SDRはスーパーコーナリングマシン=SRX400/600より過激な一人乗り仕様

現在ではクラシックバイクとして認識されているヤマハのSR400は、デビュー前年の1977年に鈴鹿8耐を走行した「ロードボンバー」の影響を受けたモデルと言われており、元々はライトウェイトスポーツとして開発された一台。そして、そのコンセプトをさらに推し進めたのが1985年のSRX400/600となる。

ヤマハによるSRXの解説文には「シンプルでスパルタンなフォルムを追求した軽量・スリム・コンパクトなボディ」、「スーパーコーナリングを可能としたポテンシャルの高いシングル・スポーツ」といった勢いのある表現が並んでおり、ヤマハがいかに軽量・スリム・コンパクトにこだわっていたのかがよく分かる。

そして、1987年に発売されたのがSDR。こちらも「モーターサイクル本来の姿の再現」をテーマとし、軽量・スリム・コンパクトを追求。SRXシリーズより小さい2ストローク195ccエンジンを採用していた。ほとんど原付バイクのようなサイズに34PSのパワーと105kgという軽量な車体で、さらに乗車定員を一名に絞るなど、SR400以来の伝統のコンセプトを最も過激にしてリリースされたのだ。

また、SDRはSRXがこだわったデザイン面も進化。当時の国産車では珍しいトラスフレームに加え、トラスのスイングアームも採用。カタログには、トラス構造を連想させる有名デザイナーによる椅子や1980年代に流行したスチールラックと絡んだ写真が使われていた。機能美を追求したデザイン家具とSDRを並べることでデザイン性を訴求したのは、バブル期らしい演出と言えるだろう。

1987年に発売されたヤマハSDRは、オフロードモデルDT200Rのエンジンを流用しトラス構造のダブルクレードルフレームに搭載。装備を必要最小限におさえて軽量化を徹底的に追求したスタイルを世界的に有名な「ヒルハウスチェア」とダブらせて表現している。

1985年に発売されたSRX400/600。600は当時のロードレースのレギュレーション(TT-F1)に合致するよう608ccとし、V4や直4といったマルチシリンダーモデルとは異なる方向性で徹底的にスポーツ性を追求したスパルタンなモデル。

1977年、雑誌『モト・ライダー』(三栄)の企画でSR400の登場を予言するようなロードボンバーが製作されたのは偶然なのか…? 軽量でコンパクトなスポーツバイクを目指していたのはSRと完全に一致する。単座なところはSDRにも近い。写真提供:三栄 モーターファンBIKES

1979年に発売されたSR400SP。SRの初代はスポークだったが1982年までの4年間はSR400のスポーク仕様は販売されず、ヤマハとしてもスポーツ路線に舵を切っていた。1985年にはドラムブレーキ化されるが、これはレトロとスポーツでSRXと棲み分けした形だ。

アルミのエアクリーナーボックスは機能と外観を両立するSDRらしい装備

軽量でハイパワーの2ストローク単気筒エンジンはオフロードモデルのDT200R譲り。エンジンの吸気側にYEIS(ヤマハ・エナージー・インダクション・システム)を装備し、混合気流のムラを抑制することで出力と燃費の向上を図っている。

また、排気側にはYPVS(ヤマハ・パワー・バルブ・システム)を装備し、エンジン回転数に合わせて排気タイミングをコントロール。これは現代の電子制御に通じる技術で、2ストの特徴である高回転パワーを維持したまま低速域のパワー不足を解消するメカニズムとして現在でも高く評価されている。

SDRの特徴的なトラスフレームは、上部にレールを2本並べてその間をトラス状に結ぶことで縦剛性を高めている。また、ヘッドパイプからピボットまで直線的につなげることにより、捻じれ剛性も向上。さらにトラス状のスイングアームには、TZR250譲りのリンク式モノクロスサスペンションを装備し、より踏ん張りが効く設定とした。

特筆すべきは、サイドカバーのように見えるアルミキャスト製のエアクリーナーボックスで、これはフレームも兼ねており、シートレールはここに締結されている。エアクリーナーの大容量化を実現しつつ、フラットバルブキャブレターとのストレートな吸気経路を確保し、クイックなスロットルレスポンスにも貢献している。

装備はディテールにもこだわっており、セパレートハンドルやステップ、チェーンケースもアルミ製としている。エンジンは左右のクランクケースカバーやポンプ及びウォーターポンプカバーもアルミ製でさらにバフ仕上げとして高級感を演出。特徴的なトラスフレームは、ニッケル、スズ、コバルトの3元素を用いたTC(トリプルコンポジット)メッキとし、美しい光沢と優れた耐触性を実現している。

