【前回まで】
造形社『カスタムバーニング』編集部で新人編集部員として働く若き日のサガヤマ青年。
2001年春、ホンダから発売されたCBR1100XX(国内仕様)のメディア向け試乗会に編集長、カメラマンさんと3人で参加し、なぜかライダー役を務めることになった……まではよかったが。

 

Honda CBR1100XX(国内仕様)
●全長×全幅×全高:2160×720×1200(mm)●軸間距離:1490mm ●シート高:810mm ●車両重量:256kg ●エンジン形式:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒 ●排気量:1137cc ●内径×行程:79.0×58.9(mm)●圧縮比:11.0:1 ●最高出力:74kW(100PS)/8500rpm ●最大トルク:98Nm/6500rpm ●燃料供給装置:PGM-FI ●燃料タンク容量:24L ●タイヤサイズ:F 120/700-17 / R 180/55-17 ●ブレーキ形式:F 油圧式ダブルディスク / R 油圧式ディスク ●当時新車価格:110万円(税抜)

 

目の前には傷だらけのCBR1100XX

晴天の(たぶん)河口湖畔で、バキバキに割れた車体左側のカウルと擦り傷だらけのマフラーを見て、しばらく呆然とする僕。

あぁ、なんで僕は傷だらけのCBR1100XXの前にいるんだろう?

思えば、地元・大阪の大学を卒業し、放送作家を夢見て大阪の番組制作会社に就職したのはよかったものの、やっぱり「全国区の番組を作りたい!」、そして「ダウンタウンと仕事がしたい!」と思い、役者を目指す友だちと一緒に上京。

だけど、どうすれば放送作家になれるか分からず、仕方なくフリーターとして過ごすが、たまたま『カスタムバーニング』のスタッフ募集を見て、バイト感覚で応募。今だから書ける正直な志望動機は「放送作家を目指すうえで、コンビニや居酒屋でバイトするよりは役立つだろう。バイクも好きだし〜♪」という程度。

それがいざ編集部に入ると、やっぱり根っからのバイク好き。毎日バイクに囲まれ、そして放送作家とはまったく違うものの、モノ作りに携われることが楽しくて仕方なく、さらにありがたくも正社員として登用。忙しくも充実した日々を送ることになったのだ。

……が、そんな楽しい日々もあっという間に終焉を迎え、いま、僕の前にはバッキバキにカウルが割れたCBR1100XXが佇んでいる。

あぁ、なぜ僕の前には憧れのダウンタウンではなく、傷だらけのCBR1100XXがいるのだろう? どこで道を間違えたのだろう?

 

空気抵抗の低減を図ったバックミラー一体式のフロントウインカーが、このマシンがただものではないことを物語っている。国内仕様にはハザードランプ機能が装備されている。

 

このまま大阪に帰ろうか……

そんなことをボーっと考える僕。

本当にやばいことになった。どうしよう? あぁ、このままこのCBR1100XXに乗って、大阪まで帰ってしまおうか? 

冗談ではなく、わりとマジでそこまで考えたことを覚えている。

だけど、当然そんなことをするわけはなく、「このままではいかん、とりあえず編集長とカメラマンさんがいるポイントまで行こう」と決心。

CBR1100XXのエンジンをかけ、撮影ポイントまで乗っていった……半ベソ状態で。

転倒してから撮影ポイントに帰ってくるまで、実際どれくらいの時間がかかったのかは憶えていないが、相当な時間躊躇していたのだろう。心配そうな編集長とカメラマンさんが駆け寄ってくる。

で、すぐに異変に気づく。

「あぁ、やっちゃったな……」と編集長。

 

迫力の左右2本出しマフラーを採用。テールランプはマルチリフレクター仕様となっており、被視認性を向上させている。

 

拍子抜けするほどアッサリ

編集長に事情を説明する。こってり絞られるかと思いきや、「そうか、とりあえず(試乗会場に)戻るか」で終了。

編集長に運転を代わってもらって、ホンダ広報部の方たちが待つ試乗会場に戻る。僕はたしか、カメラマンさんの車の助手席にいたはず。高校時代のラグビー部の夏合宿よりも、大学受験の合格発表よりも、この時が人生でもっとも喉がカラカラだった。

