カフェレーサー・ブーム、続く

 世界的にカフェレーサーのブームが続いている。ブームの火付け役となった欧州ではトライアンフ スラクストン、BMW R nine Tレーサー、モトグッツィ V7レーサー、ドゥカティ スクランブラー カフェレーサーなど多くのメーカーからカフェ風カスタムが登場し、日本車でもカワサキZ900RS CAFEW800 CAFE 、スズキSV650Xなどネイキッドバイクをベースにしたカフェカスタムが現れている。

トライアンフ・スラクストン

トライアンフ スラクストンTFC。写真は世界限定750台が販売されたファクトリーカスタムモデル。

 

BMW R nine Tシリーズの「レーサー」

 

“カフェレーサー”の起源は1960年代のイギリスに遡る。終夜営業のカフェに集まった若者たちがその周囲の公道でレースまがいの競争を繰り広げたということに由来する。その呼び名どおり、彼らが跨るバイクのスタイルは当時のグランプリレーサーを模したもので、BSAやノートンなどの英国車をベースに、低くセットしたクリップオンハンドル、細く長い燃料タンク、深い前傾姿勢に対応するバックステップなどでカスタムするのが定番だった。

カワサキW800CAFE

カワサキW800CAFE

カフェレーサーは優しくない?

僕を含めたいま40代、50代のバイク好きは、そうしたカフェレーサーに憧れた世代だろう。だから今のカフェレーサー・ブームは歓迎すべきものなのだが、どっこい大きな問題がある。いざ乗りたいと思ったとしても、フィジカル面の心配が……。若いときに較べ、明らかな体力の衰えを実感する年齢だ。「もう体力的にキツいかな……」と二の足を踏んでしまう人は多いのではないだろうか。

40代から50代前半は、人生の後半戦に差し掛かる年齢だ。平均寿命から考えても人生の残り時間を意識し、カウントダウンするような心持ちになるのは自然なことだろう。いっぽう仕事や家族などのことを考えると、まだまだ重い荷物を背負っていかなければならない世代でもある。サラリーマンであれば上司と部下の間に挟まれ、多くのストレスを感じているかもしれない。大きな住宅ローンを抱え、子を持つ親であればその教育や進路の問題など、心配事や悩みも少なくないはずだ。

ドゥカティ900SS

筆者憧れのカフェレーサー、ドゥカティ900SS

 

そんな世代にとって、たしかにカフェレーサーは優しくない。その前傾姿勢は安楽なライディングを許さないし、ミニマルに削ぎ落とされたスタイルは荷物を積むスペースすらない。クルーザーやアドベンチャータイプを選ぶほうがずっと現実的だ。

カフェレーサーを選ぶ理由

でも、僕らはなぜバイクに乗るのか? もとよりバイクはラクな乗りものではないし、むしろ乗ること自体がちょっとした“苦行”のようなものだ。だからこそバイクに乗ると、ラクで便利で安心安全な生活に慣れきってしまった自分の心と身体が奮い立たされる。少し大げさに言うなら、そんなプリミティブな機械を操ることで「生きている」実感を与えてくれるのがバイクという乗りものではないか。

モトグッツィV7レーサー

筆者の愛車だったモトグッツイ V7レーサー

 

かつて若者たちが「速さ」と「軽さ」を求めて作り上げたカフェレーサーのスタイルは、その純粋さゆえ今の僕らにはとても眩しく映る。でもそんなカフェレーサーこそ、荷物の増えた人生がふっと軽くなるような“浮力”を与えてくれるバイクなのかもしれない。カウントダウンの始まった人生をギアを落として過ごすのもいいが、人生の贅肉を削ぎ落とし、もういちどあの頃のように走ってみたいと思うなら、カフェレーサーを選ぶのもいいのではないか。

 

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