ガソリンと大気とを適切な比率でミックスした混合気をシリンダー内部で急速に燃焼させることでパワーを得ている内燃機関。実に2000℃にも達するという燃焼温度を適切に制御&冷却するには、そりゃあ水冷システムがベストだというのは分かります。そこをあえての“空冷”で攻めてきたホンダ開発者の秘策とは……!?
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発熱の制御は内燃機関にとって永遠のテーマ
『お熱いのがお好き』とは1959年に公開されたマリリン・モンローさんの代表作ですが(古い!?)、
エンジンは冷えすぎたら“オーバークール”を起こしますし、お熱くなりすぎても今度は“オーバーヒート”で様々な不具合が生じてくるという、ナカナカに七面倒くさいシロモノなのです、本来は。
適切なメンテナンスが行われている車両なら、春夏秋冬セル(ごく一部はキック)一発でエンジンがかかって、極寒真冬の“試される大地”でも、
真夏の首都高“山手トンネル”でも(ライダーさえ音を上げなければ)気持ちよく走り続けてくれる……というのは、各バイクメーカーが長年にわたって膨大なノウハウを蓄積してきた結果なのですよ。
日々最良のバイクを目指して開発をしていらっしゃる、エンジニアの方々に心から感謝いたしましょう。
……と、しょっぱなから盛大に話が逸れてしまいましたけれど、今回はホンダ「CB1100」が搭載している空冷エンジン、そのメカニズムのひみつ(by学研!?←しつこい)です。
まぁ、新規開発とはいってもCB1300のエンジンがベースとしてあるわけですから、チャッチャッチャッとエンジンヘッドとシリンダーなどを作り替えたら「ハイ、出来上がり」だったんでしょ?
なんて、甘~~~~~~~く考えていた筆者は、前回も紹介した飯沼本家の“明治蔵”で行われた「CB1100製品説明会」で、開発者の方々にお話を聞くにつれ「こいつぁとんでもなく凄いエンジンだぞ!」とマリアナ海溝より深く反省して認識を新たにしたのでした。
よく回るバイク用エンジンの基本をおさらい
タイトル写真のすぐ下にある文章(業界用語では「リード」という)でもチラリと触れているのですけれど、シリンダーの中を下がっていくピストンが生み出す負圧によってエンジン内部へ吸い込まれた混合気(ガソリンが1で空気が14.7という比率が最も燃焼効率の良い“理想空燃比”とされています)が、再び上昇してきたピストンによって圧縮され、燃焼室へギューギューに押し込められた瞬間、スパークプラグから火花が飛んで爆発的な燃焼がスタート!
膨張していく気体がものすごい力でピストンを押し下げていく……このとき燃焼室の温度は2000℃に達する部分もあると言われています。
そんな凄まじい化学反応がエンジンヘッドとシリンダーの内部でとんでもない回数、ドドドドドドカドカドカーン!と行われているんですよ、信じられますか!?
仮に並列4気筒のCB1100のパワーユニットを6000回転まで回したとすると(パワーとトルクがグイグイ盛り上がっていく一番気持ちいいところ!)、
6000回転……メーターに表記されている回転の単位、“rpm”とは英語の”revolutions per minute”の略=「1分間での回転数」ですから、クランクの軸……つまりクランクシャフトが“毎分6000回転”していることを示しているんですね。
なんとなく「ああ、そうなんだ~」と流してしまいそうになりますが、1秒間ごとにクランクシャフトが100回転していると考えてみれば、ちょいとビックリしませんか?
それは同時に吸入→圧縮→燃焼→排気という理詰めで面倒くさい(?)4サイクルの工程が1気筒ごと1秒間に50回もキッチリ行われているということであり、それが4気筒だと……はい、正解! 1秒間に200回も4つあるシリンダーの中で爆発的燃焼が行われているのです。
もちろん発生した熱エネルギーは機械的な仕事……つまり動力へ変換されていったり、すぐ冷たい混合気が入ってきたりするため燃焼室内全体が恒常的に約2000℃という高温へさらされるわけではないのですが、それでもエンジンは場所によって800℃くらいになってしまうとか。
そんな熱が無為に蓄積されていくと屈強な金属でできたシリンダーやピストンだって熱膨張して歪んでしまい、適正なクリアランス(透き間)を維持できずに正常なエンジン回転ができなくなり、騒音発生の原因にもなってしまう……。
そりゃあ、冷やしたいところへ通路を設けて冷却水をガンガン回すことのできる水冷エンジンが主流になるのは当然ってものです。
水冷システムは金属の熱による歪みを減らしてエンジン各部のクリアランスを一定にするのはもちろん、燃焼室内の温度もコントロールできるので、排ガスをクリーンにするという点でも圧倒的に有利なのですから。
空気とオイルのポテンシャルを最大限に引き出す!
排ガスも騒音もすでに十分に厳しい規制値が定められ、将来的にそれらのハードルがもっと高くなるであろうことは百も承知なホンダ開発陣はどうしたのか……?
それは「使えるものを徹底的に使う」という、シンプルながら奥の深い方法でした。
もちろん空冷エンジンですので、走行風はトコトン活用!
