インスタ映えで有名な埼玉県飯能市のスポット「有間(ありま)ダム」が来訪者のマナー問題で揺れている。結論から言ってしまうと、これまでの禁煙措置などもむなしく、4月24日からダム天端への夜間車両通行止めが行われている。
有間ダムの管理事務所に誰でも使える清掃用具を設置するなど有間ダムのポイ捨て問題に向き合ってきたライダーズインアクション副代表の岩間さんに同行し、ダム管理事務所でお話を伺った。

インスタ映えで遠方からの来訪者も多い有間ダム

まずもって、なぜ有間ダムがこんなに人気なのか? 有間ダムの構造はロックフィル式というもので、天端に立っても怖さや圧迫感がない。さらには天端上に管理用道路が敷かれていて一般車両が入れるということが珍しく、道路脇に愛車を停めてダムと一緒に写真を撮るというのが定番の撮影法となっている。インスタグラムやツイッターのタイムラインには“映えスポット”として有間ダムが頻繁に登場し広く認知されている。
この日は平日の昼間だったがクルマやバイクが次々に訪れて、多くの人が愛車とダムを写真に収めていた。2人組のライダーに話を聞くと、有間ダムを目的地にわざわざ茨城県から訪れていた。秩父も含めた週末ツーリングを計画しているという。観光地化しているわけでもないのに、いやはや、なんとも凄い集客力だ。

▲ロックフィルダムの特徴でもあるなだらかな堤体。この上での休憩は確かに心地よい。でも、本来は駐停車禁止。さらには禁煙なのだ。

有間ダムが抱えている来訪者による様々な問題

実際に岩間さんと天端を歩いていると「話に聞いていたより綺麗だな。目立ったゴミがないな」と感じていたのだが、岩間さんはひょいひょいと次々にタバコの吸い殻を拾ってくる。

よく見ると、天端に並んだ石の構造物の裏側に隠すように吸い殻が捨てられている。中には構造物の隙間にきれいに埋め込んであるものもあり、これには思わず苦笑。人が集まる場所にゴミありとは言え、これはいただけない。

▲構造物の隙間に埋め込んであったタバコの吸い殻。そもそもここは禁煙なのだが…。


また、夜間に管理用道路に進入する車両もあり、集会やミーティングを行ったり、ひどいケースになると石の構造物にクルマを乗り上げたりといった危険な行為も発生している。構造物を少しでも傷つければ器物損壊罪という犯罪になるし、ダム周辺への不法投棄も発生している。

有間ダムとは何か? を理解して訪れてほしい

管理事務所と岩間さんの話を聞いていると、来訪者による問題の根底にはダムという施設が抱えている地域社会との関わり方があることが見えてきた。

有間ダムは飯能市に位置しているが、埼玉県の施設だ。愛車を停めて撮影している天端は管理用道路の一部で、あくまでも県施設の敷地内、そもそもは駐停車禁止の場所でもある。

近くの浦山ダム(秩父さくら湖)のように観光客を受け入れるようには作られていないので、広い駐車場もなければレストランや展望所、展示施設もない。

飯能市は有間ダムの別称「名栗湖(なぐりこ)」としての観光情報はカヌーや釣り等で扱っているが、有間ダムの天端については直接的には触れておらず、“フォトスポット”として記載があるのみだ。

名栗湖としてはともかく、県の施設である有間ダムとしては来訪者に対して“ウェルカム”しているわけではなく、管理用道路を開放しているだけというスタンスなのだ。

では、なぜ解放しているのか。ダムを造るにあたっては、どうしても地域に対して迷惑や負担をかけてしまう。中には湖底に集落が沈んでいるケースもある。なので、多くのダムでは来訪者向けの駐車場や展望所などが作られ、観光ほか地域活性化に寄与するという側面を持たせてある所が多い。

有間ダムにもこうした考え方はあり、造られた当初から歩行者は天端を歩くことができるように設計されていた。他のダムと違うのは、天端の管理用道路に一般車が入れるということ。ロックフィルダムの特徴を活かした素晴らしい措置だとは思うが、来訪者向けの受け入れ設備が他にないということもあるだろう。

埼玉県は解放しているがウェルカム体制を取っているわけではないし、飯能市も名栗湖という観光スポットとして大きな力を注いでいるわけでもない。アニメに登場するなど注目される機会もあったが、観光的な機運をブーストさせるものではなかった。

あくまでも構造上の魅力から来訪者主体で映えスポットとして喧伝され、それと同時にマナー問題が発生したケースであり、埼玉県としても困惑しているところだ。映えスポットとしての対応がポジティブな整備につながればよかったのだが、そうなる前にネガティブな閉鎖措置となってしまった。

ついに夜間閉鎖となった管理用道路

SNSが有間ダムの素晴らしさを拡散した一方で、一部来訪者のマナーの悪さもまたSNSにアップされるようになり地域からの苦情も増えている。こうした現況を受けて、4月24日から当面の間、管理用道路は夜間(18~6時)に閉鎖され、車両は通行禁止となった。

特に、タバコのポイ捨ては来訪者の増加に伴って急速に増えており、管理事務所はパトロールでの口頭注意、今年2月の禁煙措置などを行ってきたが、その甲斐もなく、その後わずか2か月での夜間閉鎖となってしまった。

管理事務所は、ポイ捨てや不法投棄などの多くが夜間に行なわれていることを把握しており(当然、監視カメラもある)、この閉鎖処置により状況が好転することを期待している。

エバグリやナナガンのようにしてはいけない!

SNSの普及もあって、全国各地でライダーズスポットが誕生してきた。ライダーの出合いの場、交流の場として考えれば素晴らしいことだし、素晴らしい文化と呼べるように発展させることもできただろう。

しかし現実には、エバグリ(東京)やナナガン(大阪)のように有名どころの閉鎖が相次いでいる。原因の多くは騒音問題やゴミ問題だ。

ライダーズインアクションはそうした失敗を繰り返さないように宮ヶ瀬湖や奥多摩湖、マーブルビーチなどで活動し、有間ダムにおいても清掃用具を管理事務所に設置してもらって誰でも自発的にゴミ拾いができる環境を整えている。

●ライダーズインアクション副代表 岩間大輔さん
「宮ヶ瀬湖や奥多摩湖と違って観光地化していない有間ダムは特殊な場所ですけど、今後も多くの善良なライダーが来られる場所として残していく、未来につなげていくために、いま自分たちにできることはなんだろうと考えています。

まずは来訪者にポイ捨て問題について知ってもらいたいですし、清掃活動のほか、利用の在り方やルール作りなど、議員さんとのやり取りも含め、埼玉県や飯能市との話し合いを進めていきたいです。

ライダーだけがゴミを捨てているわけではないですが、ライダーから動くことでこの状況を変えていきたいし、SNSも活用して大多数の善良なライダーの想いや行動を拡散していきたい。私自身も有間ダムが大好きですし、昔から来ています。今後もずっと来たいですからね」

▲ライダーズインアクションは、有間ダムの管理事務所にマジックハンドやごみ袋、手袋などを設置。誰でも道具を借りてダム天端の清掃活動ができる。

 

▲貸出帳に必要事項を記載して道具を借りる仕組み。有間ダムという素敵なライダーズスポットを守ろう。


●まとめ

このSNS時代、自治体が観光地としていない場所がふと注目されて、大人気スポットになることは珍しくない。「受け入れ体制のない場所を訪れる時に必要なマナーとは何か」についてみんなで一緒に考えて行きたいと思う。

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