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こんにちは! 小川恭範(おがわ やすのり)です。
「えっ? 誰?」という声がサイバースペース越しに聞こえてくるようですが(涙)、ボンビー小川と書けば、今このウェブサイトをご覧になっていらっしゃる数千万読者のうち、4068人くらいは「あー、ホンダNRをコカしたヤツね」と思い出してくれたことでしょう。創業1957(昭和32)年の老舗パブリッシングカンパニー『八重洲出版』にて、モーターサイクリスト・ドライバー・別冊モーターサイクリスト各編集部を移ろいつつ四半世紀以上、様々なページを作ってきました。
ちなみに同社はサイクルスポーツ、オールドタイマー、ラジコンマガジン、オートキャンパーといった定期刊行物のほか、毎年3月中旬に出る最新バイク図鑑、往年の名マシン回顧録、痛車系、車中泊系、はては補聴器ガイドに至るまで非常に濃ゆいムック類も多数出しており、それらを「ああ、知ってるよ!」という方々は、一気に数十万単位となるはずです(あの[CAR BOY]もコチラ)。
空前絶後のマシン Honda NRを……!?
と、ここで多くのベテランライダー諸兄姉が、まだ私のことを覚えてくれている最大の要因になったであろう「ホンダNR転倒事件」について、ひとくさり述べさせていただきますと……。
ホンダNRとは1992年に当時としては常識外れの520万円という価格で発売された伝説的モデル。その起源となったのは「4ストロークで2ストロークを打倒する!」という遠大な目標に向けて開発され、1979年から1982年まで世界グランプリで長年タイトルを独占してきたスズキ、ヤマハの2ストローク500㏄マシンへ真っ向勝負を挑んだレーサー、ホンダNR500。
1気筒ごと8バルブの 「UFOピストン」搭載車
「多気筒化して超高回転型エンジンにすれば4ストでも2スト並みのパワーを絞り出せるが、レギュレーションでシリンダー数は4つまでという縛りがある……。そうだ、8気筒のピストン2つをつなげてしまえば4気筒になるじゃないか!」。型破りな開発リーダーの発想を具現化し、二輪最高峰のレースへ挑む姿に熱くなったバイク好きは数知れず。
残念ながら華々しい戦果はあげられなかったものの、その象徴的な技術【1気筒あたり8バルブ】を有する市販車が出ると聞いて色めき立ったのが当時のモーターサイクリスト編集長で、1990年モーターショーでのプロトタイプ発表時に誌面にて購入を宣言! 2年後の発売開始までに520万円+関連諸費用の稟議書を通し、晴れてシリアルナンバー0001のNRが八重洲出版へと納車されたのです。
いわゆるメーカーの広報車ではなく、会社で購入した車両だけに慣らしを兼ねて北海道までイッキ乗りしたり、輸出仕様の部品を組み込んでフルパワー化したりとやりたい放題(笑)。
一連のメジャーな企画が一段落し、じゃあ次は旅性能でも確認するかという段になって大役を仰せつかったのが、数年前からモーターサイクリスト編集部にアルバイトとして潜り込んでいたボンビー(貧乏)なワタクシ。ちなみに対照的な存在のリッチー○野というスタッフもいました(元気ですか?)。
今ならSNSで大炎上な事案が発生
「おいボンビー、カイザーベルク穂高っていうイイ宿があるから、そこを行き帰りするルート考えて!」と大先輩に一任され、迷わず向かった乗鞍スカイライン。
11年後の2003年にマイカー乗り入れが禁止されるとは思いもしないまま、美しい背景を探してカメラマンと道端で相談しているとさすがは話題のモデル、某大学のバイクサークルだというナウなヤングたちが10数人「取材ですか!? 見学させてください!!」と目をキラキラさせて同伴を希望してきました。「そうかそうか、苦しゅうない」と偉そうに許可を与えてから絶景ポイントまで大名行列よろしく移動し、いざ撮影をスタート。
カメラマンの待ち構えるコーナーを全くバンクさせられないまま(涙)何回か往復したあと、せっかく集まってくれているギャラリーの目前でもUターンを決めてやろうとスケベ心を出したのが運の尽き。そこの路面の傾斜が想定より大きなことに「へぇっ!?」と狼狽した次の瞬間には、真紅のボディがアスファルト路面上を転がっていたのです。
絶望、絶望、また絶望
パニックで腰が抜けるなか、ナイスなヤングたちの手助けも得つつ車両を引き起こしたあとは、しばし茫然自失。NR向けに新開発されたという赤色・高彩度塗装(蛍光塗料【NRレッド】は1kgで200万円とも!?)が施された軽量・高剛性の炭素繊維強化樹脂(CFRP)製……つまりはフルカーボンのボディ外装には、コンパウンドどうこうではごまかしきれない細かくも深い傷が広くポツポツポツポツ。
「確かタンク部からテールまで一体成型のカウル単体だけで70万円するって話だったよな。ミラーやフェアリングや交換工賃まで合わせると、いったい時給にして何千時間分が吹っ飛ぶんだろう……」。空は青かったのですが心は漆黒に。どうなる!? (つづく)