83年、連載開始とともに起こった出来事

11月7日まで南箱根のバイカーズパラダイスで行われている「片岡義男とオートバイ〜80年代バイクブームを彩ったバイクたち」展。ここには片岡義男の小説だけでなく、80年代のバイクブームの盛り上がりと共に人気を博したマンガ、映画などに登場したバイクも展示されている。

80年代のバイク漫画といえば多くの人が思い浮かべるのは『バリバリ伝説』だろう。1983年に「少年マガジン」誌上で連載開始、91 年まで8年間にわたり掲載された。これはまさにバイクブームと呼ばれた時代に重なっている。物語の主人公はバイク好きの高校生、巨摩 郡だ。峠の走り屋だったグンは、あまたのライバルと競い合い、友人や仲間に支えられながら、その天才的な走りの才能を発揮し、ストリートから全日本選手権、そして世界グランプリへと舞台を移し大活躍していく。

バリバリ伝説の主人公、巨摩郡

連載が始まった83年といえばあのケニー・ロバーツとフレディ・スペンサーが世界グランプリで伝説的な一騎打ちを繰り広げた年。国内では平忠彦がヤマハのワークスライダーとなり、全日本ロード・レース選手権500ccクラスでチャンピオンを獲得した。まさに二輪モータースポーツの人気が頂点に達しようとしていた時期なのだ。

それとともに日本の若者の間でもバイクレースが爆発的な人気となっていった。ちなみに83年は国産車として初めてフルカウルをまとった、“レーサーレプリカ”の元祖と言われるスズキRG250Γ(ガンマ)が発売されている。その流れとシンクロするように、走り屋の高校生が鈴鹿4耐で優勝、全日本戦にデビュー、やがて世界グランプリへ……と駆け上がっていったグンは、昭和40年代における『巨人の星』の星飛雄馬のごとく、バイク少年たちのリアルな“憧れ”となったのだ。

バリバリ伝説

“バリ伝”を地でいった日本人ライダーたち

ちなみに80年代から90年代にかけて、この『バリバリ伝説』を地で行くような、日本から世界へとステップアップし活躍する日本人ライダーたちが多く現れた。岡田忠之、原田哲也、上田昇、坂田和人、青木3兄弟、阿部典史、宇川徹……とその名を挙げることができるが、なかでもグンと同じゼッケン「56」を付けて、世界GP250cc、500cc、モトGPを戦った中野真矢氏は熱烈なバリ伝ファンとして知られている。

以前、中野氏にインタビューしたさい「ヤマハとワークスライダー契約をしたとき、56を付けたいとお願いしたら“ワークスマシンに56という数字は大きすぎる”と言われたので、56にしたい理由をまとめた企画書を出して認めてもらったんです。ヤマハを相手にホンダのマシンが描かれたマンガを見せるのもどうかと思いましたが(笑)」というエピソードを伺った。まさにその熱さは筋金入りだ。

中野真矢さん

今回、箱根バイカーズパラダイスにはグンが「シビ子ちゃん」と呼んでいた愛車、ホンダCB750Fを展示している。1979年に登場したCB750Fだが、展示されているのは1982年型の「FB」だ。もちろんグンのシビ子ちゃんと同型である。

ホンダCB750F

ちなみに会場にはグンのライバルである秀吉が駆った愛車、スズキ「カタナ」も展示されている。ただしこちらはバリ伝の登場車としてではなく、東本昌平の作品『キリン』に登場したマシンとして、であるが。今回のバイカーズパラダイスの展示には“バイク図書館”というテーマもあり、バリ伝全巻をはじめ『あいつとララバイ』、『キリン』、そして片岡義男小説の文庫本(カワニシの私物です……^_^)などが自由に読めるようになっているので、バイクを眺めつつぜひ作品世界に浸っていただきたい。

バリバリ伝説

俺たちのバリバリ伝説

最後に個人的な“バリ伝”への思いを。連載当時、10代の若者だった僕は、まさにその影響をモロに受けた世代。だがじつを言うと、当時の僕はレースにはあまり興味のない街乗りライダーで、マンガもどちらかといえば“ララバイ”派だった(笑)。そんな僕ががっつりとバリ伝を呼んだのは、今から7年前、雑誌『MOTO NAVI』で「俺達のバリバリ伝説」という特集を企画したときだった。

MOTO NAVIのバリ伝特集

50ページにおよぶ大特集で、バリ伝の魅力をさまざまな角度から取り上げたのだが、じつは編集長だった僕としては、絶対に実現したい企画があった。それは作者であるしげの秀一さんへのインタビューだ。だがそれはとてもむずかしいだろう、とも思っていた。なぜなら漫画家の先生というのはとても多忙であり、かつ自身のキャラクターをあまり表に出したがらない人が多い(もちろん例外もあるが……)。しげの先生もまさにそのタイプであり、その証拠に雑誌などメディアへの登場はほとんどないのだ。

しかしこのときは思いが通じたのか、なんとインタビュー取材を受けていただくことができた。連載開始当時の思い出、ストーリーやキャラクター設定などの裏話、未曾有のバイクブームとシンクロするように人気が高まっていったときの気持ち……などなど。そして最後に、とても思い出に残る話をしていただくことができた。それはグンの“その後”だ。

バリバリ伝説

グンがあの世界的レースで復活する!?

8年間にわたり連載されたバリ伝は、グンが世界グランプリの最終戦で勝利し、チャンピオンになったところで終わる。ある意味とても見事な完結を迎えるのだが、ファンとしてはグンの「その後」が気になるところだろう。インタビューのさい、そんな思いをしげの先生にぶつけてみたところ、こんなふうに答えてくれた。

「じつは連載が終わってから何年か後に、グンが8耐を走るというストーリーの話が出たんですよ。当時はシュワンツやガードナーなど、GPライダーが8耐に出ていましたからね。僕が考えたストーリーでは、グンは世界チャンピオンになった数年後、なんらかの理由があってグランプリを走っていないんです。速いんだけどチャンピオンから遠ざかった伝説のライダーになっている。そのグンが鈴鹿8耐で帰ってくるというのを、いろいろな人間ドラマを絡めながらやりたかったんですけど、次の連載が始まった時期で、忙しくなってかけなかったんです」

しげの秀一さんと河西啓介

しげの秀一さん(左)とカワニシ。インタビュー時の写真。

 

なんと!レースから遠ざかっていたグンが、8耐でカムバックするというストーリーがあったとは……。もしこの作品が描かれていたら、ファンとしてはまさに感涙モノだろう。うーん、残念。とはいえ80年代以来のバイクブーム到来?とも言われる昨今、我われとしてはもしかして、もしかしたら……を期待したいところだ。

とはいえしげの先生は現在、自動車の公道レースをテーマとした大ヒット作品『MF GHOST』を連載中。今はとてもほかの作品にまで手が回らないだろうが……(涙)。我々ファンは、とりあえずバリ伝全巻をもういちど読み直しながら、そのときを待とう!

 

 

 

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事