『大脱走』は史実に基づく1963年公開のアメリカ映画

映画『大脱走』の概要を簡潔に記せば、「第2次世界大戦下、脱走不可能といわれたドイツ空軍が管理するルフト第3空軍捕虜収容所から連合軍将兵が集団脱走を計画して実行。この信じられないような史実を 『荒野の七人』の巨匠ジョン・スタージェスがスティーブ・マックイーン他、豪華キャストで映画化!」ってところだが、内容も非常にテンポよく面白いのだが、これ以上書くとネタバレしそうなのでストーリーに触れるのはこのくらいにしておこう。

見どころはスティーブ・マックイーンのバイクシーン

スティーブ・マックイーンとバド・イーキンス

映画『大脱走』の撮影中のカットで左がスティーブ(S)・マックイーン。右がマックイーンのレース仲間であり、国境越えの大ジャンプで代走スタントを担当したバド・イーキンス。

 

さてバイク乗り的な視点での『大脱走』の見どころは、言わずと知れたスティーブ・マックイーンのバイクアクションである。冒頭、S・マックイーン演じるアメリカ空軍のバージル・ヒルツ大尉が独房(Cooler)に入れられたところで、イギリス兵の捕虜に「自転車じゃなくてモーターサイクルだ。レースで賞金を稼いで学費の足しにしてた……」なんて自己紹介するところからしてバイクアクションの伏線を張っているのだが、そのバイクシーンがあるのは後半のクライマックス。

脱走したヒルツが、ドイツ軍のバイクと軍服を奪ってスイスとの国境へ向かうところ。有名なのは、有刺鉄線が張り巡らされたスイスとの国境線をバイクでジャンプして越えようとする場面、……なのだが、もうね全てのシーンからS・マックイーンのバイク愛が伝わってくる。

『大脱走』の劇用車として使用したトライアンフのTR6 Trophy

『大脱走』の劇用車として使用したトライアンフのTR6 Trophy。ドイツ軍から奪ったバイクという設定上、本来はドイツ車であるべきだが、バイクスタントにおける性能を優先し、二人がレースでも使用していた英国トライアンフのTR6 Trophyを使用したという。右がS・マックイーンで左がバド・イーキンス。

 

“奪ったバイクで道路に飛び出す”シーンに、“燃料残量を確認して「スイス……」と呟く”場面。全編とおしてバイクが登場するシーンは10分もないと思うのだが、どの場面も生粋のバイク好きであるS・マックイーンのアドリブと思われる小技が効いているのだ。

極め付きは、国境目前のところでドイツ軍に追い詰められたS・マックイーンが、急ブレーキでマシンを停止させるところ。あくまで視線は追手から離さず、カウンターを当てたままスライドコントロールするのだが、これが超お見事!

『大脱走』といえば、国境越えの大ジャンプばかりが取り沙汰されがちだけど、僕はこのS・マックイーンが小刻みに補正を入れながらカウンタースライドをキメるシーンの方がグッとくる。S・マックイーンといえば無類のバイク好きであり、レース好きであったらしいが、このシーンのマシンコントロールをみるだけでそれをアリアリと感じるほど巧みなのだ。

国境越えの大ジャンプはレース仲間のバド・イーキンスが担当

S・マックイーンの友人でありレース仲間だったバド・イーキンス

S・マックイーン(右)と、友人でありレース仲間だったバド・イーキンス(左)。トライアンフの公式HPによれば二人はよく一緒にオフロードレースに出場していたという。

 

『大脱走』は今から60年も前の映画である。当然、CGなんてものはなかったわけでアクションは全てホンモノ。有名な国境越えの大ジャンプは、S・マックイーンではなくレース仲間のバド・イーキンスがスタントを担当したという。まぁ、この国境越えの大ジャンプに関しては、「マックイーンはあのジャンプを自分で飛ぶつもりだった」とか、「保険の関係でOKが出なかった」とか、「バド・イーキンスのギャラがどうのこうの」……。

諸説あるようだが、くだんのカウンタースライドができるなら国境越えの大ジャンプくらい普通にS・マックイーンならこなせただろうと思う。例えそれが「彼らの計算では、12フィート(約366cm)の有刺鉄線のフェンスを超え、60フィート(約18m)離れた傾斜した地点に着地するには 、時速80mph(130km/h)の助走が必要( トライアンフの公式HP」だったとしてもだ。