撮影車は初代1987年型。チャンバーのエキゾーストパイプ部分はとぐろを巻くレイアウトにしてスタイリングのポイントにしている。TCメッキのフレームは35年経った今でもピカピカだ。

アルミパーツを多用したディテールもサビがなく綺麗な状態を保っている。エアクリーナーボックス一体のサイドカバー部分は特にスリムで、タンク部分もニーグリップする時に戸惑うほどスリムだ。

YPVSはサーボモーターで作動する当時先進の装備だった。また、オイル吐出量はYPVSのサーボモーターと連動しており、より安定した潤滑が行えるようになっている。

フロントタイヤは90/80-17サイズでかなり細い。ブレーキは対向2ポットキャリパーを装備する。

リアタイヤは110/80-17サイズでこちらも一般的な250ccバイクのフロントタイヤ並みの細さ。サイレンサーはチャンバー部分と一体になっている。

トラス形状のスイングアームはかなり珍しい。アルミ製のチェーンガードなどを含めて徹底的に機能美を追求している。

ダブルクレードルフレームのダウンチューブは黒塗装で目立たないようにしている。

エアクリーナーボックスの断面図。アルミキャスト製で上部に吸気ダクトを配置することにより、騒音の低減を図っている。

超スリムな燃料タンクの容量は9.5L。

シングルシートはシートストッパーも装備。テールカウル部分にはヘルメットホルダーも備えている。

丸目一灯のヘッドライトにワイヤー状のステーが独特。

シングルシートカウル下部には荷掛けフックが装備されているが、荷物が安定するとは思えないほどコンパクト。

アルミのセパハンにスピードメーターのみのシンプルなコックピット。ハンドルはかなり絞られており、ポジションもコンパクトになるようにセットされている。

機械式のオド&トリップメーターと最低限のインジケーター類で構成されたスピードメーター。キーシリンダーの位置がオフセットしている。

SDRの下り最速伝説をタイム計測までして検証した雑誌企画を思い出す

SDRは初試乗。乗ってみるととにかくそのスリムさに仰天。ライディングポジションはそれなりに前傾するが特にきついものではなく、ニーグリップしようとした時のどこまでも股が閉じる感覚がかつてない経験だったのだ。いくらSRやSRXがスリムを謳っていても、2スト200ccのスリムさとはレベルが違っていた。

一方、エンジンについては、私はかつてDT200Rを所有していた時期があるので、ヤマハの2ストローク単気筒200ccの扱いやすさやパワー感は心得ていた。印象もそれと変わりなく、低回転域からとても扱いやすい。そしてパワーバンドに入ると2ストらしくパワフルで、車体が軽い分4スト400ccシングルよりも圧倒的に速いだろう。

スペックで比較すると、最高出力はSRX400の33PSを上回る34PSを発揮。車重はSRX400の147kgに対して105kgと大差をつけている。倒し込みはかなり鋭く、乗る人が乗ればかなりのポテンシャルがあると感じたが、この独特なスリムさに短時間の試乗ではどうやって乗ればいいのか分からないまま時間が過ぎてしまった。

私の前職『ヤングマシン』では、下り最速と話題になったSDRが本当に速いのかを検証する企画があり、なんと峠でタイム計測までしたのを思い出す。結局、比較対象のレーサーレプリカに軍配が上がったが、扱い切れるプロが乗ればパワーがあるバイクが勝つのは当然だろう。だけど、こいつこそ下り最速⁉︎ と本気で信じさせてしまうロマンがSDRにはあるのだ。

写真をみると白煙を上げている。2ストロークの弾ける音とパワーバンドはやはり快感だった。

身長170cmのライディングポジション。ネイキッドにしては前傾しているがヒザの曲がりを含めて許容範囲だった。

体重65kgの足着き性は両足かかとまでべったり接地。人間の幅に対してバイクがいかにスリムかよく分かる。

1987年型ヤマハSDR主要諸元

・全長×全幅×全高:1945×680×1005mm
・ホイールベース:1335mm
・シート高:770mm
・車重:105kg(乾燥)
・エンジン:水冷2ストローク単気筒ケースリードバルブ 195cc
・最高出力:34PS/9000rpm
・最大トルク:2.8kgf-m/8000rpm
・燃料タンク容量:9.5L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=90/80-17、R=110/80-17
・当時価格:37万9000円

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