イギリス発祥のカスタムカルチャー
ネオクラシック人気を牽引するZ900RSやW800の派生モデルに、Z900RS CAFEとW800 CAFEがある。ともにビキニカウルを装着し、ハンドルバーは低くマウント。レーシーなスタイリングとライディングポジションが特徴だ。
これらのモデルは「メーカーメイドのカフェレーサー」なんて言われる。そう、両モデルの車名についている「CAFE」とは美味しいコーヒーや紅茶が飲める「カフェ」のことではない。……いや、厳密に言えば、それは半分正しい……うーん、いったいどういうことだ? そもそも、カフェレーサーとは一体何なのだろうか?
その起源は1950~60年代のイギリス・ロンドンにある。
『エース・カフェ』という24時間営業のカフェにライダーが毎週末集まり、それぞれの愛車で公道レースをおこなっていたという。
当時のイギリスといえば、バイクはトライアンフやBSA、ノートンといった世界最高の性能を持つスーパースポーツが全盛だった。ライダーたちは、そんな愛車をそのままで乗るのではなく、セパレートハンドルやバックステップなどでカスタム。よりレーシーなスタイリングに変更していたという。
そう、カフェレーサーとはその名の通り、「カフェに集まるレーサースタイルのカスタムマシン」のこと。もともとはイギリスの不良たちが乗る改造バイクがその起源なのだ。
ちなみにカフェレーサーに乗る不良たちは当時『ROCKERS(ロッカーズ)』と呼ばれた。彼らが身につけるダブルのライダースジャケットやエンジニアブーツは、今でも定番のライダースファッションである。
ロッカーズは別名『TON-UP BOYS(タンナップボーイズ)』とも呼ばれていた。TON-UPとは時速100マイル(=160km)以上という意味。つまり時速160kmでぶっ飛ばす連中ということ。エース・カフェにあるジュークボックスにコインを入れて、曲が終わるまでの間に規定のコースを走って戻ってくる『ジュークボックスレース』なんていう公道レース(もちろん違法)もおこなわれていたようだ。
……と、ロッカーズについては、これだけで記事がひとつできるくらいなので、それはまた別の機会に。今回はカフェレーサーに特化していきたいと思う。
人気のジャンルとして確立
つまりカフェレーサーとは、もともとはイギリスの不良たちが乗る『公道レーサー』を指す言葉だった。
そして時が経ち、旧トライアンフやBSAなどの当時のスーパースポーツはすっかり影を潜めると、70年代はCB750FOURやZ1を皮切りに、日本車・並列4気筒時代がやってくる。
それでもカフェレーサーは廃れるどころか、不良だけでなく誰もが憧れるイチ・カスタムジャンルとして現在まで残ることとなる。
そして、70年代後半にはKAWASAKI Z1-RやH-D・XLCRなど、“メーカーメイドのカフェレーサー”が登場。不良の乗り物が広く、一般にも認知されたといって良いだろう。
さらに日本では、YAMAHA SR400/500がカフェレーサーカスタムのベースモデルとして人気を博す。SRはトラッカーやハイパーフォーマンスなど、さまざまなスタイルにカスタムされるが、カフェレーサーはSRの登場初期から今に至るまで、王道スタイルとして高い支持を得続けているのだ。
今なお進化を続ける
こうしてカスタムジャンルとしても、メーカーメイドの正式(?)ジャンルとしても人気のカフェレーサー。今でもZ900RS CAFEやW800 CAFEという車名になるほど高い認知度を誇っているのは、最初に書いた通り。
そして、トラディショナルなモデルとはまた別に、カフェレーサーは進化を続けている。
東京・大阪・名古屋で開催されたモーターサイクルショーではHonda・HAWK11が世界初公開。新時代のカフェレーサーを思わせるスタイリングは、古くからのファンはもちろん、カフェレーサーに馴染みのない若いライダーをも虜にしたようだ。
古くからあり、それでいて新しくもある『カフェレーサー』。街中も峠も、おしゃれに気持ちよく流すのに最適なスタイルだといえるだろう。