文字どおりの採算度外視!? 2009年春、国内仕様登場時に静岡県磐田市で催された「New VMAX取材会」で、ヤマハ開発陣から「そこはコストを考慮して……」なんて消極的な言葉を聞いた記憶は皆無! 自分たちが作りたいものを具現化するため一切の妥協なく、一片の悔いなく各人がそれぞれの責務を全うしたという笑顔だけがその場にあったのです!

●揺蕩(たゆた)う水面に屹立する2代目「VMAX」! 当時配布された広報資料には気合いの入ったイメージカットが多数ありました。中でも妄想が膨らんだのがこちらで、まさに泉の女神ならぬ泉の魔神!? 「オマエが落としたのは金のお……いやビーノか、銀のビーノか?」と問われたら、「いいえ、どちらでもありません。私が落としたのはE-ビーノです」と答えると3台とも持って帰れるハズです、イソップ童話の世界では(^^ゞ
Contents
やり切った感に満ち満ちていた2代目「VMAX」デビュー時の開発陣!
「わが生涯に一片の悔いなし!!」
とは、この連載を楽しみにしてくれている大きなお友達なら説明不要なのでしょうけれど、念のため蛇足説明をしておくと北斗の拳の裏主役、ラオウ生涯最後のセリフですね。
社会人になってから35年が経過しようとしている筆者の生涯において、心の底からこう言い切れる体験は……まだありません。

●まぁ、そんなに大それた成功でなくとも、日々の生活でちょくちょく「やったぁ!」を積み重ねることができれば十分にイイ人生なのではないかと……ハイ(^▽^)
ニアピン賞ならヨメさんとの結婚時。
大先輩から引き継いだ「バイク図鑑」の安定刊行達成時。

●大先輩が立ち上げた「バイク図鑑」を引き継いで、3年間しっかり出すことができたのは本当に素晴らしい体験でした。売り上げも確保できたことにもホッ……(^^ゞ。バイクシーズンが本格的に始まる春、2025年3月31日には『最新バイク図鑑 2025-2026』も出ますので是非是非〜
エヴァ完結を見届けた時くらい……!?
どれもここに書くことすら憚れるほどの矮小さに嫌気が差しますけれど、そんな自分語りはともかく偉大なるマイルストーン2代目「VMAX」を晴れて世に出したヤマハ開発陣は、全員が全員あのときのラオウのようなやり切ったイイ顔をしておりました。
2000㏄からスタートして(公に語られているだけで)2回も排気量が変更されたエンジンに関しては前回紹介したとおりながら、ことスタイリングに関しては、どれだけ試行錯誤が重ねられたことか……。
星の数ほどのアイデアスケッチが生まれては消えていった……
担当者も苦笑いされていましたけれど、スタイリングを固めるために描かれたスケッチの量は数知れず。

●おそらくは各部の仕様も確定した最終段階でのイメージスケッチ。鈍く輝く巨大なエアスクープが吸い込んだ空気が真下へと降ろされてエンジンへと吸い込まれ、強烈な力を生み出したあとの排気が極太のエキパイからマッチョなサイレンサーを経て吐き出されていく……。吸排気の流れをこれでもかと誇張する「VMAX」ならではの様式美、ここに極まれり!
なんとかクレイモデルまで進んでも、エンジンやシャシーの仕様が変われば再びのゼロスタート!?

●こちらも最終段階とおぼしきクレイモデル。本当に0.1㎜単位の削り出しによって「面」の表情は一変するため、社内でも腕利きのモデラーが慎重に作業していったとか……。もちろん怒濤の加速感と自在のヤマハハンドリングを実現しつつ、厳しい環境諸規制をクリアするための必須要件までうまく内包していかなくてはならないというハードルの高さよ!
通常の車両だったら3~4台分、いやもっと多い台数を楽勝で作れたかもしれないほどの熱量が注ぎ込まれたと言います。
初代「VMAX」はもともと米国専売モデルとして開発されたこともあり、力の象徴としてドラッグレースマシンや戦闘機をイメージしたというスタイリングが構築されていきましたが、2代目「VMAX」にとって訴求するべき地域は全世界!

