序:出会えてきた数多くのバイクに感謝!

不肖オガワ、幸いにして(別冊を含む)モーターサイクリスト編集部時代には、サイドバルブエンジンのハーレー・ダビッドソンから、スズキの燃料電池スポーツモデル試作車に至るまで、多種多様なバイクを体験することができました。近所のガソリンスタンドへ満タンにしにいっただけという車両までを含めれば、本当に膨大な数となります。

その中から5台……えっ? たったの5台だけ!? 当然ながらセレクトは難航を極め、リストアップとジャンル分けと各車ごとの美点チェックに灰色の脳細胞はフル回転。夜も寝ないで昼寝して、導き出した5台がコチラとなります。ご笑覧いただければ幸いです。

スズキ GR650 ~羨望の変態的メカニズム~

空前のバイクブーム真っ只中、アルミフレームを市販車に初採用したスズキRG250Γや可変バルブ機構(REV)を搭載するホンダCBR400Fなど、未来を感じさせる新しいメカニズムが次々と登場し、心ときめかせながらモーターサイクリスト誌を毎号穴が空くまで熟読していた1983年。

自分的には第二次性徴も真っ只中な高校一年生でしたので、「マス」という単語にはことさら過剰反応をしておりました。そんな背景もあって「可変マス」というパワーワードに一発でヤられ、興味と妄想がどこまでも広がったスズキ期待のブランニュー並列2気筒モデル、それがGR650だったのです。

GR650のカタログ写真

●652㏄空冷4ストローク並列2気筒DOHC2バルブで53馬力/5.5kgmを発揮する、技術の粋を集めたブランニューエンジンを搭載(後の油冷エンジンにとってキーテクノロジーとなるオイルジェットピストンクーリングも先行採用!)。リヤサスは革新の1本サス、フルフローターサスペンション。400㏄クラス並みの乾燥重量178㎏……。トラディショナルな英国バーチカルツインモデル的なスタイリングだったなら歴史は変わっていただろうか!? 当時価格:47万8000円

 

エンジンの回転フィーリングに多大なる影響を及ぼすクランク軸上の重量マス(フライホイール)に遠心クラッチを装着することで、約3000回転を超えると補助マス(カタログ表記のママ)が分離。中高速粋では軽やかに吹け上がり、約2500回転以下で補助マスが再び締結されると重厚でトルクフルな“バーチカルツイン”らしいフィーリングが楽しめるという画期的な仕様……。なのにその中途半端なジャメリカン(ジャパニーズアメリカン)スタイルが災いしたのか、不人気車街道をまっしぐら。

別冊モーターサイクリスト編集部員時代に「マイナーな車両ばっかり取り上げる雑誌だから、GR650にも接する機会があるかもなぁ」と期待していたのですが、タイミングが合わず結局は一度も走らせたことがないままに……。乗った人のインプレッションを見聞きするにつれ、いよいよ想いがつのる1台なのでした。

スズキ GSX-R750 ~ひねればパワーの泉湧く!~

GSX-R750と言えば1985年に衝撃的なデビューを飾り、その圧倒的な軽量ぶりとハイパワーを両立させた高い戦闘力で、世に「油冷エンジン」を広く深く浸透させたレジェンドモデル。

いまだGSF1200Sに乗っている油冷好きなら入手したいのはモチロンですよねッ!……と言いたいところですが、ワタクシが今欲しいGSX-R750は水冷エンジンで、それまでGSX-Rの代名詞だったダブルクレードルフレームさえ捨ててツインスパーフレームで登場した1996年モデルなのです(上アイキャッチ……タイトルの写真は引っかけでした。スミマセン)。

1996GSX-R750の写真

●後にGSX-R1000のエンジンベースとなった749㏄水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブエンジンは77馬力/6.7kgmを発揮。アルミツインスパーフレームほかのシャシー全般はスズキのGPマシン、RGV-Γの設計思想を受け継いでディメンションが定められたという。当時価格:98万8000円

 

ラジエター、電動ファン、冷却水を流すラインなど、多岐にわたるパワーユニット冷却用の機構を新たに導入しつつ、なんと油冷の初代GSX-Rと同じ乾燥重量179㎏を実現したことでも話題となりました。

