Z650RSとZ900RSはかなり相似のレトロスポーツモデル。両車に設定された「Z1」50周年記念モデルはどちらも同じ火の玉カラーを纏うこともあり、なおさらそう感じるだろう。とはいえ1台選ぶとすれば軽快な650か、それとも重厚な900か? ルックスの好みはもちろんだが、日頃のバイクの“使い方”に合わせて選ぶのがオススメだ。本記事の各部比較を通じて、自分の好みに合ったマシンを選んでほしい。

●文:ヤングマシン編集部(伊藤康司) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:カワサキ

やっぱりコレだね! 記念版ファイヤーボール降臨

稀代の名車「Z1」こと、カワサキ900スーパー4が登場したのが’72年の夏。そこから始まったZシリーズが、今年でついに50年を迎える。これを記念して、2つの車両にアニバーサリーモデルが設定された。Z1をモチーフに’18年に登場したZ900RSと、新世代のザッパーとして誕生したZ650RSだ。

車体色は初代Z1の火の玉=ファイアーボールがモチーフで、正式名称は“キャンディダイヤモンドブラウン”。ファンなら「’18〜’19年の初期型Z900RSと同じでは?」と思うかもしれないが、そちらは“キャンディートーンブラウン×キャンディートーンオレンジ”で、実は別色なのだ。

2台の特別仕様車に使われている専用色は、50年の節目にふさわしい上質さを追求した、独自の塗装工程を採用。キャンディカラーを特別な技法で重ね塗りすることで、艶やかで深みのある質感を実現したという。日陰や曇天下ではベースのブラウンはエビ茶色、火の玉は橙色で比較的フラットな印象だが、ひとたび光が差すと細かなラメが一気に輝きを増して、タンクやサイドカバーなどの造形を立体的に際立たせる。実際に目にすると、色味的には初期型Z900RSよりもZ1に寄せた感がある。また既存のZ900RS各車と比べ、塗装面に触れるとグラフィック部分の“段差”が少ないように感じる。これも丁寧な重ね塗りの効果かもしれない。

以上に加えて、Z650RSの記念モデルは艶ありのブラックで塗装され(標準車はマット仕様)、より上質な佇まいを感じられる仕上がりとなっている。こちらの販売は’22年4月28日。50周年にふさわしい装いの、日本ならではのレトロスポーツ。Zの歴史に名を残す記念モデルとなるはずだ。

【’22 KAWASAKI Z650RS 50th ANNIVESARY】●色:茶×オレンジ ●価格:110万円 ●発売日:’22年4月28日

【’22 KAWASAKI Z900RS 50th ANNIVESARY】●色:茶×オレンジ ●価格:149万6000円 ●発売日:’22年2月1日

【’73 KAWASAKI 900 SUPER4 Z1】記念モデルのカラー&グラフィックのモチーフとなったのは、初代Z1の通称“ファイヤーボール(火の玉)”。細かで上品なラメが特徴のキャンディカラーだ。

スリムさがより旧車っぽい650、大排気量4気筒らしい迫力の900

並べてみると4気筒と2気筒のエンジン幅の違いが如実に表れ、650の方が圧倒的にスリム。また650の方が腰高に見えなくもないが、ハンドルは900の方が35mmほど低く、シート高は両車800mmと同一なので、これは縦横比による見え方の違いだろう。マフラーの張り出しが一切ないのも、650をコンパクトに見せる要因だ。

[写真左:Z650RS/写真右:Z900RS] ●全幅:800/865mm ●燃料タンク容量:12L/17L ●サイレンサー:ミッドシップ /右出しショート●リアタイヤサイズ:160/60/180/55

ライディングポジション

650の方がハンドルバーの立ち上がりが大きくライダー側に近い印象があるため、900よりアップライトなライディングポジションになるイメージ。しかしポジションのシルエットを重ねて比較すると、650の方が上体がわずかに前傾している。これは650の車体がコンパクトなため、着座位置を起点にシート/ハンドル/ステップの3角形が900より小さいためだが、窮屈さを感じるほどではない。比べれば900の方が“威風堂々”感が強いレベル。

シート高はいずれも800mmで、足着きは両車とも両足の指の付け根までベッタリ接地。カカトの浮き具合もほぼ同じだが、650の方がスリムで股の開きが少ない分、体感的に安心。

[写真上:Z650RS/写真下:Z900RS]ともにアップライトで、窮屈さは感じない。[身長170cm/体重70kg]