トライアンフを駆るバド・イーキンス

トライアンフベースのスクランブラーを駆るバド・イーキンス。1962年当時のTR6 Trophyは、レッドゾーンが6,000rpmでピークパワーは約42bhpだった。

S・マックイーン(右)、バド・イーキンス(中)。左は『大脱走』の調達屋役のジェームズ・ガーナー。

 

TRIUMPH BUD EKINS SPECIAL EDITIONS

ちなみにS・マックイーンの代役を務めたバド・イーキンスは、この『大脱走』がきっかけでバイクスタントを行うようになったようだが、元々はS・マックイーンレース仲間であり、カルフォルニアのトライアンフディーラー「Johnson motors」のオーナーでもあった。彼の店は1960年代のアメリカにおけるトライアンフのトップディーラーでもあったのだ。

トライアンフでは、2020年にこの偉大なスタントライダーでありトップディーラーというバド・イーキンスの功績を称え、現行モデルのBonneville T100およびT120をベースにした“バド・イーキンス スペシャルエディション”モデルを登場させている。

トライアンフ・ボンネビルT120 バド・イーキンス スペシャルエディション

トライアンフ・ボンネビルT120 バド・イーキンス スペシャルエディション試乗インプレ記事はこちら(Webヤングマシンより)。

 

MUTT MOTORCYCLES HILTS125

多くのライダーの憧れであるS・マックイーンは今なお人気。英国生まれのマットモーターサイクルズでは、“ヒルツ”と呼ばれる125/250ccのバイクをラインナップ。ホームページを見ても、どこにもS・マックイーンの文字は見当たらないのだが(笑)、「有刺鉄線を優雅に飛び越えてみますか? ちょっとそれは無茶かもしれませんが、このバイクは…」なんて感じで始まる紹介文や“Cooler King(独房王)”のキャッチなどなど。このヒルツ125/250の車名の由来は『大脱走』のヒルツ大尉(S・マックイーン)であることは明白だろう。

マットモーターサイクルズ・ヒルツ125

マットモーターサイクルズ・ヒルツ125試乗インプレ記事はこちら(タンデムスタイルより)。

 

このヒルツ125/250は、『大脱走』で使われた劇用車のオマージュというよりは、S・マックイーンがデザートレースで使っていたトライアンフベースのスクランブラー(カスタム車両)の方がイメージに近いよう。ただ、このマットグリーンの塗装と“ヒルツ”というネーミングだけで、“ああ『大脱走』のS・マックイーンがモチーフね!”とわかる人にはわかるのだ。

僕もS・マックイーン目指してバイクで飛び続けるのだ

……ってなわけで、ライディングがべらぼうに上手いS・マックイーンのバイクスタントシーンが観られる『大脱走』だが、同じ監督が撮った『荒野の七人』もそうだけど、不屈の男たちが自由を求めてもがく姿は、単純にかっこよくバイクシーン抜きにしても映画としてもかなりおすすめ!

よくよく考えてみると、オフロードバイクだろうとなんだろうと、とりあえずダートを走りスキあらばジャンプしてメーカー関係者から「コレはそういうバイクじゃないですけど……」と苦言を呈される(まぁ、本人はお褒めの言葉と受けとっている……)僕のスタンスは、この『大脱走』からきてるような気がするのだ。だってS・マックイーンみたいにバイクを操れたら、ヘルメットの中の素顔がどうあれ単純にかっこいいじゃない!? その甲斐あってか最近は、知り合いのライターから「飛ばねぇ谷田貝は、ただのヤタガイだ」なんて言われたり、この『大脱走』の記事を書くにあたり、ForRの編集部から「クロスカブとかでジャンプしてる写真が欲しいんだけど……」なんて言われる始末。ようやく僕も、叩けば埃が出るようなダートなイメージがついてきた!?

ホンダ・クロスカブ110でジャンプ!

クロスカブ110だろうとRC213V-Sだろうととりあえずダートへ、GO!(タンデムスタイルより)

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