大御所バイクジャーナリストによる試乗インプレ取材が無事終わり、広報車を返却するという仕事を先輩から仰せつかった私は少しだけ(?)遠回りをすることに……。

「???!!」

高速道路へ流入して加速をし始めた瞬間から驚愕の世界が始まりました。速度域が高まるごとにエンジンパワーがドカスカ湧き出てくるのです。テールカウルへもロゴが誇らしげに記載されていた「SRAD(スズキ・ラム・エア・ダイレクト〈インダクション〉」の効果であることは間違いありません。

1998年モデルから燃料供給システムがより緻密な制御の可能なフューエルインジェクションに変更されるのですが、1996年型はまだキャブレターの時代でして、良くも悪くもプリミティブかつ攻撃的なセッティングが施されていたのでしょう。

公称77馬力の国内仕様でしたが、体感的には128馬力の輸出仕様……いやそれ以上の底知れぬ力強さで車体がグイグイ加速していき、スロットルを握る私はヘルメットの中で笑いっぱなし。ついつい遠回りが過ぎてしまい、なかなか帰ってこないことを心配していた先輩からひどく怒られました(汗)。

以降、ラムエア加給システムはスーパースポーツやメガスポーツモデルにとって当たり前の装備となり、200馬力クラスの出力を発揮する車両にも何台となく試乗しましたが、スピードを増すごとにどこまでも正比例してパワーが噴出してきた1996年式GSX-R750以上のインパクトを感じたことはありません。

ホンダ NSR250R SP ~レーサーレプリカの頂点~

やはり1台は2ストロークモデルを選びたい……とデュアルパーパスから小排気量(スクーター含む)、逆に400~750クラスまでを選択肢にリアル熟考&脳内トーナメントをしてみたのですが、やはり優勝したのはレーサーレプリカの代名詞でした。

打倒TZR250を果たし、一躍トップランナーとなった“ハチナナ”、最強伝説を欲しいままにした“ハチハチ”、台形パワーを手に入れた“ハチキュー”、電脳キーで目覚める“プロアーム”(1993年~)と、どの年式のNSRも魅力的なのですが、やはり開発陣をして「完成形」と言わしめたMC21(1990年~)をチョイス。

実は同年代のスタンダードモデルを所有していたこともあり、だからこそ今再び手に入れるならば最上級グレードを……という青春のリグレットにとらわれた未練タラタラのセレクトでもあります。

NSR250R SPの写真

●1990年4月2日より限定2500台で発売された“SP”は、岡田忠之選手が前年に全日本ロードレース選手権でタイトルを獲得した“CABINレーシングチーム”のマシンイメージを投影。ファイティングレッド×ロスホワイトに金の差し色を加え、軽量マグホイールともマッチしていた。249㏄水冷2ストロークV型2気筒クランクケースリードバルブエンジンは45馬力/3.7kgmを発揮。当時価格:71万9000円

 

カラカラ音も懐かしい乾式多板クラッチ、セットアップも楽しめる減衰力調整機構付き前後サスペンション、大気に触れたら燃えないの?と中2理科の実験で得た知識からいぶかしがっていた軽量マグネシウムホイール、そして当時のワークスチームイメージをまとったカラーリングもタマリマセンなぁ。

溶接痕も美しいバッキバキのチャンバーを付けてタイヤも最新モノに換装し、フルフェイスヘルメットにネコミミディフューザーとモフモフのシッポを取り付けてワインディングを走りたいものです!?

BMW R1200GS ~ほっこりできた万能ワープマシン~

空油冷ボクサーを搭載した最後のR-GS。年式で言ったら2010年~2012年のDOHCモデルですね。

R1200GS

●1169㏄空油冷4ストローク水平対向2気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力110馬力、最大トルク12.2kgmのパフォーマンス(写真は2012年の特別仕様車 R1200GS Rallye)。当時価格(一例):209万5000円(ハイライン)/223万1500円(プレミアムライン)

 

選んだ理由は雑誌取材でロングランテストを行ったとき、高速移動はもちろん、ワインディングでもフラットダートでも絶大な安心感と面白さを提供してくれた無双ぶりにシビレてしまい、その余韻が10年近く経った今でも残っているからにほかなりません。

もちろん、以降の水冷1200、最新の1250にも乗ることができ、それぞれ完成度の高さに舌を巻いたことも事実です。ポルシェと同じく「最新が最良」だと言えるでしょう。ですが……何というか、2013年以降の水冷モデルにはちょっとした「無理矢理」感を覚えてしまいました(個人の感想です)。

