ズバリ「OEM」とはOriginal Equipment Manufacturing(またはManufacturer)の略で、日本語にすると「相手先ブランド名製造」や「納入先商標による受託製造」などと訳されたり……。まぁ、つまりはスズキの「ワゴンR」がマツダでは「フレア」として売られているというアレです。実はバイクの世界でも意外なほどに実例がありまして~!?

●その名もスズキ「GSX250FX」(上のタイトル文字背景写真とも2005年型カタログより)! ええ、どこからどう見てもカワサキ「バリオス-Ⅱ」ですね。つい20年ほど前、スズキとカワサキがガッツリ手を組んで車両を融通したり、マシンを共同開発していた時期があったのですよ〜。そのあたり、回を重ねてしっかり解説していきますので、ごゆるりとお付き合いくださいませ(^^ゞ
Ninja ZX-14Rという万能旗艦【その10】はコチラ!
アナタの知らないOEMの世界【その2】は今しばらくお待ちください m(_ _)m
Contents
クルマの世界では昔も今も当たり前に行われていますね〜
バイクはもちろん、クルマも好きであろう読者諸兄諸姉におかれましては、もうちょっとクルマの例を出しておきましょうか。
軽自動車を自社開発&製造するメーカーが減った昨今は、もう軽商用車なんてOEMだらけですしね。

●スズキ「キャリイ」……ではなく三菱「ミニキャブ トラック」ですね。日産では「NT100クリッパー」、マツダでは「スクラム トラック」としても販売中。同様にダイハツ「ハイゼット トラック」は、トヨタ「ピクシス トラック」、スバル「サンバー トラック」としてOEM供給されています。昔はスバル、三菱、そしてホンダもオリジナルの軽トラック&バンを開発していたのですけれど……

●ちなみにコチラが最新型のスズキ「キャリイ」KXです。2WD・5MTで129万5800円(税込み価格。以下同)。なお、バイクのスズキ「Vストローム800」は127万6000円……
ちょいと古い話ですけど、面白いのがいすゞの乗用車「アスカ」。
初代こそ当時業務提携をしていたGM(ゼネラル・モーターズ)の世界戦略車構想に基づいて完成したものの後続車を自力開発する余力はナッシング……。

●1983年、いすゞ「フローリアン」の後継車として登場した正式名称「フローリアンアスカ」。イルムシャー仕様もカッコよかった〜(カゲムシャーも!?)
というわけで2代目はスバル「レガシィ」ベースとなり、

●1990年に登場した「アスカCX」。シュッとしとるなぁ〜
3~4代目はホンダ「アコード」のOEM供給を受けるという数奇な運命をたどることに……。

●写真は1997年にデビューした4代目「アスカ」。これが最終型となりました
逆にいすゞのSUV(RV車やクロカンとも呼ばれてましたね)「ビッグホーン」が土嫌い(ワークスとしてWRCなどのラリー競技に出たことがなく、ラインアップもスポーティな乗用車だらけだった)な四輪ホンダブランドで発売されたのにはビックリ!

●1994年に登場したホンダ「ホライゾン」……。当時、世を挙げてのRV(レクリエーショナル・ビークル)大ブームにホンダもしっかり乗っていたのです。あ、ちなみにSUVとはスポーツ・ユーティリティー・ビークルの略で現在大人気のジャンル。バイクで言えばアドベンチャー……ですかね(^^ゞ

●ホンダでホライゾンっつ〜たら、こっちでしょ!の「CBX750ホライゾン」(1984年登場)。インテグラ、ストリーム、ビート、ジャズ、セイバー、トゥデイ……。ホンダは二輪で親しまれた名前をクルマへ流用するのが得意ですな
あと、筆者個人的には農道のポルシェとして孤高の存在感を放っていたスバル「サンバー」が、先述のとおりダイハツ「ハイゼット」のOEMモデルとなったときには、なんだかもう大きな時代の終わりを感じたものです(涙)。
そもそも何故にOEMというシステムが成立しているのか?
それはさておき。
ではなぜ、OEMという手法が今なお数多く採用されているのか……。
とにもかくにもメリットとして大きいのがコスト面。

●2002年型スズキ「250SB」カタログより。ハイ、まんまカワサキ「D-トラッカー」であります。グラフィックを形作るステッカー代などは、車両を丸ごと開発する資金に比べたら安いもの……
車両をゼロから作り上げるというのは、それはもう莫大な費用がかかること。
エンジンとシャシーは言うに及ばず、電装類からスタイリング、さらには操縦安定性能の磨き込みに至るまで、モビリティの開発には詳細を聞いた素人さんなら思わずのけぞってブリッジしてしまうほど、
途方もない大金……材料費、工作費、人件費などを投入しなければならず、試行錯誤にかかる長大な時間も考慮しなければなりません。

