ドゥカティ本拠地の石畳が残る峠道で一番速く走れるムルティストラーダ

2003年に登場した初代ムルティストラーダ1000DSは、舗装路でのMulti=マルチな性能を狙ったモデルで、街乗りから高速道路、峠道、時にはサーキットなど様々なシチュエーションに対応できるモデルとして開発された。当時はBMWのR1150GSが注目されていた時期で、ドゥカティもその流れに追従した形だ。

初代ムルティストラーダは、ドゥカティのファクトリーがある北イタリアのエミリア・ロマーニャ州にあるフータ街道で最も速く走れるバイクは? というテーマから生み出されたのは有名な話で、石畳が残る過酷な峠道では、ネイキッドスポーツやスーパースポーツにも劣らないパフォーマンスを発揮する。

これが進化して、水冷エンジンにフルモデルチェンジした2010年型以降のモデルは、電子制御の導入とともにエンデューロモードが加えられ、スポーツ、ツーリング、アーバンを合わせた4つのキャラクターを1台に凝縮。そのマルチぶりに磨きをかけて現在に至っているが、初代ムルティストラーダはオフロードまでは想定されていなかった。

初代デビューから3年後の2005年にはミドル版620ccのムルティストラーダと前後にオーリンズ製サスペンションを装備するムルティストラーダ1000S DSもラインナップ。翌2007年には上位モデルが1100に排気量を拡大した。間もなくムルティストラーダシリーズは20周年を迎えるが、顔がズレる初代の斬新なスタイルは今でも記憶に残る一台だ。

2003年に登場した初代ムルティストラーダ1000DS。マルチツアラーながらフルバンクでワインディングを駆け抜けるスポーツ性も両立。石畳のような路面でも走破性を高めるため、サスストロークは長めに設定されている。

2005年には620ccのムルティストラーダもラインナップ。1000と比べてリアが両持ちスイングアームになるなど、装備が簡素化されている。また、「STD」はフロントダブルディスクだが、写真の「ダーク」はシングルディスクブレーキとなっている。

2007年にはムルティストラーダ1100となり排気量が992cc→1078ccに拡大された。オーリンズ製サスペンションを採用した上級版はムルティストラーダ1100S(写真)の名称が与えられる。

水冷テスタストレッタエンジンを採用したムルティストラーダ1200シリーズは2010年から。この2眼クチバシスタイルはV4エンジンを採用した2021年モデルでも継承されており、現在の顔として定着している。

スーパーバイクの999と同時にデビューした奇想天外デザイン

前回紹介した999に続き、ピエール・テルブランチ氏の手掛けたデザイン。初代ムルティストラーダ1000DSも999と同様に、そのデザインが賛否両論を巻き起こした一台だ。何よりも面白いのは、スクリーンがハンドルマウント、アッパーカウル本体はフレームマウントされた上下分割式のフェイスデザイン。性能面で有効かどうかはさておき、とてもユニークだ。

エンジンは空冷デスモデュエを採用し、1気筒にプラグを2つ備えるデュアルスパーク=DS機構で燃焼効率を向上させている。燃料供給はマレリ製のフューエルインジェクションを使用し最高出力は84PSを発揮。また、エンジンECUとメーター間の通信は当時先進のデジタル技術のCANを採用していたのもトピックとなる。

シャーシはムルティストラーダ用に新設計されたスチールトレリスフレームを採用。スポーツ性を確保するために999とキャスター角を共通とし、マルチパーパス性を高めるために最低地上高やホイールベースが拡大された。前後サスペンションはSHOWA製でフロント165mm、リア141mmとストロークが長めに設定されている。

そして、両持ちスイングアームを採用した999に対して、ムルティストラーダ1000DSは998譲りの片持ちスイングアームを受け継いでいる。さらに998を彷彿とさせる二本出しのアップマウントサイレンサーで攻撃的なスタイルを獲得。独特な顔だけでなく、インパクトあるリアビューもムルティストラーダのセールスポイントだ。

撮影車は2004年型のムルティストラーダ1000DS。写真のグレー以外にレッドもラインナップされており、2004年には黒も追加された。BMWのGSシリーズとは全く異なるアプローチでマルチツアラーを完成させた。