2010年に150馬力を引っ提げてアドベンチャー市場へと殴り込み、大ヒットをかっとばしたドゥカティのムルティストラーダ1200を筆頭とする新時代のハイパワー軍団に対抗すべく、一気に近代化を推し進めたというべきか……。

その点、空油冷GSには“ほっこり&まったり”というロングツーリングをリラックスして走り切るには欠かすことのできない、優しい走行フィーリングが全身から伝わってきました。

大雨の中、神戸から横浜まで約550㎞の距離を一気に踏破したこともあるのですが、体感的には200㎞くらいにしか思えず、全く疲れなかったことにビックリ。知らぬ間にワープでもしてしまったのかと……!

低回転域のトルク良し、中高回転域での力強さも必要にして十分。熟成が極まったシャシーの仕上がりと相まって魔法のじゅうたんに乗り、地上1mを滑空しているような快感がずっと続くのですからストレスも皆無。効果的、でも行きすぎていない電子制御のほど良さも私にぴったりハマったのでしょう。

ホンダ クロスカブ ~いくら走っても疲れない魔法の椅子~

空油冷DOHCのR1200GSが高速道路無双ならクロスカブは一般道無双!? とにかく長時間、ずぅう~っと走っていて疲れなかった鮮烈すぎる記憶がベスト5選出の理由です。

それは私が別冊モーターサイクリスト編集部員だったころ、「水戸藩カブ」というスーパーカブを愛してやまない強烈な個性を持つシニアたちの集まりがございまして、そちらが年に1回、9月下旬に行う「日の出・日の入りツーリング」に取材を兼ねて参加したことがあったのです。

茨城県の大洗海岸から太平洋を昇る日の出を見てスタートし、トコトコと日本を横断。新潟県の寺泊海岸で日本海へ沈む夕陽を眺めたあと再び大洗海岸へと戻り、日の出を拝んだらフィニッシュ……というなかなかのスケジュールでもちろんオール下道、往復700㎞弱をカブで踏破するというもの。

正直、完走する自信すらなかったのですが、同年(2013年)5月にデビューしていた初代クロスカブの広報車(JA10)でおそるおそる走り出してみたところ、あれ?日本海にきちゃったぞ。あれ?また大洗海岸に帰ってきたぞ、と狐か狸にだまされたのかと思うほど、疲れやお尻の痛みなどを全く感じないまま丸一日を走り切ってしまったのです(眠気との戦いは大変でしたけれど……)。

クロスカブ写真

●中国生産となったスーパーカブ110をベースに外装を大胆に変更。ハンドルもアップライトなものとなり,最低地上高も20㎜高い155㎜に。109㏄空冷4ストローク単気筒OHC2バルブエンジンは8馬力/0.87kgmを発揮。車両重量は105㎏。62.5㎞/ℓの60㎞/h定地走行燃費もロングツーリング派をサポート! 当時価格:27万8250円

 

ちょっと腰高なライポジもシートの形状も私にジャストフィットしたのでしょう。まさにどこまでも走ってくれる仕立てのいい椅子といった雰囲気で好印象は終始変わらず。

現行のクロスカブ110/50では割愛されてしまいましたが、風や雨、寒さなどから両足を守ってくれるレッグシールドにも天候がダイナミックに変化した道中、大いに助けられました。

最後に……もう1台だけ、イイですか!?

以上、長くなってしまいましたが、不肖オガワが今欲しい、絶版名車5選であります。やはり過去に実際に走らせてみて深く心が震えた車種が大多数を占めました。しかし、GR650同様、接することはできなかったけれど今欲しいバイクをもう1台だけプラスできるのなら、スズキのRE-5を挙げさせていただきます。

RE5の写真

●1974年に全世界で発売が開始されたRE-5。497㏄水油冷シングルロータリーエンジンは62馬力/7.6kgmのスペック。通称「茶筒」と呼ばれた円筒状のメーターハウジングが特徴的。車体デザインはジウジアーロが手がけたという

 

日本製の二輪車で唯一市販化が実現したロータリーエンジンバイク。スズキの「やらまいか」精神が爆発した金字塔的モデルをいつかぜひ所有してみたいものです!

 

【特集:今欲しい絶版名車5選 一覧を見る】

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事