前面からエンジンに当たってくる風をエキパイ側面からスパークプラグ座面へ抜けさせる……だけでなく、
各気筒間を前後に通した通風孔の上下方向にも孔を貫通させて、走行風によりスパークプラグ自体を冷却。
また、鉄に比べて温まりやすく冷めやすいアルミ焼結製シリンダースリーブの採用により、放熱性向上だけでなく、いくばくかの軽量化まで達成しております。
油冷エンジン……とは絶対に言わないけれど(笑)
あと使えるものは……そう、エンジンオイルです。
エンジン内部で最もアチチ!となる排気ポートと点火プラグの周辺にエンジンオイルを循環させることによって熱を引き取らせていただき、(ノッキングの原因ともなる)局部的な温度上昇を抑え、着火性と燃焼の伝播性を常に最良の状態に保つことで出力の低下を防ぐとともに排出ガスの成分を安定させているのです。
キモとなる小型の空冷式オイルクーラーは、2つ上のイラストのとおり排気ポート部オイル流路のすぐ上流に配置されており、最も冷えたオイルを高温部へドバドバ送り込んで冷却効果を高めているのです!
なおかつ、各気筒の熱量に合わせた最適な流量配分とすることで油温そのものの上昇を抑えるとともに、寒冷地においてもオーバークールとならない仕様とされました。
……と、仕上がったものを文字でサラリと説明するのは簡単ですけれど、コンピューターシミュレーションも含め、開発現場ではそれこそ数え切れない試行錯誤が繰り返されたそうです。
それこそ今年、2023年の夏のような異常高温のなかで、走行風に全く期待できない超渋滞に巻き込まれたとしても、シリンダー周りからオイル漏れを起こさず、もちろんシリンダーヘッドにクラックが入ることもないよう、水冷エンジンの開発時以上に厳しいテストが行われ、細かい部分まで練り込まれていったとか。
かくなる開発を進めていくなか、ど〜しても熱的に厳しい排気バルブ周辺などの部分には、市販車レベルを超えるような高性能パーツを採用して対策したとも……カネ、かかってまっせ(笑)!
別指令。「空冷らしい吹け上がり感を実現せよ!」
駄菓子菓子!(←やっぱり使ってしまう(^^ゞ)
CB1100の空冷エンジンに求められたものは、熱対策だけではなかったのです!
それは……「味」!!!!!
開発が初期も初期の段階、まずはチャッチャッチャッ(!?)とCB1300を空冷にしただけのエンジンを作ってみると、試作車に乗った人がほぼほぼ「単なる空冷のCB1300じゃん」と評価(←そりゃそうだろ! というツッコミはなしで)。
当代一流のスムースネスな吹け上がりを誇るCB1300の高い完成度が仇となってしまったカタチとなり、ここから開発陣は熱対策だけでなく、フィーリングの面でも「空冷エンジンらしさとはなんぞや?」というテーゼへ取り組まなくてはならなくなった……といいます。
滑らかなだけではない、表情のある(←技術資料の表現)回り方をするエンジンにするための秘策は「位相バルブタイミング」の採用でした。
なんとシリンダーの1番と2番、3番と4番とで意図的にバルブタイミングをズラして、特に3000回転付近で強く感じられる“ドロドロ感”を生み出していったのだとか!
もちろん“カッコ良さ”もメチャクチャ大事!
当然のことながら、バイクはやっぱり見た目がナンボ。
それが走行性能よりもスタイリングのプライオリティが高いネイキッドモデルならなおさら。
ましてやパワーユニットを新規開発してまでホンダが世に問う空冷ブランニューモデルなら、一切の妥協は許されません。
というわけで、CB1100のエンジンヘッドはベースとなったCB1300のものより、DOHCのカムシャフト軸間を大幅に広くした仕様が採用されました。
それはひとえに、跨がった目線から見下ろすフューエルタンクの両側にのぞくエンジンをオーナーが見て、ニヤリとしてしまう瞬間のため……。
CB1100の開発コンセプト……「大人の所有感を満たすエモーショナルな空冷直4ネイキッド」のコアとなる“21世紀の空冷エンジン”はさまざまなドラマの末に生み出され、2010年のデビュー以降もブラッシュアップのための開発を続行。
2021年秋に発売された最終型まで、ミッションの5段→6段化、パワーアップ、より厳しい環境諸規制への対応、出力特性の変更などなど数多くの進化熟成が図られていきました。
次回はそのCB1100の「Final Edition」へと至る波乱万丈な道のりを、ライバル車の動向も含めて紹介してまいりましょう(あと1回でまとめられるのか不安……(^^ゞ)!
あ、というわけで「CB1100」シリーズは入念な開発によって、大排気量の空冷エンジン車ながらウイークポイントがとても少ないという定評を得ております。さらに、あらゆるバイクの販売と修理を数多く行ってきたレッドバロンには現場からフィードバックされる各車両の“ツボ(要点)”がデータベース化されており、アフターサービスも万全! まずはお近くの店舗まで、お気軽に足を運んでみてくださいね~!