筒状の排気口が2個飛び出た独特のリアビュー。テールランプとウインカーは999と共有のようだ。ピボット部分まで伸びたフレームとエンジン後端でスイングアームを懸架しており、剛性を高めている。

エンジン左右にプラグホールを設置した空冷デュアルスパークエンジンは84PSを発揮。後期型の1100はボアが94mm(992cc)→98mm(1078cc)に拡大され最高出力が95PSに向上している。

フロントブレーキは径320mmのダブルディスクにブレンボ製4ポットキャリパーで制動力は十分。この時代はABSは装備されていないモデルが多く、ムルティストラーダ1000DSも非装備だ。

ドゥカティの定番となった片持ちスイングアームをムルティストラーダも踏襲。単純にカッコいいというのが採用の理由だろう。逆に性能上の理由から999では両持ちスイングアームになっている。

特徴的なマフラーは一体構造で排気口のみ分割されている。マフラーエンドキャップのデザインもガトリング砲のような攻めたデザインになっており、インパクトあるリアビューを引き立てている。

タンクはシート下まで一体になっているため、小ぶりな見た目に反して容量は20Lを確保している。一般的なツアラーとしては十分な容量だろう。

非常にスリムなシートで幅はシングルエンジン車並みとプレスリリースでは謳っている。シートカウル(実際は燃料タンク)と入り組んだシート形状になっており、デザイナーの気迫が感じられる部分だ。

適度な高さのパイプハンドルでライディングポジションは快適。トップブリッジ部分からステーが伸びておりメーターとスクリーンをマウントしている。ミラーの形状も独特だ。

スクリーンとメーターをハンドルマウントにしているのは、ハンドル切れ角を確保するためで取り回し性にも優れているのだ。

アナログタコと液晶モニターのメーター。表示部分には平均速度や平均燃費も表示可能で、当時先進のCAN(Controller Area Network)通信を採用した。

同じ日に乗ったST-4Sよりもムルティストラーダ1000DSの方が楽しめた

ムルティストラーダ1000DSがデビューした頃、ドゥカティのツアラーと言えばSTシリーズがラインナップされていた。スポーツモデルよりもスクリーンやハンドルを少し高めてツーリングしながらスポーツライディングが楽しめるコンセプトだった。当時のツーリングバイクは主にSTシリーズのようなスポーツツアラーか、ゴールドウイングのような大陸ツアラーの二択だった時代だ。

そこに第三の選択肢として現れたのがBMWのR1100/1150GSシリーズで、ライディングポジションが楽、大陸ツアラーのように大げさではない、冒険イメージが投影されていてカッコいい、などのメリットでシェアが急拡大し、ドゥカティもムルティストラーダ1000DSを発売させるに至ったのだ。

そしてムルティストラーダ1000DSに乗ってみると、ツーリングの速度域であれば上体を起こして広い視界を確保できる方がいいと思える。風圧はスクリーンが防いでくれるので、モンスターに乗っているような気軽さのままロングツーリングに行けてしまうのだ。スクリーン等で最高速が抑えられても全く問題はなく、ツーリングを快適に楽しめる方が重要なのだ。

一方、STシリーズは目を三角にして走らせたくなるライディングポジションなので、ツーリングというより走りを楽しむ方に比重が傾く感じだ。また、少しはラクなポジションとは言え、やはり前傾姿勢なので疲労が蓄積しやすいはず。そんな、それぞれのメリットやデメリットでSTシリーズは姿を消し、ムルティストラーダは現在でも支持されていることに私は大いに納得できる。

今やV4エンジンを積むまでになった現行ムルティストラーダV4よりも、ムルティストラーダ1000DSの方が日本の交通事情には向いているだろう。

 

今はすっかり廃れてしまったスポーツツアラーの名車であるST-4S(写真は2002年型)は、996系の水冷エンジンを搭載する羊の皮を被った狼。ZZ-R1100など公道をより速く移動するモデルがこの時代に流行った。

2004年型ムルティストラーダ1000DS主要諸元

・全長×全幅×全高:2130×830×1280mm
・ホイールベース:1462mm
・シート高:820mm
・車重:220kg
・エンジン:空冷4ストロークL型2気筒SOHC2バルブ 992cc
・最高出力:84PS/8000rpm
・最大トルク:8.5kgf-m/5000rpm
・燃料タンク容量:20L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17、R=180/55ZR17

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事