走りの装備は完全に別物! エンジンと足まわりの比較

Z650RSのエンジンは、ベース車のZ650やニンジャ650等も搭載する並列2気筒。いまやミドルクラスでは少数派と言える180度クランクを採用し、パルシブな乗り味を発揮。初出は’06年のER-6nだが進化・熟成を重ね、デュアルスロットルバルブのFIユニットやアシスト&スリッパークラッチを装備する新世代のザッパーエンジンだ。

一方のZ900RSは、ベースとなるZ900の4気筒エンジンの圧縮比を下げ、最高出力や最大トルクの発生回転数を下げることで、常用域での乗りやすさと力強い特性を与えたチューンナップモデル。ファンネル長やマフラーのサウンドチューニングなど吸排気系もZ900RS独自に仕上げ、エンジンカバー類などのルックスもかつてのZ1をオマージュした意匠を配している。

【エンジン左側】[写真上:Z650RS]ツインらしい鼓動感が心地いい名エンジン。[写真下:Z900RS]極低速から余裕の極太パワーを引き出せる。

【エンジン右側】[写真上:Z650RS/写真下:Z900RS]

【マフラー】[写真上:Z650RS/写真下:Z900RS]

【違いは正立か倒立か】[写真上:Z650RS/写真下:Z900RS]インナーチューブ径はいずれもφ41mmだが、650は正立でノンアジャスタブル、900は倒立で伸び側/圧縮側減衰とプリロードアジャスターを装備。ブレーキは900がラジアルモノブロックの4POTで、650はピンスライドの2POTキャリパー。

【650は湾曲タイプを継承】[写真上:Z650RS/写真下:Z900RS]両車ともカワサキ独自のホリゾンタルバックリンクリアサスペンションを装備(900はプリロード、伸び側減衰。650はプリロードのみ)。650はミッドシップマウントのサイレンサーに合わせ、ガルアーム状の湾曲したスイングアームを装備。

実はけっこう違う! 主要装備比較

【650は車体に合わせ小径に】[写真上:Z650RS/写真下:Z900RS]900はロービーム4室/ハイビーム2室の計6室でφ170mmの大径ユニットを採用。対する650はヘッドライトリムにグルービング(溝加工)を施し、ロー/ハイ1室ずつの2室構造でコンパクトでモダンなイメージを強める。

【650でもアナログ2眼を再現】[写真上:Z650RS/写真下:Z900RS]メーターのレイアウトや液晶パネルの表示項目(ギヤポジションや燃料計など)もほぼ同じ。ただし文字盤のデザインは900の方がシンプルでレトロ、650は目盛りや文字も斜体で現代風。液晶の表示デザインも若干異なる。※650の液晶表示はCGで合成

【容量と形状の違いが大きい】[写真上:Z650RS/写真下:Z900RS]いずれも正統なティアドロップ型だが、900は650より5Lも容量が多いため、比較するとかなり幅広で現代的な形状に感じられる。タンク上面の高さも900の方がかなり高く、比べてみると650はかなりスリムだ。燃料キャップの意匠も異なる。

[Z650RS]燃料タンク上面に50周年の記念ロゴ。燃料キャップのデザインが現代的であるためか、Z900RSよりモダンに感じる。

[Z900RS]燃料タンクの上面、フューエルキャップ下に“ファイヤーボール”と同色のオレンジでZ50周年の記念ロゴが入る。

[Z650RS]Z1と同じ意匠の専用エンブレム。かつては900と750(Z2)の2種だったが、今回の記念車で650が加わった。

[Z900RS]Z650RSと同じく、専用エンブレムは名車Z1そのもの。”DOUBLE OVERHEAD CAMSHAFT”の文字が誇らしげに輝く。

[Z650RS]パターンが入るSTDと異なり、記念車のシートはシボ入りの専用表皮をプレーンに仕上げる。グラブバーも標準装備だ。

[Z900RS]専用のシボ入りの表皮によって高級感を増したシート。メッキ仕上げのグラブバーも標準装備してレトロ感がアップ。

【両車ETC2.0を標準装備】[写真上:Z650RS/写真下:Z900RS]両車ともにETC2.0車載器を標準装備。シート下は車検証が入るレベルで小物入れスペースはナシ。650は車載工具が備わり、左横はABSユニットで、前方のECUの下にバッテリーが配置される。900はシートの裏側に車載工具を収納する。

【テールはほぼ同一イメージ】[写真上:Z650RS/写真下:Z900RS]LEDのテールランプは650/900ともに同一のパーツ。しかし650はかつてのザッパー(初代Z650)をモチーフとしたショートテールのため、900よりもテールランプのレンズ部分がテールカウルから大きく突出している。

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