●1985年に衝撃デビューを果たした北米向け「VMX12(V-MAX)」カタログに用いられた写真より。凜として佇むマシンの背景に配された白煙モウモウなドラッグレースシーン……まさにそのイメージを具現化していったことがひと目で分かりますネ
国や人種、文化の違いを超越することを目指したとき、大きなモチーフとなったのが当のヤマハが立脚している日本ならではの力強さ……ということで、奈良・東大寺に鎮座する南大門金剛力士(仁王)像の姿などを脳裏に思い浮かべつつデザイナーは腕をふるったそうです。

●開口の「阿形(あぎょう)」像と、口を結んだ「吽形(うんぎょう)」像の2体を一対として、寺院の表門などに安置することが多い金剛力士像。寺院の門に配される際には「仁王 or 二王(におう)」の名で呼ばれるのだそうです。筆者も修学旅行にて東大寺仁王像と対峙し、圧倒された記憶がございます……
美が宿る細部を丹念に集積していき1台の走る芸術品が生まれた!
もちろん初代で好評を得た部分は残しながら、適宜進化&発展させるのは決定事項。

●「VMAX」のアイデンティティーとも呼べるエンジン直上のエアスクープ。実のところ初代ではダミーだったのですけれど、2代目では実際に走行風をエアクリーナーボックスへと導く機能が持たされました。特殊なアルミニウム素材でできており、ひとつひとつを職人が丁寧にバフを掛けて仕上げていくという手間暇かけまくりなパーツ……。そちらを制作する工程を、参加した「New VMAX取材会」では垣間見ることができて大いに感動いたしました
秒進分歩な生産技術や補機類の進化についてもしっかり包み込まなくてはなりませんし、十分な足つき性とバンク角は確保しろ、大きくしすぎるな、小さくてもダメだ、15ℓ容量の燃料タンクは何とかならないのか……などなど大きな期待の裏返しでもある外野の声は相当なボリュームだったはず。

●初代オーナーへの取材では「ツーリング=ガソリンスタンド探しですよ」と笑い飛ばす人も数多くいた燃料タンク15ℓ問題。2代目ではグッと増えるのかな……というファンの期待はかなわず15ℓのままで登場。関係者にそのあたりを質問してみると「実のところ17ℓくらいにはしたかったのですが、そうするとシート高が上がってしまうのですね。当然、足着き性も悪くなるしスタイリングもイマイチになってしまうので割り切りました」とのこと。たとえば対策としてサイドカバー部分をこれ以上横方向へ張り出しても……ねぇ(^^ゞ
しかしながら、デザイナーは自らが信じた道を邁進して2代目をまとめ上げることに成功したのです。
筆者も広報部から送られてきた第一報写真データを見たときには図らずも超感動しちゃいましたね~。

●初代登場から二十余年を経て、遂に市場へと投入された2代目「VMAX」! 全てが新しくなっているのに、どこからどう見ても魔神そのものという見事なフルモデルチェンジで全世界にいるバイク好きがドギモを抜かれました
初代がエンジンでっかちなら2代目は吸排気系でっかちと称するべきか……(^^ゞ。
ダミーからホンモノの空気取り入れ口となった音叉マーク輝くエアスクープと、エンジンからにょきっと出てくる極太エキパイ+美しいチタン製サイレンサーの組み合わせがまず目に飛び込み、ドドンと横に張り出して存在感がいや増したサイドカバーへと視線はいったん収束。

●スラントする異形ヘッドライトの上部からニョキッと突き出るメーター部分。当初はメチャクチャ違和感を感じたものでしたが、今やストリートファイター系ネイキッドモデルの定番デザインとなりましたね。そんなところでも「VMAX」は先見の明があった!?
そこから改めて全体を見渡せばフロントフェンダー、ライト、シート、テールエンドへ至るまで隙のないボリューム感あるエクセレントな形状に思わず「ほわわわぁ~」としてしまったものです。

