慣らし運転は面倒なのだ

新車のバイクを買ったらやらなければならないこと。それが“慣らし運転”だ。バイクは金属パーツの集合体であり、組み上げた直後の新車状態はパーツ同士の馴染みが悪い。そんな状況でいきなりアクセル全開! レッドゾーンまでぶん回すと、あんまりエンジンにはよくない。そこで内部のパーツのアタリが出るまでちょっと手加減して使うことで、しっかりとした性能を発揮できるようになり、寿命も伸びる…というのが慣らし運転だ。

ただ本当に必要なのかね? この慣らし運転。確かに何十年も昔のバイクは金属加工精度も低く、個体差も出たりして“アタリ車両/ハズレ車両”なんて言葉があったくらいだ。そんな時代のバイクには確かに慣らし運転をやったほうがよかっただろう。時代はもはや令和である。製品のアタリ、ハズレなんて言葉はなくなり、「今のバイクに慣らし運転なんて必要ないよ?」なんて発言がことがまことしやかに語られたりもする。…本当に慣らし運転はやらなければいけないのだろうか?

これはあくまで私見だけど、現代のバイクなら“まぁそこまで神経質に慣らし運転しなくても大きな不具合は起きないんじゃないだろうか?”…と思っている。でもね、いまだに僕は慣らし運転する派だ。最近ヤマハのバイク・テネレ700を新車で購入したのだが、取扱説明書を読んでみれば「慣らし運転」の項目はやはりある。つまり製造者であるヤマハは、最新のバイクにも慣らし運転が必要と考えているわけだ。ちなみに取扱説明書に書かれた慣らし運転の方法は、

「初回の1カ月(または1000km走行時)の点検までは、慣らし運転をしてください。慣らし運転中はエンジン回転数を6000rpm以下で走行してください。また、不要な空ぶかしや急加速、急減速はしないでください。慣らし運転を行うと車の寿命を延ばします。」

とのこと。推奨レベルではなく“してください”なので必須事項である。しかも“車の寿命を延ばします”とまで明記されている。慣らし運転はやっぱりやらなければいけない気がしてきたね…。

テネレ700の取扱説明書

テネレ700の取扱説明書。しっかりと慣らし運転の必要性が語られている。

 

正しい慣らし運転のやり方は!?

アクセルを開けたくても開けられない慣らし運転は、ライダーからすると相当面倒なことだ。ここでセオリーどおりの慣らし運転のやり方を書いておくと、“レッドゾーンの入り口の回転数の半分以下の回転域までに抑えて初回点検の1000kmまで走ること”である。つまりレッドゾーンが1万回転からのバイクなら5000回転以上にならないように走る。回転数に関しては当然、取扱説明書に指示があればそれに従うことが第一だが、タコメーターがなく回転数のわからないモデルは、スロットルグリップ開度1/4回転以下で穏やかに走ろうって感じだ。

これだけならまだいいのだが、ギヤ付きモデルは、1速からトップギヤまで全てのギヤを満遍なく使ってアタリを出す必要がある。つまり一気に距離を伸ばそうと高速道路でトップギヤでひたすら巡航…なんて走り方をしても、ギヤ部分の慣らしに関しては6速以外それほど効果が得られない。なのでゴー&ストップの多い下道を重点的に走るのだ。“早くアクセル全開にしてみたい!”と思いながら1000km走り続け、初回点検を受けてオイル&フィルター交換をしてもらうまで、気持ちのよさそうな道を見つけてもスロットルを開けられない、慣らし運転期間中は苦行のような日々が続く。

テネレ700のギヤ

エンジンのピストン周りもそうだが、ギヤの噛み合わせ部分もアタリが出ていない。1速からトップギヤまで満遍なくギヤチェンジして、しっかり馴染ませてあげる必要がある。

 

ちなみに慣らし運転中、間違ってアクセルを開けすぎて規定の回転数を超えてしまったり、走行状況的にエンジン回転数を上げて速度を出さなければいけない様な状況に陥ったとしても、慣らし運転中のエンジンが壊れたり、たった一回のミスがその後のエンジンのコンディションをどうこう作用するようなことはないのでご安心を。あくまで“できるだけ穏やかに低めの回転数で走ってあげる”くらいでOKだ。

初回点検時のオイルを見てみたら慣らし運転の必要性がわかった

そんなワケでちょっと面倒なので、やらなくていいのであればやりたくはない慣らし運転(笑)。僕もバイクを買うたびお店のスタッフに慣らし運転の必要性を聞いてみるのだが、大抵“確かに昔よりエンジンの組み付け精度は良くなっているから、シリンダーやピストンなどは問題ないだろうけど、変速機、つまりはギヤのアタリを出すのは結構重要ですよね”…なんて慣らし運転を促す回答が返ってくる。お店では何台もの新車を販売し、初回点検も無数にこなしているワケだが、初回点検のオイル交換時に出てきたオイルはたった1000kmしか走ってないのに、鉄の粒子のようなものが浮かんでいるという。この粒子のようなものは、初回点検後もしばらくエンジンオイル交換時に見られるというので、テネレ700から出てきたオイルを見せてもらうことにした。

慣らし運転後のエンジンオイル

テネレ700の初回点検時に出てきたエンジンオイル。しばらく放置しておくと“もやもや”のようなもの漂いだした。これが金属同士が馴染む際に削れた細かい金属粉らしい。初回点検時が一番多く、オイル交換ごとに減っていくのだとか。こんなものを見てしまうと、少なくとも初回のオイル交換までは大人しく走ろうという気になる。

 

慣らし運転とは“呪い”のようなもの

できることなら、まどろっこしいからやりたくないけど、どうやらやったほうがよさそうな慣らし運転。このページをここまで読んでくれているということは、“やらなくていいならやりたくないけど、ホントのところどうなの?”と悩んでいる方ばかりだろう。つまりせっかく新車を買ったから、大事に乗ってあげたいという気持ちが根底にあるワケだ。

慣らし運転をちゃんとするか? しないか? 究極を言えばそれは個人の自由だ。ただ一つ言えることは、もし今後何らかのエンジントラブルが起きた時、もし新車時に慣らし運転をちゃんとしてなかったら…? きっとトラブルの直接の原因が慣らし運転にあろうとなかろうと、“ちゃんと慣らし運転していれば壊れなかったかも…”なんてな具合で後悔することになるということだ。慣らし運転とはもはや呪いのようなものである。この呪いから解き放たれるには、新車時にしっかり慣らし運転を行い、きっちり呪いを解いておく他、我々ライダーになす術はない。

新品のタイヤ

当然ながらエンジン以外のタイヤもブレーキも新車時は新品である。エンジンほど長い距離は必要ないけど、100km程度走ってアタリがつくまでは穏やかな運転が必要だ。

 

というわけで、今回の新車購入にあたっても粛々と慣らし運転をしていた僕ではあるが、どうにも我慢できず1000kmまで200km足りない800km走った時点で慣らし運転を早めに切り上げ、強制終了。お店に持ち込んでちょっと早めの初回点検とオイル&フィルター交換をしてもらうことにした。ちょっと距離が足りないとはいえ800kmも走れば新車時より、ギヤの入りもよくなったし、サスの動きも馴染んでよくなった印象が確かにある…。ただこれが慣らし運転によるプラスの効果なのか? それとももともとそういうものなのかは不明(笑)。だがきっと僕は、次にバイクを買う機会があっても“やっぱり必要なの?”と思いながら、また慣らし運転するんだろうなぁ。

 

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