試乗会場ではホンダ広報部の方に平謝り……が、ここでも怒られることはなく「おぉ、それよりも怪我はない? それ(怪我なし)ならよかった」と、僕の身体を心配される始末。

だけど、傷だらけになってしまったCBR1100XXはどうなるのだろう? このあとは別の媒体がこの車両に試乗するはずなのだが……と思っている間もなく、車両は会場に設置されたテントのなかへ。

メカニックの方たちが手際良くカウルやマフラーを交換し、15分ほどでピカピカのCBR1100XXがテントから出てきた。

もちろん、僕はそれを見て笑顔になるわけにもいかず、終始引きつった顔のまま。だけど広報の方は僕や編集長に注意をするわけでもない。そう、端的にいえば「お咎めなし」ということだった。

あとで思ったことだが、ホンダの方たちも僕がわざとやったわけではないということは当然承知しているし、こんなことがあったのだから、次からは慎重に慎重を重ねて試乗するであろうことを前提にして、「お咎めなし」だったのだろう。

つまり「今回は許すが、二度目はない」ということだ。実際にそう言われたわけではないが、この事件以降、僕はそういう心持ちで試乗会に参加したり、広報車を借りたりしている。

もちろん、今回のレッドバロン主催のメディア向け試乗会でも、CBR1100XXをはじめ、1台も試乗車をこかすことはなかった!(笑)

 

両足をつこうとすると、ご覧の通りのつま先立ちに……。しかし、これでもバイクを支えるには十分。あとは「こかすかもしれない」運転を心がければ、こかすことはないだろう!

 

「こかすかもしれない」と思いながら足をつく

さて、前編にも書いたが、僕の身長は161cm。決して高くはない、というか、むしろ低い。

しかしCBR1100XX事件以降、バイクをこかしたことはほとんどない。そう、あくまでも「ほとんど」。残念ながら、このあとも2回ほどこかしてしまったことがある。

だけど、身長161cmの僕が20年以上、さまざまなバイクに乗ってきて2回なのだ。これはもう「ほとんどない」でいいではないか!(開き直り)

そして、今回の記事を書くにあたり、せっかくなので低身長ライダーがバイクをこかさないようにする方法も書こうと思った。そうすれば、ビギナーや身長が低いライダーにも役立つのではないかと思ったのだが……実際に自身を振り返ってみると、最良の方法は『常に「俺はつま先しか足がつかないぞ!」と自分に言い聞かせながら停車するに限る』という結論に至った。

・自分は足がつかない
・砂利などで滑ることがある
・足をつくところが低くなっていて、思った以上に車体が傾くことがある
・バランスを崩さないように、ブレーキはゆっくりかける

なんてことを常に頭に入れておく。そして、

・車の影から人が飛び出してくるかもしれない
・子どもが赤信号を無視するかもしれない

といった『かもしれない』運転に、

・自分はバイクをこかすかもしれない

を追加する。

もうね、バイクをこかさないようにするには、コレが最良の方法。もちろん「お尻をズラす」などのアドバイスもできるが、まず大切なのは『自分はこかすかもしれない』という気持ちをしっかり持つことなのだ。

『バイクは転ぶもの』

これは当時の編集長や各メーカーの広報担当者さんがよく言っていた言葉である。

これは「だから転んでも仕方がない」ではなく、「だからこそ、転ばないように気をつける」ということ。そう思いながら、僕は安全運転を心掛けているのである!

 

直線では鋭い加速を見せ、タイトコーナーも難なくクリアしてしまう。ツーリングだけでなく、シーンを選ばずに楽しめるオールラウンダーだ。


ところでCBR1100XXの話に戻るが、ストリートカスタムバイク誌である『カスタムバーニング』にとって、そもそもCBR1100XXは大きくフィーチャーすべき車種ではなかった。だけど、せっかくのニューモデルなので試乗会に参加したということは、前編で書いた。

そのため、当初の予定では掲載はモノクロ1ページだったのだが、結果、当該インプレッション企画はカラー2ページに変更したことをお伝えしておく。ただし、これはあくまでも編集長独自の判断であり、自主的な“お詫び”だったことは、特記しておきたい(笑)。

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