●テールカウルの妖艶さといったら……。金剛力士像のような力強さとともに観音様もかくやの柔らかな曲線美も随所に散りばめられている「VMAX」のスタイリング。目線角度を少し変化させるだけで大きく印象が異なってくる全体の仕上がりっぷりには素直に脱帽するしかありません
その姿はフルパワー仕様で200馬力(!)という再び世界を震撼させた大台乗せの最高出力ですら「しっかり受け止めてくれるに違いない」という確信まで抱かせてくれるような筋骨隆々っぶり。
当時のヤマハが持てる最新テクノロジーを全集中して車体を構成!
パッと見の外観上は初代同様黒子に徹しているフレームは重力鋳造による中空構造(部分ごとに肉厚を3〜6㎜で変化させている!)のアルミニウム製で

●初代で「フレームがヤワだから……」と散々言われてきたことがトラウマ(!?)になったのか、2代目では文句ナシの高剛性かつ過大な負荷がかかったときには入力を適宜受け流すことまで考慮したアルミ製ダイヤモンド型フレームをゼロから新設計。こちらに1679㏄のV型4気筒エンジンが3箇所でリジッドマウントされました。なお、乗り手の体重+αさえ受け止めればいいリヤフレームはCFアルミダイキャストとアルミ押し出し材を溶接した構造となっており、軽量化への配慮もなされていたのです
ウマ娘200人分(?)の激烈パワーと装備重量311㎏+乗り手の体重+α、そして路面のうねりから突き上がってくる縦Gやフルバンク時の横Gまでをガッツリかつ、しなやかに受容ッ!

●「VMAX」カットモデル(ピンチアウトしてみて!)。エアスクープに挟まれたダミータンクの内部にある巨大なエアクリーナーボックスが丸見えですね(赤い物体がエアクリーナーエレメント)。Vブーストの転生版と理解する人も多かったYCC-I(6650回転を境にしてファンネル長が切り替わる)もエンジンのVバンク直上に鎮座しているのが分かります。シート下の樹脂製ガソリンタンク内には怒濤の加速中でも十分な量のガソリンをインジェクターへ送り込む高性能電磁ポンプが……。逆に言えばこんな制約だらけななかで、よくぞ15ℓも燃料タンク容量を確保できたなぁ……と
『怒濤の加速感』と『自由自在なヤマハハンドリング』を両立させるため重要な前後サスペンションも当たり前のように特別仕立て。
フロントフォークはあえての正立式ながらインナーチューブ径は驚きのφ52㎜という極太さ!

●ブラッキーな輝きを誇る酸化チタンコーティング加工済みインナーチューブ(オイルシールまで特注品!)と上部がアルミ削り出しで下部はアルミ鋳造という凝りまくった構造を持つアウターチューブとが組み合わされた「VMAX」のフロントフォーク。開発当初は倒立式だったそうですが、たおやかで奥深いハンドリングを達成するために正立式を採用したとか。当然ながら圧側・伸び側の減衰力調整可+内蔵スプリングへの初期荷重も可変設定できるフルアジャスタブルタイプとなっております
エンジンから噴出するズ太いトルクを後輪へ伝える頑健なリヤ駆動系は、リンク式のモノクロスサスペンションがしっかりと下支え(もちろんこちらもフルアジャスタブルタイプ)。

●なかなか見ることのできないシャフトドライブの内部構造。まさしく歯車によって回転方向の変わる駆動力がリヤタイヤを動かしているのですね。シャフトを収めているリヤアームはアルミ鋳造製でカバーの一部には軽量なマグネシウムも使われていました。いやぁ、どこもかしこもコストかけまくり!
とにもかくにも2代目「VMAX」は専用パーツのオンパレードで、「既存のバイクから流用されたのはハンドル左右にあるスイッチボックスくらいじゃないの!?」と当時から話題になったものです。
そんな「VMAX」が満を持して発売されて、一体どうなったのか……を次回はお届けする予定です。

●光芒一閃! 生まれ変わった「VMAX」の旅立ちは順風満帆となったのか、それとも!?
あ、というわけでヤマハ開発陣が不退転の決意で世に放った2代目「VMAX」はもちろん、大ヒットした初代もレッドバロンには在庫アリアリ! アフターサービスも万全ですので、まずはお近くの店舗で「VMAX」へ盛り上がった思いの丈をスタッフにぶつけてみてくださいね~(^^ゞ