古臭いバイクだと思っていた。

2021年をもってヤマハSR400の国内販売が終了することになった。1978年の登場以来、じつに43年にわたるロングセラーだけに、そのニュースに何らかの感慨を抱いたひとは少なくないだろう。時代を共にしたといえる僕らアラフィフのバイク乗りであれば尚更だ。そのSRの詳細や歴史についてはこの「ForR」で佐賀山さんが書かれているので、僕は自分の思い出などともに、私的なSRへの想いを書いてみたい。 

僕がバイクの免許を取ったのは1983年、16歳のときだ。この年は“レーサーレプリカ・ブーム”がまさに始まろうとしていた時代。フルカウルをまとったRG250Γ(ガンマ)がデビューした年であり、翌年84年にはホンダNS250R、ヤマハFZ400Rなどのレーサーレプリカが続々と登場した。このときデビューから6年が経っていたSRはすでに“古臭い”バイクだった。少なくとも当時高校生だった僕にはそう思えたし、まったく興味の対象外だった。

自分にとって“風向き”が変わったのは1985年、SRX600/400の登場だった。SRと同じビッグシングルでありながら、スタイリングはモダンでスポーティー。派手で華やかなレーサーレプリカとは違う、シックで大人っぽいそのキャラクターに、僕はひと目で「これに乗りたい!」と思ってしまったのである。

ヤマハSRX

1985年に発売されたシングルスポーツ、ヤマハSRX600/400

 

そして高校を卒業して大学生になった僕は、アルバイトして貯めたお金でついにSRXを購入した。本当は600ccがほしかったのだけど、当時の僕は中型免許しかもっていなかった。600ccと400ccの違いは排気量だけでなく、フロントブレーキがダブルディスクになっていたりリアサスペンションがリザーバータンク付きのものになっていたりと、ディテールで微妙に差がつけられていて、それが600に憧れる理由にもなっていた。しかしそんなユーザーの気持ちを知ってか(きっと知っていただろう)、ヤマハは装備を600ccに準じたSRX400の“ YSPバージョン”という特別限定車を発売したのだ。僕がそれに飛びついたのは言うまでもない。

ヤマハSRX

SRX600。400との違いはフロントのダブルディスクブレーキ、リザーバー付きのリアサスペンションなど。

憧れのSR500を手に入れた。

やがてレーサーレプリカ・ブームは沈静化し、90年代に入るとカワサキ・ゼファー400の登場などをきっかけに、むしろレトロなネイキッドバイクが注目されるようになる。20代半ばになっていた僕には、かつて“古臭い”と思っていたSRがとても魅力的に映るようになっていた。そして僕が欲しいと思ったのは、圧倒的に「SR500」だった。そう、SRにも車体は同じでエンジン排気量だけが異なる400500があった。もちろん400ccを境に中型/大型の区分がある日本の二輪免許制度に対応したものだ。

すでに僕は限定解除をしていて、大型二輪に乗ることができた。であれば絶対に500だ。SRXに乗っていたときの600への憧れもあったし、SRはもともと「XT500」というトレールバイクから派生したモデルだから、500のほうが正当である、という思い込みもあった。そして僕は1989年式のSR500を中古で購入した。後に起こる“SRブーム”はまだ来ておらず、わりと程度のいいものを20万ほどで購入することができた。

 

ヤマハSR500。

ヤマハSR500。フロントがドラムブレーキになった年式のもの。

 

ようやく手に入れた大型のシングル、SR500は思っていたとおりのバイクだった。キックスタートでブルン!とエンジンがかかったときの嬉しさ。歯切れのいいビートを刻む単気筒エンジンの気持ちよさ。バッバッバッ!と後輪で地面を蹴飛ばして進むような躍動感。マフラー、シート、ステップ、パーツをひとつ換えるたびに自分だけのモノになっていくような愛着を感じ、野暮ったく思えていたスタイルは、じつはいい意味で“隙間”があるのだなとわかった。 

事情があり、そのSR5002年ほどしか所有しなかったのだけど、その後、周期的にSRが欲しくなることが何度かあった。それはやはり、SRがいつも“変わらずにある”からこそだったと思う。僕の場合、バイク雑誌の編集者という仕事柄さまざまなバイクに乗る機会があり、だからこそ自分が所有するものはいちばんシンプルなバイクがいい、と思いもあった。SR78年の登場から今まで基本的に姿を変えず、装備も時代にあわせて最小限の追加や変更をしたに過ぎない。最後までセルスターターさえ付けず、キックスタートを貫き通したのは英断だったと思う。「戻りたい」と思ったときにいつもSRはそこにいてくれたのだ 。

 

ヤマハSR

ヤマハSRと筆者。2020年に撮影。

きっと「戻りたい」と思う時が来る。

43年間変わらなかったSRに、僕がひとつだけ残念に思うのは、2000年をもってSR500が生産中止になってしまったことだ。じつは2000年代になって、もういちどSRを買ったことがある。1年落ちの新古車の400ccだった。だがそのSR400は、厳しくなっていた排ガス規制への対応の影響もあり、以前乗っていた500とはかなり違うバイクだった。荒々しく感じられた鼓動、躍動感は影を潜め、だいぶ大人しく躾けられてしまったな、と感じた。もちろんそれは、SRというバイクが生き残っていくために、メーカーが腐心し努力してくれた結果だということはわかっているのだが。僕は結局、そのSR1年ほどで手放してしまった。

ヤマハSR

2014年、僕が編集長を務めていた「MOTO NAVI」でSR特集を組んだときの誌面。

 

ヤマハSR

『MOTO NAVI』2014年10月号ではSRを特集した。

 

 僕がSRに対して、そんな勝手な想いを抱くように、きっとSRに憧れ、乗った人それぞれがSRに対する自分なりの想いを持っている。そういうバイクは日本にも、世界にも、きっと数えるほどしかないし、SRは紛れもなく日本の二輪史に残る名車だ。2021年をもって日本での販売終了という知らせは寂しいが、むしろ43年という長きにわたりありがとう、お疲れさま、という気持ちである。

 でもきっとまたいつか、SRに「戻りたい」と思うときが来るだろう。そのときはなるべく高年式の個体を買って、自分好みに仕上げていくのか、それとももはやヴィンテージとなっている500を探して(きっとよい値段になっているだろう……)かつての憧れを追いかけるのか。僕自身の“SRストーリー”には、きっと続きがあるだろうという気がしている。

ヤマハSR

いつかまた「SRに乗りたい」と思う日が来るだろう。

 

 

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