●ふた昔前、関係者の先輩に「バイク1台を開発するのには20億〜50億円はかかってる」と聞いた記憶がございます。厳しい環境諸規制へ対応する各種電子制御テンコ盛りな今ドキの車両ならケタがひとつ違っていることは確実!?
それが、一旦完成したものをサクッと使わせていただけるのなら(いや実際はメチャクチャ調整や手続きが必要ですけど)、膨大な開発&管理費用が浮き、場合によっては在庫リスクの削減までできてしまうのですから委託側には多大なる利点あり。
その分、違うことにリソースを集中できますしね~。
そして横流し(?)をしてあげるOEM受託側もトータルの生産量が増えれば万々歳!ということでWin-Winな関係になりがち。

●スケールメリット……同種のものを数多く生産することで総合的なコストが抑えられることは感覚的に理解できるはず!
まさしく呉越同舟!? 昨日の敵は今日のビジネスパートナー!
比較的近しい話でバイク業界を震撼させたOEMと言えば、やはりホンダとヤマハの原付一種領域における協業の成果でしょう!
今となってはもう9年前の話となりますが、2016年10月に両社から「ボクたち手を組みま~す」というプレスリリースが発表されたときには不肖オガワ、在籍していたバイク雑誌編集部で『新婚さんいらっしゃい!』司会者並みの椅子ゴケをするくらいビックリいたしました。
「へ? ホンダと? ヤマハが? 手を組むッ???!」
空前絶後、狂乱のバイクブームが巻き起こった1980年代初頭、後に「HY戦争」と名付けられるほどバチバチの殴り合い(=熾烈な販売合戦)をしていた姿を多少でも知る身にはアンビリーバブル!なことだったのです。

●ヤマハが宣戦布告してホンダが大逆襲! いったん終結したあとも繰り広げられたブランドの高め合い……。興味を持ったらぜひHY戦争をチェックしてみてくださいませ m(_ _)m
しかし、冷静に状況を分析してみれば深く納得……。
そのバチバチ時代には1年間で約250万台(!)も売れていた原付一種モデルは、2015年にゃ7万台以下しか市場でさばけなくなり、1台当たりのコスト高騰→販売価格に直結→ますます売れなくなるという負のループがガッツリとメーカーとユーザーを苦しめていました。
瀕死の原付一種マーケットを守っていくための大いなる決断!
かくいう状況を少しでも改善しようと両社は手を組み、ホンダ「タクト」ベースのヤマハ「ジョグ」、ホンダ「ジョルノ」ベースのヤマハ「ビーノ」が2018年から世に出回るということになったのです。

●2018年型ヤマハ「JOG/Deluxe」カタログより。テールランプなんて、まんま「タクト」……

●新時代「ジョグ」のベースとなったホンダ「タクト」。写真は2018年に発表された「タクト・ベーシック スペシャル」

●今一度、2018年型ヤマハ「ジョグ デラックス」……。足を置くところ以降はタクトとほぼ共通ですけれど、フロントフェイス部分の作り分けでうまくジョグっぽさを醸し出していますね〜

●こちら2018年型ヤマハ「ジョグ デラックス」の広報写真を拡大したものなのですが、無段変速機のベルトカバーにはしっかり「HONDA」の刻印が!
ただ、エンジンやシャシー、メーターなどはホンダのものを使いながら、一部外装パーツのデザインを変更することでヤマハらしさの演出に成功しているところは流石だなぁ、と……。

●2018年に発表されたホンダ「ジョルノ・スペシャル」。安定の可愛らしいデザイン……

●2018年型ヤマハ「ビーノ」……今回改めて写真を並べて各々のサイトもチェックしてみると「こんなに違うのか!」という驚きがありました。ライトやハンドルの周辺なんて(メーター形状まで!!)完全にベツモノじゃないですか。生産担当のホンダさん、よく許容したなぁ……(^^ゞ
そんなOEM「ジョグ」&「ビーノ」はホンダの工場で粛々と生産されていきました。

●つい1年前、2024年の8月にはホンダとヤマハが「原付一種の電動二輪車のOEM供給に合意する」というプレスリリースが流されています。写真はベースとなるホンダの電動二輪車「EM1 e:(イーエムワン イー)」ですが、ビジネス用途として「BENLY e: 1(ベンリィ イー ワン)」も検討に入るとのこと(関連記事はコチラ)。原付一種ガソリンモデルが終焉へと向かうなか、どのような展開になるか楽しみですね
駄菓子菓子!
ホンダとヤマハの歴史的協業合意から遡ること10余年、2000年代初頭にスズキとカワサキが二輪車の相互OEM供給(や一部車両の共同開発)を行っていたのです!

●2002年型カワサキ「エプシロン250」カタログより。スズキのドル箱「スカイウェイブ250」を華麗にOEM化……。今ではちょっと信じられない状況ですよね〜
次回は今や忘れられつつある、スズキ・カワサキ業務提携時代の話を語ってまいりましょう!
あ、というわけでお互いのブランドイメージを損なわないという信頼関係の上に成立するOEM車両はメカニズム的なネガは全くなく、なのに意外とお求めやすくなっていたりするのでお買い得な場合も! 莫大な在庫量を持つレッドバロン『5つ星品質』中古車のデータをお店でチェックしてみるのは超オススメですよ!
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