード値)をかなり上回ることになった。

フロントシートの前端は大きく絞り込まれ、足着き性に貢献。お尻が触れる座面部分は充分なスペースが確保され、ホールド性と座り心地はいずれも良好だ。

ステップはブラケットとヒールガード、ペグがアルミで構成され、レバーがスチールとなる。シフトのアップ&ダウンに機能するクイックシフターはオプション設定(2万5300円)ながら、スポーツ性と快適性が大幅に向上するため装着をおすすめする。

2021年型に施された数ある改良ポイントの中、見落とされがちなのがフロントフォークのトップキャップ部分だ。従来は金色の部分が見えなかったが、現行モデルは5mmほど突き出され、調整可能な余白を確保。車体姿勢のセッティングに自由度が与えられている。

フロントブレーキはニッシンの片押し式の2ピストンキャリパーとφ310mmのウェーブ状シングルディスクを組み合わせる。サスペンションはショーワのφ37mm倒立フォークを採用。高い剛性によって路面追従性が引き上げられている。

リヤブレーキもニッシンの片押し式キャリパーとφ240mmのウェーブ状ディスクの組み合わせ。ダンロップのラジアルタイヤ・スポーツマックスGPR-300を標準装着する。

バンク角を確保するため、左右非対称のデザインを持つスイングアームはアルミ鋳造で成型され、剛性の確保とバネ下重量の軽減を両立。スチールのトラスフレームに締結されている。

別体式のリヤシートはキーによる脱着が可能。収納スペースはごくわずかで、車載工具はヘルメットホルダー用のワイヤー、ヒューズクリップ、8mmレンチ、フックレンチと最小限に留められている。書類などはケースに入れ、シート裏面にバンドで固定できる。

いかにも頑強そうなタンデムステップはブラケットもペグもアルミ。ペグ中央はわざわざ肉抜きされるなど、きめ細やかな作り込みが光る。


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